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2014年12月14日(日)

“1から市場を作る”PlayStationのチャレンジが中国で始まる。PSカンファレンスチャイナレポート

文:電撃PlayStation

 12月11日、中国上海で行われたPlayStation Press Conference China(SCE上海、上海東方明珠(Shanghai Oriental Pearl Group)の共同開催)では、いよいよ中国でPlayStationビジネスが開始されることが発表された。カンファレンスで発表された内容は以下のようなものだった。

『PSカンファレンスチャイナ』
▲PS4、PS Vitaの発売日と価格、開発中のタイトルなど、約2時間をかけてビジネス全体の説明が行われた。

●カンファレンスで発表された内容

・2015年1月11日に中国でPlayStationビジネスの開始
・発売されるのはPlayStation 4とPS Vitaの2機種
・価格はPS4が2,899元(約55,000円)、PS Vitaが1,299元(約24,680円)
・発売されるカラーはPS4、PS Vitaともに白と黒
・龍とPSのピクトグラムが描かれた中国限定PS4と、PS Vita用ポーチが数量限定で発売
・ローンチタイトルのラインナップ、ソフトの価格は未発表
・アジアから26社、欧米から25社、中国から26社が参入予定
・参入予定の日本の主なメーカーは、アークシステムワークス、バンダイナムコゲームス、カプコン、ガンホーオンラインエンターテインメント、ハムスター、角川ゲームス、コーエーテクモゲームス、コナミデジタルエンタテインメント、マーベラス、セガ、スパイクチュンソフト、スクウェア・エニックスなど
・中国のゲームエンジンメーカー数社でPS4カスタマイズされたエンジンを開発中
・中国の開発者の開発するゲーム資金を集めるクラウドファンディングを開始

『PSカンファレンスチャイナ』 『PSカンファレンスチャイナ』
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『PSカンファレンスチャイナ』 『PSカンファレンスチャイナ』
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■日本からはスクウェア・エニックスとコーエーテクモゲームスがカンファレンスに登場

 日本からの参入メーカーとして、カンファレンスにはスクウェア・エニックスとコーエーテクモゲームスが登場。スクウェア・エニックスはこのカンファレンスのために、PS4版『FFX』『FFX-2』のHDリマスターを世界で初めて発表した。コーエーテクモゲームスの『三國無双』シリーズも同様で、『三国志』をベースにしたアクションとして、中国でかなりの人気がある。両社ともまずは中国にあったタイトルをそろえた印象だが、中国進出の狙いなどを聞いた。

『PSカンファレンスチャイナ』 『PSカンファレンスチャイナ』
▲『ファイナルファンタジー』シリーズはアジアでも高い人気があり、発表時には会場から歓声があがっていた。

■「会場から上がった歓声が嬉しかった」/スクウェア・エニックス 橋本真司氏インタビュー

『PSカンファレンスチャイナ』
▲スクウェア・エニックスの橋本真司氏。

――中国参入の経緯を教えてください。

 5年ぐらい前からSCEアジアの方たちと、どうやったら中国をふくめてアジアで展開できるのかを話してきたんですが、やっと実現しました。PS3が中国に行くのかと思っていたんですが、PS4とPS Vitaということになりましたね。自分たちが持っているタイトルで最速でPS4で発売できるものとして選択したのが『FFX』と『FFX-2』でした。

――台湾では『FFXIII』も発売されていますが?

 『FFXIII』をPS4に移植するとなりますと、今はチームが『FFXV』と『新生FFXIV』に分散しているんです。社内のクリエイター、社外のクリエイターふくめて、我々が持っている資産のなかで今できるのは『FFX』と『FFX-2』が確実でした。

――『新生FFXIV』はPCで中国ではすでに展開していますが、PS4でも展開する予定はありますか?

 今のところ発表できることはありません。

――PS4版の『FFX』『FFX-2』のHDリマスター版はサプライズ発表でした。

 PlayStationのプラットフォームでPS4が初めて下位互換がなかったんですね。そうなると我々がこれまでにPS、PS2、PS3で出してきたタイトルがクラウドという形では遊べるんですが、そのハードにあった最適化は難しい。過去のタイトルをどうするのかと考えたときに、PS3……日本はまだ堅調ですけれど、欧米ではPS4にシフトしていますし、中国ではハード自体が発売されていない状況になります。過去の『FF』のシリーズを遊べる環境を我々がタイトルホルダーとして丁寧にやらないといけないと思っています。クラウドはクラウドでまたありだと思いますが、ハードにおける最適化とはまた別の問題がありますので、我々がユーザーさんの思い出に残るように遊べる環境を作っていかなければいけないということで、PS4版を発表しました。

――PS4版は中国だけでの発売ですか?

 そうすると世界のファンに怒られますから世界で発売します。今回は、SCEさんの晴れのカンファレンスですし、簡体字に対応するのは初めてでしたので、この場で発表させていただきました。内容については、PS Vita版と変わりません。PS4にあわせたグラフィックのチューンナップを行っています。

――発売日はいつになりますか?

 グローバルでの発売日は中国での戦略が決まってから調整したいと考えています。中国先行ということではなく、それを鑑みてということになりますが、限りなく同時に発売したいですね。

――今後、スクウェア・エニックスとしては中国には積極的に進出されますか?

 せっかく扉が開きましたので、そうですね。今回は『FFX』と『FFX-2』を発表しましたが、『FFXV』もマルチで開発していますし、PS4で開発しているものは念頭に入れて進めると思います。

――発表したときに会場から歓声が上がっていました。

 そうでしたね。『FFX』と『FFX-2』はクラシックな名作ではあるんですけれど、ちゃんとした簡体字で遊べるのは初めてなので、喜んでいただけたのかなと。我々も幸せですよ。弊社のクリエイターも勇気づけられる。名作はいつの時代も受け入れられるというのは、自信になりますよね。先日のPlayStation Awards 2014でも表彰していただいた北瀬がいちばん喜んでくれると思います。

――ローカライズは終了していますか?

 ほぼ終わってますよ。音声は日本語のままです。

――話は変わりますが、今日のカンファレンスの印象はいかがでしたか?

 若い企業の若い人たちがたくさんいらっしゃって、発表されたゲームも日本人が作るゲームと発想が違っていて、ちょっと面白かったですね。剣で戦うゲームが多いなという印象はありました。MOBA(マルチプレイオンラインバトルアリーナ)系のタイトルもありましたが、日本ではまだまだ『League of Legends(リーグオブレジェンド)』とかも知名度がないですが、海外はMOBA系は強いですね。

――今後の中国市場に対しての抱負を聞かせてください。

 今回発表した『FFX』と『FFX-2』はもう10年前のタイトルですが、それを応援してくれるファンの方がいます。我々としては資産がPS3までのものばかりなので、どうやってPS4に順番に持っていけるかを考えながら、過去の名作と新作を中国のみなさんにお届けしたいと思っています。

――ステージでは「PS4に力を入れていく」という言葉がありましたね。

 中国はPS4しかありませんからね。また先週はラスベガスで行われたPlayStation Experienceにも行ってきましたが、欧米は急速にPS4にシフトしています。日本はまだPS3の存在感がありますが、日本以外は予想以上に早い。こうなると自分たちが育ててきたタイトルが、遊べない状況になってきているんです。そこに危機感を覚えています。かといって弊社のタイトルはもの凄いボリュームがあるので、PS4に簡単に移植できるわけではないのが難しいところですね。

 ですが、今日の歓声でいまだに愛していただいているのがわかりましたので、内部の精鋭部隊には『FFXV』、『新生FFXIV』、『ドラゴンクエストX』、『キングダム ハーツ』シリーズなどをやってもらいながら、外部の力を借りたりいろんなクリエイターを巻き込んで、一歩一歩やっていきたいなと思っています。その間に自分の定年退職が近づいてきてますけど(笑)。自分がいる間はコツコツやっていきます。

■「PlayStationに中国で本当に成功してほしい」/コーエーテクモゲームス 鈴木亮浩氏、森中隆氏インタビュー

『PSカンファレンスチャイナ』
▲コーエーテクモゲームスの鈴木亮浩氏(左)、森中隆氏(右)。

――まずはカンファレンスの印象を聞かせてください。

鈴木亮浩氏(以下敬称略):『三国志』の発祥の地ということで楽しみにしてきました。ファンのみなさんが盛り上げてくれて嬉しかったですね。

森中隆氏(以下敬称略):PlayStationの中国進出でクリエイターが増えてくれるのが凄く嬉しいと思いました。中国本土でPlayStationというコンソールが発売されてそこに向けてゲームが出てくることで、よりゲームが広がっていくのではないかと強く感じました。

――中国参入の経緯を教えてください。

鈴木:コーエーテクモゲームスとして世界に展開するという目標がありますので、もともと中国はターゲットに入っていました。PlayStationの本格展開がいい機会となって我々も本格参入する形になりました。中国は国土が大きく人口も多いというのは魅力な点ですが、これまではコピーの問題などでコンテンツの展開は難しかった面もありました。PlayStationフォーマットはセキュリティが高いというのもありまして、それも後押しになりました。

森中:『討鬼伝』シリーズはSCEさんとタッグで進めて花開いたタイトルなので、PS Vitaも中国で展開するというお話を聞いたときに、これはもう歩調をあわせて開発するしかないと考えて進めてきました。PlayStationありきのところに『討鬼伝』も行こうと。

――『討鬼伝 極』は日本らしさが前面に出たタイトルですが中国でも受け入れられますか?

森中:日本人の感覚で歴史を受け入れるのは難しいかもしれませんが、単純にアクションゲームとストーリーの部分でしっかり楽しめるゲームだと思うので、そのうえで、登場する日本のいろいろな人物を『討鬼伝 極』をきっかけに日本のことを知ってくれたら嬉しいですね。これまでも、戦国時代をテーマにしたゲームのイベントに中国の人が来てくれたりということがありました。プレイしてから広がる世界というのがありますので、そこは期待したいと思っています。

――ソフトの発売時期はいつぐらいの予定でしょうか?

森中:開発自体はほぼ終わっていますが、それ以外のまだ超えるべき壁がいくつかある状態です。PS4の発売と同じ1月11日を目標としています。

鈴木:価格に関してもSCEさんと話をしているところです。

――中国での発売ということで中国にあわせた調整を行う予定はありますか?

森中:日本版の『討鬼伝 極』ではセクシャルな表現があるので、そういうところは中国の事情にあわせて変えています。あとは前作がないのでデータ引き継ぎの要素はありません。いちから遊んでもらうことになります。

鈴木:音声については、アジア圏ではとくにそうなんですが、日本の声優の人気が高いので、変えないでほしいという意見が多いんです。吹き替えを用意しても日本語の音声は入れてほしいという要望が来ますので、音声は日本語のままにしています。

 あとはオンラインキャンペーンというのをすでに発売中の地域ではやっているんですが、それが中国でもできれば、中国のユーザーさんにあった形でのオンラインキャンペーンをオリジナルでやりたいと考えています。中国には『三國無双』シリーズを好きな人がとても多いので、そういう人たちのことも考えてきちんとやっていきたいですね。

――この2タイトル以外に中国で展開する予定はありますか?

鈴木:これで終わりだとは思っていません。台湾で発売しているタイトルは中国でも出したいと、思ってはいます。

森中:ぜひそのためには中国の市場が広がってくれるといいですね。

――ダウンロードコンテンツはどうなりますか?

鈴木:そこは日本と同じようにできるように準備しています。

――これから発売されるタイトルに関しては日本と中国で同じタイミングで発売していくのですか?

鈴木:そこはまだ確実なことが言えないんですが、例えばいま台湾地域では日本の発売から1カ月後ぐらいに繁体字版で出ています。そのぐらいのタイムラグで発売できる可能性はあります。

――中国での目標販売本数は?

森中:本数というよりは高い装着率を目指したいですね。どれだけの台数が売れるのかまだわからないですから。

――今後の中国市場に向けての抱負をお願いします。

森中:PlayStationに本当に成功してほしいんですね。広がっていけば爆発する国だと思っているので、そこで成熟した市場ができれば、コンソール向けのゲームがまた勢いが出てくると思っています。成功してほしいし、成功に貢献したいですね。

鈴木:コンソールハードは日本では今ひとつ勢いがなく欧米では勢いがあって、ひと昔前の日本のゲーム市場が海外に移ってしまった感じがあります。アジア市場は欧米よりももっと若い市場なので、これからもっと伸びていくと考えています。とはいえスマホの市場が中国でも、全世界でも同時に拡大しているところですので、そこに負けないでほしいですね。コンソールゲームはひと味違いますし、我々はそこにゲームを提供しているので、コンソール市場でいちばん期待できる中国で成功してほしいと強く思います。

――今後、中国のゲーム開発会社と組んでゲームを開発する可能性はありますか?

鈴木:その可能性はありますね。

森中:弊社は中国にも開発会社を持っていますので、中国市場が拡大していけば、もしかしたらそちらで開発を増やしていく可能性もあります。そこは状況次第ですね。

■PlayStation中国進出の今後の予定を聞く/SCEJA 織田氏合同インタビュー

 PlayStation中国進出の道のりと、今後の展開についての予定をソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア デピュティプレジデントの織田博之氏に聞いた。

『PSカンファレンスチャイナ』
▲ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア デピュティプレジデントの織田博之氏

――まずは本日のカンファレンスの感想から聞かせてください

 我々もそうですが、会場に来ていただいたみなさんも待ちに待った発表、満を持しての発表でホッとしているというのが正直なところです。

――ビジネス全体の説明を行った、かなり盛りだくさんの内容だったように思います。

 カンファレンスでも説明させていただきましたが、たんにPlayStationを中国で展開するということだけが目的ではなく、中国ローカルのデベロッパーさんたちだったりと一緒にマーケットを作っていくことを我々は目標としてきました。登壇していただいた方も多かったのですが、まずはご紹介できてよかったと思っています。

――中国でのPS4の価格に関してはどのように決定されたのですか?

 グローバルな価格が399ドルですが、中国は付加価値税の分が高いのですが、納得してお求めやすい価格というものを考えました。これは我々もそうですし、パートナー、クリエイターの方たち、流通の人たちにも相談した結果、納得感のある価格が発表したものでした。

――PS4とPS Vitaの価格を発表したときに会場で歓声が上がっていましたが、あれはどのように受け止めましたか?

 じつはこちらのSNSやサイトで「いくらで発売されるか?」という情報のやり取りがありまして、例えばPS4なら2999元から3499元ぐらいではないかということで話題になっていたんです。そこで2899元という価格だったので驚かれたのかもしれません。

――Xbox Oneの価格も参考にされましたか?

 というよりも、我々ができることをまずしました。

――いくつかの流通を使うとのことですが、その理由は?

 中国で初めて正規でPlayStationを流通いたしますので、どこのお客さんにリーチするのかというのはゼロから考えないといけません。パートナーの流通さんにはそれぞれ得意なジャンルがあって、我々にとって最も大事なのはゲーマー様ですが、中国でゲーマー様以上にチャンネルが広がる道はないのか、いろんなチャンネルで相談させていただきました。

――ソニーの流通も使いますか?

 ソニーストアと、ソニーの看板を掲げていただいているお店にも取り扱っていただこうと考えています。

――ソフトに関してはどのように販売する予定ですか?

 我々がセカンドパーティパブリッシャーとして、ファーストパーティのものも売りますし、じつはパブリッシュそのものが我々はできないんですね。合弁会社でもできません。中国では100%国内企業でないとパブリッシュができません。ソフトがセンサーシップ(中国政府による審査)を通って、パブリッシュをするところは中国国内の出版社が発行した出版番号を我々が買い取って流通します。ちょっと複雑な経路になりますが、パブリッシュはしないで流通はするという形です。海外のタイトルに関しても我々がお願いしている出版社に出版番号をもらって、セカンド的に流通することを考えています。すでに国内で海外のタイトルで実績を持っているところに関しては、我々の流通を使うか、もともと持っている流通を使うかはこれからの相談になります。

――パッケージ版、ダウンロード版、両方を販売する予定ですか?

 はい、今、両方とも準備をしています。

――今回のカンファレンスではPS Vitaが大きく扱われていましたが、中国での期待は大きいのでしょうか?

 香港や日本ですでに購入している人もじつは多いのですが、例えば学生さんは学生寮に住んでいるのでプライベートスペースがあまりない。そういうところでパーソナルユースの根強い需要があるのは市場調査でもわかっていまして、日本のタイトルに興味を持っている人も多いんです。今回、PS Vita向けに作らせてほしいというデベロッパー様がけっこういました。今のところいい予感がしています。

――Xbox OneのBesTVみたいなチャンネルを用意しますか?

 将来的にはわかりませんが、まずはわかりやすいコミュニケーションで、これは次世代の最高のゲームマシンであるということをぶれずに訴求していきます。

――ソフトの価格帯については?

 カンファレンスではソフトの価格は申し上げてないのですが、1月から順次、許可がとれ次第発売していきますが、基本的にはグローバルの価格を中国でも採用しようと思っています。中国だけの特別な価格体系は考えていません。

――ローンチでそろえるタイトルはどのぐらいありますか?

 センサーシップを通過しているタイトルは2ケタ数はあるんですが、まだどのタイトルをいつ出すのかについては、デジタル版とディスク版で審査の形が違いますので、直前になってから何タイトルですと申し上げたいです。また、タイトルがいつ出るのかについてのニュースを出していくのも重要ですので、これから発売までの間にそこは頑張らせてください。

――リージョンロックについては最終的にどのようになりましたか?

 まず上海のフリートレードゾーンで、コンソールゲームの輸入製造販売が市場開放されました。コンソールゲームのハードウェアの販売許認可を持っているのは上海の管理局です。そこに対して、PlayStationはグローバルで統一規格の商品を出させてくださいということで、先日、販売認可をいただきました。

 中国のお客様はやはりなんらかマイナスがあるということに関しては過敏に反応されるので、グローバルスタンダードであるということを推して、まずはそこから切り込んでいきたいと思っています。

――海賊版に関しては、何か対策を施されていますか?

 歴史的にはいろいろあったと思いますが、PS3、PS4、PS Vitaに関してはセキュリティがまだ破られていないんですね。ですから、マーケットに行っても海賊版、コピー版は存在していないんです。そうした意味では、ソフトウェアメーカー様にも安心して開発してもらえる状況だと思っています。

――PlayStationが発売されるということへの中国での空気感はいかがですか?

 非常に期待されていることの現れとして、国内海外ふくめて70社以上の会社がPlayStationに参入するということで非常に積極的になっていただいています。新しい何かが起きるんじゃないかという期待感があります。一方でPCオンラインゲームでは世界最大のマーケットを持っていますから、今は順調な国内のデベロッパー、パブリッシャーさんでちょっと様子を見させてくださいと言われるところもありますが、総じると空気感は非常にポジティブです。新しいマーケットが広がるという興奮を、みなさん感じていただいているのかなと思います。待ちに待っていたというところと、お手並み拝見というところと、混在していますね。

――センサーシップに関しては、審査が通るポイントはもうつかめているんでしょうか?

 非常にクリアで、カンファレンスでも最初に政府の方もおっしゃっていましたが、「健康的である」ということが最初に出てくるので、やはり暴力表現、エロチックな表現だとか、政治的な要素、こういうところはこちらでもわかりますので、そういったタイトルをセンサーシップに出す前にどのタイトルを中国で出すかということに関してはある程度判断をしています。

――『グランド・セフト・オートV』のようなタイトルは?

 率直に言うと、通りません。グローバルで売れているタイトルなので中国のお客さんがどう思われるかはありますが、国の政策とソフトウェア産業を育てたいというモチベーションに対して、どうやって一緒に成長していくんだという観点で考えると、無理をしても市場の育成には意味がありませんので、そのあたりは冷静に判断していきます。

――発売日が2015年1月11日ですが、この日に決定した理由は?

 来年は2月19日が中国の旧正月です。旧正月の直前というのは日本でいうボーナス商戦、もしくはそれ以上の消費市場の盛り上がる時期で、この最大の商戦期にあわせてローンチをあわせました。また今回とても考慮しているのはタイトルがどれぐらいそろえられるかなので、いろいろな許認可のリードタイムなども考えて決めました。予約開始の12月12日も中国ではリテールマーケット的には盛り上がる日だそうです。

――目標販売台数などはありますか?

 これは100万台だったりと言いたいところですが、中国のコンソールゲーム市場はこれから始まるので、本当にどれぐらいのお客様がハードを買ってくれるのか、どれぐらいのソフトを準備できるか、デベロッパーさん、政府、メディアもふくめて、どれぐらいポジティブにコンソールビジネスをとらえてくれるのかによってずいぶん環境が変わってくると思うんです。1台でも多く売りたいというのが本当の気持ちですが、一緒に産業を育てましょうという目標がありますので、中国での例え方で言いますと、まず小さいケーキを大きくしましょう、大きくしてから切り取りましょうと。小さいケーキをどれだけ切って食べてもお腹いっぱいにはなりません。ケーキを大きくする活動を今から時間をかけてやっていきます。

――PlayStation Networkなどのオンラインサービスは?

 オンラインサービスに関しては準備を進めています。プレイステーションネットワークを考えていますが、これも準備ができたところで発表させていただきます。1月の発売の直前には発表したいと考えています。グローバルにつなげられるのか、中国だけのものになるか、そのあたりも調整中です。

――発売に向けて、どのようなプロモーションを行いますか?

 体験コーナーをたくさん作っていくのは重要だと思っています。1月11日には再び中国に訪れて、中国特別版の龍のデザインのPS4をお客様にお渡ししたいなと思っています。ローンチイベントは準備したいですね。あの龍のデザインは中国の方に作っていただいたんですが、日本人が考えるよりも怖めの龍なんですが、これがいいんだと言われまして、そこはわかりましたと(笑)。龍のデザインは中国でのみ販売されます。

――中国市場での今後の抱負をお願いします。

 たいへんお待たせしました。非常に中国市場には期待しています。ただ、まだまだ乗り越えないといけないハードルがあるのはわかっていますので、期待を持ちつつ着実に、数多くのゲーマーのみなさんに、PlayStationのタイトルとサービスをお届けするために頑張りたいと思います。


■PlayStationの中国成功は、日本のゲームメーカーにとっても救世主になる?

 SCEJAの織田氏はカンファレンスで、PlayStationの中国での目標を3つ掲げた。

 1:高い技術で最も高いクオリティのゲームとサービスを提供する
 2:中国のゲーム開発者と政府の指導のもとに豊富で多彩なコンテンツを提供する
 3:業界の関係者をはじめすべての人と手を携えて中国に新たな市場を作り上げる

 インタビューでも語られたが、今回のSCEの動きは、PlayStationを中国に持ってきましたというのではなく、中国のコンソールゲーム市場を、中国政府、関係企業とともに1から作り上げるというものだ。カンファレンスではビジネス概要とともに、多くの中国メーカーの参入とタイトルの紹介が行われた。

 そのほかにも中国のアプリゲーム開発で約70%のシェアを誇るというCOCOSエンジンのPlayStationの最適化など中国地場のゲームエンジンの参入、また『Modian Project』というPlayStation向けタイトルのクラウドファンディングも発表された。ゲームに関わる中国の企業をできる限り巻き込んで推進していくことが、カンファレンスである程度証明した形だ。

『PSカンファレンスチャイナ』 『PSカンファレンスチャイナ』
▲『King of Wushu』(Suzhou Snail Digital Technology)は、中国で人気のあるMOBA系タイトルで、PS4専用タイトルとして基本無料で提供される。

 とはいえ、中国ではご存じのとおり、PCオンラインゲームとスマホアプリゲームがゲームの主流となっている。そこにPlayStationがどう食い込んでいけるか。市場を作るといっても、すでにいるゲームファンがこちらを向いてくれるかどうかは最大のポイントだろう。となるとやはりコンテンツ=ゲームがどれだけ提供できるかどうか。PS4でゲームをすることにどれだけの価値が見いだせるかどうか。

 中国でPlayStationのタイトルとして登場してくるのは、国外のタイトルのローカライズ版、中国ローカルのメーカーによるゲーム、PCオンラインゲームまたはスマホアプリゲームの移植、この3つに大きくは分類できるだろう。ローカライズに関してはセンサーシップがやはりポイント。いかに中国にふさわしいタイトルを通すことができるか。継続的なタイトルの提供はここにかかってくるだろう。とくに北米のAAAタイトルは暴力表現が激しいものが多い。ゲームファンが望むものが正規として提供できるかどうかは課題だ。

 中国ローカルのゲームについては、カンファレンスでPS4独占として発表された『King of Wushu』はすでに高いクオリティだったし、PS4でゲームを作ることに意味を持たせることができるかどうか。中国発のゲームが世界でヒットするようなことがあれば流れは変わるかもしれない。PCオンラインゲームやスマホアプリの移植は、“PS4でもできる”ことになれば、購入動機のひとつとして成立するはずだ。

 また、日本のメーカーからすれば、中国でタイトルが販売できる状況になったのは吉報だ。世界の流れとしてPS4が爆発的に売れているものの、日本ではその流れには乗れているとは言えない。タイトルによっては日本で売れるのとほぼ同じ本数がアジア全体で売れることもあるなかで、そこに中国市場が加われば日本でのセールス以上のものがアジア全体で期待できるようになる。

 日本発のゲームは、欧米よりも文化的に近しいアジアのほうが受け入られる可能性は高い。爆発的に広がらなくても順調に拡大していけば、日本のゲームメーカーにとっても価値の高い市場ができあがることになる。PS4のゲームも開発しやすくなるかもしれない。そしてそれは、日本でもPS4のタイトルが増えていることにもつながり、日本のPS4の普及にもつながるかもしれないのだ。1月11日以降の中国のPlayStationの動向は、日本人としても見逃せない。

『PSカンファレンスチャイナ』

(C) 2014 Sony Computer Entertainment Inc.

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