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2014年8月25日(月)

今さら聞けない『マブラヴ』の基礎知識。『進撃の巨人』の作者も影響を受けた名作、その評価の理由とは?

文:ごえモン

 皆さん、『マブラヴ』というゲームをご存じでしょうか? 『進撃の巨人』の作者・諫山創氏が影響を受けた作品ということで、名前だけは聞いたことがある。『トータル・イクリプス』をアニメで見たからなんとなく知っている。美少女ゲームユーザーでない限り、たぶん、そういった人がほとんどだと思います。

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 現在電撃オンラインでは、8月28日発売予定のPS3用アドベンチャーゲーム『マブラヴ photonmelodies♮(フォトンメロディーズ)』の特集企画を展開中です。とはいっても、前述の通り、そもそも『マブラヴ』をプレイしたことがある人は多くないはず。

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▲『マブラヴ photonmelodies』通常版パッケージ画像▲『マブラヴ photonmelodies』限定版パッケージ画像

 そこでこの記事では、『photonmelodies』の魅力を紹介する前に、2014年で11周年を迎えた『マブラヴ』シリーズの軌跡と魅力を振り返っていきたいと思います! 申し遅れました、記事を担当するのは電撃オンラインの『マブラヴ』担当・ごえモンです。

『マブラヴ』って何?

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 『マブラヴ』は、PCの美少女ゲームブランド・age(アージュ)の4作目として発売されたアドベンチャーゲーム。アージュのことを知らない人でも、コンシューマゲーム化やTVアニメ化、OVA化までされた『君が望む永遠(君のぞ)』の名前を知っている人は多いのではないでしょうか? 『マブラヴ』は、そんな『君のぞ』の次に発売された作品です。

 衝撃的な体験版、その後の重い展開、高いドラマ性、栗林みな実さんが歌う素晴らしい主題歌、未だにヘタレ主人公と語り継がれる鳴海孝之の存在、緑髪のヒロインが不人気とされる理由なんじゃないかとさえ思える穂村愛美さんルート……と話題に事欠かなかった『君のぞ』の次回作だけに、「『マブラヴ』はいったいどんな作品になるんだろう?」とアージュファンの私はものすごく楽しみにしてたんです。

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 しかし、アージュ第4弾の『マブラヴ』は“超王道学園アドベンチャーゲーム”として発表・発売。『君のぞ』のような尖った作品を楽しみにしていた私としては、“これじゃない感”を覚えつつも、“普通のADVなはずがない”という期待を胸に抱きつつ、発売日を待っていました。

 実際にふたを開けてみると……そんな不安と期待のどちらも内包するような作品でした。というのも、“超王道学園アドベンチャーゲーム”というジャンル名が示す通り、確かに『マブラヴ』は王道と言える設定を詰め込んだような作品だったわけです。

 どんな王道設定かと言うと、以下のような感じです。

【ストーリー部分の王道要素】
・主人公の家の隣に幼なじみのヒロインが住んでいる
・自室の窓を開ければすぐそこにヒロインの部屋があり、お互い行き来できる
・そんな2人が友だち以上恋人未満の関係を続けている
・ある日突然、ライバルヒロインが学園に転入してくる
・それを機会に2人の関係が変わっていって……

【キャラ設定部分の王道要素】
・主人公のことが大好きで、毎朝起こしに来てくれる明るくドジな幼なじみヒロイン
・ある朝、知らぬ間に主人公と同衾していた世界的財閥の次期当主ヒロイン
・メガネをかけた真面目すぎる委員長ヒロイン
・無口でクール、ミステリアスな不思議系ヒロイン
・外見が幼いマスコット的ヒロイン
・恋愛ストーリー上無害な主人公の親友

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▲主人公・白銀 武(しろがね たける) 声:保志総一朗▲鑑 純夏(かがみ すみか) 声:田口宏子
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▲御剣 冥夜(みつるぎ めいや) 声:奥島和美▲榊 千鶴(さかき ちづる) 声:倉田雅世
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▲彩峰 慧(あやみね けい) 声:永島由子▲珠瀬 壬姫(たませ みき) 声:ひと美

 ざっと表面部分を並べてみただけですが、本作が“超王道学園アドベンチャーゲーム”であることがわかると思います。

 ……が、しかし! ある条件を満たすと、主人公は地球外起源種“BETA(ベータ)”と戦争をしている並列世界に飛ばされてしまい、戦術機と呼ばれる人型兵器のパイロット(衛士と呼びます)として生きることになってしまうのです!!

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 一体、どこが“超王道学園アドベンチャーゲーム”なのか(笑)。しかも、『マブラヴ』の本番はここからという驚愕の事実。本作の情報を一切集めていないプレイヤーが、“超王道学園アドベンチャーゲーム”として購入したのであれば炎上してしまいそうな展開ではあります。

 ですが、先ほど“本番”と言ったように、ここからの『マブラヴ』は……めっちゃくちゃおもしろい! 続編である『マブラヴ オルタネイティヴ』まで含めれば、神ゲーであると自信を持って断言できます。

どんな作品があるの?

 先ほど“続編”という言葉も出てきましたが、『マブラヴ』はシリーズ作品であり、長期にわたって展開されている人気コンテンツです。具体的には、下記のような作品が発表されています。(サクっと知りたい人は『マブラヴ』ポータルサイトがオススメ)

ゲーム本編

・『マブラヴ』(2003年2月発売)※PS3/Xbox 360でも発売中

【追記】10月22日に『マブラヴ』『マブラヴ オルタネイティヴ』が2016年1月21日にPS Vitaで発売されることが判明しました。

 学園編をエクストラ編、並列世界へ移動した後をアンリミテッド編と呼びます。エクストラ編では非常に王道なドタバタラブコメディが展開されますが、アンリミテッド編では世界が一変します。

 舞台となるのは、“BETA”との戦争によって人類の人口が10億人にまで減少してしまった世界。崩壊した街で目覚めた主人公は、夢だと思い込みつつ自分が通っていた学園に向かうと、学園ではなく“国連軍横浜基地”となっていて……という流れです。

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 見た目は同じでも、価値観がまったく違ってしまったヒロインたち、なぜか幼なじみのヒロインだけがいない状況、変わってしまった世界などに戸惑いながらも、元の世界に戻れると信じて、生き残るために国連軍の訓練兵となることを選択した主人公の物語が描かれます。

 アンリミテッド編の魅力として、エクストラ編でプレイしていたロボットアクションゲーム『バルジャーノン』の知識などを生かして主人公が活躍する展開、人類の脅威として話題にはのぼるものの、姿形が一切出てこない敵(BETA)の不気味さ、当初は日本の学生らしくのほほんと異世界と現実世界の違いを楽しんでいた主人公が、訓練を通してヒロインたちの覚悟やこの世界での“現実”に触れ、次第に“衛士(パイロット)”へと成長していくストーリー、ショッキングなラスト、そして数々の伏線などが挙げられます。

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▲元の世界でプレイしていた『バルジャーノン』の知識を生かして、主人公はアンリミテッド編の世界を生きていきます。

・『マブラヴ オルタネイティヴ』(2006年2月発売)※PS3/Xbox 360でも発売中

 数々の伏線を残したまま終わった『マブラヴ』、その続編として発売されたのが『マブラヴ オルタネイティヴ』です。前作があまりに気になる展開で終わったため、「早く続編を出してくれー!」と毎日『オルタ』の公式サイトをチェックしていた私。

 発売時期と同様に、アンリミテッド編の始まりから3年の時間が経っている(主人公の主観時間)ことも手伝ってか、「3年待ったのだ!」というセリフを残したガトーさん以上に今か今かとこの日を待っていましたよ(笑)。そして待ち続けていた本作の出来は、期待を遥かに超えるものでした。どうでもいいことですが、個人的名作ADVランキングの1位に未だに君臨し続けている作品だったりします。

 ショッキングなアンリミテッド編ラスト後、主人公が目覚めたのは……アンリミテッド編の冒頭場面でした! 『オルタ』では、記憶と鍛えた肉体、戦術機の操作技術などはそのままに、並列世界へ移動した直後からやり直すことになります。

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アンリミテッド編、『オルタ』関係の作品

・『マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプス』(ゲーム版は2013年5月発売)

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 『マブラヴ オルタネイティヴ』本編の11カ月前から始まる物語。アラスカの国連軍ユーコン基地を舞台に、先進戦術機技術開発計画(プロミネンス計画)に参加する各国のテストパイロットやメカニックたちのドラマが描かれます。原作は小説で、2012年にアニメ化、2013年に5pb.からゲームが発売されました。

【追記】2016年1月22日にDmm.comでPC版のダウンロード販売が開始されました。価格は8,424円(税込)。

・『マブラヴ オルタネイティヴ クロニクルズ』(2010~2013年9月にかけて『01』~『04』が発売)

 毎回複数の物語を収録している本作ですが、目玉はアンリミテッド編エンディング後の地球がどうなったかを描く『マブラヴ アンリミテッド ザ・デイアフター』。『オルタ』をプレイして、めでたく『マブラヴ』ファンになった人にオススメの作品です。

 ちなみに『01』~『03』に収録されたサイドストーリー『チキン・ダイバーズ』『レイン・ダンサーズ』『憧憬』『再誕』は、PS3用ソフト『マブラヴ photonflowers*(フォトンフラワーズ)』と『photonmelodies』で楽しめますよ。『再誕』超オススメ!

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▲『チキン・ダイバーズ』▲『再誕』

・『DUTY -LOST ARCADIA-』

 『オルタ』本編の1年6カ月前が舞台。激戦極める欧州の最前線の要衝・ドーバー基地に配属された女性主人公“イルフリーデ・フォン・フォイルナー”の成長ストーリーが描かれます。前述の『クロニクルズ』で紹介した『憧憬』で短編がゲーム化されています。

 『憧憬』では、『DUTY -LOST ARCADIA-』の主人公たちが所属する“ツェルベルス大隊”へ視察に訪れた、日本帝国斯衛軍の士官候補生・真壁清十郎の物語が描かれます。コミカルに進みつつ、後半でしっかり締める『マブラヴ』らしい作品です。シリーズとしてはライト寄りですが、ラストは感動します。

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▲『憧憬』

・『シュヴァルツェスマーケン』

 『DUTY -LOST ARCADIA-』と同じく媒体は小説、2014年8月現在、ゲーム化はされていません。物語化されている『マブラヴ』としてはもっとも古い1983年のヨーロッパが舞台。東ドイツ軍の戦術機部隊“第666戦術機中隊”(通称:黒の宣告(シュヴァルツェスマーケン))に所属する青年・テオドールの物語が描かれます。

 東ドイツの最前線でBETAと戦いながら、味方からは嫌われ、さらに秘密警察“国家保安省(シュタージ)”も警戒しなければいけないという……『マブラヴ』史上もっとも過酷な戦いを強いられている主人公たちの物語ですね。『オルタ』に比べてOSと戦術機が古く、それでいて作戦内容も鬼畜とインフェルノモードみたいなストーリーです。絶望的で超絶オススメ! ゲーム化されることをいつまでも待っています……。

【追記】4月21日にゲーム化が発表されました。一般向けPCゲームとして『シュヴァルツェスマーケン 紅血の紋章(仮)』が2015年秋に、『シュヴァルツェスマーケン 殉教者たち(仮)』が2015年冬に発売予定です。シナリオは非公開、キャラクター原案はCARNELIANさんが、イラストは木菟あうるさんが担当します。

【追記】8月5日に発売日が11月27日に変更されることが発表されました。

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【追記】5月21日にアニメ化企画が始動したことが発表されました。また、新たなスピンオフ小説『隻影のベルンハルト』の連載もスタートするとのことです。

■動画:『シュヴァルツェスマーケン 紅血の紋章』特報

・『マブラヴ オルタネイティヴ ネクストアンサー』

 DeNAが配信しているiOS/Android/フィーチャーフォン用の『マブラヴ』新作ゲームです。ジャンルは部隊編成/育成カードゲーム。現状はアプリではなく、Mobageでプレイすることが可能です。

 アージュがストーリーを全面監修しているということで、通常のモバイルゲームよりもテキストに力が入っている印象。いろいろな世界が混ざってしまった世界観であるため、主人公であるプレイヤーが武や響を差し置いて冥夜たちと仲よくなるという展開をそれほど抵抗なく楽しめます(定かではありませんが、各作品の主人公と出会っていないヒロインと仲よくなっている、という感じ)。

『マブラヴ オルタネイティヴ ネクストアンサー』画像 『マブラヴ オルタネイティヴ ネクストアンサー』画像
▲『マブラヴ オルタネイティヴ ネクストアンサー』。シリーズの全キャラクターが登場し、原作イラストレーターによる描き下ろしカードも楽しめます。

ファンディスク

・『マブラヴ サプリメント』(2004年12月発売)

 『オルタ』発売前にリリースされた『マブラヴ』のファンディスク。エクストラ編・鑑純夏エンドのその後を描いたショートストーリー『桜の花が咲くまえに』がメインコンテンツとして収録されています。

 その他にも、『マブラヴ』のキャラクターページに掲載されたアナザーエピソードのフルボイス化作品や、TCG『ランブリングエンジェル』をゲーム化した『マブラヴ デュエリスト』などが収録されています。エンディングテーマ曲『Fight ~ランブリングエンジェルのテーマ~』が最高です。

 4月24日に発売されたPS3用ソフト『photonflowers』では、『桜の花が咲くまえに』はもちろん、前述したアナザーエピソード『タケルちゃんといっしょ!』『たけるさんのしっぽ』『白銀君ちょっとッ!!』『白銀……食べてる?』『其の名はタケル』『我が名は冥夜』が収録されています。

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▲『桜の花が咲くまえに』

・『マブラヴ ALTERED FABLE』(2007年8月発売)

 『オルタ』本編のエンディング後を描いたアフターエピソード『かがやく時空(とき)が消えぬ間に』をメインコンテンツとして収録。その他、『トータル・イクリプス』の第1~2章をボイス付きでビジュアルノベル化したものやSLG『暁遙かなり』などが収録されています。

 8月28日に発売予定のPS3用ソフト『photonmelodies』では、『かがやく時空が消えぬ間に』が収録。いろいろと変更点もあるようなので、後日記事としてまとめたいと思います。

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▲『かがやく時空が消えぬ間に』

その他関連作品まとめ

・『君がいた季節』

 『オルタ』以降に『君がいた季節』のヒロインが登場します。『マブラヴ』の重要人物・香月夕呼の姉が登場する作品です。

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▲『君がいた季節』のヒロイン・伊隅四姉妹が『オルタ』以降に登場。

・『君が望む永遠』

 『マブラヴ』エクストラ編の主人公たちは、『君のぞ』の舞台の一部・白陵大付属柊学園に通っています。『オルタ』以降では、涼宮遙、速瀬水月、涼宮茜が主要人物として登場。穂村愛美はチラっと出演、主人公の鳴海孝之は名前のみの登場。香月夕呼のもう1人の姉が登場する作品でもあります。

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▲『オルタ』で『君のぞ』キャラが出ると知った当時は本当に驚きました……。

・『終わりなき夏 永遠なる音律』

 アンリミテッド編、『オルタ』と同一世界で展開する恋愛ADV。主要人物の1人・大上律子が『マブラヴ アンリミテッド ザ・デイアフター』に登場します。終末の雰囲気を内包しつつ、音楽にまつわる物語が描かれる良作。主題歌が素晴らしいです。

・『はいぶる!』

 『電撃マブラヴ』などで掲載された、かわいらしい女の子たち……が登場する漫画。スラップスティックスクールコメディ。『マブラヴ オルタネイティヴ クロニクルズ 04』でゲーム化されました。

・『アカネマニアックス』

 『君のぞ』エンディング後から『マブラヴ』エクストラ編までをつなぐゲーム/OVA。メインヒロインは涼宮茜です。

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▲『再誕』での涼宮茜

・『アユマユ オルタネイティヴ』

 アージュファンクラブ限定作品。『オルタ』の世界観を用いた作品ですが、本編とは一切関係がありません……と言っておきます(笑)。

・『ハルコマニアックス』

 アージュファンクラブ限定作品。『マブラヴ』エクストラ編や『オルタ』に登場する女性キャラ・柏木晴子がヒロイン。SLG『暁遙かなり2』も収録されています。

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▲『オルタ』で株を上げ、一部で熱烈な人気を誇る柏木晴子。

どこからプレイすればいいの? オススメの作品は?

 主観全開ですが、シリーズの中でもっともおもしろいのが『マブラヴ オルタネイティヴ』だと思うんです。そのため、『オルタ』は絶対にオススメ! ただし、『オルタ』を生かすためには『マブラヴ』エクストラ編、アンリミテッド編のプレイが必須となります。

 王道の学園ADVが苦手という人は、『マブラヴ』エクストラ編の純夏ルートと冥夜ルートをプレイしておけばOK(※彩峰慧ルートもプレイしておくとベター)。その後にアンリミテッド編を1周し、『オルタ』に入りましょう。『オルタ』クリア後は、逆に『マブラヴ』エクストラ編が生きてくるので、再プレイも大いにアリです。

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 エクストラ編の再プレイは完全に好みの問題なので、先に進みたい人はそのまま『マブラヴ オルタネイティヴ クロニクルズ』の『ザ・デイアフター』に入るといいと思います。

 アンリミテッド編の後で武がどうなったのか? 他のヒロインがどうなったのか気になる人には、かなり興味深い内容だと思いますよ。ドラマ性、主人公チームのキャラクター性、戦闘シーンなども高水準です。小説という媒体に抵抗がない人は、『シュヴァルツェスマーケン』が絶対にオススメです!

 まとめると、以下のような流れになります。(※順番はあくまでも個人的な一例なので、ご自由に選択していただければと)

【オススメの作品と読む順番】
(1)『マブラヴ』エクストラ編&アンリミテッド編
(2)『マブラヴ オルタネイティヴ』
(3)『マブラヴ』エクストラ編 ※3はお好みで
(4)『マブラヴ オルタネイティヴ クロニクルズ 01~04』
(5)『シュヴァルツェスマーケン』 ※4と5は入れ替えてもOK

 上記を体験して『マブラヴ』の大ファンになった場合、『再誕』や『憧憬』に加えて、『photonflowers』で『告白』『継承』『贖罪』をプレイするとよいでしょう。

 そして純夏のことが大好きな人は『桜の花が咲くまえに』を、『オルタ』のサブキャラが好きで『マブラヴ』のドタバタで平和な日常をもっと体験したい人は『かがやく時空が消えぬ間に』を、アニメのその後や細かい描写を見たい人はゲーム版『トータル・イクリプス』もプレイしておくとスキがありません。その他のエピソードはお好みでどうぞ。

『マブラヴ』の魅力って何?

 最後に、主に『オルタ』のことになってしまいますが、『マブラヴ』という作品の魅力を簡単にまとめていきたいと思います。

魅力1:ADVとアニメの中間を狙った演出

 『マブラヴ』をプレイして、紙芝居と揶揄されるADVの演出に対する意識が変わった人も多いのではないでしょうか? そもそもアージュは、ADVの演出に力を入れていたブランドでした。それは、『君のぞ』冒頭シーンで画面が横倒しになり、ポワワーンという効果音が流れつつ三途の川を見るシーン……その一瞬の演出、スピード感、テンポのよさで感じられるでしょう。

 そんなアージュの他のADVとは一線を画す動きのある演出を支える総合演出システムがAGES(エイジェス)です。これの一体、何が新しいのか? 当時の公式サイトでは“視点の移動によるカメラワーク処理”と“立ち絵の無限段階拡縮機能”が売りとうたわれていました。

今さら聞けない『マブラヴ』の基礎知識画像 今さら聞けない『マブラヴ』の基礎知識画像

 すぐに気が付く演出の妙は、立ち絵の位置です。ゲーム内でよく使われているのが、画面の奥からキャラがだんだんと近づいてきて、プレイヤーの目の前までやって来る演出。プレイヤーと会話をしていた3人のキャラのうち1人が、画面奥にいる友人に近づき、そのまま背を向けて話す、またはその逆の演出。プレイヤーに背を向けたキャラと、そのキャラの奥に配置されたキャラを向かい合わせることで、主人公以外のキャラと会話していることがわかる演出……などなど、これまでイベントCGでやっていたような演出まで含めて、常時立ち絵で表現してしまっているのです!

 この演出を1つ1つのシーンで導入しているのですから、なんでもない場面でも非常に刺激的。もちろん戦闘シーンでも同じなので、BETAが奥から近づいてきて攻撃される、戦術機がブーストを使って跳躍する、などのシーンも文字ではなく立ち絵を見ればすべてわかってしまいます。

 AGESによって得られるこれらの臨場感もさることながら、“ト書き”の必要性がなくなっている点も評価のポイントです。ト書きによって表現されていた情景描写やキャラの感情などは、『マブラヴ』ではすべてキャラの動きで表現されます。つまり、登場人物のセリフと主人公のモノローグのみで物語が構成されているのです。

今さら聞けない『マブラヴ』の基礎知識画像

 文字から読み解くのではなく視覚で感じ取れるADVということで、ADVとアニメの中間の媒体のような印象です。非常に敷居が低い作品に仕上がっているので、ADVが苦手な人にもオススメできます。

 これらを書いていて思い出したのが、『月姫』や『Fate/stay night』などで有名な奈須きのこさんの発言でした。“ビジュアルノベルを語る時にシナリオだけで判断しないでほしい”――つまり、シナリオの出来だけではなく、ADVを構成している他の要素も含めて評価の対象として語るべき、ということですね。

 ADVの代表的な構成要素はテキスト、演出、音、絵、システムですが、『マブラヴ』は他の要素も高水準にまとめつつも、演出部分を当時の到達点まで引き上げていた稀有な作品でした。演出だけで言えばADV業界の数年先を行っているレベルで、他の作品と比べて圧倒的であったと記憶しています。

 余談ではありますが、しっかりと独自の演出に力を入れていた作品として印象深いのは、『マブラヴ』(『オルタ』含む)、2008年に発売された『天ツ風 ~傀儡陣風帖~』(忍者たちのスピードを表現した立ち絵でのバトル演出が秀逸)、2012年発売の『魔法使いの夜』がパっと思い浮かびます。特に感動したのがこの3例で、近年になってようやく、高い演出レベルのADVがポツポツと出てきたなという印象です。

魅力2:『進撃の巨人』の作者も影響を受けた圧倒的な絶望感

 『マブラヴ』の魅力として挙げられる要素として、圧倒的な絶望感や死の描写があります。本作の世界の人口は10億人にまで減少してしまっており、男の衛士(パイロット)の多くがBETA襲来時に真っ先に戦場に出て死んでしまったため、残っている衛士のほとんどが女性という状況です。主人公は貴重な男性衛士ということで、かなり喜ばれます。

 こんな状況を作り出したのが、人類の敵である地球外起源種“BETA(ベータ)”。このBETAという存在が……本当に怖い。というのも、『オルタ』では例え主要人物であっても容赦なく死にます。生きたまま食われますし、引きちぎられますし、溶けますし、泣き叫びながらバラバラにされます。

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 “○○○ちゃんぱっくんちょ事件”はあまりにも有名ですが、この辺りからプレイヤーの心に恐怖が宿るはずです。『マブラヴ』という作品は登場キャラが共通で、エクストラ編、アンリミテッド編、『オルタ』という流れで進めていく作品。プレイヤーにとって『オルタ』は、いわば3周目の世界になるわけです。

 シナリオのボリュームも長大で、主要人物とは長い時間付き合ってきただけに愛着もわいています。……そんなキャラが、無残に、無情に、無慈悲に死んでいく。人によってはトラウマものですよ(笑)。

 誰が死ぬのかわからない、先が読めない、神出鬼没なBETA、新兵の戦場での生存時間は平均8分。これらの要素・事実によって、プレイヤーはなんでもないシーンでもビクビクします。BETAが登場するとさらにビクビクします。

 私の場合、プレイ中に緊張で体温が上昇し、頭が真っ白になって、冷や汗が出て、心臓の鼓動が激しくなり、呼吸も浅くなってと人体にまで影響が出ました(笑)。ゲーム内の敵にここまで恐怖してしまう体験というのは、なかなか味わえるものではありません。

 この辺りは、『オルタ』に影響を受けたと発言している諫山創氏の作品『進撃の巨人』とも一部共通する魅力ではないでしょうか?

魅力3:記憶を引き継ぎ、苦しみながら戦う、応援したくなる主人公

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 『オルタ』は3年間の記憶と身体能力、操作技術を持ったまま初日から始まるループものです。アンリミテッド編ではただのイチ訓練兵だった主人公が、力を持つことで1周目とはまったく違うフィールドに立つことになります。

 力を持つことで生まれる責任、記憶を頼りに行動することで他人の運命を変えてしまうなど、主人公は何度も何度も叩き潰されて苦悩します。そのたびに少しずつ成長していくのですが、1つの壁を乗り越えたと思ったら、その先にさらに高い壁があるとわかり、またもや心を叩き折られます。

 本当に何度も何度も挫折と成長を繰り返す主人公。“超王道学園ADV”だった『マブラヴ』は途中からSF寄りになりますが、根底にあるのは子どもだった主人公の成長物語で、変わらず“王道”が描かれているんですよね。

 そんな主人公をト書きなしのテキストで数十~100時間以上見守り続けていくわけですから、自然と感情移入してしまって、気が付くと応援している自分がいます。苦しい戦闘シーンなんかで主人公の活躍シーンがあると、「武、行けーーーー!」なんて涙を流しながら心の中で叫んでしまうほどです(笑)。

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▲このシーンはあんまり応援したくなりませんが(笑)。

 ちなみに、当時のアージュの広報だった斉藤Kさんは「まるで会社のようだ」と表現されていましたが、まさにそんな感覚です。自分が持つ力のレベルによって活躍すべきフィールドが変わり、そこを乗り越えたとしても新しい壁が待っている。それの繰り返し。成長に終わりはないんです。『オルタ』をプレイしたのは学生時代ですが、社会人になっていく年。何度も、「『オルタ』で描かれていたことと同じだ」と感じてきました。

魅力4:爆発的にテンションが上がる楽曲&ムービー

 『マブラヴ』を語るうえで忘れてはいけないのが、楽曲とムービー。特に『オルタ』では、最高のタイミングで最高にゲームにマッチしたボーカル曲が流れるところが素晴らしいです。もともとの熱いストーリー展開との相乗効果でかなりテンションが上がるわけですが……魅力3で語った通り、すぐにぶちのめされます(笑)。

 アニメーションの作画には、あの吉成鋼さんが参加。ひと目で吉成さんだとわかる動画になっています。かなりの迫力なので、吉成鋼さんのファンはチェックしておきましょう。

 需要があるか知りませんが(笑)、参考までに個人的な『マブラヴ』オススメボーカル曲10選をお届けします。

【オススメボーカル曲10選】
・『マブラヴ』(Vo:栗林みな実さん)
・『I will』(Vo:栗林みな実さん)
・『遙かなる地球(ふるさと)の歌』(Vo:栗林みな実さん)
・『未来への咆哮』(Vo:JAM Project)
・『星海を往く希望の歌』(Vo:遠藤正明さん)
・『Carry on』(Vo:遠藤正明さん)
・『最後のエデン』(Vo:美郷あきさん)
・『INSANITY』(Vo:奥井雅美さん)
・『紫音 -sion-』(Vo:奥井雅美さん)
・『かがやく時空が消えぬ間に』(Vo:栗林みな実さん)

 『マブラヴ』や『I will』は明るい曲調のため、初めて聴いた人は『オルタ』以降には合わないと思うかもしれません。でも、『オルタ』までクリアした後に改めてこの2曲を聴くと、意味が裏返ります。そして、なんとなく救われたような、やり遂げたような気持ちになれます。

 上記でオススメした楽曲は、CD『マブラヴ シリーズ・ボーカル集』で『INSANITY』以外は網羅できるので、楽曲を好きになったら手に入れてみると幸せになれますよ。

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▲『マブラヴ シリーズ・ボーカル集』

欠点はないの?

 シナリオ、演出、音楽、ムービーが当時の最高峰とほとんどの構成要素が高水準だった『オルタ』。これらは今でも通用しますから、美少女ゲーム界のエンターテイメント作品として、今後も永遠に語られていくであろう名作だと個人的には思っています。

 ここまで褒め続けてきましたが、欠点がないとは言えません。1つはキャラクターデザインと服。敷居が低い作品だと書きましたが、古くから美少女ゲームのことを知っている人でないと、初期の『マブラヴ』にはちょっと入りにくいかもしれません。また、アンリミテッド編や『オルタ』の序盤で登場する強化装備(パイロットスーツ)は、慣れた人でも「オイッ!」と突っ込みたくなるかと(笑)。

 もう1つは、ボリュームが長大な作品だけに、どうしても過去の振り返りや回想が多くなってしまっている点。熱いシーンでテンションを維持したまま一気に読み進めたいのに、主人公が過去を振り返りはじめておあずけ状態になってしまう、なんてこともあります。

 もっと細かい点も挙げるとすると、数回あるイベント時の強制オートモード進行でしょうか(初回プレイ時の演出としては素晴らしいです)。とはいえ、これらの要素を差し引いたとしても、『オルタ』が歴史に残る素晴らしい作品であることに変わりはありませんけどね。

『マブラヴ』の世界に惚れたらサイドストーリーへ!

今さら聞けない『マブラヴ』の基礎知識画像

 『photonmelodies』の特集企画を始めたはずなのに、いつの間にか『マブラヴ』シリーズの基礎と『オルタ』の魅力を振り返っていた!(笑) それだけ好きになれて、語りたい作品ということで、ひとつ許してください。

 PS3で発売される『photonmelodies』はあくまで『マブラヴ』の知識があってこそ生きるサイドストーリー集で、これ単体で完全に物語を楽しめる作品ではありません。ぜひ『マブラヴ』と『オルタ』をプレイしてから、『photonflowers』と『photonmelodies』に注目してみてください。

 次回の特集企画こそは、『photonmelodies』について語ってみたいと思います!

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