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2014年10月24日(金)

カードゲームは人の心の揺れを創っている。“TCGの授業”を手がける竹本氏、大河内氏にその意図を聞いた

文:ファイ、取材協力:大河内卓哉(デジタルハリウッド大学特別講師)、デジタルハリウッド大学

 こんにちは! TCG担当のファイです。大学の課外授業の題材として“トレーディングカードゲーム”が取り扱われることになりました。その仕掛け人ともいえるデジタルハリウッドの竹本竜也氏と、特別講師を務めるドクター・オーこと大河内卓哉氏にお話を伺いました。

『デジタルハリウッド大学』

 前回の記事では、なぜこの講義が開催されるのかについての経緯や、どういった授業が行われるのかについてお聞きしました。後半の今回はより踏み込んで、この講義の意図やこの先のカードゲーム業界の展望についてお話しいただきました。さらに、大河内氏にとって“カードゲームを創る”ということについても熱く語ってもらうことができましたので、じっくりとご覧いただければと思います。

■学生の情熱を受け止める人が必要

『デジタルハリウッド大学』

――今、この課外授業を行う意図を教えてください。

大河内氏:まず、カードゲームの制作って現状ではブラックボックスなんですよね。どうやって作られているのか、については世の中には公開されていないんですよ。できあがったものがあって、それでみんな楽しく遊ぶ。もちろん、それはそれでいいと思います。

 ただ、楽しく遊んでいる人たちの中には自分も作ってみたいなと思う人が必ずいます。その人たちがこの業界に入りたいなと思ったとき、まずどこへ行けばいいのでしょうか。この人たちの受け皿となる場所というのが、まだ見える形では存在していないのではないかと思います。

 そしてそれに対して、我々も将来のTCG業界への布石を打たなければと。正直、この授業を今行っても2015年のTCG業界は変わらないと思います。かといって、すぐ効果がないので意味がないとしてしまうと、その先の2016年や2020年になったときにも変わらないでしょう。

 いつか価値がでて、そのときになって初めて、2014年にこの講義を行った意味があるものになるのかなと考えています。例えばですが、講義を受講した人のうち、1人か2人でも芽が出れば、自分の時間と経験を投資した意味はあると考えています。

 また、カードゲームだけでなく、イラストだったり音楽だったり、人が作るものにはそれぞれその人の雰囲気ってありますよね。今回はこの大学の特徴も相乗効果として、いろいろな人が集まる予定なので、たぶん完成したものは僕の予想と大きく違うものなんじゃないかなって期待しています。

竹本氏:大学生というのは、何をやっても熱がありますよね。カードゲームも含めて、ゲーム好きの学生ってかなりの熱意があるんです。もちろん、それ以外の学生が熱意がないというわけではありません。ただ、私の経験上、本当にこだわる学生はゲーム好きが結構多いのは間違いないと思います。

 例えば、ゲームのやり込み要素とか、まさにそれですよね。そういった情熱に対して、「その熱意は素晴らしいことだ」と、何かしらの箔を用意してあげられたらいいなと思っていました。

大河内氏:情熱はあってもどこに注いでいいのかわからない人って多いですよね。どこに注げばいいかわかっている人は、自分で作品を作ったり、会社を作ったりと何かをもうやっていると思います。一方才能はあって情熱もあるのに、きっかけがないという学生は結構多いと考えています。そういう学生にチャンスを与えられればいいなと思っています。

 今回、選考に関しては様々なタイプの学生を選ぶつもりです(※このインタビューは選考の前に行いました)。同じカードゲームを遊んでいる方でも、強さを目指す人たちのコミュニティもあるでしょうし、初心者同士で楽しく遊ぼうというコミュニティもあるでしょうし、それこそ産業としてカードゲームを見ている人たちのコミュニティもあるかもしれません。そういった学生たちが混ざり合ったとき、どのように相談しぶつかり合うのか、僕個人にとっても今後の参考になると思っています。

竹本氏:学生の行うグループワークって、時折すごい成果を出すことがあります。我々のような、いろんなしがらみや前提という足かせがないので、どうなるのか楽しみですね。好き放題できるというのは、まとめるのが大変という意味合いもありますが、その辺は大河内さんに頑張ってもらいたいですね。

■カードゲームは人の心の揺れを創っている

『デジタルハリウッド大学』

――今回の講義の受講生がこれから業界を引っ張っていく、という訳でもないと思いますが。

大河内氏:そうです、今回は種まきです。こういう課外授業がありましたという試み自体が業界にとって大切ととらえています。そういうところから業界の閉塞感というものに対して、一石を投じたいと思います。カードゲーム的にいうと“メタを貼った(※相手を予想して事前に対策を用意しておくこと)”訳です。率直にいうと、「この業界が大きくなるために、いまのままでいいのか?」ってことですね。つまり、僕はいいと思っていません。

 現在、カードゲームを取り巻く状況は日々すごいスピードで変わっています。それに対応できる人材の育成が、急務となっていると感じています。

 そして2020年にTCGはどうなっているの? と考えた時、やはり開発ができる人間がより必要となっていると考えています。開発者は歴史や技術、ノウハウの蓄積がなければできません。それは今後、より大切となるでしょう。

 なぜなら、カードゲームはコンピューターには作れないからです。カードゲームというものは、作り手が楽しく遊んで欲しいという希望を、遊ぶ人を思いやってその人達の心の揺れを作り出していくように文章やデザイン、ルールに込める、とてもハンドメイドな作品です。

 つまり、ゲームを創るというということは職人技なんです。これは社会人になってからカードゲームの作り方を学ぶというのではなく、学生の時から学んでもらいたいなと。早ければ早いほどよいと思っています。

 大学生って作ろうと思えば時間を膨大に作れると思っています。全国のイベントを回ってみたり、TCGショップに入り浸ってみたり、何でもできる時間がある。だから大学時代に何かの種を植えてあげたいなと。カードゲーム業界に来てくれればいいですが、そうじゃなくても何かしら役に立つことになってくれると信じています。

竹本氏:一つのものをみんなで完成させるという経験をすると、視野が広くなっていろんな引き出しが増えてきます。ここで勉強した成果がカードゲーム業界に入らなくても生きることはたくさんあります。多人数で一つのものを作るということを高校では習いませんよね。

 でも、社会に出ると求められるのは常に団体行動です。そういう現実を考えると、教育が追いついていないのかなと考えさせられますね。勉強ができることと仕事ができることは全く別のことです。仕事をする上で何が必要かということを、今回のような機会に学んでいってください。

大河内氏:学生の皆さんに伝えたいのは、失敗してもいいときに失敗するってすごく大切なことだということです。もちろん成功させてあげたいですが、成功するにあたってもくじけることがあるはずです。そうやって研鑽されていってこそ、いい人材になれるんじゃないかなと。こういった理由もあって、今回は実技になっています

 講演だけなら簡単なんですよ。カードゲームってノウハウとか歴史とか、心理学の部分だったりとか、結構語るところはあります。こういった講演の需要があることも重々承知しているのではありますが、今回の狙いは未来のTCG業界に対する布石を打つことなので、講演という形はとりませんでした。また何かの機会があればと思います

■蒔いた種が実れば、より多くの種を蒔く

『デジタルハリウッド大学』

――この授業を受けた人たちは、今度は自分のコミュニティに種を蒔きそうですね

大河内氏:この授業は胸を張って受けて欲しいですね。失敗しても胸を張れるって大事だと思います。「このプロジェクトは、自分がいないと成り立ちませんでした」っていった方がプライド持てると思いませんか。カードゲーム業界を自分が引っ張っていくんだぞっていうっていう意気込みが欲しいですね。

竹本氏:こういう場が、小さくても成功体験の場になれば、どんどん自信がついてくると思います。成功の先にまた新しい成功があるので、その一番最初の後押しをしてあげられればいいなと考えています。今回は自分が作ったものが世に出るってだけでも、しっかりとした成功だと思いますね。

大河内氏:どんなものができあがったにせよ、仮にできあがらなくても4回目の授業は公開することになっているので、そこで一つの完成を迎えます。例えば、全くできあがらなかったら僕の実力不足だったということになるかもしれません。3週間でこうでした、だからプロはすごいね、という結論でもいいと思います。

 これが、実際の会社のプロジェクトになるとそういうわけにはいきません。版権の管理だったり、進行のチェックだったりとか、特に社内外含めて関わる人が50人を超えてくると横の情報共有とかにも時間がかかったりします。今回は僕がトップで仕切る、ミニマムなプロジェクトなので3週間でいければなと思っています。

■予想以上の反響にプレッシャーを感じる

『デジタルハリウッド大学』

――最後に、この授業の特集を楽しみにしている人に注目して欲しい点を教えてください。

竹本氏:正直、受講する学生は苦労すると思います。苦労は買ってでもしろ、と昔の人はいったものです。“苦労する=よいこと”とは思いませんが、どういう苦悩の中で完成を目指しているのか、そういったあたりに注目してもらいたいと思います。

大河内氏:まず、記事をツイッターでリツイートして頂いた方、ありがとうございます、ですね。正直なところ、ここまで大きな反響があるとは全く思っていなかったので。学生じゃない人も気にしてくれているのだなと実感しました。カードゲーム業界的に、こういったところから何か新しいものができるかもしれない、という希望みたいなものがあると僕は感じています。プレッシャーはありますが、期待していてください。ぜひ、11月26日の夜は、御茶ノ水駅の近くにあるデジタルハリウッド大学でお会い致しましょう!

――ありがとうございました。

 2回にわたってお届けしてきたインタビューはいかがだったでしょうか。これからのTCG業界への新たな布石となるかもしれません。デジタルハリウッド大学企業ゼミ・チャレンジコースの“来る2016年のカードゲームを創る”は11月に全4回で開講されます。本講義の受講生募集はすでに終了しましたが、電撃オンラインではこの4回の講義を特集記事でお届けしますのでご期待ください。どういった物ができあがるのか、授業が楽しみですよね。それではまた!

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