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2014年6月30日(月)

【FFXIIIシリーズ後日談小説 #02】「考えてみれば……俺があんな経験をしたのは、全部ドッジのためだったなあ」~サッズ・カッツロイ

文:電撃オンライン

 スクウェア・エニックスから発売中のPS3/Xbox 360用RPG『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』。その後日談を描く“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”の第2話を掲載する。

 著者は『ファイナルファンタジー』シリーズや『キングダム ハーツ』シリーズのシナリオに携わってきた渡辺大祐氏。今回の作品では、『FFXIII』シリーズ完結後の世界を舞台に、とある女性ジャーナリストを主人公にした記憶を巡る物語が描かれていく。

 今回お届けするのは、サッズに関するエピソード。サッズの口から、過去の冒険に関する記憶が語られることに。


“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

 耳をつんざく爆音が背後で起こった。一瞬で私の頭上を飛び越え、白い雲を引いて空の彼方に飛び去った。

 ここは都市近郊の飛行場だ。旅客機が集まる空港ではなく、個人や報道各社のチャーター機、緊急救難機などに利用されている。

 格納庫のシャッターは開いていた。コンサートホールほどもある空間の中央に、真新しい飛行機が駐機している。見慣れないシルエットの機体で、その翼や胴体は複雑な曲線の集合体だ。テスト中の新型機だという。

 そこに目当ての人物がいた。次の飛行に備えてか、工具を片手に機体の各所をチェックしている。

 私のヒールの靴音に気づいたらしい。彼は整備を続けながら、振り向きもせずに言った。

「関係者以外立入禁止だぜ、お嬢さん」

「大丈夫です、取材許可はとりました」

「よくもまあ許可がおりたもんだ。この機体は企業秘密のかたまりだってのによ」

 仰々しいため息から、ぼやきの独演が始まる。

「まあでも、あんたがスパイか何かで、この新型のデータを盗みにきたんだとしても、俺の知ったこっちゃねえけどな。こちとら、しがない雇われパイロットだ。お空に上がって飛ぶのがお仕事、スパイ取り締まりは契約外ってもんよ。よおスパイのお嬢さん、なんなら黙って見逃すぜ。こいつのデータを売って儲けたら、せめて一杯おごってくれや」

 ぽんぽんと調子よく軽口を飛ばしながらも、手のほうはひと時も止まらない。次々と工具を持ち替えて整備を進めていく手際のよさは手品のようだ。調べておいた経歴によれば操縦のほうも凄腕というが、知らないふりをして聞いてみた。

「不思議なデザインの飛行機ですね。ちゃんと飛ばせるんですか?」

「そりゃ飛ぶさ。確かに見てくれは珍妙だが、飛行特性はかなりのもんさ。俺の操縦に素直に従う、飛ばして楽しい飛行機ってわけだ。

 ……まあ、昔はもっと面白いモンを飛ばしてたんだが」

「お気持ちはわかります。普通の飛行機では満足できませんよね。あなたが本当に飛ばしたいのは、飛行機ではなく“飛空艇”では?」

 彼は弾かれたように振り返った。鳥の巣のようなアフロヘアが風を起こすほどの勢いだった。

「初めまして、サッズ・カッツロイさん」

 仰天して目を丸くしている。鼻の穴まで広がっていた。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-” “ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■(2)サッズ・カッツロイ

 私は取材の経緯を説明した。これまで多くの人々に話を聞いて、不可解な記憶についての証言を集めてきたこと。現実にはない世界にまつわる記憶の奇妙な一致。私たち人類が、かつて“別の世界”で暮らしていたのではという仮説。そしてホープ・エストハイムに出会って、仮説が確信に変わったこと。

「ぜひお話をうかがいたいんです。お願いします、カッツロイさん」

 彼は白い歯を見せて微笑した。

「サッズで結構。ホープの紹介とあっちゃ断れねえな。さーて、どこから話したもんか――」

 その時、朗らかな声が格納庫に響いた。

「おーい、父ちゃ~ん!」

 駆けてくる小柄な少年に気づいて、サッズは笑顔を輝かせ、大きく腕を広げた。

 少年が体当たりのような勢いで胸元に飛び込む。サッズは大げさによろめくふりをした。

「おおっと、強烈アタックだな! こりゃ父ちゃんもかなわねえや」

 笑いながら少年を抱き上げる。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

「どうした、今日はひとりで来たのか?」

「ううん、ねえちゃんと一緒だよ」

 へえそうか、とつぶやいて、サッズは私に向き直った。

「息子のドッジだ。そっくりだろ?」

 自分と同じ髪型の頭を撫でると、サッズは遠くを見る目で言った。

「考えてみれば……俺があんな経験をしたのは、全部ドッジのためだったなあ」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■人間だから戦えた

 サッズは私を機内に迎えた。テスト中の機体とあって実験装置が並んでいたが、座って話せるシートもあった。

 ドッジは操縦席でパイロットごっこに夢中だ。操縦桿を握りしめ、想像上の管制官と無線交信している。

 空を飛ぶ夢を満喫している息子の姿を眺めて、サッズは語り始めた。

「ドッジが“ルシ”にされちまって、俺は戦うしかなくなった。ルシってわかるか?」

「人間にはない魔力を与えられた者……人々に恐れられる、呪われた存在ですね」

「まあそんなもんだ。ルシってのは2種類いた。ざっくり簡単に分けちまうとだ、コクーンという社会を壊そうとするルシと、その逆に社会を守るほうのルシだな。とはいえ、どっちもろくなもんじゃなかった。ルシになったが最後、普通の人生には戻れねえ。守るほうのルシだって、人間扱いされねえんだ。

 ドッジはルシになった時は、まだ6歳でよ。あん時ゃもう、泣きたいどころじゃなかったさ」

「コクーンの聖府が、罪のない市民を追放して殺そうとしたのも、ルシへの恐怖が背景にあったからだと聞いています」

「ああ、それがパージ政策だ。俺はルシになったドッジを手伝ってやりたくて、パージの現場に乗り込んだ。そこでライトニングたちと会っちまったのが運の尽きさ。なんだかんだで巻き込まれて、しまいにゃ自分までルシにされちまった。ついてねえったらありゃしねえよ、親子そろって貧乏くじを引かされてよ――」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

 それからの苦難の旅路を、彼は飄々と語ってくれた。思い出したくもない辛い過去のはずなのに、ぼやきと冗談をおりまぜて、笑い話のように。平凡なパイロットだった彼が、過酷な戦いを生き延びられたわけが理解できた気がした。

「どんなに現実が重くても、押しつぶされずに笑い飛ばせる心の余裕が、サッズさんの強さなんでしょうね」

「よせやい、そんなご立派じゃねえよ。今だから笑えるだけで、あん時は余裕のかけらもなかったぜ。特にヴァニラにはかわいそうなことをしちまった。ドッジがルシになったのが、ヴァニラのせいだと知った時は、カッとなって怒鳴り散らして、あいつを殺そうとまでしたんだ。結局、撃てなかったけどな」

「殺そうとしたのも、撃てなかったのも、どちらも人間らしい反応だと思います」

「おっかないことおっしゃるねえ……。

 でも本当にそうかもな。ルシになった俺たちは人間だから悩んで、人間だから戦えた。

 あの世界を支配していたファルシどもは、それこそ神様みたいな化け物だったのに、最後には人間が勝ったんだ」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■逸楽の宮殿にて

「ファルシの時代が終わったあとについて、お聞きしてもいいでしょうか?」

「お聞かせしたいのは山々だが、話ってほどの話はねえなあ。あのあと、俺がどうなったのか、ホープからなんか聞いてねえか?」

「最初の旅から2年後に、サッズさんが行方不明になったとだけ……」

「ああ、ドッジと一緒にな。乗っていた飛空艇ごと、時空の裂け目にのみこまれて、妙なところにすっとばされた。

 知ってるかい、“逸楽の宮殿ザナドゥ”ってところだ」

「いえ……初めて聞きました。これまでの取材で“あの世界”の地名らしき単語をかなり集めましたが、ザナドゥというのは初耳です」

「へえ、そうかい。あそこは次元の狭間っつうか、あの世に片足つっこんだような場所だからな、知られてねえのも無理ねえか」

「そんな場所で、何をされていたんですか?」

「賭け事さ。ドッジがいなくなっちまって、会いたかったら未来に賭けろ、なーんて言われてよ。死に物狂いで真剣勝負だ」

「息子さんと離れ離れで、たったひとりで……」

「ひとりじゃねえさ、強い味方がいた。最初の旅から一緒だった、ひなチョコボがな」

「ひなチョコボが……強い味方?」

「おうよ、大した奴だぜ。あいつが助けたのは俺だけじゃねえ。セラとノエルの旅のほうも、ずいぶんサポートしたらしいぜ」

 チョコボのひなが人を助けた? いまひとつ信じられなかったが、その話は後回しにしよう。

 サッズの話は、AF500年に至ろうとしていた。古いコクーンが崩落し、人工コクーンが打ち上げられた年。

 ライトニングの妹セラと、ノエル・クライスの旅の結末。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■混沌の奔流

「やっとの思いでドッジに会って、ザナドゥを脱出したはいいが、世界は大変なことになっちまってた。混沌(カオス)の大洪水だ」

 混沌(カオス)――それは死の世界に満ちる巨大なエネルギーだという。滅びと破壊をもたらす危険な力だが、それまでは死の世界に封じられていたので、人々が暮らす世界に影響を及ぼすことは、さほどなかったという。

「あとから聞いた話なんだが、エトロって女神さまが混沌(カオス)を抑えていたんだそうだ。ところがカイアス・バラッドって野郎が、セラとノエルを罠にかけて、女神エトロを滅ぼした。混沌(カオス)を止めるものがなくなり、俺たちの世界にあふれ出た。破滅の時代の始まりだ」

「その時代について聞かせてください。ホープさんが教えてくれたのは、AF500年まででした。混沌(カオス)があふれたあとのことは、何も知らないんです」

「……まあ、楽しい話じゃねえな」

 軽妙だったサッズの口調が、いつしか重くなっていた。

「最初は、ことの深刻さがわかってなかったんだ。ホープやスノウ、それからノエルとも相談して、混沌(カオス)に立ち向かおうって決めた。俺たちが力を合わせりゃなんとかなる、ひと頑張りして乗りきろうってな。おっさんの俺はともかく、若い連中はいっぱしの英雄だ。何度も限界を超えて奇跡を起こしてきたんだから、死ぬ気でやれば不可能はねえ! って発破をかけたもんよ。もちろん励ますだけじゃあなくて、俺もやれることはやったぜ。混沌(カオス)の領域からきた魔物を退治したのも一度や二度じゃねえ。だがよ……」

 いったん言葉を切ってから、絞りだすように呟いた。

「俺は駄目になっちまった。ドッジが眠っちまったんだ」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■眠りに落ちたドッジ

 なんの前兆もなかったという。ある晩いつものように眠りについたドッジは、次の朝になっても目を覚まさなくなった。声をかけても、揺すぶっても、決して覚醒しなかったという。

「あわてて医者に診てもらったが、ドッジは健康そのものだった。体のどこにも異常なし、なのに心だけが凍りついたみたいに、何をしても絶対に起きやしねえ。原因不明の昏睡状態さ。ホープが心配してくれて、超一流の学者先生に調べてもらっても、何もわかりゃあしなかったんだ。

 俺は頭がいっぱいになっちまった。ドッジを助けること以外、なんにも考えられなくなった。仲間の仕事を手伝うのもやめた」

「それは……仕方ないですよ。かけがえのない息子さんのことですし」

「やがて1年が過ぎ、2年が過ぎた。ドッジは眠り続け、俺はますます思いつめた。混沌(カオス)との戦いなんてどうでもいい、もしもドッジを助けられるなら、混沌(カオス)に魂を売ったってかまわねえ……なんてな」

「仲間の皆さんとも、疎遠になってしまったんですか?」

「いや、あいつらずいぶん気を使ってくれたよ。あのころホープは人々の先頭に立って、混沌(カオス)に立ち向かう体制を作ろうとしていた。スノウとノエルは体を張って戦い、人々を守っていた。そんな大仕事を抱えてたのに、忙しい合間をぬって、ちょくちょく見舞いに来てくれて、俺を励ましてくれたんだ。おっさん頑張れ、あきらめるなよ、ってな。

 有難い話さ。有難すぎて……申し訳なくなったんだ。そのうち俺のほうから、あいつらを避けるようになった」

「皆さんの親切が、かえって重くなってしまった……そういうことでしょうか」

「いい歳してみっともねえがな。それからの俺ときたら、まるで世捨て人さ。ドッジを起こす方法を探してさまよい、見つからなくて絶望し、耐えられなくてうろついて……その繰り返しだ。何年も何年もそうやって過ごすうちに、時間の感覚も消えてなくなった。

 そのうち、ホープが“神隠し”に遭ったんだ」

「神隠し? ホープさんが行方不明になったということですか?」

「あるメッセージを残して、突然姿を消したんだそうだ。俺も詳しくはわからねえ。ドッジのことでいっぱいで、世間の出来事に目を背けててよ……。

 ただ、ホープの神隠しをきっかけに世界が変わり始めたのはわかった。救世院の教えが広まったのはその頃だ。

 ヴァニラとファングが目を覚まし、ルミナなんて小娘も出てきた。

 そして最後に、ライトニングが帰ってきた」

「“解放者”ですね。今までの取材で、多くの方が口にしてきた言葉です」

「ほほお、よく調べたもんだ」

「ですが“解放者”がどんな存在だったのか、肝心なところはわからないままです。私も含めて、皆断片的な記憶しかありませんでした。でも、あなたたちは――」

 疑問を抑えきれなくなった。ホープ・エストハイムと会ってから、ずっと気になっていたことだ。

「あなたやホープさんは特別な存在なんです。“あの世界”での出来事を、はっきりおぼえています。

 でも私たちは違う。ぼんやりとしか記憶が残っていません。あの世界での自分が、どんな人間だったのか……名前さえも思い出せません。

 この差はなんだと思いますか? サッズさんたちは必死に戦ったから、記憶がしっかり刻み込まれたんでしょうか」

「どうだかな……そりゃあ、たしかに必死に戦ったが、俺たちだけが必死だったわけでもねえぞ。パージされた市民だって、軍の兵隊だって、みんな必死だったんだ」

「では、どこに差があったんでしょう。ルシの力でしょうか?」

「すまん、俺にもよくわからん。

 だけどよ、今は記憶があやふやでも、なんかきっかけで思い出せるかもしれねえぜ。

 自分がどんな人間だったか、その答えってやつをな」


 インタビューの最後に、ライトニングやスノウたちの現在の居場所を聞いてみたが、知らないという答えだった。

 本当に知らないのか、知っていて隠したのかはわからない。私が訪ねていって彼らの過去に踏み込み、苦しい戦いの記憶を蒸し返すのはまずい、と判断した可能性もある。自力で見つけ出すしかないようだ。

 突然、機体のハッチから誰かが乗り込む気配があった。

「ねえちゃんだ!」

 パイロットごっこに興じていたドッジが、ぱっと顔を輝かせる。足音でわかったらしい。

「はいっ! おつかれさ~ん。皆さんお待ちかね?」

 おどけた敬礼を決めて声を張り上げたのは、長い髪の女性だった。

 年の程はよくわからない。はつらつと若々しい雰囲気だが、妙に堂々とした貫禄もある。

「お待ちかねじゃねえよ、ったく」

 ぼやくサッズだが、年齢不詳の女性はまるで聞いていない。

「さあドッジ、そろそろおなかすいてない? ごはんを食べに出発進行!」

「りょうかい! 出発進行だー!」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

 ドッジとふたりでじゃれあいながら、機外へ走っていってしまう。

 サッズはため息をつきながら私に目をやり、やれやれといった調子で渋い顔をしてみせた。

 苦労が尽きないようだ。そして幸せそうだった。ぬくもりを分けてもらえた気がした。

 取材の礼を述べてサッズと別れ、帰ろうとしたところで呼び止められた。

 例の年齢不詳の女性だった。にやりと意味ありげに笑うと、いきなり私の手をとって何か押しつけてきた。

「えっ……これは?」

「ちょこりんりん♪」

 それが答えだと言わんばかりに、グッと親指を立てて派手なウィンク。

 意味がわからない。私は思わず目をそらし、渡されたものを見てみた。

 小さな紙切れだ。何か書いてある。アドレスと店名らしきもの。どこかのレストランだろうか?

「あの、これって……?」

 顔を上げると彼女はいなくなっていた。綿のような黄色い羽が、ふんわり漂うだけだった。

→#3 Get Back(ノラ)

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データ

▼『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』(ダウンロード版)
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PS3
■ジャンル:RPG
■発売日:2013年11月21日
■希望小売価格:7,000円(税込)
▼『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』(ダウンロード版)
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:Xbox 360
■ジャンル:RPG
■発売日:2013年12月3日
■希望小売価格:7,000円(税込)

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