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2014年4月8日(火)

“Unite Japan 2014”基調講演を中心にレポート。オープンソース系ヒロイン“ユニティちゃん”アセット無料配信に「世界よ、これが日本だ」

文:広田稔

 ユニティ・ジャパンは4月7日~8日に、統合ゲーム開発エンジン“Unity(ユニティ)”の開発者向けイベント“Unite Japan 2014”を開催している。

”Unite Japan 2014”
▲Unite Japan 2014。海外では2007年からスタートしているイベントで、国内では今回で2回目。2014年はカナダ、中国、韓国、スウェーデン、コロンビア、ブラジルを含む7カ国で開催する。

 2日間かけてさまざまな関連セッションを実施する他、Unityによって作られたゲームなどを体験できるブースも用意している。熱気にあふれた会場の様子を、基調講演を中心にお伝えしていこう。

■インディーゲームを加速するUnity

 ゲーム作りと言うと、プログラミング能力に長けた人たちを集めて、時間をかけて開発していくものというイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし、近年、iOSやAndroid、ウェブなど、より手軽に発表できる場が出てきたことで、才能ある個人、もしくは小規模な集団が、おもしろいタイトルをインディーゲームとして生み出して話題をかっさらうというケースも増えてきている。

 そうした状況を加速しているのが、Unityというツールだ。まず特徴的なのは、iOS/Android/Windows/OS X/ウェブブラウザー/PS3/PS Vita/Xbox 360/Wii Uといった幅広い環境に対して、2Dや3Dのゲームを制作できる点にある。2010年にスタートした“アセットストア”にて、ソフト開発に役立つツールや素材をユーザーが作って売買可能というのもユニークだ。さらに市販のソフト開発に使われるほど高機能なものにもかかわらず、個人なら無料版で使えるというのもポイントが高い。

 プログラミングが苦手でも、素材を組み合わせて、設定を調整することで思い付いたアイデアを形にできる。もちろんプロの開発現場でも使われているが、それに加えてゲームをはじめとするソフト作りのハードルを大きく下げてくれたのがUnityというわけだ。

 今回のUnite Japan 2014には、最新情報や開発のノウハウを学ぼうと、大勢の開発者が詰めかけていた。筆者の印象かもしれないが、とにかく会場の熱気がスゴい。恐らく、仕事で言われてなんとなく見てるわけではなく、自分がやりたいことを実現するために進んで来た人も多かったからではないだろうか。

”Unite Japan 2014” ”Unite Japan 2014”
▲会場はお台場にあるホテル日航東京。会場ロビーには、朝10時から始まる基調講演のために長蛇の列ができていた。

■人と技術がつながり、コラボが生まれるとマジカルなことが起こる

 7日の目玉は、午前中に行われた基調講演。米Unity Technologiesの創業者でCEOのデイビッド・ヘルガソン氏や、コンテンツ制作でUnityとつながりが深い米Oculus VRの創業者、パルマー・ラッキー氏が登壇した。ちなみにOculus VRは、最近Facebookに20億ドル(2000億円)で買収されたニュースで一躍有名になった企業だ。

 そこでも何度か言及されていたのが、コミュニティーのパワーだった。デイビッドCEOは、Unityの原点を「人とテクノロジーがつながり、コラボレーションが生まれるとマジカルなことが起こる」と語っていた。

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▲米Unity TechnologiesのデイビッドCEO。

 Unity Technologiesは2004年、デイビッド氏ら3人がデンマークのコペンハーゲンで創業した。その初期の頃は資金も乏しく、顧客もいなかったという。Unity自体もまだ使い勝手をよくしている最中で、その作業に疲れ果てて「世界がUnityを必要としているのだろうか」と考えていた時期もあった。

 そんな落ち込んでいたデイビッド氏だが、ある日の夕方、コインランドリーで洗濯をしながら、iPodで京劇を聴き、チョコレートを食べていた際にふと気づいたという。それは100年前だったら裕福な人たちのものだったチョコレートや京劇を楽しんでいて、10年前だったら豊かな人でも手に入れるのが難しかったiPodを持っているという事実だ。

”Unite Japan 2014” ”Unite Japan 2014”
▲コインランドリーとチョコレート……。
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▲京劇とiPod。貧乏な状態で得たこのインスピレーションが、今のUnityの源になっているとのこと。

 テクノロジーが共有されてコラボレーションが起こることで、流通やエンターテインメントでも革命が起こり、一部の人のものだった資産が多くの人に行き渡る。そんな状況がゲームでも起こっているという話だろう。

 Unityにおいては、アセットストアが代表的だろう。代表としてあげられていたのが、カメラを制御する『UFPS : Ultimate FPS』というプログラムだった。自分のためにプログラムを書き、1カ月かけてブラッシュアップし、文書化してアセットストアで20ドル(2000円)ほどで販売したところ、5000本売れたという。

 1カ月の作業で1000万円の利益を得られただけでなく、5000人分が同じプログラムを書く作業を軽減できたという視点も重要だ。例えば熟達したプログラマーでも3日かかるとしたら、それだけでも1万5000日、約50人年分の作業をセーブできたことになる。デイビッド氏は、「アセットストアでは毎月50万ダウンロードがある。そこから計算すると、控えめに考えても毎年2000億円ほどが軽減されている」とアピールしていた。

”Unite Japan 2014”
▲カメラ制御プログラムの『UFPS : Ultimate FPS』。アセットストアでは、3Dモデルだけでなく、モーションデータやゲーム開発に役立つプログラムも販売されている。

 今年3月に買収したモバイル向けのゲームプレイ動画共有サービス“Everyplay”(エブリプレイ)にも言及していた。ゲームのプレー動画をキャプチャーし、TwitterやFacebookなどで共有して広めるというサービスになる。こちらも、テクノロジーで人をつなぐ仕掛けだ。

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▲Everyplay。現在、多くの人は、知り合いから教えてもらっておもしろいモバイルゲームに気づいているというニーズに沿って生まれたサービスになる。音声も入れられるので、ゲーム実況的な使い方が可能だ。

 パルマー氏は、VRに対する情熱とそのコンテンツづくりの難しさを語っていたが、一番大きなニュースは、Oculus VRの日本法人を設立するという話だった。また、GDCの記事でも取り上げた7月に発売予定の開発者向けキット「Development Kit 2」について、日本人に優先的に発送するという。

 “日本びいき”の裏側には、初代のDevelopment Kitが300ドルと安価だったので、日本の開発者がおもしろいガジェットとして飛びついたということがある。初音ミクと握手するなど、Oculus VRすら予想もつかない新しいコンテンツを生み出してきた。日本法人が設立されて普及活動が進めば、さらにユニークなVRコンテンツが生まれてきそうだ。

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▲パルマー氏。会場のデモブースには、本邦初公開となるDevelopment Kit 2が置かれていて、長蛇の列ができていた。

■県人会議やキャラで、日本の開発者がアツくなる!

 デイビッド氏の「人とテクノロジーがつながりコラボレーションが生まれる」という話は、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンにも通じている。

 今回明らかになったのは、日本独自の発案になる“Unity 県人会議”という試みだ。各地のコミュニティーが勉強会やセミナーを開催する際に、Unityのスタッフがプログラムを提供したり、関連企業をとりまとめしてくれる。イベント情報も県人会議のサイトに登録することで共有が可能。また、講演者の派遣、会場や機材の提供、懇親会の補助といったイベントをバックアップする個人・企業・団体を認定する“支援P”という制度も設ける。

”Unite Japan 2014” ”Unite Japan 2014”
▲ネットの生中継でさまざまなコンテンツが誰でも見られる時代だからこそ、逆にリアルのイベントに参加する価値が高まっているという見方もできる。

 7日より、アセットストアで、“オープンソース系ヒロイン”をうたうキャラクター『UNITY-CHAN!』(ユニティちゃん)を無料配布するというのも新要素だ。モデルだけでなく、シェーダーやアニメーション、24個のモーション、12個のポーズ、8つの表情、45種類といった具合に、ひと通りのアセットが含まれていてすぐに使えるのが特徴だ。昨年12月にキャラクターを公開したところ、海外からの反響が大きかったので英語のドキュメントなども含むことになった。

 初音ミクでUGC(ユーザー生成コンテンツ)文化が花開いたように、キャラクターを軸にすることで新しいコラボレーションが生まれることも多い。ネットの“神々”が彼女でどう遊ぶのか、かなり注目になるはずだ。

”Unite Japan 2014” ”Unite Japan 2014”
▲モーションやボイスデータまで入ってるので、すぐに遊べる。
”Unite Japan 2014” ”Unite Japan 2014”
▲今回のキャラのために、独自のライセンス形態“ユニティちゃんライセンス”(UCL)を発表。商用・非商用を問わず、売上高が1000万円を超えない規模の団体の二次創作がOK。1000万円を超える規模なら「オフィシャルとして売ったほうがいいよね」ということで、許諾を出すので相談という感じだ。
”Unite Japan 2014”
▲世界よ、これが日本だ!

 というわけで、基調講演を軸に見てきたが、これ以外にも3月にアメリカのゲーム開発者向け会議“Game Developers Conference 2014”で発表された最新の“Unity 5”をデモしていた。

 ざっくり言えば、試し甲斐のあるツールと、おもしろいことをやろうとしている人がそろっていて、勢いのあるものが生まれないわけがないっ! というところだ。少しでもゲーム開発に興味を持ったことがある人は、ぜひUnityを触ってみてはいかがだろうか?

”Unite Japan 2014”
▲基調講演に詰めかけた人々。明日の大作ゲームはここから生まれるかも!?

■”Unite Japan 2014”開催概要
【開催日時】2014年4月7日~8日 10:00~19:45
【開催場所】ホテル日航東京 1F 大宴会場「ペガサス」
【URL】http://japan.unity3d.com/unite/

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