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2014年3月22日(土)

【GDC 2014】『rain』に降り注いだ雨とその後に差した新たな光。開発チームが葛藤と苦悩に満ちた制作過程を語る!

文:ぺろ

 アメリカ・サンフランシスコで現地時間3月17日から21日に開催されている“Game Developers Conference 2014”(GDC)。3月20日に、PS3専用ダウンロードタイトル『rain』についてのセッション“Come Rain or Shine” rain Postmortemが行われたので、その模様をお届けしよう。

 『rain』は2013年10月3日に全世界同時配信されたアクションアドベンチャー。雨の中でのみ姿が見える少年たちの物語が描かれており、“見えないもの”を描くゲーム性や、不安や孤独だけではない、ポジティブな気持ちになれる“雨”の物語が世界中から評価され、数々の賞も受賞している。

『rain』

 今回、スピーカーとして登壇したのは、プロデューサー・鈴田健氏とディレクター・池田佑基氏の2人。クリエイター発掘支援プロジェクト“PlayStation C.A.M.P!”出身の彼らは、プレイヤーにサプライズを与えられるような尖ったタイトルの制作を目指し、『rain』のプロジェクトをスタートしたそうだ。

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▲SCE JAPANスタジオ所属の鈴田健氏(左)と池田佑基氏(右)。

 ゲームの要素を細かく分割していくなかで、“見えないキャラクターを操作する”ということをコアに決めたあと、これを生かすゲームの方向性を模索することに。このとき、アクションパズルとアクションアドベンチャーの2つの候補があったという。

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▲Invisible(=透明)というワードから想像できるさまざまなワードをブレストで挙げ、そこからゲーム全体の方向性を議論していった。

 しかしここで問題が発生する。見えないというアイデアはよくても、では実際にどうやってそのゲームを遊べばいいのか? 池田氏は「キャラクターが透明であることはゲームにとって致命的」と認めたうえで、それを逆手に取り“見えないキャラクターをどうやって見えるようにするか”ということを考え、雨=rainに至ったという。

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 この“雨の中でシルエットが浮かび上がる”というコアをゲームにすることを考えたとき、上記2つの候補からジャンルをアクションパズルにすることに決まったという。

 雨のイメージについて掘り下げていくで、ゲームのディティールもすんなり決まっていた。2010年の秋には最初のコンセプトムービーも完成し、制作は順調に思えた。しかし、2011年3月11日――。日本を襲った未曽有の大地震がきっかけで、『rain』は大きな転機を迎えることになる。

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 1日で多くの命が失われ、TVでは目を覆いたくなるようなニュースが流れる毎日。鈴田氏は「自分たちが作るエンターテイメントの無力さを感じた」という。さらに、ゲームの内容に目を向けたとき、冷たく降りしきる雨、誰もいない寂れた街、少年を追い立てる得体のしれない怪物。「今、こんなゲームを誰が遊びたいのか? 遊んで気持ちが落ち込んだとき、我々は責任を取れるのか?」と池田氏は語り、この企画を前に進めることができなくなってしまった。

 それでも日本は驚くべき勢いで復興をとげ、そのスピードにチームは取り残されてしまったという。そんな彼らを再び奮い立たせたのは、“PlayStation C.A.M.P!”リーダーの山本正美氏の言葉だったという。チームを集めた山本氏は「今は苦しくても、必ずエンターテイメントを求めるときがくる。そのとき、我々が作るゲームが必要になる」。池田氏は“人の心をどう動かしたいか?”ということを再度胸に問い、ゲームを作り直すことを決意したという。

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 まず着手したのはゲームのコンセプトの変更。“孤独”や“寂しさ”を強調してきたデザインから、“好奇心”や“勇気”といったポジティブな感情を強くし、怖いだけではない、先に進みたくなるような世界を構築していった。さらにUIデザインの変更、絵本のような空中に浮かぶダイアログ、暗いだけではない夜を作り出すためのライティングなど、ゲームの仕様がまとまってきて、この頃開発にようやく光が差し始めたという。

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 ゲームのレベルデザインの段階に進み、このとき苦労したのは“リアルさの維持”だったと池田氏は語る。例えば大小の段差を作る際、街の雰囲気を崩さずにオブジェクトを配置することに行き詰ったという。段差をつくるのに木箱ばかり置かれていては、街の雰囲気は壊れ、コンセプトも台無しになる。

 この問題はレベルデザインを先に考え、街の構造をあとからそれに合わせて調整しようとしたがために起こってしまったと池田氏は分析する。それとは逆に、街の構造に合わせてレベルデザインを組み上げることで、この問題を解決できたと振り返った。

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▲絵コンテを用いて、街の構造とキャラクターの動きの流れの確認を行った。

 その後、『rain』は初のチーム外でのテストプレイの機会を迎えることになる。「手ごたえを感じていた」と鈴田氏は語ったが、ここでも大きな課題を突きつけられる。それは、「自分を見失う」「どこへ行けばいいのかわからない」という遊びにくさの部分が大半だった。

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▲「このゲームは“うんこ”だ」というくらい、厳しい意見も多かったようだ。

 その原因を分析した結果“カメラワーク”に問題があることがわかったと池田氏は語る。当初、カメラは初期の『バイオハザード』のような、ある地点まで来るとカメラが自動で切り替わるシステムだったが、そもそもキャラクターを見失いやすいうえに、キャラクターが見えない状態でカメラが切り替わると、100%自分を見失ってしまう。

 この問題の解決としては、そういう見失いやすい場所を洗い出し、カメラの切り替えを工夫した。進む先を見失いやすい場所は、行き先が常に画面に収まるようなカメラワークにするなど、手間をかけながら1つ1つ遊びやすさの面を見直していったそうだ。

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 その後リリースを迎え、前述のとおり大きな評価を得た。その一方で2つの大きな課題も残ったと鈴田氏は指摘する。1つは遊びやすさを優先したため、チャレンジ性が薄くなってしまったことを挙げ、マンパワーの面でボリュームアップは難しくとも、何か別の要素を考えるべきだったと池田氏は反省を口にした。もう1つは、ストーリーに共感できない人がいたことを挙げ、日本国内だけでなく海外でもテストプレイを行い、広い価値観を導入できればよかったと池田氏は語って本セッションを締めくくった。

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