2015年2月25日(水)
第21回電撃小説大賞《大賞》に輝いた『φの方石 -白幽堂魔石奇譚-』の新田周右先生インタビュー
第21回電撃小説大賞の《大賞》を受賞した『φの方石(ファイのほうせき) -白幽堂魔石奇譚-』。メディアワークス文庫から2月25日に発売された本作の著者である、新田周右先生のインタビューをお届けする。
『φの方石』は、様々な服飾品に変じることのできる立方体“方石”をテーマに物語が展開する。主人公・白堂瑛介は、この方石を扱うアトリエ・白幽堂を営む若き方石職人。そんな瑛介は、本業である方石修繕の傍ら、人々を惑わす石――魔石の蒐集をし、その身請け人となっていた。
ある日、知人の方石研究者・涼子の依頼で連続方石窃盗事件を追うこととなった瑛介は相棒・猿渡とともに調査を開始する。しかし、そこには驚くべき真実が隠されていた――。
――まずは第21回電撃小説大賞≪大賞≫を受賞した時、どのような心持でその報告を聞きましたか? そして、ついに2月25日に受賞作がメディアワークス文庫より発売されますが、今の心境も教えてください。
報告を頂いたときは嬉しかったのですが、電話を切った直後、自分の書いた作品の内容を思い起こして「……あれが選ばれたんか。ええんか?」とたちまち不安に駆られました。自分の創作したものが商品の姿を得て世に出るということは、誇らしいことであると同時に、とても恐ろしいことだと思いました。今は、ちょっと腰が引けています。
――立方体から様々な服飾品へ変じ、着装されるという“方石”が物語に大きく関わってきます。この“方石”の設定は、どのようにして誕生したのでしょうか?
物語を作るときは、頭の中で細かいアイデアを出したり戻したりしながら、モザイク的に思考を組み上げていきます。方石も、自分の中にあるいくつかの要素がピックアップされて生まれたものであります。
まず、僕は洒落っ気のある人が好きで、街角で洒落た人を観察したり、友人や家族が服を買うのについて行ったりもよくします。この嗜好が服飾品である方石を生み出す端緒になっています。
方石が立方体の姿をとるようになったのは、幼い頃から親しんでいたユニット折り紙の影響でしょう。方石は結局のところ変身アイテムですから、そのもとの姿には定型性が求められます。立方体が選ばれたのはユニット折り紙の中でも、もっとも安定した姿だからでしょう。方形(四角形)の石、で方石、となります。
また、方石が先端技術と伝統工芸というふたつの側面を有するに至った原因については、電撃小説大賞特設サイトにて語らせて頂いた通りです。方石というアイテムについての総論は、簡潔ながら以上になります。作中に登場する個々の方石がどのようにして生まれたのかを各論的に語ることは、本作をお読みになった方の楽しみを奪ってしまいかねないので割愛させてください。
最後に。方石は結局、変身アイテムです。作中では設定や理屈が細々と語られている箇所もありますが、気楽に楽しんで欲しいと思っています。
――本作には葛飾北斎作の“方石”が登場するなど、歴史ファンタジーとしての魅力もあると思います。史実のように構築していく過程で、大変だったところや面白みを感じたところを教えてください。
奇天烈なキーアイテムにリアリティを持たせるには、やはり歴史を語らなければと思いまして。方石が日本の伝統工芸ならば日本史を語らなければならないだろうと、史実のような記述を折り込みました。マニアの方には到底及びませんが、日本史は学生時代ずっと好きで学んでいた科目でもあるので、僕が執筆作業を楽しむ要因にもなりました。
歴史的傑作をモチーフに持つ方石を考えるに際しては、本歌取のそれにも似た心地良さを感じていました。ただ、同時に、以後は歴史の力を借りることはできないな、とも思いました。色々な意味で歴史は偉大です。
神経を使ったのは史実とのすり合わせでしょうか。事実、日本史に詳しい方々からは「おい、新田。これはちょっとどうなんだ」と言われてしまいかねない箇所も、実はあったりします。一応、破綻をきたさない程度に善解できるはずなので、見つけた方にはご寛恕を賜りたく思います。
そこ以外に妙なところは……ないはず。こう考えると、歴史を作品に取り入れる恐さを、もう少し気に掛けるべきだったかもしれませんね。
――主人公で17歳の若き方石職人・白堂瑛介と下宿人の黒須宵呼についてお聞きします。2人のキャラクターメイクで心がけたことや彼女の誕生秘話を教えてください。
人物を生み出すときは、まず、年恰好や出自、経歴といった客観的な要素を決めてから、性格や口調、価値観といった主観的な要素が湧いてくるのを悩みながら待つのですが、同時進行で名前を考え始めます。自分で「渋い」と納得できる名前を見つけられると、不思議と主観的な要素の方も上手く湧いてくるような気がしています。
白堂瑛介と黒須宵呼については、まず年齢を設定しました。第20回電撃小説大賞に落選した際の選評には「若さを感じない」「旬の要素がない」という趣旨のことが書かれており、後者はともかく前者はどうにかできそうだぞ、との安易な自信から、安直に主人公ふたりを若く設定したわけであります。
行動としては浅はかでありましたが、主人公ふたりのことはとても気に入っています。
――白堂瑛介や黒須宵呼を描く時、どんな主人公に育ってほしいと思っていましたか? 書き上げた今、ご自身の思い通りの人物になっているでしょうか。
登場人物の行動は、やはり物語のおおまかな流れに従ったものになりがちです。ただ具体的な場面を設定して、そこに生み出した人物を投じた以後は、なるべく当該人物たちに、その場を任せるようにしています。なので登場人物について、育って欲しい方向性を考えているようなことはありません。彼らが育ちたいように育って、生きたいように生きてくれたなら、僕としても幸いです。
――メディアワークス文庫『φの方石』これからを手にとる読者の方へ、ご自身がぜひ「この人に注目してほしい!」とオススメするキャラクターはおりますか?
主人公です。彼についてみなさんはどのように思われるのか、興味があります。よければ彼に関する感想なども伺ってみたいですね。僕は、可愛い男の子だと思うのですけれど。
――本作の執筆は難産でしたか? 執筆中に印象に残っているエピソードがあれは教えてください。また、ご家族や友人の方は、執筆活動を応援してくれた派ですか? それとも1人でがんばれ派でしたか?
応募作の執筆は、もう1年も前のことなので、あまり記憶がないのですが……記憶が残らないほど、いっぱいいっぱいだったのかもしれません。小説の執筆を趣味にしていたことは、ずっと誰にも知らせていませんでした。審査が進むにつれて、家族にも報告させて頂いた次第です。だから、執筆自体はひとりで行っていました。
――ご自身が考える、本作のみどころを教えてください。
自己アピールは照れ臭くって苦手なんですが……。細々とした設定は、物語の足場を固めたいということもあって語っている部分が多いため、「そんなもんか」とさらっと読んで頂いて結構です。
細かいことは気にせずに、物語の世界に飛び込んで、どっぷり浸って頂ければと思います。そうして頂けたなら、「方石という品物をひとつくらいは手に入れてみたいぞ」と思ってもらえるのではないでしょうか。
――お話は変わりますが、アニメ、ゲーム、小説、映画など、今、注目している作品や過去に影響を受けた作品などがありましたら教えてください。
では、まず映画から。ベン・スティラー監督・主演『LIFE!』。とても素敵な作品だったので、この記事をご覧のみなさまにも是非見て頂きたいと思います。次に、ゲームで好きだったのは『聖剣伝説3』及び『聖剣伝説 Legend of Mana』、『FFV』、『FFTA』、『ヴァルキリープロファイル』、『スーパードンキーコング2』、『ロックマン7』、『メトロイドフュージョン』でしょうか。『カービィボール』や『ワギャン』にもハマりましたね。きりがないのでこれくらいで。
アニメは『GS美神』。劇場版も素晴らしいので是非。もちろん、原作の面白さは言うまでもありません。実はペンネームを横島某にしようかと思ったこともありました。
小説は、まず、初読の衝撃が人生の中で最も大きかった、三島由紀夫の『禁色』を挙げさせて頂きます。それから、岩井志麻子先生の『ぼっけえ、きょうてえ』『あまぞわい』、京極夏彦先生の『嗤う伊右衛門』『鉄鼠の檻』、綾辻行人先生『迷路館の殺人』また、怪奇や推理からやや離れて、乙一先生の『さみしさの周波数』。
以上の先生方のお作は他のものも、繰り返し拝読しています。影響がない、とは口が裂けても言えません。心から尊敬しています。大好きです。
――これから電撃大賞を目指す作家希望のみなさんに、ご自身の体験をふまえてのアドバイスをお願いいたします。
僕のような執筆歴も浅い若輩から偉そうに語れることはないので、アドヴァイスは他の受賞者の方にお任せしたいと思います。むしろ僕の方が、色々な方から小説執筆に関して、アドヴァイスを賜りたいくらいです。
僕は小説世界の片隅で、地道にコツコツとキーボードを叩いております。もし、電撃大賞を経てデビューされ、新田を業界の道端で見かけられた際には、優しくお声かけくだされば幸いです。
――これからどんな作品を描いていきたいかなど今後の抱負を含め、読者のみなさんへメッセージをお願いいたします。
みなさん、こんにちは。新田周右です。電撃小説大賞特設サイトの方のインタビューを自分で見て、「うわ、何かいけ好かんヤツになっとる」と焦りながら、このインタビューにお答えしています。新田は自分語りが苦手なので、インタビューを受けたり、アドリブのコメントを求められたりすると、萎縮して、へその曲がったようなことを言ってしまいます。
なので、その分、作品を通じて自己表現をすることができたらな、と思っています。抽象的な物言いにはなりますが、今後は、明確で、何か訴えるもののある作品をご提供できればと考えています。もちろん、あくまでエンターテイメント作品であることを忘れずに、ではありますが。
『φの方石』は、当たり前かもしれませんが、僕がこれまでで最も注力した作品です。そのせいなのか、やや外連味たっぷりな仕上がりとはなりましたが、書店でパラパラーっと見て、「面白そうだぞ」と思って頂けたなら、是非、書棚のメンバーに加えてやってください。それでは、今回はこの辺で、失礼いたします。
■動画:第21回電撃小説大賞受賞作をまとめてご紹介するスペシャルPV
(C)新田周右/KADOKAWA CORPORATION 2014 イラスト:雪広うたこ
データ