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2014年3月24日(月)

【GDC 2014】『バイオショック インフィニット』のプレイヤーはなぜエリザベスに恋をするのか? 彼女の行動を決定するAIに迫る

文:ぺろ

 昨年発売され、世界中から大絶賛を浴びた『BioShock Infinite(バイオショック インフィニット)』は、主人公のパートナー・エリザベスの“人間らしさ”に、プレイした多くのユーザーを驚かせた。

『バイオショック インフィニット』 『バイオショック インフィニット』

 こう言ってはなんだが、エリザベスの容姿は決して日本受けするようなデザインではないし、プレイしていない大多数の人間の感想は「いかにも“洋ゲー”のヒロイン」というのが正直なところだろう。では、エリザベスとほかのゲームのNPCではどこが違うだろうか?

 “Game Developers Conference 2014”(GDC)の2日目となる現地時間3月18日(火)に、“Bringing BioShock Infinite's Elizabeth to Life: An AI Development Postmortem”と題する講演が行われた。この講演では、どのようにしてエリザベスが“人間らしい振る舞い”を獲得するに至ったか、そのAIプログラムの秘密が語られた。

『バイオショック インフィニット』
▲講演を担当としたのは、『バイオショック インフィニット』を開発したIrrational Gamesのリードプログラマー・John Abercrombie氏。

■エリザベスの行動範囲とパートナーとの適切な距離感

 まずはエリザベスがプレイヤーの動きにどのように反応しているか、その制御の方法が語られた。“パートナー”であるエリザベスは、プレイヤーにただついて回ればいいわけではないと氏は語る。そもそも、プレイヤーの動きはランダムであり、予測してそれに完璧について回るよう設定するのは難しい。

『バイオショック インフィニット』 『バイオショック インフィニット』

 事前にプランニングできないのであれば、あとはプレイヤーの動きに応じて即興で反応するしかない。しかし、ただ“即興”というだけでは、自然な動きをするとは限らない。また、ゲームの目的にそった動きをする必要もある。

 そこでエリザベスに与えたルールが“常にプレイヤーとゴール(次のエリアへの入口など)の間にポジションを取る”というもの。プレイヤーが動くことによって自然にそのラインも変わり、そのラインにそってエリザベスが行動することで、結果自然な挙動を見せるということだ。

『バイオショック インフィニット』 『バイオショック インフィニット』
▲奥に見えるトビラがこのエリアでのゴール。プレイヤーが動くと、エリザベスは常に緑のライン(ゴールとプレイヤーを結ぶライン)の周りに位置を取りなおす。

 さらにもう1つ。エリザベスの位置取りの大原則は上記のとおりだが、プレイヤーとの距離感も重要な問題だ。近すぎても遠すぎてもパートナーとしては不適切なため、プレイヤーの位置取りを予測して、距離感を調節しているようだ。

■エリザベスのリアクション

 次に語られたのが、視線やリアクションの制御についてだ。人間は音が聞こえればそちらを見るし、自分にまったく関係のないものをわざわざ見ることはしない。そこで、何かしらの目印を見たときにリアクションを取るように設定を行った。

 このとき、“距離が離れすぎているものは見ない”“目印がたくさんある場合は目移りする”“1つのものを長く見すぎない”などのルールを決める。本作ではこれらのルールのもと、感情(喜びや驚きなど)が一体となって顔や目が動くシステムを採用している。これにより、エリザベスがさらに生の人間らしく見えるというわけだ。

『バイオショック インフィニット』 『バイオショック インフィニット』
▲エリザベスが注目するマーカーはあらかじめ設定したものだけではなく、プレイヤーがオブジェクトを置くなど、手動で発生させることも可能だ。

■周囲の状況に合わせた自然な仕草

 イスに座ってほおづえをつきながらため息を吐く。人間なら誰もが行うような何気ない動作だが、ゲーム中でこのような動作をエリザベスは自然に行っているのだ。では、ゲームの規則に沿いつつ“自然”にこのような動作を行わせるにはどうすればいいか?

 上記の例の場合、動作を行うのに必要となるのがイスであり、オブジェクトにひもづけてアニメーションを挿入しているわけだが、イスを見かけるたびにこのような動作を取られては逆に不自然だ。

 “常にプレイヤーとゴールの間にポジションを取る”という原則はこの場合も有効で、このルールを守りながら行える場合のみ、エリザベスはこのようなちょっとした仕草をすることになる。

『バイオショック インフィニット』 『バイオショック インフィニット』
▲この場合、“プレイヤーが見ていないときは仕草を取らない”などのルールづけも行われている。

■戦闘時の行動原則

 これまでは主に非戦闘時の行動について説明してきたが、それでは、エリザベスは戦闘中にどのような動きをしているのだろうか? ゲームをプレイした人は思い返してみてほしい。

 戦闘時の行動設定の際、エリザベスをパートナーとして感じてもらうため、最初に考えたアイデアは“常に画面内に位置を取る”ということだった。しかしこの場合、プレイヤーとの距離が近すぎたり遠すぎたり、戦線を平気で横切ったりするなどしたため、不採用となった。

 悩んだ末に、1つの考えに至った。「そもそも、戦闘中にエリザベスがどこにいるかなんて気になるだろうか?」。そこで逆に考え、画面に入れることで不自然な挙動になるのであれば、常に画面の外に置いておくことに決めたという。

『バイオショック インフィニット』

 ただし、それでパートナーと言えるのか? という疑問ももっともなところだ。この解決策として、戦闘が始まる際、武器をプレイヤーに渡させることにしたことが1つ。そしてもう1つは、敵が迫っていることを“声とジェスチャーで知らせる”ということだ。

■AIの開発に必要なこと

 最後に氏は、「現在使っている技術はゲームAIの開発に役に立つものだし、未来にはさらなる技術も開発される。しかし、我々が作っているのは単なるアルゴリズムではなく、エンターテイメントなんだ」と述べた。エリザベスが人間らしく見えたのは、ゲームにおけるエンターテイメントを追求した結果と言えるだろう。

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