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2014年9月20日(土)

SCEワールドワイド・スタジオプレジデント、吉田修平氏が興奮気味に語る“ついに訪れたVR時代の幕開け”【TGS2014】

文:電撃オンライン

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)ワールドワイド・スタジオのプレジデントとして、長年PlayStationビジネスを牽引してきた吉田修平氏。そんな吉田氏に、東京ゲームショウ 2014の会場付近のホテルでインタビューを実施。バーチャルリアリティ、インディータイトル、そして今後のPlayStationについて、吉田氏が思い描いた

吉田修平氏インタビュー
▲ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオのプレジデント・吉田修平氏。

■バーチャルリアリティがついに実現できる世の中になった

――PlayStation 4(以下、PS4)が発売してから、初めての“東京ゲームショウ(以下、TGS)”を迎えましたね。率直に今のお気持ちをお聞かせ願えますか?

吉田修平氏(以下、敬称略):「ようやくここまで来たか」と素直にうれしく思います。去年のTGSでは海外のデベロッパー様が先行して準備を進めていた一方、発売日などの関係もあり日本国内のパブリッシャー様がPS4に取り掛かるのが遅くなってしまったため、海外タイトル中心の紹介が多くなってしまいました。しかし、9月1日に行った“SCEJA Press Conference 2014”で発表したタイトルを中心に、国内のタイトルもいい感じに揃ってきた。PS4を中心に、とてもいい雰囲気を作れていると思います。

――今回のTGSでは、PS4専用のバーチャルリアリティ(以下、VR)システム“Project Morpheus”が非常に多くの注目を集めています。VRと言えば、Project Morpheusだけでなく“Oculus Rift”やサムスン社の“Gear VR(仮称)”など、各方面で機運が高まってきたという印象ですが、VRに注目してきた吉田さんとしてはどのように感じていますか?

吉田:VRの時代がついに来ましたね。VRというものは、何十年も前からコンセプト自体は存在し、その原理もわかっていましたが、それを実現するためのデバイスやコンピュータのパフォーマンスが足りないという状況でした。それが今実現できる世の中になっている。そして、VRを構成するコンポーネンツは現在、どんな会社でも手に入れることができますよね。そういった流れについては非常にいいなと考えています。

――TGSでは、日本国内の一般ユーザーがはじめてProject Morpheusに触れることになりますが、どんなお気持ちですか?

吉田:体験したユーザー様の反応に、すごく期待しています。VRってその世界に入り込んでしまうので、自分の周囲で人が見ているというのを思わず忘れて没頭してしまいますよね。そうしたVRに初めて触れる方々の驚いた様子などを見るのは、とても楽しいです。

――体験者の驚きや没入している様子が、その様子を見ている私たちにも伝わってきますね。

吉田:そうなんです。体験されている方の反応がすごく自然で、彼らを観てるだけでも何かすごいことが起こっているのだな、ということが伝わってきます。ちなみに、ビジネスデイに来訪されたメディアの方も、はじめてVRを体験されたという方が多かったのですが、彼らの感想にも熱量がありました。いい感じに興奮されている。そうした熱い思いが口コミなどで広がっていってくれると嬉しいですね。

――タイトルとしては、今回技術デモとして『AKB0048×アクエリオン“多次元スペシャルライブ”』が初出展されました。日本のファンにはわかりやすい作品がモチーフとなっていますが、このデモを公開した狙いは何でしょう?

吉田:SCEJAでは、Project Morpheusを発表する以前から、PS4タイトルの開発をされているパブリッシャー様やデベロッパー様に対して、「こんなデバイスを作っています」という紹介をしていました。そして、3月の“ゲームデベロッパーズ カンファレンス”でProject Morpheusをお披露目させていただいたわけですが、5月くらいには本機のプロトタイプをデベロッパー様に供給することができた。

 それによって「こういうことをやってみたい」という提案を数多く頂くことができたのです。そのなかには、これまでゲームを作られていなかったところ、映画やTV番組などで高品質の3DCGを作られているメーカー様もいました。日本で言うところの、アニメや漫画を制作している出版社などのパブリッシャー様ですね。

 彼らは、「アニメや漫画の世界をVRで実現したら、ユーザーさんはその世界に浸れるんじゃないか」と発想されて、ぜひそれをProject Morpheusで試してみたいと。「VRでそうした表現をした際に、ユーザーにどう楽しんでもらえるのかを研究したい」という声をたくさんいただいて、それをTGSで出してみよう、となったときに「TGSで出すなら日本発のコンテンツがいいよね」ということになりました。そうしてSCEJAがサテライトさんと共同で取り組んできた1つの結果が、今回の『AKB0048×アクエリオン“多次元スペシャルライブ”』になります。

――両作品の監督である河森正治氏も新しいものを貪欲に取り入れる方だという印象を受けます。

吉田:そうですね。このデモでは河森さんの描いたビジョンを、非常に細かくディレクションされたと聞いています。TGSで最初にお披露目する日本発のコンテンツとしては、とてもよかったと思いますね。

――初お披露目としては、メディア向けとして『War Thunder』も出展されました。本作もこれまでのProject Morpheusタイトルにはない、シミュレーションタイプのコンテンツですが、こちらについてはいかがですか?

吉田:『War Thunder』はPS4向けに欧米で発売したタイトルで、コクピット視点で戦闘機を操縦するゲームです。ヨーロッパのデベロッパー様のタイトルなのですが、VRとも非常に親和性が高いだろうということで、取り組んでいただきました。PS4版では30フレームで動いているのですが、シミュレーター酔いを防止するために60フレームにするなど、各種チューニングを行っていただいています。本タイトルでは2本のスティックを操縦桿に見立てて操作するんですが、ゲーム内のアバターもプレイヤーの腕の動きに合わせてゲーム内でシンクロするんです。それにより、その世界にスっと入っていける、そこが本当に楽しいデモになっていると思います。

――機体の動きと視界の動きが異なることで、あんなにもフライトシミュレーターの感覚が変わるとは驚きでした。3D酔いではない、本当の飛行機酔いのような体験だったと思います。

吉田:実際のトレーニングに使われるというのもわかりますよね。VRで慣れておけばリアルで飛行機のコクピットに入ったときにもやるべきことがわかる。非常に可能性を感じますよね。

――今回のTGSでは設備上の都合などから出展見送りになってしまった『サマーレッスン』ですが、ユーザーのみならず多くのクリエイターからも反響が大きかったようですね。

吉田:このタイトルはすごいですよ。デジタルのキャラクターがその空間に存在する、というのをはっきりと感じることができるんです。アバターとの距離の近さ、とでも言えばいいでしょうか。本タイトルでは、部屋にいる女の子が、教師であるプレイヤーの一挙手一投足を常に見ているのですが、そのこと自体(女の子と同じ部屋にいて、見られているということ)にすごく緊張します。AIも非常によくできていますし、VRにおけるコミュニケーションの可能性というか、デジタルで表現されたキャラクターの存在を感じるのには最適なデモだと思いますね。

――コンピュータのキャラクター相手に緊張してしまうというのは、すごい体験ですよね。非常に革新的ですし、クリエイターの制作意欲にも火が付きそうです。

吉田:開発チームの原田勝弘さん(バンダイナムコゲームス所属)も言っていました。『サマーレッスン』をほかの開発メンバーに試してもらったら、彼らからもいろんなアイデアがわいてきたと聞くことができたと。原田さんは3D対戦格闘ゲーム『鉄拳』シリーズをずっと手がけられていたのですが、3Dでキャラクターをリアルタイムで自然に動かす、ということをずっと研究してきたチームだったので、『サマーレッスン』の誕生は必然だったのかもしれませんね。

――『サマーレッスン』を体験できる機会は今後あるのでしょうか?

吉田:作りたい、と思っています。想定以上の反響があったので、試遊台の1台2台ではとても触り切れません。ですので、別の機会を設けたいと考えています。

――VRは、リアルとの境界線は明確にあるものの、“認識する”という部分に関してはこれまで以上の可能性を感じます。

吉田:はい。ちなみに『The Castle』というタイトルには実は2プレイヤーモードがあり、そのモードでは他人のアバターを見ることができるのですが、相手の挙動から「あれ? あのキャラクター、アイツじゃないか?」といったふうに、その人の独特な動きなどから人物を特定できたりもするんです。リアルでも遠くから見て、人物の動きで誰かわかるときってありますよね。それがVRの中でもわかる。この技術を使うことで、離れた場所にいても同じ場所にいるかのような、より深いコミュニケーションをとることもできると思います。VRは我々の認識に革命をもたらす存在になるかもしれませんね。

■専門のインディーサポートチームの働きが、ようやく実を結びつつある

――会場ではインディータイトルの出展も多く見られ、インディーの勢いを強く感じました。吉田さんはインディーについてはどのようにお考えですか?

吉田:これまでも申し上げてきましたが、私は欧米のインディータイトルが大好きなんです。毎週日本時間の水曜の朝になったらアメリカのPS Storeで新しいゲームをダウンロードして遊ぶのが習慣になっているほどでして。ですので、日本でももっと盛り上がって、日本のユーザー様にもインディーという世界を知ってほしいと思っています。それから、欧米ではベテランのゲームクリエイターが独立して、自分の作りたいタイトルをセルフパブリッシングするということがトレンドになりつつあります。こうした流れが日本でも起こらないかなあ、と思いますね。ただ、今回のTGSではSCEとしてインディーコーナーを支援していて、日本からもインディーゲームが出ているということなので、そういったタイトルには特に注目しています。

――インディーコーナーには“PlayStation loves Indies”のマークが多く見受けられました。TGSに来た日本のユーザーは“インディー=PlayStation”といった印象を受けると思います。

吉田:欧米のSCEでは、PS3の時代から既に3、4年、インディーへのサポートを行ってきています。ただこうしたサポートって、みんな横のつながりが強いからなかなか下手なことができないんです。こっちにはいい顔をしてあっちには冷たく、なんてことをしたら、そうした情報が全部流れてしまいますから。ですので日々の努力が求められる。ただ、その一方で誠実に取り組めば「SCEとタッグを組むといいよ」と話を広げてくれます。そのいい関係を構築できているのが欧米のインディーサポートなんです。日本においても、SCEJAのマーケティング担当の植田浩を中心に、PS4の発売前からそうしたサポートをやっていこうという話をしていました。現在はSCEJAにインディーデベロッパー様をサポートする専門の部署があるのですが、そのメンバーがサポートを続けてきたことでPS4、PS Vitaに日本発のインディータイトルを出せるようになった。彼らの活動の成果も出始めていると思います。

――今回のTGSを皮切りに日本でもインディーブームがさらに熱を帯びてくるのではないでしょうか?

吉田:日本でも、去年のTGS後にSCEJAのビルを提供して、インディーの方々を呼んでパーティしたんです。そこには我々の想定以上の300人以上が集まってくれました。私が気が付いていなかっただけで、インディーの開発者は日本にもたくさんいたんだな、ポテンシャル高いなと嬉しくなりました。今回もパーティ(Indie Stream FES 2014)が開催されます。私も参加しようと思っていますので、そこでクリエイター様に会うのが楽しみですね。

――プレスカンファレンスで発表された『東方Project』のような同人、二次創作作品が出てくるのは日本らしいですよね。今後はそういう動きが活発化して出てくるのでしょうか?

吉田:『東方Project』などは海外のマニアの方からも反応がありましたし、いい流れを作れるのでは、という思いはあります。ソフトは基本的にはデジタルで発売するものですから、全世界で売ることができるはずです。日本市場よりも欧米市場の方が大きいですし、PS4の普及台数なども圧倒的に欧米の方が多いので、日本のインディーメーカー様はPS4でゲームを作って全世界相手にビジネスしてほしいですね。それと、声を大にして言いたいのですが、日本にもベテランのクリエイター様がたくさんいて、その多くの方は大手パブリッシャー様の仕事を受けてなどといった形式での仕事が多いじゃないですか。でもなかには「本当は自分たちでこういうゲームを作りたい」と考えてらっしゃる方も大勢いると思うんです。そうした方々には、ぜひ自分たちの作りたいゲームを自分たちのファンディングで作って、全世界相手に挑戦してみてほしいと思いますね。

――社内公募でアイデアを募集して、1アイデアでもいいので短時間でゲームを作る、ということを社内の動きとしてやっているメーカーもありますね。個々のクリエイターが好きなものをどんどん作っていこう、という気持ちを持つと未来は明るいのかなと思います。

吉田:はい。新しいアイデアはそういったところから出てくるのだと思います。既存タイトルの続編やIPベースではない新しいアイデアが出てくることに期待したいですね。

■“PlayStation全体が1つのプラットフォーム”という考え方に

――最後に、PlayStationのこれからの流れについて伺いたいと思います。PS4に関してはプレスカンファレンスからの流れもあり、非常に勢いを感じるのですが、PS Vitaについてはいかがお考えですか?

吉田:2000シリーズの新色“ライトピンク/ホワイト”と女性向けの人気シリーズタイトルの発表を行いましたが、こういった形でユーザー層を広げていく努力は継続して行っていきます。PS Vitaに関して私がいいな、と思っているのはPS3とPS Vitaで同時発売されるマルチプラットフォームのタイトルの売上が、PS Vita版とPS3版比べてあまり変わらないということです。タイトルによってはPS Vita版の方が売れていることもあります。このことからPS Vitaは確実にビジネスとしても計算できるプラットフォームになったという印象を受けています。今後、PS4のタイトルでもPS Vitaとマルチプラットフォームで展開するような新しいタイトルが出てくれるのではないかという期待感がありますね。

 あとは、PS4とのつながりです。リモートプレイが1番いい例ですが、PS4とPS Vitaはいっしょに使うことでより楽しくなるというコンセプトで開発していますし、今後のアップデートで、PS Vitaで“Live from PlayStation”を楽しめるようにもなる。PS VitaとPS4のつながりは強めていこうという考え方でいるので、そこを上手く使えるようにアイデアを考えていきたいですね。

――PS4を中心にPS Vita、Project Morpheus含め、グループ全体で盛り上げる印象でしょうか。

吉田:それだけでなくスマートフォンやタブレットのコンパニオンアプリも含め、従来のハードごとのプラットフォームという考え方から“PlayStation全体が1つのプラットフォーム”という考え方にシフトしていきたいです。1つ1つが別なのではなくそれぞれでつながっていて楽しめる。そういったPlayStationの新しい形を今後はお見せしていきたいですね。

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