2014年9月3日(水)
レッドブル・ミュージック・アカデミーは、動画シリーズ“DIGGIN’IN THE CARTS(ディギン・イン・ザ・カーツ)”の第1段を、明日9月4日17時より配信する。
“DIGGIN’IN THE CARTS”は、ゲーム音楽に焦点を当てたドキュメンタリー作品。公式サイトより視聴可能で、全6回のエピソードが毎週木曜日に順次公開されていく予定だ。
ナムコの創成期を支えた作曲家の小沢純子、そして1980年に任天堂に入社し、その後『メトロイド』や『テトリス』などのクラシックを生み出した田中宏和が制作秘話を語る。
コナミのサウンドチーム他、8ビットサウンドを代表する作品『ギミック!』を手がけた影山雅司が当時を振り返る。
1990年代に16ビット化したゲームミュージック。『ストリートファイターII』を担当した作曲家の下村陽子などに話を聞く。
セガがFM音源(周波数変調)を内蔵したメガドライブを発表。古代祐三がクラブミュージックから影響を受けて制作したゲームミュージック史に輝く『ベア・ナックル 怒りの鉄拳』など、素晴らしいゲームミュージックが登場。
オーケストラを模倣した8ビットサウンドから始まり、いまや世界を代表するオーケストラによって演奏されるまでに成長した植松伸夫の『ファイナルファンタジー』シリーズの音楽に光を当てる。
32ビット機が登場するとテレビゲームミュージックの“チップ時代”は終わりを告げた。しかし、8ビット/16ビットのチップチューンはその誕生から30年以上が経った今も、世界各地で生き続けている。
さらに、11月13日には“ディギン・イン・ザ・カーツ”製作記念イベントとして、ドキュメンタリーで描かれた世界をリアルに体験できる“Red Bull Music Academy presents 1UP: Cart Diggers Live”が東京都渋谷区・WOMBにて開催される。
名門“Warp Records”のRustieさんは、『ベア・ナックル』の作曲家である古代祐三さんの音楽を中心にライブセットを披露。同じく“Warp Records”のOneohtrix Point NeverはSTGへのトリビュート演奏を披露。Fatima Al Qadiriさんは、ゲームの思い出を現実の音楽体験へと変換する。CHIP TANAKAこと田中宏和さんもライブセットを披露し、さらにDUB-Russellは初音ミクと手を組むなど、スペシャルパフォーマンスが目白押しだ。詳細については、公式サイトを参照してほしい。
■Red Bull Music Academy presents 1UP: Cart Diggers Live
【日時】11月13日19時
【出演】
<Special video game tributes>
Rustie vs Yuzo Koshiro, Oneohtrix Point Never: Bullet Hell Abstraction IV, Fatima Al Qadiri: Forgotten World, CHIP TANAKA, DUB-Russell & (*L_*) & Hatsune Miku, HALLY
<Room Two with Classic Arcades>
QUARTA 330, HIROSHIOKUBO, TAKU INOUE, SANODG, KEIICHISUGIYAMA, ROLLING UCHIZAWA, Taro Hino(VJ)
【会場】WOMB(渋谷)
【料金】1,000円
【備考】
20歳未満は入場不可。
入場の際には写真付き身分証明書が必要。
その他、“DIGGIN’IN THE CARTS”のプロデューサー&監督へのインタビューも到着したので、以下に掲載する。
――日本のテレビゲームミュージックの歴史を振り返ろうと思った理由は何でしょうか?
Nick Dwyer:小さな頃からゲームミュージックが好きでした。私はニュージーランド出身ですが、6歳か7歳頃にCommodore 64を手に入れました。Commodore 64は私のすべてと言える存在で、私はこの家庭用ゲーム機を通じてエレクトロニックミュージックに出会いました。
昔はゲームミュージックを録音して、ウォークマンで聴いていましたね。そして10歳の時、日本へ行った兄がスーパーファミコンを買って帰ってきました。ですが、ソフトはすべて日本語だったので、ソフトがプレイできるように辞書を買って、かたかなとひらがなの読み方を独学で学びました。その時に遊んだソフトのゲームミュージックは私の中にずっと残っています。
しかし、自分の中でそれだけ大きな位置を占めているのに、その作曲家たちについてはほとんど知らないということに気が付いたのです。また、いざゲームミュージックのサウンドトラックの作曲家について調べ始めると、例えばアフリカのハイライフだろうとトゥバの喉歌(フーメイ)だろうと、どんな情報でも簡単に手に入れられる現代なのに、日本語でさえ彼らの情報は殆ど載っていませんでした。ですので、昨年、東京のホテルに泊まり、崎元仁が手がけた『マジカルチェイス』のサウンドトラックを聴きながら窓外に広がる夜景を見た時に、彼らを探しだそうと決めたのです。
――そのようなサウンドトラックのどこが魅力的だったのでしょうか?
Nick Dwyer:このようなゲームミュージックの中には、私が今まで聴いてきた音楽の中で最もキャッチーで最も美しいメロディーを持つ作品があります。例えば『テトリス』や『メトロイド』などを手がけてきた田中宏和の作品があります。彼はレゲエが好きで、Sly Dunbar のグルーヴを8ビットで再現しようとしていました。また『スーパーマリオブラザーズ』の楽曲は、世界で最もよく知られたメロディーのひとつです。このような楽曲を手がけた作曲家たちはゲームミュージックをアートへと昇華させました。ゆえに、今回制作したドキュメンタリーでは美しい風景に合わせてゲームミュージックだけが流れるシーンを盛り込んだのです。これらのゲームミュージックは、テレビゲームのサウンドトラックとしてだけではなく、音楽そのものとして耳を傾けるべき存在なのです。
――どうやって作曲家を選んだのでしょう?
Nick Dwyer:音楽の著作権を所有している大手ゲームメーカーに参加してもらえるかどうかが、今回のシリーズの実現における大きなポイントでしたので、私は初期段階から、ドキュメンタリーでどの音楽を使いたいのかを明確にしておく必要がありました。そのため、制作に入る前に、日本のテレビゲームミュージックをすべて聴き直しました。その作業を通じて自分が使いたい音楽を選んでいったのです。まずは最高の音楽を選び、そこから制作を進めていったという感じです。
――作曲家の中には随分前に引退した人もいたようですが、追跡は大変でしたか?
Nick Dwyer:簡単ではありませんでした。私はある程度日本語を話せますし会話も理解できますが、文面では多少制限されてしまいます。ですので、ニュージーランドにいる時点から彼らの追跡を始めましたが、このままでは難しいという判断を下しました。その後日本へ向かい、私たちが話を聞きたいと思っていた作曲家たちとかつて仕事をした人たちや、その知人に会うなどの活動を通して制作に取り掛かっていったのです。
Tu Neill:既に退職している人たちを追う手段としてメールをよく使いました。そして実際に私たちが会いに行くと、彼らはこのプロジェクトに対する私たちの情熱を理解してくれました。非常に協力的でしたね。
――彼らはオリジナルのゲームタイトルにクレジットされていたのでしょうか?
Nick Dwyer:作曲家の多くは当時のクレジットには載っていません。昔のゲーム会社は各タイトルを個人の集まりではなく、会社全体で制作した作品として扱いたかったのです。作曲家たちは各企業に勤める“サラリーマン”でした。月曜日から金曜日までオフィスに通い、そこでゲームミュージックを制作していたのです。フリーランスに転向してキャリアを続けた人もいますが、多くの人たちはその活動内容にふさわしい認知度を得ることはありませんでした。
――昔のテレビゲームミュージックは9時~5時の生活から生まれていたということですか?
Nick Dwyer:日本文化、特に1980年代の日本文化において、アーティストやミュージシャンは喜ばれた職業ではありませんでした。それよりも“優良企業で働くこと、良い仕事に就くこと”が重視されていました。音楽の演奏が好きで、音楽学校に通ったり、バンドで演奏したりすることは社会的にそこまで受け容れられていませんでした。音楽家としての仕事の種類は限られていたのです。実際、教師になるくらいしかありませんでした。ですので、テレビゲーム業界が登場した時、突如として“優良企業で働く”と“音楽を仕事にする”という両方を手に入れられるチャンスが生まれたのです。
――個人的なノスタルジア以外にも、このようなゲームミュージックと現代には関連性があると思いますか?
Nick Dwyer:ゲームミュージックは現代性があると思っています。何故なら他の制作方法では作れない独自の音楽だからです。ファミコンやメガドライブに組み込まれていたチップは非常にユニークで、そのチップから美しいサウンドが生まれていました。当然、ノスタルジアな部分もあるかと思いますが、これらのゲームを知らずに育った若い世代にとっても、このようなサウンドは素晴らしいと考えられています。タイムレスな輝きと魅力が備わっているのです。
――今回のシリーズでも取り上げていますが、現代を代表するミュージシャンたちにも影響を与え続けていますね。
Nick Dwyer:そうです。例えば、最近活躍しているビートメイカーJust Blazeは、『ベアナックル 怒りの鉄拳』を手がけた古代祐三から非常に大きな影響を受けています。古代祐三はこのサウンドトラックを制作した1990年代初頭、東京にかつて存在したクラブ“Yellow”へ足繁く通っていたため、その影響を受けた彼のゲームミュージックは世界中の子供たちにハウスとテクノを紹介することになりました。そして彼のゲームミュージックはその世代のDNAへ組み込まれていったのです。
――“ディギン・イン・ザ・カーツ”はウェブでの公開となりますが、映像は非常に映画的です。どのような意図で撮影したのでしょうか?
Tu Neill:とにかくゲームミュージックを最高の形で披露したいと考えていました。ですので、各エピソードには、日本の美しい風景やカルチャーにゲームミュージックを乗せた短いシーンを挿入しています。また、スタジオでのインタビューがひたすら続くような作品にはしたくなかったので、インタビューをする作曲家たちに自分たちが生まれ育った場所や、ゲームミュージックを制作する際にポイントになった場所を紹介してもらい、そこで撮影するという形を取りました。ですので、京都の美しい寺や大阪の懐石料理屋など様々なロケーションで撮影することになりました。日本は本当に美しい国です。この国の豊かで多様なカルチャーのスナップショットを少なからず加え、出きる限りその美しさを盛り込むようにしました。
――特に気に入っているシーンやインタビューはありますか?
Nick Dwyer:静岡で影山雅司と過ごした時間は特別でした。彼は何十年も会社勤めをしましたが、その間自分の音楽がどう思われているのかは知りませんでした。彼は25年前に音楽から離れましたが、2・3年前にインターネット経由で自分の音楽が世界中で愛されていたことを知ったのです。ですので、私たちがインタビューをしたいと申し出ると、非常に喜んでくれました。
私たちは彼が自転車で走る姿を撮影しましたが、その日の彼は自分が作った音楽を具現化しているかのごとく、まるで自分自身の曲が聴こえているかのようにうれしそうでした。
――シリーズではゲーム画面自体がほとんど使われていませんが、それは何故でしょう?
Nick Dwyer:このドキュメンタリーは音楽と人間がテーマだからです。自分たちが少年少女だった頃によく聴いた音楽、そして私たちが何ひとつ情報を持っていない音楽を手がけた作曲家たちを世界に紹介したかったのです。今回のメインテーマのひとつは、テレビゲームミュージックは日本が世界に誇れる音楽なのだという点です。多くの人たちはゲームミュージックを音楽だとは捉えていませんが、このシリーズを通じて私たちはその意識を変えようとしています。
問題は、テレビゲームミュージックをゲーム画面と合わせて聴いてしまうと、多くの人は“ゲームミュージック”としてしか捉えないということです。しかし、ゲームミュージックだけを取り出し、今回の作品のように美しい映像などと合わせれば、ゲームミュージックが非常にユニークで素晴らしいエレクトロニックミュージックであることに世間は気が付くはずです。彼らのような日本人の作曲家たちが世界、そして現代の音楽シーンを代表するアーティストたちに多大な影響を与えたという事実を紹介することがこのシリーズの目的なのです。
ニュージーランド出身。ラジオ/テレビ業界で20年のキャリアを持つ。ナショナル・ジオグラフィックTVシリーズ『メイキング・トラックス』のホスト/ディレクターとして、グローバル・ミュージック・カルチャーを撮り続け、現在までに70カ国以上で撮影を行ってきた。2004年からレッドブル・ミュージック・アカデミー・ラジオのパーソナリティを務める。スーパーファミコンでゲームをするため9歳から日本語を学んでいる。
2006年にオークランド大学を卒業後、メディア業界で活動を続けている監督/プロデューサー。これまでに任天堂やナイキなどのハイエンドなコマーシャルからミュージックビデオ、プロモーションビデオ、マガジン様式のテレビ番組や長編ドキュメンタリーなど数多くのプロジェクトを手掛ける。主にウェブとテレビ媒体の映像コンテンツの制作に携わり、また編集者としても8年の業界経験を持つ。
■レッドブル・ミュージック・アカデミーとは?
若く才能溢れるアーティストたちを支援する世界を旅する音楽学校です。1998年のスタート以来、世界各地でフェスティバル、ワークショップ、レクチャー等を開催。16回目を迎える今年は日本に初上陸し、2014年10月12日(日)~11月14日(金)まで東京で開催予定。
世界中の6千通を超える応募者の中から選ばれた59名のプロデューサー、ボーカリスト、ビートメイカー、インストゥルメンタリスト、DJが34カ国から一堂に会します。これら参加者たちはアカデミーの為だけに用意された建物内で著名人によるレクチャーを受講し、その知識と体験に触れながら、参加者同士で刺激を与え合い、音楽制作に励みます。
また開催期間中は街のあらゆる場所でイベントやライブが繰り広げられ、参加者たちは自身の作品やパフォーマンスを披露する機会が与えられます。
“DIGGIN’IN THE CARTS”は、レッドブル・ミュージック・アカデミーのプロローグとして行うプロジェクトです。