2014年4月18日(金)
『ブレイブルー』は独特の世界観と、個性的なキャラクターが織り成す重厚なストーリーが人気の対戦格闘ゲーム。その勢いはゲームに留まらず、コミック、小説、テレビアニメ、舞台とさまざまなジャンルに手を広げ、幅広い層のファンを獲得しているタイトルだ。最新作は、4月24日に発売されるPS Vita版の『ブレイブルー クロノファンタズマ』となる。
インタビューは、ゲームを始めアニメ版や、先月公演され好評を博した舞台版についてプロデューサーの森利道氏にうかがう前編と、PS Vita版の見どころや3月19日にアップデートされたアーケード版『ブレイブルー クロノファンタズマ』Ver1.10の調整内容について開発スタッフに聞く後編に分けてお届けする。
今回掲載する前編では、シリーズの生みの親でもある森利道プロデューサーに『ブレイブルー』シリーズ全体の展開について幅広く質問する。昨年放送されたアニメ版『ブレイブルー』については、TVアニメというゲームとは違った形での製作のエピソードについて聞くことができた。実際の放送では変更されてしまった第10話の初稿と、森氏のハザマへのこだわりのエピソードは必見だ。
▲ゲームをはじめ、幅広い『ブレイブルー』の展開について答えてくれた森利道プロデューサー。目まぐるしい一年半を振り返って、さまざまな話が飛び出した。 |
――アーケード版『ブレイブルー クロノファンタズマ』が稼働してから現在までの手応えはいかがでしょうか?
アーケード版が稼働したのが2012年の11月なので、そろそろ1年半ですね。さすがにプレイヤーの方も成熟している感じがあります。今回、アーケード版のバージョンアップを行ったので、また新しい遊びを提供できるんじゃないかと思います。PS Vita版が発売された後には、PS3版もバージョンアップする方向で動いています。
――『クロノファンタズマ(以下CP)』では、旧作よりゲームスピードが早くなってよかったという声をよく耳にします。
そうですね。実はヒットストップを軽くしただけなんですけど(笑)。
――『CP』から入ってきたプレイヤーは多いですか?
“ぶるらじ”など、ゲーム以外のメディアから入ってくれたファンの人たちが残ってくれている印象があります。もともと『ブレイブルー』というタイトルは、そういう形で幅広く展開していくことをコンセプトに始めた作品なので、そのへんは予定通りになってくれたのかなと。
“ぶるらじ”は僕の想像以上にご好評をいただいてますし、それ以外でも石渡の音楽や、駒尾さんが書いてくれている小説版や、コミック版もそれぞれ皆さんが一生懸命書いてくれていますし、そういういろんな形のメディアミックスがうまくいったのかなと。僕自身は100人来て、5人残ってくれればいいかなと思っているんですが。
――5人ですか?
メディアとして好きになってくれても、そこから格闘ゲームとしてしっかり研究してうまくなろうという人は、なかなかいないと思うんです。だからって何もしなければゼロのままなので、そう考えればうまくいったのかなという気はしています。
ゲーム性の話になりますが、『ブレイブルー カラミティトリガー(以下CT)』と『ブレイブルー コンティニュアムシフト(以下CS)』はほとんど同じシステムでやらせてもらったので、『CP』で何か違うことをやりたいなと。そこで入れたのがオーバードライブだったんですけど、あれは結構賭けだったんですよね。
▲自身を一定時間強化する新システム“オーバードライブ”。キャラクターごとに、発動時の効果は異なる。 |
――賭けというのは、ユーザーにちゃんと受け入れられるのか、という意味で?
僕は逆転要素のあるシステムが大好きなんですよ。特に『ストリートファイターZERO2』のオリコンのように、スーパーコンボとオリジナルコンボが同時にできて、使い方はプレイヤー次第だ、みたいな。
開発スタッフからも、バーストゲージが別の使われ方をしているという声が上がっていて、僕も気になっていたんですよ。バーストゲージって防御的な手段のはずなのに『CS2』の時はみんな攻撃手段として使っていましたからね。「これはちょっと使い方違くね?」という話があって、攻撃手段として使えるものにしましょう、と当時パチ君と話しました。
設定的にもラグナのところでオーバードライブという言葉が出てきたので、これにしよう、と。ただ、こういうシステムって一歩間違えるとゲームがつまらなくなってしまうので、当時はバトルプランナーたちがかなり頭を悩ませてましたね。
――実際ゲームが稼働してみて、オーバードライブの手応えはどうでしたか?
全然ありだと思いましたよ。あれはオリコンとも違った、『ブレイブルー』らしい新しい形になったと思っています。一発逆転要素もしっかりありますし。画面端でハクメンにやられた時は僕も「うっほほー、減るぅ!」ってびっくりしましたけど(笑)。
――ハクメンのオーバードライブは、プレイした人なら誰もが心に残りますよね(笑)。
あれは正直、やられた僕も心に残りました。というか心に傷を受けましたね。あれを食らった時はちょっと鼻水が出ました(笑)。でも、ゲームとしては尖っているほうが記憶に残るんですよ。
もちろんバランスがいいに越したことはないんですけど、僕は尖っている中でバランスが取れたらいいと思っています。スタッフからは毎回「無茶を言わないでください」って言われるような無謀な挑戦なんですけど、『ブレイブルー クロノファンタズマ』というタイトルでは、そういう方向性で1つの答えが見つけられたんじゃないのかな、という気はしています。
――PS Vitaに移植するにあたって、何か意識されているようなことはありますか?
再現性ですね。しかし、携帯機で対戦格闘ってやりにくい印象があるので、できる限りレスポンスのよさを意識して作っています。ですが、今はPS Vita TVもありますからね。PS VitaTVはお手ごろな価格で、据え置き機と同じような環境で『ブレイブルー』をプレイできるようになりますから。僕はPC画面にHDMIでつなげて遊んでいます。よかったら触ってみてください。
▲4月24日に発売となるPS Vita版の『ブレイブルー クロノファンタズマ』。アーケード版と同じ最新の対戦バランスが適用されている他、ストーリーモードに今作でしかプレイできない“水着シナリオ”が収録されている。 |
――『ブレイブルー』は新しい携帯機が発売されると、毎回そのハードへ移植している印象があります。
そうですね。PS3やPS4って本体自体の価格が高いので、PS Vitaしか持っていない方って結構いると思うんです。そういう人たちにもブレイブルーのおもしろさを伝えたい、ということを考えて作らせてもらっています。ですので、幅広い層のファンの方々に遊んでいただけたらと思います。
――それでは、昨年放送されたアニメ版の話に移らせていただきます。制作はいつごろから行っていたんでしょうか?
アニメってスタッフの人たちのスケジュールもあるので、あまり長い期間じっくりやれないんですよ。『CS』が終わった2年ぐらい前から準備はしていたんですが、実際はアニメが放送される8カ月前ぐらいから製作をしていたと思います。そのころ、僕はまだ脚本をやっていました(笑)。
▲2013年10月から全12話が放送されたTVアニメ『ブレイブルー オルターメモリー』。森プロデューサーも本作の監修を務めた。 |
――森さんはシナリオ監修としての参加でしたが、制作中のエピソードがあれば教えてください。
いやあ、TVアニメのスタッフに説明するのが大変でした!(笑) 人に書いてもらう時にやっぱり多いんですけど、「この場面だからこういうことを言わせたい」って作家さんに言われるんです。でも、その場面だからこそ、このキャラクターはこういうことは言わない、という理由の説明は何度かありました。
小説版の『フェイズ』シリーズがよくできていると言われるのは、僕が見て、そういうキャラクターの台詞を意識して直してもらっているからなんですよ。小説版は駒尾(真子)先生が「どんだけテルミ好きなんだよ!」ってくらい愛を持って接してくれているので、早い段階でうまく意思の疎通ができました。
特に大変だったのが、キャラクターのクセの部分ですね。僕が脚本を書かせてもらった10話を見てもらえばわかるんですけど、テルミになったハザマって同じことを2回言うんですよ。「そうだよ! それなんだよ!」って、わざとやっているんですけど、そういう台詞回しのところで「文法と違う」と言われて「いや、そうじゃないから」と結構説明しましたね。
テルミの相手の心を見透かしたような、徹底的な口の悪さを伝えるのは難しかったです。それでもやっぱり、ちゃんと一生懸命やってくれたのでよかったと思います。今回は僕らもアニメを作るのが初めてだったので、いろいろと勉強になりました。
▲深いかかわりを持つテルミ(左)とハザマ(右)。テルミはPS3版『ブレイブルー クロノファンタズマ』のダウンロードコンテンツで、初めてプレイアブルキャラクターとなった。 |
――10話の脚本を書いてみて、今まで担当されていたゲームシナリオと比べてどうでしたか?
ゲームの脚本とは全然違ったので大変でしたね。そのあたりは水島精二さんに協力してもらって、僕が一度ガーッと書いたものを直してもらいました。戻ってきた物を見て「ああ、アニメの脚本ってこうやって書くんだ! なるほど!」って(笑)。
僕はゲームのシナリオを書いているんで、描写が説明くさくなっちゃうんですよ。場景を台詞で口にしちゃう。アニメの脚本の場合は、そこはもう役者さんの演技にまかせるんです。もしくは絵の強弱で場景を表せ、とか。自分で言うのもなんですけど、10話はおもしろかったなという気はします。本当は脚本を書く予定はなかったんですけどね(笑)。
――脚本はもともと書かれる予定がなかったとのことですが、どなたからその話が来たんですか?
赤尾でこさんや高橋龍也さんと集まって脚本会議をしていた時に、10話どうしようかという話になって、水島さんからやってみないかと話を持ちかけられたので「書きたい!」と答えました(笑)。
――10話にはハザマに捕まったマコトのサービスシーンがありましたけど、あれは森さんの趣味だったんでしょうか?(笑)。
いや、あれは完全に向こうの意向でした。最初に僕が書いた脚本はもっとえげつなかったんですよ(笑)。たぶん、原作を知っている方だったら僕の書いたマコトのいびり方のほうがテルミっぽいと思ってくれるんじゃないかと。相手の心を折るのが彼の仕事なんで、ねちっこく、なおかつ徹底的にやってくれます。
――アニメのテルミは生温かったと(笑)
僕が最初に書いた時は、どんだけ踏みつけるんだよ! ってぐらい踏みつけまくってて、マコトは完全にサッカーボール状態でしたね。派手に動かしたほうがやりやすいと言われたので、「丸っこいから蹴りやすいなオイ!」とか言いながらテルミがどんどん蹴っ飛ばしてばんばん壁をぶっ壊してたんですよ。それでマコトが血だるまになっていくっていう感じで書いていたんですけど、今度はアクションが大変過ぎて無理ですって却下されちゃったんですよね(笑)。
あと、僕が書いた脚本だと逆にノエルがウロボロスに縛られていて、その目の前でマコトがボッコボコにされて最後に突き落とされるっていう展開だったんです。あの時点でノエルが動けないのは、そういう理由のつもりでした。
――アニメ版で森さんが気に入っているシーンはありますか?
やっぱりオリジナルストーリーができた8話ですね。『CS』本編ではラグナとラムダの交流がほとんど描けなかったので、あの回はもともとやりたかった話だったんです。本当に個人的に気に入っているのは、庭のど真ん中にラムダがべたっと寝転がってターターを見ているっていうシーンですね。アニメ用のラムダの新コスチュームは、僕が描いて加藤勇樹がいじってくれたんですが、僕の案がほとんどそのまま使われています。あれはココノエの第七機関らしいデザインにしようと思ったんですよ。
――それでは、舞台“LIVE ACT『BLAZBLUE(ブレイブルー)』~CONTINUUM SHIFT~”の話に移らせていただきます。格闘ゲームとしては前代未聞の舞台版『ブレイブルー』でしたが、あれはどういった経緯で制作することになったのでしょうか?
あれはまず、銀河劇場の方が舞台をやりたいと企画を持ち込んできたんですよ。実際に僕もどういう風になるのか興味があったので、ぜひ頑張ってくださいという話をしました。
▲舞台版のメインビジュアル。今年3月6日から3月9日にかけて、東京・天王洲 銀河劇場で上演された。 |
――森さんは舞台版にはどの程度かかわっているのでしょうか?
最初に上がってきた脚本の冒頭10ページを書き直したぐらいで、あとはほとんど劇団の人たちが作ったものです。まあ、40ページ中の10ページなので結構な分量ではあるんですけど(笑)。
主に会話劇の台詞のところをいじらせてもらいました。特にハザマの台詞が難しいみたいですね。他のキャラはそんなこともないんですが、ハザマの台詞は大量に直しました。最初に上がってくるハザマの台詞って、みんな文法が綺麗なんですよ。でもチンピラってみんな文法を無視して話すじゃないですか。そういう話し方が難しいのかもしれないですね。
――それは、ハザマとテルミの両方とも?
両方ですね。みんなハザマからテルミに変わる瞬間、急にテンションが上がるのが難しいって言っていました。あとは、舞台上で出てこない単語は使わなくていいという話をしましたね。見に来た人に対して、できるだけわかりやすくしてくださいというお願いはしました。
――実際に役者さんがキャラクターを演じられているのを見た印象はどうでしたか?
今回の舞台は成功だと僕は思っているんですけど、あれは完全に役者さんのおかげです。できる限りゲームのキャラクターを再現しようと、ものすごく研究をしてくれたらしいので。
特に村上幸平さんのハザマはすごかったですね。キャラクター同士が対峙するシーンがあるんですけど、ハザマの立ちポーズがちょっと片足上げて、ポケットに手を突っ込んでぶらぶらさせる感じの、本当にゲーム中の立ちポーズのイメージ通りなんですよ。
ジン役の荒牧慶彦君もかなり頑張ってくれたので、見に来た人たちがみんな「うおおー! リアルハザマキター!」とか「リアルジンキター!」とか言っていました。他の方々ももちろん頑張ったと思うんですけど、それでもあの中で誰が一番頑張ったかっていうと役者さんたちだと思います。
友常勇気君のラグナも、あれはあれで若々しさがあってよかったです。杉田君の演技ってつかみどころがないし、そもそもあの声はオンリーワンなので再現するのが難しいんですよね。だから僕はあれはあの形でいいと思っています。
舞台ということで、皆さん「ん?」って思うところがあるらしくて、初日はそんなにお客さんが入っていなかったんですけど、最終日はほぼ満員だったんです。徐々に減っていくんじゃなくて、どんどんお客さんが増えていったという流れは、一番いい形だと思うんですよ。再演があったら、今回見られなかった人たちにもぜひ来てもらいたいです。
――今後国内での『ブレイブルー』の大きな大会の予定はありますか?
これは前から言っているんですが、あります。“あーくれぼ”はもう一度やりたいと思っていて、今はレギュレーションを決めているところです。“あーくれぼ”以外の大会も開催されているので、そのあたりの兼ね合いを考えたスケジュールも調整中です。大会があればプレイヤーのモチベーションが上がるので、会社側の方でそういう舞台は用意していきたいですね。
――“EVOLUTION 2014”の競技種目に『BBCP』が選ばれたことで、海外のプレイヤーも増えると思いますが、公式大会で海外勢を招くイベントのようなものは予定されていますか?
EVOで海外のプレイヤーが優勝するぐらいだったら全然いいと思いますよ。国外にも強いプレイヤーはいますからね。ココノエも強いですから(笑)。
(一同笑)
EVOのタイトル発表の時にも、公式生放送で「ココノエの調整期待してます」って言われちゃいましたからね。僕らはもう調整入れる気マンマンだったんですけど(笑)。
――それでは次に、ブレイブルーの今後の展開についてお聞かせください。
これ、難しい質問なんですよね。去年アニメが終わって今はぶっちゃけひと段落中なんですよ(笑)。去年は漫画と小説の原案を書きまくりましたからね。漫画は原案と監修でスメラギ先生と何度も話し合いをして、小説も台詞回しを直したりして、もうすごく大変だったんですよ。僕自身も『CP』のストーリーを書きながらアニメの脚本もやっていたので。ちょっと休ませてくださいと(笑)。
なので今は今後の話は出せないんですけど、個人的に別の形の『ブレイブルー』をいくつか見せられるといいかな、と思っていくつか企画書を書いている段階です。『ブレイブルー』自体は、エスケイジャパンさんからカードゲームが出ましたし、『ボーダーブレイク』や『グルーヴコースター』など他社さんとのコラボも最近は多く行っているので、そちらのほうも楽しんでいただけたらいいなと思っています。
あとは、ネットゲームの『ロストサーガ』ともコラボをやらせてもらっていますね。僕、あそこのイラストレーターさんが好きなんですよ。韓国の方だと思うんですけど、ラグナやハザマの女性アバターのコスチュームがすごくかわいいんです。実はTGSのコンパニオンガールの衣装はこれを参考にさせてもらっています。こちらはもっと露出を多くしましたけどね(笑)。僕のほうは新しい『ブレイブルー』の企画を頑張っています。ただ、去年いろいろやりすぎたので、ネタを仕込まないとさすがに厳しくなってきました(笑)。
――最後に、このインタビューを読んでいるファンの方々へメッセージをお願いします。
『ブレイブルー』はいろいろな形で今後も続けていきたいなと思っていますので、皆さんよろしくお願い致します。頑張っています!
▲近日公開するインタビュー後半では、遠藤良平ディレクターを始めとする制作スタッフの皆さんにお話を聞いた。こちらもぜひあわせてチェックしてほしい。 |
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