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2014年5月14日(水)

『拡散性ミリオンアーサー』と『ブレイブルー』の共通点は“中二ゴコロ”!? 安藤プロデューサー×森プロデューサーのガチンコ対談が実現

文:マスクド・イマイチ

 スクウェア・エニックスがiOS/Android/PS Vitaで展開している『拡散性ミリオンアーサー』。このPS Vita版において、アークシステムワークスの格闘ゲーム『BLAZBLUE CHRONOPHANTASMA(ブレイブルー クロノファンタズマ)』とのコラボイベントが5月11日より開催されている。

 このコラボ企画を記念して、スクウェア・エニックスの安藤武博プロデューサー、PS Vita版『ミリオンアーサー』の古川雄樹プロデューサー、そしてアークシステムワークスの森利道プロデューサーの3者による対談が実現。対談というよりは、安藤氏や古川氏が質問をバンバン投げ、森氏が答えをガンガン返すといった、安藤氏&古川氏から森氏へのインタビューという形になった。

『拡散性ミリオンアーサー』
▲左から古川雄樹氏、森利道氏、安藤武博氏。

 スマホ版を軸としたカード育成型RPGである『ミリオンアーサー』。そして、シリーズを重ねるごとに進化している格闘ゲーム『ブレイブルー』。一見、交わりの薄いタイトル同士のコラボレーションにも見えるが、今回の対談を通じて両タイトルが持つ魅力、そして、それを作るクリエイター同士の共通点が見えてきた。

 “中二”“神話”“お祭”など、さまざまなキーワードが飛び交った2人の会話を追うことで、エンターテイメントを作るとは何か? という大きなテーマへの1つの答えが見えてくるはずだ。(※インタビュー中は敬称略)

『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』
▲対談の前にコラボイベントをプレイする森プロデューサー。敵としてノエルが登場すると、「おおー!」と声を上げていた。
『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』
『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』
『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』

■カッコイイとかおもしろいとか思ってもらえるものを作りたい

安藤:本日は対談というより、僕たちが森さんにざっくばらんに聞いていくという、くだけた感じでやっていきましょうか。

:はい、そんな感じでお願いします(笑)。

古川:よろしくお願いします。今回のコラボの経緯を説明しますと、私が『ギルティギア』の時代からアークシステムワークスさんファンで、「なんとかしてコラボができないか」とメールを出させてもらったのが始まりですね。

安藤:僕は『ブレイブルー』とコラボって聞いた時に「うおぉぉぉ!」って思ったんですよ。『ミリオンアーサー』と『ブレイブルー』はゲームとして対極にあると思っていたので、「ああ、PS Vita版やっててよかったな」って。格闘ゲームみたいなアクション性の高いものは、スマホでは再現が難しいので、スマホだけの展開だとなかなかコラボをする機会もなかったんじゃないかなと。『ミリオンアーサー』もスマホ版のサービスインから数えると2~3年経つんですけど、『ブレイブルー』みたいにファンが多くいるようなタイトルとコラボできて、新鮮な驚きとともにすごくうれしかったですね。

:アークシステムワークスとしては、すでに『ロード オブ ヴァーミリオン』で何回かコラボさせてもらっていたので、今回も「あ、スクエニさんがやりたいとおっしゃるのなら、ぜひ!」という感じでお受けしました。コラボしたいと言っていただけるのは、ありがたいですね。

古川:聞くところによると『ファイナルファンタジーXIV』も、ずいぶん遊んでいただいているんですよね。

:ああ~、もう『FFXIV』はヤバイですね。『新生エオルゼア』の前から遊ばせてもらっています。『FFXI』も相当やり込みましたよ。

安藤:ちゃんとした統計を取ったわけではないんですけど、ウチの会社のクリエイターも森さんのゲームのファンが多いんですよ。例えば『FF』など、内部のクリエイターと話していると「格闘ゲームが作りたい」って言う人間が多いんですね。

:その気持ちはわからないでもないですね。

安藤:そう簡単には作れないジャンルの1つであることは、重々承知の上なのですが。

:大変ですからね。経験や知識がモノを言うジャンルになってしまうので。グラフィックがキレイだったり演出がすごかったりする格闘ゲームはいっぱいあるんですが、それと“おもしろいか”はまた別の話なんですよね。いっぱい格闘ゲームが出ても生き残る作品は少ないっていうのは、そういうことなのかなと。そもそも僕がゲーム業界に入りたいと思ったきっかけって『FFIII』ですから。中学校2年生の時でしたね。

安藤:本当の意味で中二の時ですね(笑)。

:二十数年前にもなりますね。僕が今41歳なので。『FFIII』を遊んで、ゲームに興味を持ち始めて、こっちの世界に来た……という感じですね。

古川:でも本当に中学2年生ごろに遊んだゲームの影響って大きいですよね。

:デカイですね。その時に、初代『ストリートファイター』と出会いまして。必殺技が本当の意味で必殺技で、昇竜拳一発で即死だった頃です。これが格闘ゲームとの出会いで、やり込みはじめたのは『ストリートファイターII’』からですね。

安藤:僕は石渡さん(※『ギルティギア』シリーズなどを手掛けるクリエイター・石渡太輔氏)のインタビューもよく読ませていただくんですが、「アーケードゲーム以外興味ありません」とおっしゃっていて。

:石渡はとにかく“とんがった”ゲームとか、洋ゲーとかが好きなんですよね。

安藤:そんな石渡さんの『ギルティギア』も、森さんの『ブレイブルー』も本当にゲームを愛している人に支えられているという印象がすごく強いですね。

:ああ、それはありますね。

安藤:石渡さんにとってのアーケードゲームとか、森さんにとっての『FFIII』のように、自分の人生にゲームが衝撃的に降りかかってきた時、ピュアに影響を受けたと思うんですよ。それで自分がクリエイターになった時、今の中二の子たちにそのままピュアにボールを投げ返している、そんな印象を外から見ていて思いました。

:やっぱり僕も石渡も、「これカッコイイよね! 俺カッコイイと思うし!」っていうのをできる限り出そうと思っているんです。「これカッコイイと思いません……?」っていう風にはなかなかできなくて。どちらかというと「これカッコイイと思うんだ! ね、いいでしょ!」っていうのが好きなんです。できる限り「ゲームを共感してほしい」と強く思ってゲームを作っています。

 他人がおもしろいと思うところって、正直わからないんですよ。人の気持ちが完全にわかったら、ノーベル賞ものだと思う(笑)。だからこそ「ゲームを共感してほしい」、「一緒に楽しみたい」っていう思いがあるんです。これはウチの開発陣全員がそうなんですけど、「おもしろいものを作ったんだから、みんなで楽しもうよ、だって僕らも大好きだし!」という感じで皆さんに提供していきたいと思っています。

安藤:僕も仕事柄、いろいろなクリエイターの方と対談することが多いんですけど、おもしろいゲームを作っている人であればあるほど、森さんと近いことを言われています。人の気持ちは完全にはわからないから、広いところをターゲットすることなんてできない。でも近くにいる仲間とか、自分がよく知っている特定の人とかはターゲッティングすることはできる。だから、そういう風にゲームを作っているんだっていう人は多いです。あと、中二の頃の自分に向かって作っているという人もいますね。

:それはそれで正しいのかもしれません(笑)。今と感性が変わってしまっているかもしれませんが、少なくともカッコイイとかおもしろいとか思ってもらえるものを作りたいですね。

『拡散性ミリオンアーサー』

■時代がどんなに変わっても“中二ゴコロ”の根底は変わらない

安藤:僕たちはスマホとVitaで同じゲームを展開するという妙ちくりんなことをしているんですけど、改めてPS Vita版1周年で思ったのは、今話していたような“共感してくれるファン”が多いんだなということです。

:僕もPS Vitaはすごくいいハードだと思っていて、価格も手頃になったしPS4とのリンクもいいので、もっと普及してもらいたいんですよね。

安藤:僕はずっとコンシューマでゲームを作っていたんですが、ここ5~6年ぐらいは本体に値段が付いていないコンテンツを、不特定多数のお客様に向けてスマホで出すということをやっています。そうなると、タダで暇つぶしで遊ぶというプレイヤーの方も多くて。それはそれで新しい時代のプレイヤーだと思うんですが、同じ売り方や展開をPS Vitaでしていても、スマホのユーザーとPS Vitaのお客様では反応が違うんですよ。PS Vitaのほうがよりファン度が高いと言いますか。

:PS Vitaを持っているという時点でコアなユーザーなのかもしれませんね。もっとライトユーザーにも届くといいんですけど。最近のスマホはとにかく性能が高くて、ちょっと困ったな……と僕らは思っています。

古川:どの辺りに困っていらっしゃいますか?

安藤:すごく興味があるんですけど!

:携帯電話は、やっぱり携帯電話なんですよ。もちろんゲームも遊べるんですけど、もっとしっかりゲームを遊んでもらいたいなっていう思いがありますね。

安藤:それ、堀井雄二さんと対談したときも、同じことをおっしゃっていました。

:PS Vitaを手に持つと「よし、俺、ゲームやるぞ」っていう気になるじゃないですか。でもスマホとかだと“ながらゲーム”になっちゃうんです。待ちながら、電車に乗りながら、とか。これは本当にクリエイターのワガママなのかもしれないんですけど、僕らも真剣に作っているんで、真剣に向き合ってほしいなって思うところはあります。

安藤:僕らはどちらかというとスマホに軸足を置いているんですけど、ゲーム体験と同時に、“サービス”もしたいなと思っていて。空いている時間に差し込める、さっき話に出たように、移動中だったりそれこそトイレに持ち込めたりするような。今の時代はいろんなものがあふれていて、ちょっとした待ち時間も待っていられないじゃないですか。そんな中で、少しでもゲームに時間を使ってもらいたいなと思っていて。僕も森さんと一緒で、スマホだろうと真剣にゲームを作っていて、知的生産労働のパワーとかカロリーは昔から何も変わっていないんですよ。そう考えると、PS Vitaのユーザーは、構造的にスマホよりもゲームと真剣に向き合ってくれるので、作っていて別の楽しさがあります。

:極論を言うと、ゲームって暇つぶしの1つでしかないんですよね。どれだけその人の空いている時間に入り込めるかが、娯楽産業での勝負だと思っています。そう考えるとスマホのゲームって強すぎるんですよ。隙間にバンバン入っていけるので。例えばゲームセンターのゲームを遊んでもらうのって、まずはゲーセンに足を運んでもらって100円を入れるっていう行動をとってもらわないといけない。それってすごい大変なことですよね。さらにゲーム専用機の場合は、ショップに行ってお金を払ってソフトを買ってソフトを挿して……って何段階もありますよね。

 一方でスマホのゲームは、その場でゲームの名前を調べたり、出ているバナーをクリックすればOK……と、どれだけ段階を省いているんだと。そりゃ強いわって(笑)。だから僕らみたいなアーケードゲームやコンシューマゲームを作っている人間は、どうやってそこまで行動させるかを考えるんですよね。もっと言ってしまうと、ダウンロード購入という方法もあるんですけど、そうじゃなくてショップでお金を払ってソフトを買うっていうのも1つのコミュニケーションで。そうしたら「こういうおもしろいソフトもあるよ」って言ってくれる店員さんもいたりするじゃないですか。そういうコミュニケーションもしてほしいなぁ、って思ったりもしますね。

安藤:そんな風に、遊び方だったりファン層だったりが違う2つのタイトルが、今回PS Vitaがあることでコラボできたっていうのは、すごくおもしろい時代ですよね。森さんにシンパシーを感じるのは、僕らも『ミリオンアーサー』ってゲームだけじゃなくて、『ミリオンアーサー』そのものがプラットフォームであってほしいって思っているんです。そこで森さんの『ブレイブルー』が、最近は演劇までやられているのを見て……。

:あれは僕もびっくりしました(笑)。

安藤:しかも、ちゃんとしたクオリティに仕上がっていて、ファンにも喜ばれている。そういうのって、今までのゲームのプロデュースワークの幅からすると自由、柔軟な印象が強い。

:元々そういうつもりでやってはいますね。個人的には、今までいろいろな失敗を見てきているので、できるだけその失敗をしないように心がけています。成功の法則って運が絡んでくるのですが、失敗ってルールがあるんですよ。絶対にやっちゃいけないことがいくつかある。それをできる限り避けるようにしています。

安藤:僕らは『ミリオンアーサー』をやっていて、ある程度売れたり認知されたりしたタイミングで、ファンサービスのためにも「いろいろ広げていこうか」と思うようになったんです。『ブレイブルー』はどうだったんですか?

:そこは最初からマルチに展開していきたいと意識していましたね。最初の発表からブレないようにしているのは、これは1コンテンツであるということです。大きな柱として格闘ゲームがあって、その周囲に『ぶるらじ』やコミックやノベルなどがある、そういう展開をしたいと最初から思っていました。格闘ゲームだけでもよかったと言えばよかったんですが、とにかくどうすれば若い人たちに格闘ゲームを遊んでもらえるかを考えたんです。

 これはいろいろなところで公言していますが、『ブレイブルー』を作る時に『ギルティギア』のユーザーは一切意識しなかったんですね。自分も『ギルティギア』を数年間作っていたので、ユーザーも年をとっているというのがわかっていて。自分が24歳の時に作り始めた『ギルティギア』を32歳になってもう1回作るの? って思っちゃったんです。そうなると『ギルティギア』も誰に向けて作っているのかわからなくなってしまって。これから作る格闘ゲームは、これから10年間遊んでもらいたいユーザーに比重を置いて作ろうと思って、今の『ブレイブルー』の形になりました。だから発表当初も、格闘ゲームであることを強く言いたくなかったんですよ。どうしても難しいイメージがあるので。雑誌でもシステムの紹介などは小さくしてもらって、キャラクターのイラストや派手な画面を大きく載せてもらったんですよ。

古川:格闘ゲームの歴史を紐解いてみても、『ブレイブルー』はアドベンチャーパートが充実していますよね。

:『ブレイブルー』自体のお話や世界観に興味を持ってもらいたかったんですね。格闘ゲームを作り続けてきたので、格闘ゲームとしておもしろいものを作る自信はもちろんありました。言ってしまえば、格闘ゲームとしておもしろいのは僕らにとっては当たり前で。実際は不安だったんですけど(苦笑)。

 そのおもしろさは前提として開発が動いていって、世界観を作る、キャラクターを動かす、音楽は僕が一番カッコイイと思っている音楽を使いたかったので石渡にお願いしました。できる限り僕がカッコイイと思っているものを前面に押し出して、そこで共感を得たいなと。最初はいろんな人を起用しようとかあれこれ考えたんですけど、それじゃ伝わらないなと気づいたんです。僕がおもしろいと思うものを、多少なりとも押し付けたい、そこで共感を得たいと思って作ったら、今の形になりました。

安藤:なるほど。僕らが作っている『ケイオスリングス』というゲームもそういう作り方をしているんですよ。言ってしまうと、『FF』や『DQ』のようなロングセラーは『ギルティギア』と同じようなリスクを背負っています。驚くべきことに『FFVII』が出てからもう17年ぐらい経つんですね。僕も『FFIII』直撃だし、『FFV』とか『FFVI』、他にも『ロマンシング・サガ』だったり『聖剣伝説』といったスクウェアのスーパーファミコンのタイトルに影響を受けて、この世界に入ってきたんです。もちろん『FFVII』以降も熱狂して遊んでいるんですけど、クリエイターと一緒に自分もファンも年をとってしまっているのは感じていて。これからゲームのおもしろさを知る10代とかの子たちに、スクウェア・エニックスのブランドとして『FF』でも『ドラゴンクエスト』とは違う“新しい何か”を提示していきたいという思いがあって、『ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』を作ったんです。僕らは死ぬまでゲームをやり続けるし、格闘ゲームもRPGも何十時間と遊んでいくと思うんですよ。でもそうじゃない新しい人に、ゲームの魅力をどう伝えようかと考えると難しいですよね。

:今の時代、ゲームの価値っていうのがどんどんズレてきてしまっている気がしていて。そこは難しいところですね。だから、世界観やキャラクターから興味を持ってもらうのは大事だと思うんです。

古川:声だったり、歌だったり、音楽だったりというのは、世界に入ってもらうのに威力を発揮しますよね。

:時代がどんなに変わっても“中二ゴコロ”の根底は変わらないんですよね。

安藤:僕もそう思います。今、共感できましたね(笑)。

:だから、そこがブレちゃいけないところの1つで。新しいものに対して柔軟な考えをとらなきゃいけないんですけど、根底にあるものは絶対に変わらないのでそこは押さえておくべき。あと、今までの話でもわかるとおり“思い出補正”には、どんなものも勝てないんですよ。だって僕にとって『クロノトリガー』に勝るゲームなんてないんですから! あの時の衝撃は半端じゃなかった。

安藤:発売当時に遊んで、それから20年も遊ばないと、年々脳内で美化されていくんですよね。悪くなることなんて一切なくて、システムもお話も、何から何まで完璧に構築されていたんじゃないかって……。

:思っちゃいますよね(笑)。

安藤:でも、僕らも『聖剣伝説』とか『サガ』シリーズを取り扱うことがあって、いま改めて遊び直すことが多いですけど、そうすると頭の中に残っているものよりいい意味で「乱暴だな」って思うところがあるんですよ。難易度とか。でもそこがよいところでもあって。今の子はこんなフリーシナリオでフラグ立てられないだろうって(笑)。

:今の子はコントローラを投げることなんてないんじゃないですかね。僕、『ロマンシング・サガ』をやっていた時、恐竜に囲まれて動けん! こんなところ抜けられるかー!! ってコントローラ投げちゃいましたからね(苦笑)。

安藤:当時はよしとされていたけど、今思うとちょっと乱暴。そういうバランスやゲームデザインって、『ブレイブルー』だったらシステムのアップデートですぐに対応できるじゃないですか。森さん的には、昔みたいなちょっとイジワルなバランスとかキャラ性能を、あえて仕掛けていくことってしていますか?

:していますよ。僕も絶対勝てないと思われるような敵とか作りたいですからね(笑)。勝った時の爽快感が半端ないんですよ! 『真サムライスピリッツ』の“羅将神ミヅキ”とか、『カイザーナックル』の“ジェネラル”に勝った時の気持ちよさは、何かを成し遂げたって感じがありましたから。

安藤:確かに、メチャクチャ強い敵に死にながら挑みかかっていくのって、ゲームが持つおもしろさの根源的なものですからね。

:これは僕だけかもしれないんですけど、コンティニューをしたくないんです。ワンコインでクリアしたいんですよ、ボスを。もう「こんな強さに調整したヤツ出てこい!」みたいな……っていう話がこうやってできるだけで、楽しいですよね。やっぱり記憶に残るゲームを作りたい、っていうのは今の僕も考えているところです。

『拡散性ミリオンアーサー』 『拡散性ミリオンアーサー』

■クリエイターの到達地点は“神話”を作ること

安藤:『ミリオンアーサー』と『ブレイブルー』のユニークな共通点がもう1つありまして。『ミリオンアーサー』って東アジア地域で、すごく人気があるんです。日本人に向けて作ったら、外国のプレイヤーも熱狂的になってくれて。

:アジアの人たち喜びそうですよね。

安藤:韓国・台湾でNo.1を獲り中国でもTOP2に入り、独自の進化を遂げています。元々、岩野(※スマホ版『ミリオンアーサー』プロデューサーの岩野弘明氏)と「スマホだから世界同時に配信できるけど、まずは日本人がいいと言ってくれるもの作ろうよ」って言って、シナリオに鎌池和馬さんを起用したり、いろんなイラストレーターさんに絵を描いてもらいまして。それが海を越えて、向こうの人も日本人と同じ目利きで遊んでくれているのは想定外でしたね。『ブレイブルー』だと、世界規模の格闘ゲームイベント“Evolution”の正式種目に選ばれましたよね。そういう国外の人もガチンコで『ブレイブルー』を遊ぶっていうのは、森さんは想定されていましたか?

:これも昔から言っていることなんですが、僕はあまり海外だからどうこうとか気にしないようにしているんですよ。僕がおもしろいと思っているものをおもしろいと思ってくれる人のために作っているので、そこに国境とかは基本的に考えないようにしていますね。だって、感性ってわからないじゃないですか。生まれた国が違っていたら、どうやったって完全には理解できない。でも“ファンタジー的なものに対するおもしろさ”っていうのは、共通していると思っていて。そうじゃなきゃ、僕らが『ハリー・ポッター』を読んでおもしろいと思うことはないはず。ハリウッドのPVを見てカッコイイな、って思うのも同じですよね。特にファンタジーは、海外の方のほうが理解しやすいのかもしれません。想像力がたくましいのかなって思う時もありますね。

安藤:僕もそう思うことがあるんですが、なんなんでしょうね。

:僕が思うのは、今の日本のユーザーはファンタジックなものに対する想像力が落ちてしまっているのかなって。たぶん出きってしまったんじゃないですかね。古典ファンタジーは王道なので絶対にウケる、そこは変わらないんですけど、進化がそこで止まってしまっているような気はしています。

安藤:確かに、具体的に提示されるものが多すぎて、「これはもしかしてこうなのかなぁ」って考えて、その答えがそれぞれ違う――そんな要素が少なくなっているのかもしれませんね。脳内補完が必要ないものが世にあふれすぎているのかもしれません。「こんなマニアックなものが好きなのは、学校で俺ともう1人ぐらいだから、恥ずかしくて絶対誰にも言えねー」って子たちが点在していて、彼らがクリエイターになったりしていたのかも。この「俺しかわかんねーじゃねーんか、これ」っていう感覚ってファンタジーの原点だと思うんですよ。今はSNSが発達していて、“マニアックなものがマニアックたりえない時代”で、想像の余地みたいなものが奪われているのかもしれませんね。

『拡散性ミリオンアーサー』

:理屈っぽくなっちゃって、説明や答えを求めすぎてしまっているのかもしれません。「いいんだよ、そこは想像想像!」っていう隙間をどんどん埋めてしまっているのかも。そう考えると、『ミリオンアーサー』みたいにたくさんキャラがいると、想像じゃなくて妄想ができますよね(笑)。そういうのがしやすいのって、僕はものすごいいいなぁって思います。

安藤:『ブレイブルー』も二次創作が盛んだったり、そういう妄想の余地が高いレベルで実現されているなって思います。

:昔、石渡と「クリエイターの到達地点って、“神話を作ること”だろう」って話したことがありまして。

安藤:いいですね! もうそのやり取りがすでに中二全開じゃないですか!

:いやいや、マジメな話ですよ(笑)。『スターウォーズ』だって完全に神話ですよ。世界観ができあがっているじゃないですか。『機動戦士ガンダム』も神話で、いくらでも本編以外のストーリーが作れちゃう。今、その“神話”に近いと思っているのが『ファイブスター物語』なんですが。

古川:ああ~、なるほど!

:「何ページあるんだよ!」っていう年表の、まだほんのちょっとだけしかやってないんですよね(笑)。

安藤:でも、連載が再開した時に雑誌がすごく売れたって話を聞くと、やっぱりああいうものを求めているんだなぁって思いますよね。僕もああいう形の再開は想像してなかったですけど、うれしかったですし。確かに“神話”ですね。でもそのぐらいの覚悟を持って世界観を作らないと、ファンの人たちに厚みを持ったおもしろい世界として届かないと思うんですよね。今、そこまでの意気込みで世界観を作って、その一部分が格闘ゲームだったりRPGとして切り取られる、そんな作品ってないですよね。

:まだまだ僕は“神話”は作れていないと思いますね。でも最終的に目指すところは、そこなんですよね。『FF』だってクリスタルストーリーっていう“神話”なんじゃないですか。

安藤:まさに僕が影響を受けたスクウェアのタイトルのクリエイターって、そういう“神話”を作ったような人たちで、そこに新しい概念や物語を作ろうとしているのが僕らなんですよ。この前も『聖剣伝説』にかかわることになって、生みの親である石井浩一さんとじっくり飲む機会があったんですが、「マナという概念を思いついた時に、これは作った! ファンタジーにおける発明だ」という話をされていて。神話を作ってやるとか、世界を創造してやるとか、そういう意気込みって大事ですよね。

:結局、“神話”の根本って力なんですよね。物語を作る上で何らかの力を考える人って、“神話”が作りたいんじゃないかなぁ。僕の『ブレイブルー』でも“魔素”っていうのがあるし、石渡の『ギルティギア』にも“バックヤード”っていうのがありますし。結局、その力の源を何かに変換することで“神話”を成り立たせようとしているんですよね。

安藤:風呂敷の広げ方がそれぞれというのもおもしろいですよね。僕らの会社でいうと『ゼノギアス』っていうのがそういうことに挑戦したゲームだったんじゃないかな。衒学的で、何万年も超える歴史年表があって、そのなかのここだけがゲームで語られますっていう。

:ちなみに僕、『ゼノギアス』の設定資料集を4冊も持っているんですよ(笑)。

古川:4冊!?

安藤:RPGなどで深い世界観を作っているクリエイターさんって、結構な確率で『ゼノギアス』の設定資料集を持っているんですけど、あれなんでですかね(笑)。

:僕は最初に1冊買って、これはいいものだって思ったので会社用にもう1冊。で、相当読み込んでダメになってしまったのでもう1冊。さらに、復刻版が出た時に「あ、買っとこ」って、もう1冊と。

『拡散性ミリオンアーサー』

古川:復刻版が出る前はプレミアが付いていましたよね。

安藤:『ブレイブルー』も大きな世界観の一部を切り取って出しているという点があると思うので、シンパシーを感じられたのかもしれないですね。

:そうですね。いろいろおもしろいことができるといいなって思って、僕も今の形をずーっとやってきたので。あと、入りやすさと理解しやすさは、すごく大事になってきますよね。今の人たちにとってわかりやすさはすごく重要なことなんだって、とても強く感じます。

古川:ちなみに森さんは、RPGを作りたいとかいう欲求はありますか?

安藤:僕は森さんの作るRPGを遊んでみたいんですけど!

:さっきも話したとおり『FFIII』がきっかけで業界に入ったので、最初はRPG作りたいなって思っていたんですよ。でも、学生時代にとあるRPGのデバッグをやったんですけど、百科事典みたいなデバッグ表を渡されて「ええ! これ何ぃ!?」みたいな(笑)。そのデバッグがあまりにキツくて「ああ、もう俺はRPG作れねぇなぁ」って(苦笑)。でも作ってみたいなという気はありますね。

安藤:森さんの今やっている“神話”を作ろうっていう意気込みで物語を作って、入り口をキャラで入りやすくして、そこからシステムを理解してもらうとこまで持っていくっていうのは、ほとんどRPGの作り方にも通じるところがあるんですよ。

:もしRPGを作るんだったら『ブレイブルー』のではなく、ゼロから作りたいですね。

安藤:でもこうやって話していくと『ペルソナ』が格闘ゲームになってしっくりきた理由とかもなんとなくわかりますね。もっと違うものだと思っていたんですが、RPGと格闘ゲームで通じるところがあるんですね。

:あると思いますよ。レベルアップしていくということに関しては間違いなく同じ。それがキャラクターがレベルアップするのか、プレイヤーがレベルアップしているのかという差でしかなくて。そういう意味で親和性は高いジャンルかもしれないですね。レベルが上がることに対してのフィードバックを、いかに気持ちよく見せてあげるかが重要。“こんぼう”が“はがねのつるぎ”になった時の破壊力、爽快感の差。

 これが格闘ゲームだったら、コンボができるようになった時の気持ちよさは、ユーザーにしっかり戻してあげないといけない。しっかりコンボを入れさせたなら、負けさせちゃいけない。だから、僕が格闘ゲームで絶対にいけないこととして挙げているのが、ビギナーズラックでも素人がプロに勝つような作りにしちゃいけないということです。運要素はあるかもしれないけど、初めて遊んだ人が1,000回プレイしている人に勝っちゃいけないですね。

安藤:その思想があるから“EVO”の種目に採用されたのかもしれないですね。ビギナーズラックで勝てちゃったら、大会になりませんもんね。

■“お祭”はエンターテイメントの本質

安藤:僕は自分ではゲームを作らない、ゲームを売ってくるプロデューサーなんですね。それに対して森さんのプロデュースワークは、かなりレベルが高いと思っていて、自分で作りながら売ることをしているじゃないですか。それって同じ人間がやっていると、二律背反的なことになりがちなのかなと思っているんです。どうやって自分の中でプロデューサーモードとクリエイターモードを切り替えているんですか?

:どっちも一緒になってしまっていますね。多分、この世界で一番『ブレイブルー』をおもしろいと思っているのは僕なんですよ。その人間がおもしろいって推しに行かないと、誰がおもしろいと思ってくれるんだっていう気持ちでやっています。楽しいじゃないですか、自分で考えて、自分で動いて、それをみんながおもしろいと思ってくれる。クリエイターとしてこれ以上楽しいことはないと思っています。でも、お金のことを考えなきゃいけない時もやっぱりありますよ(苦笑)。ただ、あまりそれを匂わせないようには気をつけています。ユーザーさんってすぐわかっちゃうんですよね、そういうことを。

安藤:『ブレイブルー』は、徹底的にそういう商売っ気のようなものは感じられないですよね。本当にファンサービスに徹しているような。

:だから、逆に商売ですって時は大手を振って「これ買ってくれないと困ります! スイマセン!」ってハッキリ言っちゃいます。そういうところも楽しんで、みなさんに注目されたいと思って『ブレイブルー』という作品を作っています。だからこそ、今回もこういうコラボに選んでもらえたのかなと思いました。一番寂しいのは無視されることですからね。

安藤:好きの反対は無関心ですもんね。“某巨大掲示板にスレ立ってナンボ”ってところはありますよね(笑)。悪口≒好きかなって。

:そう思わないと先にすら進めませんもんね。だから、こういう企画で声をかけてもらえるコンテンツまで育ったなという実感はあります。

古川:若いユーザーを捕まえる努力の続きとして、今度は逃がさない努力というのはどのようなことをしていますか?

:定期的な刺激しかないですよね。今の時代、情報の上書きの速度が半端じゃないので。ニコニコ動画だけ見ていても、どれだけ情報があるんだよっていうくらい情報過多な時代。1回興味を持ってもらえたら、定期的に刺激を提供しないとすぐに忘れられたり、似たようなものにフラフラと移っていってしまう。なんだかんだで浮気症なんですよね、人間って。だから僕らは『ぶるらじ』っていうラジオ番組を始めたわけで。ただ、今度は情報を与えすぎちゃうとすぐにお腹いっぱいになっちゃうので、そのさじ加減の見極めが難しいんですよ。

安藤:“飢餓感”ですかね。お腹が空いていないと、ご飯もおいしく食べられない。

:格闘ゲームでいうと、大会をいつやるのかが重要なんです。「盛り上がってるぞ、さあやろう!」じゃないんですよ。僕は、盛り上がりが終わりかけている時にやるのがいいと思っています。盛り上がっている時、どんどん上手くなっている時期は、それだけでおもしろいんです。それが終わると、自分がどれだけ強いのかを試したくなる。「俺はこれだけやり込んだんだから、上手いに違いない」とみんなが思っている時に大会を開くと成功するんです。

安藤:僕らスマホのゲームとしては珍しいと思うんですけど、今年の1月に“御祭性ミリオンアーサー”というリアルイベントをやったんですよ。これはまさにアーケードゲームの大会に影響を受けているんです。アーケードゲームのイベントに参加して、「なんかめっちゃ熱いな、これいいな」って思って。しかも実際にみんなで顔寄せあってみると、「あ、俺たち同じゲームのことが好きなんだね」っていう気持ちがフィジカルに体験できて、さらに「『ミリオンアーサー』はこれからこうなっていくよ」というのを直接伝えられると、みなさん「これからもこのタイトルにカロリーかけていいものなんだぁ」って思ってくれるんですよね。

:僕はスクエニさんが『ロード オブ ヴァーミリオン』や『ガンスリンガーストラトス』の大会をやるってだけで驚いていましたね。

安藤:柴(※『ロード オブ ヴァーミリオン』プロデューサーの柴貴正氏)は、森さんと中学生の頃の過ごし方がすごく似ていて、ずっと格闘ゲームを遊んでいて当時の大会に足を運んだりしていたんですよね。その熱気を覚えていて、そういうのがないと盛り上がらないなと思って大会を開いたみたいですよ。

:今の時代は難しいですよね。ちょうど僕ら世代が、そういう大会を開いたりする権限を持ってしまって、たまに「みんなやってること同じだな!」って思う時もあります(苦笑)。

安藤:だから僕は『ブレイブルー』の演劇をやったタイミングがすごいなぁって思いました。もっとコンテンツとしてこなれた頃、10年選手ぐらいになってからやるものだと思っていたので。

:ありがとうございます。企画の立ち上げから実施に至るまで、いろいろな経緯があり、商業面で言うと成功とは言えない部分もあったのですが、舞台の出来に関しては、成功したと思っています。とにもかくにも、役者さんを含めた制作スタッフの熱意がすごかったです。初日はファンの間でも半信半疑といいますか、ほんとうに大丈夫か……? といった様子見の方も多かったと思いますが、評判が評判を呼び、最終日には会場がほぼ満員になりましたからね。あれは役者さんの熱量がユーザーに伝わったんでしょう。悪い感想を一切聞きませんでした。その役者さんの熱量に、こちらも脱帽しました。できることなら、お客さんだから作り手だからとかじゃなくて、みんなで“お祭”がしたいって思います。

安藤:“お祭”っていい言葉ですよね。僕らもイベントのタイトルを“御祭性”って名前にしましたけど、数値化したり定量化できない熱気のようなものが伝わってくる、エンターテイメントの本質のような気がします。

:“お祭”って、基本的にはみんなが参加するものじゃないですか。ユーザーのみんなに参加してほしいんですよ。お客さんにならないで、あたなたちもキャストの1人として楽しみましょう、っていうのが僕も好きですね。そうすると、ユーザーも作り手もお互いに考えるようになって、コンテンツへの意識が共通してくるんですよ。そういうところからモノ作りの共感が生まれてくるんじゃないかなと思っています。

『拡散性ミリオンアーサー』

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データ

▼『拡散性ミリオンアーサー』
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PS Vita(ダウンロード専用)
■ジャンル:RPG/カード
■発売日:2013年4月11日
■価格:基本無料/アイテム課金

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