2014年9月22日(月)
Project Morpheusの技術デモとしてバンダイナムコゲームスにより開発された『サマーレッスン』。2014年9月1日に開催された“SCEJA Press Conference 2014”で発表され大きな話題となった本作について、開発のキーマンである原田勝弘氏にお話をうかがった。
▲女の子とのコミュニケーションを楽しめる本作。その制作について、興味深いお話をうかがうことができた。 |
――『サマーレッスン』を制作することになった経緯を教えてください。
原田勝弘氏(以下、敬称略):そもそも、私自身、ヴァーチャル・リアリティ(VR)に興味があり、2年ぐらい前から試しに『鉄拳』のキャラクターを使った一人称の映像を作ったりと実験していました。
――VR自体にも早い段階から目を付けていたと
原田:私を含めて『鉄拳』チームにはFPSのような体験型ゲームが好きな人間が多かったんですよ。FPSは『メダル・オブ・オナー』や『コール オブ デューティ』の登場以降は映像・演出がリアルになり、臨場感が一気に増したんです。それから自分もゲームにおける臨場感を意識するようになり、その後ヘッドマウントディスプレイに目を向けるようになりました。
――それから社内でVRについての開発やプレゼンなどに着手していったのでしょうか?
原田:そうなんですが……やっぱりVRって体験しなければ良さが伝わらないんです。チームの若い人たちは賛同してくれましたが、会社を説得するには苦労しました。まだ市場すら存在していない技術ですから。そこからは目的を変えて、臨場感を体験できるデモを実際に作ることにしたんです。
▲本作について熱く語る原田氏。臨場感の追求への情熱がうかがえる。 |
――それが『サマーレッスン』に。臨場感ならばホラー作品などのほうがわかりやすかったのでは?
原田:誤解を恐れずに言うと、VRを使って人を驚かせるということは簡単にできてしまうので、あえて難易度の高いものを選んだんです。それにホラーだとプレイヤーが目をつぶってしまう可能性も高いですので。ですので、身近なものを題材にしてリアルな臨場感を体験してもらうことにしました。最初は、私も大好きな『アイドルマスター』のモデルを借りて作ってみたりもしたのですが、彼女たちは等身が現実的ではないので、リアルな臨場感を追い求めた今回はオリジナルで作ることにしました。
――現実に近いキャラを作る必要があったわけですね。女の子にした理由はあるのですか?
原田:じつはデッサンと同じで女性のモデルを作るのは難しいんです。本当は『鉄拳』のクマやパンダ、筋肉隆々のカズヤなどを作るほうがラクなんですが、技術研究の観点から、あえて女性のモデルに挑戦させていただきました。女性の透き通る肌のように、繊細かつ高度な表現技術を求められる質感まで実現できてこそ、より先の臨場感を実現するための挑戦になると考えたんです。
――ちなみに『鉄拳』には女性のキャラクターもたくさんいますが、彼女たちの3Dモデルはまったく流用していないのでしょうか?
原田:していないですね。最初はアリサなどを使ってみたのですが、格闘ゲームのキャラクターは横顔をメインに作っているので正面を向くと能面みたいになってしまうんです。そこがアニメ的な演出に寄ってしまうと線の印象が強くなってしまい、プレイヤーの意識が“VRの臨場感”とは別の次元に飛んでしまうんです。
――なるほど。あくまで現実の延長としての世界を作ることにこだわると。
原田:『サマーレッスン』ではそこにこだわりました。生活感のある小さな部屋を舞台にしているのも“相手が目の前にいる”というVRの可能性を世に伝えたいからでした。そのためVR体験に特化している『サマーレッスン』を作ったんです。しかし、社内、ゲーム業界、そしてユーザーへと順々にVRの内容を伝えていこうと決めていたのですが、意外と社内の人間に理解してもらうのに時間がかかってしまいました。
――原田さんが臨場感や没入感を体験させるために、1番気を使った部分はどこだったのでしょうか?
原田:“キャラクターがこちら(プレイヤー)を認識する”という部分です。プレイヤーの目線に目を合わせてくれるというのはVRならではの魅力だと思っています。そして次は人間としての自然な反応ですね。相手が近づきすぎると離れるといった行動をどんな体制からでもアニメーションのブレンドによって起こるようにしています。
――コントローラーを使用しないのも、そういった臨場感を伝えるためなんでしょうか?
原田:その通りです。ほかにも、キャラクターはもちろん、部屋も臨場感が出るように注意して作っているんですよ。床に物を置いて生活感を出すなどさまざまな工夫をしています。
――ちなみにキャラクターの髪型がポニーテールであることにも何か理由があるのでしょうか?
原田:これは技術的な問題です。よりリアルな臨場感を出すためにはセミロングやロングなどが再現できればよかったんですけど、処理が重たいんですよね。そんな部分も含めて本作はまだまだ発展途上ですので、今後さらにクオリティアップしていきたいです。
▲登場キャラクターを女の子にしたのにもロジックが存在。VR技術の魅力を伝えるために考え抜かれたものだ。 |
――今後、ユーザーがプレイする機会があるならば、さらに臨場感のあるものが楽しめると。
原田:そうですね。『サマーレッスン』はVRの技術デモですが、今後もっと突き詰めていきたいと思います。先ほども言いましたが、VRについて理解していなかった人も実際にプレイすると反応がまったく変わるんです。そのため、逆にカンファレンスで流した映像だけで多くのユーザーに反応してもらえたことに驚いています。とにかく一度体験してもらえれば、私が言っている臨場感はわかってもらえると思います! この技術をより多くのゲーム業界の人に広めていくのが次の目標ですが、ゆくゆくはユーザーのみなさんに作品をお届けしていきたいですね。
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