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2014年11月17日(月)

『グローランサー』15周年インタビュー。うるし原氏によるジュリアンやティピのサイン色紙も【周年連載】

文:デルチ

 あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として連載中の“周年連載”。連載第10回は、1999年11月25日にアトラスから発売されたプレイステーション用RPG『グローランサー』の15周年を記念する記事をお届けします。

『グローランサー』
『グローランサー』

 というわけで、全シリーズにディレクターとして携わった高田慎二郎氏、シナリオ担当の葉月陽氏、そしてキャラクターデザイン担当のうるし原智志氏のお三方に、シリーズに込めた想いや開発時のエピソードなどを聞きました。

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▲左から、うるし原智志氏、高田慎二郎氏、葉月陽氏。

 そもそも『グローランサー』シリーズはPSで1作目が発売され、その重厚なストーリーと魅力的なキャラクター、そして高い戦術性を持ったシミュレーション風のバトルシステムなどで一気に人気を集めました。ナンバリングタイトルは6作品が発売され、その他に『IV』の後日談を描く『グローランサーIV Return』や、『I』や『IV』に新キャラ&新ルートを加えた盛りだくさんなリメイクなどが発売されてきました。

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▲PS『グローランサー』(1999年11月25日発売)。本格的なRPGとしてはもちろん、キャラクター別の恋愛や友情をしっかりと描くADV的な部分も高く評価されました。

 “ノンストップドラマチックRPG”と銘打たれたコンセプトが示すとおり、イベントとバトルが地続きで展開していく独特のシステムが大きな特徴。特に街の人などのNPCが戦闘に巻き込まれるバトルシステムは、『グローランサー』ならではの要素で、戦場全体を見渡して作戦を立てていく高い戦術性に惹かれたファンも多い作品です。

 いきなり余談ですが、『I』のデリス村でのバトルで、戦いに巻き込まれて死んだ村人が復活しないことに、当時は大きな衝撃を受けました。剣術の練習をしている親子は両方生存と片方生存でセリフが変わることを知った時、「この『グローランサー』はきっと名作認定される!」と感じたことを昨日のように思い出します。

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▲リアルタイムミッションクリアシステム(RMC)と呼ばれる、独特なバトルシステムが特徴です。(画面写真はPSP『グローランサーIV オーバーリローデッド』のもの)

 そんな『グローランサー』を生み出した高田氏、葉月氏、うるし原氏は、15周年を迎える今、シリーズにどのような想いを馳せているのか? シナリオ、キャラクター、システム、さまざまな側面から同作開発の秘話を語っていただきました。

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▲ちなみに記事の最後にはうるし原智志氏描き下ろしのサイン色紙のプレゼントもご用意しています!

■制作はいつもギリギリ!? 今も続く時間と容量との戦い

――『グローランサー』は今年で15周年というわけで、勝手ながらシリーズファンを代表してお祝いにかけつけさせていただきました! まずは“15年”という数字を聞いての率直な感想をお聞かせください。

高田:まずは長く愛してくれいるファンの皆様に、スタッフを代表して感謝いたします。もうそんなに経ったのかというのが正直な気持ちですね。『グローランサー』で15年なら、我々がメガドライブ時代に手がけた『ラングリッサー』から数えたらいったい何年経つんだろうと……そりゃ老けるわけですよ(笑)。

葉月:『ラングリッサー』(※)からだと、20年以上ですからね。気が遠くなる(笑)。

※『ラングリッサー』:1991年4月26日にメサイヤから発売されたメガドライブ用シミュレーションRPG。高田氏と葉月氏はメインスタッフとして『ラングリッサーV』までを担当。うるし原氏も『V』までのキャラクターデザインを手がけた。

うるし原:そうですね、『ラングリッサー』もあるから、もっと時間が経っている気もしますし、『グローランサー』だけでも15年も経ったのかという不思議な感覚ですね。『グローランサー』って、僕にとってはちょうどセル画からデジタルに移行し始めた過渡期でもあるので、当時のイラストを今見ると感慨深いです。

高田:『II』から完全にデジタルに移行したんですよね。

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▲PS2『グローランサーII -The sense of justice-』(2001年7月26日発売)。のちのシリーズの基本となるリングウェポンが初登場しました。

うるし原:そうですね。それで『III』で影をつけすぎて、それならと『IV』でおとなしくなってと、毎回いろんな部分でバランスを取ってきた記憶があります(笑)。もう10年以上経過しているってことは、もしかしたら『I』のデータとかは壊れてしまっているかも。

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▲PS2『グローランサーIII -The dual darkness-』(2001年12月6日発売)。『I』から連なるグローシアンや時空融合計画などの謎が明かされる、初期三部作の完結編です。
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▲限定グッズが同梱された『グローランサーIII 萌え萌えラッキーパック』。中でもラミィの目覚まし時計がかわいかったです。

高田:ああ、そうか。もう何回もハードディスクにコピーしているでしょうしね。

うるし原:デジタルはそこが恐ろしいんですよ(笑)。逆にセル画のほうが、ちゃんと保管していればそうそう劣化もしないので安心できる部分があります。

高田:すでに完成したデータもそうですけど、作業中もデジタルは恐ろしいですよね?

うるし原:そう! 何時間も描き続けたものが、フリーズ1発で消えてしまうんですから……。何時間も作業を続けていると、当然ファイルの容量も大きくなっていくので、1度保存するのにも時間がかかってしまう。だから、こまめに保存することをしそびれて、結果的に全部消えてしまうみたいな。それで泣くことはいまだにあります(笑)。

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▲PS2『グローランサーIV -Wayfarer of the time-』(2003年12月18日発売)。大陸の大国同士の戦争を描きつつ、その裏では謎の天使との戦いも展開。シリーズ中でもトップクラスのボリュームで物語が展開した。

――イラストだけでなくゲームの表現も3Dになるなど、15年で大きく変わったのではないでしょうか?

葉月:そうですね。最近のゲームも3D演出が主流ですし、現在はさらに高解像度なHDというおまけも付いてくるので、作業としては複雑かつ緻密になっています。シナリオを直したいと思った時も、昔ならちょっと修正するだけだったのに、今はデザイナーに怒られてしまいますからね(笑)。

高田:特に『グローランサー』は、『ラングリッサー』とは異なる新しい作品ということもあって、それまでのRPGにない要素を入れたいという思いが強かったのも大変さに輪をかけることになっていました。

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▲戦略性が高い『グローランサー』のバトルシステム。イベント中の位置関係がそのままバトルでも再現されるなど、物語とバトルが融合している描写が多かったことも特徴です。(画面写真はPSP『グローランサー』のもの)

葉月:どういうゲームなのかが、ユーザーさんだけでなく、最初は制作スタッフチーム内にもうまく伝わってなかったんです。

高田:体験版などでなんとか伝わったのですが、なかなか大変でしたね。上司や広報チームに伝えることさえ大変でした。

葉月:あの時は、「おもしろい作品を作ってくれると信じてる」とまかせてもらえたのでうれしかったですね。

高田:シリーズとして確立してからも、ところどころで新しいことをやりたくなって、周囲を混乱させたこともありました(笑)。

うるし原:3Dに対するあこがれみたいなものもあったんですか?

葉月:それはありましたね。2Dだと視点なども限られるので、キャラクターを回り込むように表示する演出などはやってみたかったんです。それに、2Dだとバトルマップがどうしても見下ろした形になってしまうのでマンネリ化してしまう。空を見上げるような演出をやってみたかったんです。でも当初は勉強にもなりましたけど、かなり苦労しましたね。

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▲PS2『グローランサーV Genelations』(2006年8月3日発売)。キャラが3Dで描かれるようになり、バトルシステムもプレイヤーが直接操作を行う形式に変更。章ごとに主人公が異なる、物語中に時代が流れキャラの年齢や外見が変わるなど、多くの新要素が盛り込まれていた。
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▲PS2『グローランサーVI Precarious World』(2007年6月21日発売)。『V』と同じ世界、時間軸を舞台にし、物語の舞台裏が描かれることも。システム的にも『V』を踏襲しつつ、より遊びやすく進化していました。

高田:『ラングリッサー』シリーズがシミュレーションゲームだったので、僕たちにとって『グローランサー』が初めてのRPGでした。だからこそ、新しいことをやりたいという気持ちは強かったですね。

 そのせいでボリュームのことを何も考えず、『I』の物語ややり込み要素を作りすぎてしまったというのもいい思い出です。今思えば、『I』は3分の2くらいのボリュームでよかったような気がします(笑)。

葉月:ユーザーさんから、「いつエンディングにたどりつけるのか不安です」というメッセージもいただきましたからね(笑)。

うるし原:でもそういった部分も、コアなファンの方がついてくれた要因かもしれませんね。

――そうした開発の中で苦労された点も多かったのでは?

葉月:『I』などは、若かったからこそできたなという部分はありますね。

高田:『I』は勢いで駆け抜けましたね。『II』と『III』は同時並行で作っていた部分があって大変でしたが、それらが評価されたおかげで『IV』ではじっくりと時間をかけて作ることができました。

 『V』は先ほど話したように、マンネリ化からの脱却で3Dへの試行錯誤を繰り返していた時期で、『VI』でようやく完成形が見えてきたというのがシリーズの流れです。とにかく似たようなシステムのゲームがなかったので、つねに苦労していたという印象ですね。中でもRPGとしてのフラグ管理は苦労しました。

葉月:『I』の時はどこでもセーブができることや、テレポートの魔法の仕様関連で苦労しましたね。それらをさらに大変にしたのがディスク2枚組という要素で、どちらのディスクでも発生しうるイベントは両方のディスクに入れないといけなかったりして全体を把握するのが大変でした。

 重複するイベントのおかげで、容量もギリギリになっていました。テキスト1つで容量をオーバーするなんてこともあったので、表面張力で収まっているような状況でしたね(笑)。

高田:デバッグチェックが返ってきて、それを修正したら容量があふれてって感じでしたからね(笑)。当時のやり取りはFAXが主体だったので、朝に会社に来るとFAX用紙が全部なくなっていて慌てたこともありました。うるし原さんは、デザインの面で苦労されたこともあったのでは?

うるし原:やっぱり、アニメは大変でした。あとは、苦労したというよりたくさん迷惑をかけたという自負はあります(笑)。

葉月:いえいえ。でもアニメシーンは、今見てもよく動くなあと思いますよ。『I』なんて、15年前のものとは思えないほどです。

うるし原:僕も今でも『I』のアニメシーンはよく見返すんですよ。

高田:『V』や『VI』でもアニメパートにガッツリかかわっていただきましたね。

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▲アニメーターとしても知られるうるし原氏が本気で挑んだアニメパート。『I』のオープニングアニメは男性と女性ヴォーカルにあわせて2バージョンあることも話題を呼びました。『IV』のアニメは別のスタッフの方だそうですが、『V』や『VI』はうるし原氏が担当されたとのこと。(画面写真はPS2『グローランサーVI』のもの)

うるし原:『V』からは、念願の告白イベントにアニメシーンがつくということだったので気合が入りましたよ!

高田:『V』のアニメパートといえば、ユリィが人間になるイベントがきわどく、倫理的なチェックに引っかかったことを思い出します(笑)。

うるし原:最終的に、黒い水着をつけてもらったんじゃないかな。シルエットだから、もうちょっとぼんやりした感じになると思っていたら、思っていた以上に見えていたんですよね。別にヤバイ部分を描いたわけじゃないから大丈夫だろうと思っていたらNGでしたね(笑)。

葉月:『IV』のレオナの初期デザインもNGでしたよね。

うるし原:書いちゃダメな部分を出しているわけではありませんが、ひもビキニはダメでした。ちょくちょく引っかかってるんですよね(笑)。『II』の時なんか、ライエルの上半身の裸部分が引っかかって、「男性もダメなの?」ってビックリしました(笑)。

葉月:こういったチェックは時代によって基準が変わる部分があるんですけど、ちょうど当時は基準が厳しかった気がします。今はレーティングがきちんと設定されているので、逆に残酷な描写などもある程度は通りやすくなっている感じがします。

――うるし原さんは、非常に多くのシリーズキャラクターを描いてきたわけですが、その描き分けで苦労されたことも多いのでは?

うるし原:毎回毎回、その時点でのベストをやり尽くしたという気持ちですからね。特に『V』は産みの苦労がありました。変わった頭身のキャラや『グローランサー』にはない熱血系の主人公なども描いたりして、かなり悩みましたね。

 方向性が見えてからは楽しく描けましたし、悩んだことがステップアップにつながったと思っています。ただ『V』のキャラの一部は、ファンの方からはちんどん屋とか呼ばれていて、すごく不本意です(笑)。『V』はキャラごとにテーマを持たせた分、見た目的に特徴が強調されていたというのが理由だとは思うのですが。

葉月:当時は、シルエットをわかりやすくしたとおっしゃっていましたね。

うるし原:そうですね。イラストを描いても、それがゲームでそのまま使われるわけではありませんから。2Dだと特徴を誇張してディフォルメ表現をしてもらえるので見分けがつくのですが、3Dになるとみんな同じに見えるのではという不安があったんです。それで、あんなにハデな感じにしていったんですよ。

 それに、イラストでアクセサリや小道具をいっぱいつけても、テクスチャでなんとかしてくれるだろうという考えもありました(笑)。

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▲『V』や『VI』では3Dポリゴンによる描写が行われ、見た目的にもかなり変わりました。(画面写真はPS2『グローランサーVI』のもの)

葉月:キャラクターによっては簡略化するのが大変でしたよ。特に『V』のランディのマフラーは、その動きを再現するのが大変だったため、うるし原さんに頼んでちょっと短くしてもらいました(笑)。

高田:『グローランサー』は1マップで表示されるキャラ数が多く、さらに民間人やモンスターなども表示されるので、キャラ1体にさける容量が少ないんですよ。今はもう少し両立しやすくなっていますが、当時はグラフィックとシステムとの両立は大変でした。

葉月:『V』の敵がスクリーパーという、比較的シンプルな見た目なのも、ユニットとして共通化しているからなんです。だから、人間タイプの敵が出てくると大変だったんです。

うるし原:そうなんですね。描く時はある程度自由なので、皆さんに調整してもらっていたんですね。

 そういえば、今だから言えるんですけど、『III』のころのキャライラストはちょっと最後のブラッシュアップをしそびれてしまった部分があり、心残りがあります。色や影などを最終調整しようと思って、そのまま忘れてしまったところがあるんですよね。

 逆に、自分が修正したところがあまりにも細かすぎて、雑誌などに掲載された公式なイラストが、最終版の前段階のものだったこともありました(笑)。

高田:その流れもあり、『IV』あたりで、完全に完成したイラストにのみ“うるし印鑑”を押印するというシステムができました。そのおかげで、イラストの管理やしやすくなりました。

うるし原:あれは、自分の目印という意味合いも強いんですけどね(笑)。

■見せたいイベントから構築していった世界観

――『グローランサー』は、その重厚な世界観も人気ですが、シナリオや設定はどのように構築されているのでしょうか?

葉月:世界観よりもシナリオの流れを重視して構築しています。特に見てもらいたいイベントなどがあった場合、そのイベントを効果的に見せるにはどうすればいいか? ということを考えて制作しています。

高田:『デビルサバイバー』など最近のタイトルでは、何を伝えたいのかというテーマから構築することも増えてきましたが、当時は自分たちがやりたいことを自由に盛り込んでいたという部分もあります。

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▲高田氏、葉月氏が手がける『デビルサバイバー』シリーズはDSや3DSで展開されています。(写真は3DS『デビルサバイバー オーバークロック』のパッケージ)
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▲最新作『デビルサバイバー2 ブレイクレコード』は2015年1月29日発売予定。オリジナル版+その後を描いた新たな物語と、2本分のRPGを楽しめます。(写真は3DS『デビルサバイバー2 ブレイクレコード』のポスター)

→3DS『デビルサバイバー2 ブレイクレコード』の詳しい内容はこちら

葉月:シミュレーション風のバトルから、恋愛要素、休暇システムなど、入れたいものをとりあえず入れた内容ですからね(笑)。

高田:『I』の制作時はすでにいい大人でしたが、中二病を患っていましたから(笑)。人に遊んでほしいというより、自分たちが楽しいと思うことを詰め込んで作っていきました。

 より多くの方に遊んで欲しいという、プロモーション的なことも考えて世界観を作り始めたのは『V』あたりからですね。

うるし原:ゲームに限らず、クリエイトする人たちって最初は好き勝手作っているんですよね。でも、ある程度支持されるようになると、プロモーションやマネージメントといった立場から作品を見る必要が出てくるんです。俗な言い方をすれば、売れるために必要な要素を入れる必要が出てくるわけで。このあたりのバランスは難しいところですね。

高田:特に今は、インターネットなどでダイレクトにユーザーさんやファンの皆さんの声に触れられるので、どうすればより多くの方に喜んでいただけるかという考えになりますよね。

うるし原:そうなんですよね。昔は、ソフトを買ってくれた方が送ってくれるアンケートぐらいしかユーザーさんの声を聞く機会がありませんでした。ソフトを買って、さらにアンケートまでお送りくださる多くの方がファンの方だと思いますので、ソフトを買っていない人の声を聞くことはできませんでした。今はその部分を聞くことができるのは、プロモーションという意味では大きく変わった要素だと思います。

――システム面でも、プロモーション的な部分で考え方を変えた部分もあるのでしょうか?

高田:当時は、新しい要素を入れないと飽きられてしまうという考えが強かったですね。システム的には、『IV』でやりつくした感があったんですよ。

葉月:雑誌などで紹介してもらう際に、“新システム”とうたえるかどうかはプロモーション的にも大きくかかわってきますからね。

高田:このあたりも時代によってニーズが変わり、最近は“変えないことのよさ”も評価されていますが、当時のゲーム業界はシステムを新調しないとマンネリが感じられるような空気もあったんですよ。

 ちょっと脇道にそれますが、昔はトライアル&エラーの連続で、この選択肢は失敗だったから次は違う選択肢を選ぼうというゲームの楽しみ方だったのですが、最近は最初からベストな選択肢を知りたいというニーズも多いので、そういった部分は考慮しています。

うるし原:1つのタイトルのボリュームが増えて、何回もプレイする時間がないというのも理由かもしれませんね。

葉月:逆に『デビルサバイバー』は、そうした昔のゲーム性に帰ったシステムになっています。テーマがサバイバルなので、失敗がないと緊張感が薄れてしまう。ただ、手間がかかるだけだと意味がないので、緊張感を維持しながら快適に遊べるようなシステムの構築を目指して開発を続けています。

■軽く100人を超える登場人物。中でも印象に残っているキャラは?

――非常に多くのキャラクターが登場する『グローランサー』ですが、印象に残っているキャラクターは誰ですか?

高田:シリーズ最初の主人公ということで、『I』の主人公は印象に残っていますね。あとは、妖精が好きで『I』のティピとか『III』のラミィ、『V』のコリンもお気に入りです。

葉月:『V』は妖精が多くて楽しいですよね。妖精の性格を変えたせいで、シナリオもバリエーションが膨大になって大変でしたが(笑)。

うるし原:ティピについては、じっくり話し合いましたね。

高田:ティピといえば、ティピキックが有名ですね(笑)。

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▲とにかく表情豊かで、ちょっぴり口が悪いティピ。ファンからの人気も高いキャラです。(画面写真はPSP『グローランサー』のもの
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▲ティピキックをたくさん受けることは彼女のエンディング条件の1つでした。単なるネタだと思っていたら、ちゃんと意味があってうれしかったですね。(画面写真はPSP『グローランサー』のもの)

うるし原:キックだけでなく、僕がラクガキで描いた四の字固めがイベント化されて驚きました(笑)。そういった意味でも『I』は「新しいものを作るぞ!」という熱気を今でも感じる作品ですよね。僕自身も『ラングリッサー』の匂いを残さないように違う雰囲気を出したりと苦労しました。それだけに、印象に残っているキャラクターは多いですね。

葉月:あの当時、まだ『ラングリッサー』の印象が強かったので、周りからは「うるし原さんのキャラなのに鎧を着ていない」という部分に注目されたこともありますね(苦笑)。実際、『グローランサー』シリーズ全般を見渡しても、いわゆるごつい鎧を着たキャラって、『I』のゼノスぐらいでほとんどいない気がします。

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▲『グローランサー』ならではの新しさが意識されたとのこともあり、確かに鎧系のキャラはあまり登場しない印象があります。(画面写真はPSP『グローランサー』のもの)

うるし原:『I』ではジュリアンも印象深いですね。いわゆる男装の麗人系のキャラですが、ゲームを遊ぶ人には女性であることを秘密にする形だったので、どこまで女性らしさを感じさせるかに悩みました。

葉月:シナリオ的にも、最初は味方として出会って、のちに敵に回るという流れを最初から想定していました。そういったシナリオ的な盛り上がりもあって、ジュリアンはいまだに人気が高いキャラですね。

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▲シリーズの中でも人気が高いジュリアン。ゲーム内では、闘技場のイベントなどでインペリアル・ナイトとしての強さを思い知らされました。(画面写真はPSP『グローランサー』のもの)

高田:『IV』の主人公のクレヴァニールの唇の色は話題になりましたね。黒い唇が賛否両論でした。

うるし原:いろいろと悩んだ結果、最後のほうに書いたイラストでは唇が黒くないものもあります(笑)。

高田:『V』あたりでは、デザインの考え方も変わってきましたよね。

うるし原:脇役はある程度自由に描けるんですけど、メインキャラってどうしても優等生なデザインになってしまうじゃないですか。僕の中でも定着したイメージみたいなものがあって、なかなかそれを取り払うことができなかったんです。

 でも『V』の時にアシスタントがラクガキ感覚で主人公を真っ赤にカラーリングしていたんですよ。最初は「それはないだろう」と思っていたのですが、だんだんと「これもいいかも」と思うようになりまして。

 アシスタントと話をして、自分の中にはないデザインセンスを吸収してデザインの多様性を出せるようになったかなとは思っています。『V』のルーファスの髪型もアシスタントにラフをもらって描いたものですが、いまだにあの髪を解くとどうなっているのかわかっていません(笑)。

■『グローランサー』15年の歴史で得たもの

――『I』と『IV』はPSPに移植されましたが、新作を制作するのとは異なる苦労もあったのでしょうか?

葉月:『I』と『IV』はシナリオに新要素を組み込む隙がないので大変でしたね。シナリオ全体での整合性などを考えることも大変ですし、蛇足的な追加になってしまってもよくないですし。

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▲PSP『グローランサー』(2009年5月14日発売)。新キャラや新ルートの追加はもちろん、ゲームスピードなども向上し、まさに完全版といった出来栄えでした。

高田:とにかく、全員助けられるルートを作ろうということで話を進めていましたね。

葉月:『I』は熱烈なファンの方も多い作品で、リシャールを仲間にしたいというファンの皆さんからの声が多かったので、その要素だけは絶対に入れると決めていました。そこを決めてから、いかに辻褄を合わせていくかという感じだったんです。ただ、シナリオ以上にPSPの画面比率に合わせてイベントシーンなどをワイド版に作り直す作業が一番大変だったのですが……(笑)。

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▲PSP『グローランサーIV オーバーリローデッド』(2011年8月18日発売)。PS2版では救えなかった人々の救済ルートや、逆にかつての仲間を敵に回すルートなどが追加されました。
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▲移植の際には多数の新キャラが追加され、新ルートも楽しめました。(画面写真はPSP『グローランサーIV オーバーリローデッド』のもの)

高田:『グローランサー』はシナリオ画面とバトル画面が共通じゃないですか。だから、シナリオのことだけを考えてキャラの立ち位置をずらすと、それがバトル画面に影響してしまい、敵との距離に関するバランスが変わってしまうこともありまして。

 イベントの開始位置1つとっても、PS版をそのまま使うと、敵が見えていないのにイベントが始まってしまうような不具合が出てしまうので、新たにイベントフラグを作り直す必要があったんですよ。そんなわけでPSP版は、実は見た目以上に苦労しました(笑)。

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▲新キャラはみんな重要ですが、中でもトリシアのエピソードはグッと来ます。(画面写真はPSP『グローランサーIV オーバーリローデッド』のもの)

――そうしてシリーズを重ねられてこられたわけですが、『グローランサー』で培ったノウハウは現在の作品にどのようにいかされていますか?

葉月:ポイントに移動することでイベントのフラグを管理するタイムスケジュールの要素は、『デビルサバイバー』に活きていますね。『グローランサーII』のころは移動回数で時間の経過を管理していましたが、『デビルサバイバー』では時間経過を要素の1つとして盛り込んでフラグを管理しています。ただ、タイムスケジュールの考え方の根本は『グローランサー』で培ったものなんですよ。

うるし原:僕の場合は、やはりこれほど多くのキャラクターを描くことはありませんから、確実にストックになっています。マンガだと自分が描きたいキャラを作るわけですが、ゲームの場合はオーダーをもらってそれに合わせたキャラクターを作ることになります。

 そういった意味でも、普段のキャラ作りでは得られないアイデアを得られたと思います。きっと、昔と同じオーダーで今描いたらまったく異なるキャラクターになるのではないでしょうか。先ほどのアシスタントのアイデアとの融合という話も含めて、自分以外の考えが入ってくるのはイラストレーターとしてのステップアップになったと思っています。

高田:シミュレーションゲームの『ラングリッサー』を作って、そこからRPGである『グローランサー』を作って、さらにRPGらしさを強調したのが『デビルサバイバー』なんです。そのRPGらしさは何かといえば、育成とコマンドバトルの要素です。『デビルサバイバー』をプレイしてくださった方が「このゲームってRPGっぽいな」と感じてもらえるとうれしいですね。

●動画:『デビルサバイバー2 ブレイクレコード』発売決定

葉月:もう1つ、『デビルサバイバー』に生かしたアイデアが“死に顔動画”です。これは重要人物が死ぬシーンをあらかじめプレイヤーに知らせて、その回避をうながすというものです。

 そのアイデアのもととなったのが、『グローランサーIV』などに実装した“フェイト”です。こちらは逆に、イベントをうまく進めてキャラを殺さずにすんだ場合、“こういう未来もありえた”ことを示す意味で、あえてキャラが命を落とすシーンを見せる形でした。

 『デビルサバイバー』を遊ぶ人に、キャラを殺さない方法を探してほしいと考えた時、“フェイト”のことを思い出し、あえて死ぬシーンを見せることが助けたいというモチベーションアップにつながると考えたんです。

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▲高田氏、葉月氏、うるし原氏は『グローランサー』以前から一緒にゲームを作ってきた関係。これだけたくさんのシリーズ作品を同じメインスタッフが手掛け続けたという例は珍しいかもしれません。(画面写真はPSP『グローランサー』のもの)

――最後に、『グローランサー』のファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします。

うるし原:今でも楽しんでもらえている作品になったのはうれしいですし、これからまた新しいユーザーさんに楽しんでいただければと思います。確か、ダウンロード版が出ているんですよね?

高田:PSP版の『I』と『IV』はダウンロード版が出ていて、PS Vitaでも遊べるので、今でも遊びやすいと思います。

葉月:この『グローランサー』は、自分たちの原点ともいえる作品なので、この先も作品作りの中心にあり続けることは変わらないと思います。今プレイしても楽しいと言っていただける作品を作ったと思っているので、この先もよろしくお願いします。

高田:先ほどもお話したように、『グローランサー』を通して学べたことってすごくたくさんあるんです。それを活かして新しいものを作っていければと考えています。

 また『グローランサー』シリーズだけでなく、来年1月29日に最新作が発売予定の『デビルサバイバー』シリーズも根っこは同じだと僕たちは考えているので、そちらも遊んでいただけるとうれしいですね。

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●イラスト入りの15周年サイン色紙をプレゼント!

 この記事をご覧の読者の皆さんに、『グローランサー』15周年を記念した描き下ろしサイン色紙をプレゼント! 高田慎二郎氏、葉月陽氏、うるし原智志氏のサイン入りで、さらにうるし原先生のイラストが入ったメモリアルなものとなっています。絵柄は4種類でそれぞれ抽選で1名様、合計4名様へのプレゼントとなります。

 応募の締め切りは、2014年11月30日の23時59分。ご希望の方は、下記の応募フォームからご応募ください。なお、賞品について、譲渡・転売などをしないことを応募・当選の条件としています。

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▲[01]カーマイン。すべての色紙には、高田氏、葉月氏、うるし原氏のサインも入っています。
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▲[02]ティピ。いつ見ても、元気でかわいい笑顔です!
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▲[03]ジュリアン(正面)。優しげな笑顔を浮かべています。
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▲[04]ジュリアン(横向き)。少しだけ憂いを帯びて見えますが、そこがまたかっこいい!

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【周年連載 バックナンバー】

→第10回:『グローランサー』15周年インタビュー。うるし原氏によるジュリアンやティピのサイン色紙も【本記事】

→第9回:『ときめきメモリアル2』15周年記念。好きとか嫌いとか言って伝説の鐘を鳴らすのはあなた!

→第8回:『軌跡』シリーズの原点『英雄伝説V 海の檻歌』15周年記念。開発裏話や設定画を公開

→第7回:ファミコン『悪魔城伝説』25周年記念。伝説の横スクロールアクションを振り返る

→第6回:『かまいたちの夜』20周年記念。今なおトップに君臨する最高のサウンドノベルをアツく語る

→第5回:PS『ジルオール』15周年記念。プレイした人の数だけ伝説が生まれたRPGで、あなたの無限のソウルが辿った軌跡は!?

→特別編:「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」10周年記念。生み出した記者に当時の真相を聞いた

→第4回:PS『夕闇通り探検隊』15周年記念。伝説の隠れた名作ホラーゲームの魅力を今一度振り返る

→第3回:『ファイアーエムブレム 紋章の謎』20周年記念。攻略しがいのある手強いSRPGの金字塔を振り返る

→第2回:リメイクを望む名作『ライブ・ア・ライブ』20周年記念。本作を語れば、人はみんな1つになれる……なあ……そうだろ 松ッ!!

→第1回:『MOTHER2』20周年記念。大人も子供も、おねーさんも夢中になったSFCの傑作RPGの思い出

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