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2014年3月22日(土)

【GDC 2014】『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』のルーツは『メトロイド』ではなく『ゼルダの伝説』!? 五十嵐孝司さんが制作秘話を語る

文:megane

 アメリカ・サンフランシスコにて現地時間3月17日~21日に開催されているゲーム開発者会議“Game Developers Conference 2014”。最終日にあたる21日に『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』を制作した五十嵐孝司さんのセッション“There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale”が行われた。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』は、1997年にPSで発売され、その後セガサターンやXbox LIVEアーケード、PSPなどに移植された海外でも人気のタイトル。そのため、セッションには数多くの人がセッションに訪れた。なお、五十嵐孝司さんは3月15日付でKONAMIを退職、フリーのゲームクリエイターとなっている。

 セッションでは『月下の夜想曲』が作られるまでの経緯や“Metroidvania”と呼ばれる2D横スクロールの探索型アクションはどのようにできあがったのか、などが語られた。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale
▲人気がある&話題の出たクリエイターの講演ということで、会場には多くの来場者があった。熱心なファンの姿も。

■『月下の夜想曲』チームのキーワードは“勝手にやる”

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale
▲2000年以降から『悪魔城ドラキュラ』シリーズのプロデューサーを務めていた五十嵐孝司さん

 セッションのはじめに、五十嵐さんより3月15日付でKONAMIを退職したことが明かされた。そのためセッション内ではKONAMIのIPである『悪魔城ドラキュラ』といった単語は使わず、『SON(Symphony og the Night:月下の夜想曲)』、『ROB(Rondo of the Blood:血の輪廻)』といった略称で表現された。

 当時KONAMIでは日本全国の4カ所に開発拠点があり、その中の1つであるT Studioに所属していた五十嵐さん。そこで『ROB』を開発していたチームとともに新たなシリーズ作品を制作するディレクターとして就任した。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 当時の五十嵐さんはシリーズのフランチャイズオーナーは当時の開発の主力であったK Studioが持っており、自分たちがそうではないという認識をしていたため、伝統に縛られずに“勝手にやる”という方針を打ち立てたという。この“勝手にやった”案件がセッション内でいくつも語られた。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 『SON』を制作するにあたって、まず改善に乗り出した点は2つ。それは“操作性の改善”と“寿命を伸ばす”ということ。特にシリーズの特徴であったジャンプ時の特殊な操作性を改善し、“飛んでしまったら着地までどうにもならない”という部分をやめ、プレイヤーへの操作ストレスをなくす設計にしたという。

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 また寿命を伸ばすという点は、ゲーム開発者にとって頭を悩ませる問題でもある。早いものでは2時間程度で終わってしまうゲームは、映画と比べるとコストパフォーマンスが悪い。そこで開発チームはお気に入りである『ゼルダの伝説』をヒントに、マップを行ったり来たりできる探索型のゲームデザインを企画した。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 また敵を倒した時の理由付けとして、経験値による成長システムを採用。これにより、レベルを上げることで相対的に難易度を下げられるようになり、ゲームがあまり得意でない人でも遊べるようになったという。

 その他、寿命を伸ばす施策として、コレクション要素を用意。マップの踏破率がわかるようになったり、アイテムや倒した敵が記載されていくことで、それらを埋めたいと思わせるようにできた。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

■主人公が“鞭使い”から変更になった理由について

 『SON』の主人公は、従来作のボスであるヴァンパイアを父親に持つヴァンパイアハーフに変更となった。これについて五十嵐さんは、これまでの主人公である“鞭使い”だと特殊なアクションが入れにくい、プレイヤーキャラクターを大きく表示したいという2つの理由を語った。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale
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▲サイズを大きくした際の鞭使いのリーチの違い。最大まで大きくすると画面端まで鞭が届いてしまうので、ゲームの作り方が難しくなってしまう。

 ここでも“勝手にやる”という精神から「主人公は鞭使いじゃなくてもいい」という結論になり、これまでの作品を振り返った時に人間じゃなくて変身もできるキャラクターがいたため、彼を主人公としたという。ただ、彼は正義のヴァンパイアという位置づけではあったが、ヴァンパイアである彼が人間の味方という理由がわからなかったため、理由をつけることにした。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 五十嵐さんはこの理由の中で「男はみんなマザコンである」として、人間である母を愛した父を止めるという理由から、ヴァンパイアと敵対していくという設定を語った。

 また、イラストについてもヴァンパイアは“強くて儚い”というイメージのもと、イラストレーターを変更。本屋で小説の表紙を片っ端から見て、イメージに合うイラストレーターさんに連絡を取っていったという。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

■なぜポリゴンマシンだったPSで2Dの『SON』ができたのか

 なぜポリゴンマシンであるPSで、2Dの『SON』を出すことになったのか、という理由は置いておいて、3D特化マシンであるPSで『SON』を作ることになった五十嵐さん。

 2Dの探索型ゲームを採用した理由は、当時の開発チームでは3Dに関する技術が乏しかったと語った。また、2Dのグラフィックにおいては天才的な腕を持つデザイナーが2名いたことから、事実上2Dしか選択肢がなかったとも。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 また、開発リソースを少なくするために過去作のグラフィックを流用する必要もあった。過去作のグラフィックは横256ピクセルをベースに作られており、PSの320ピクセルに当てはめるとやや横長になってしまう。しかし、これには利点もあり、過去作で45度の階段として作られていたオブジェクトが、『SON』ではややなだらかな角度になる。これにより城の大きさなどを表現できたという。五十嵐さんいわく「急な角度の階段は家を小さく見せる」とのこと。

 また、使用するメモリ量を少なくするためにグラフィックの色数を少なくする施策もとられた。『SON』のグラフィックは同時発色数が16色で作られているが、グラフィックで評価の高い作品にもなっているという。

 こうしたさまざまな制約のもとに作られた本作。それをものともしないデザイナーたちと、数多くの提案を行ってきたプログラマーによって、これまでのハードにはない表現が多く実現できたタイトルになったという。

 五十嵐さんはここまでを総括して「人に始まり、人に終わる」と表現した。

■『SON』流の気づかいのゲーム作り

 実際のゲームはどのような部分に気をつけて作られたのか。五十嵐さんはまず「操作性に気をつけて作った」と語った。ユーザーはプレイヤーキャラクターを常に操作して遊んでいるので、動かしていて楽しいということがまず前提となる。

 ゲームデザインについては、クリアさせるだけであれば一本道のほうがいいと語る。これはストーリーを進めるということの中では、後戻りというのは非常に嫌な思いをさせるという。後戻りをさせる時は、「戻ってここに来てよかった」と思わせるのが重要とのこと。

 また探索型アクションということで、プレイヤーに探索による広がりを認識させることも重要となる。「能力を手に入れたらマップが広がる」という認識をさせることで、プレイヤーに期待感を持たせる。この認識はなるべく早く見せることが重要である。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 プレイヤーの心理としては、どこに何があるかわからないものをわざわざ探索したくないという意識がある。そこで重要なアイテムを印象的な場所で見せておくことで、「見えていたのに忘れてしまった自分」という意識を作らせる。また、全体マップを利用させて、行けるところをわからせるのも重要とか。

 ステージ内のギミックについては、開発者が思うよりもはるかにわかりやすくしないと理解してもらえないことが多いという。開発者は作っている側なので、はじめから理解していることが多い。テスターからの意見は、一番最初のプレイで出てきたものが一番重要であるという。

 敵のバランスは、まずボスから決めていく。全体的にバランスがとれるにこしたことはないのだが、期間などの制約によりゲームの花形であるボスのバランスがまず重要だという。

There and Back Again:Koji Igarashi’s Metroidvania Tale

 ここで開発チームの“鉄の掟”として、ボスを制作したプログラマーは、そのボスをノーダメージで倒せないといけないというものが明かされた。ただし、開発者だからといって必ずしもゲームがうまいというわけではないため、「防具なしでも倒せる難易度でないといけない」ということになったという。

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 最後に五十嵐さんはKONAMIを退社したことについて、これでファンが望むもの、自分が作りたいと思うものを作れるようになったと心境を語った。ただ、会社を飛び出したばかりでまだ何も進んでおらず、開発チームとなる会社もまだ設立できていないため、何ができるかは未定とのこと。

 また、『SON』をはじめとする作品は日本国内よりも海外のほうが人気が高いため、そうした地域にリーチする作品作りを行っていくことになるだろうと語った。

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