2015年3月11日(水)
電撃小説大賞《銀賞》『マンガの神様』の見どころは主人公とヒロインの対比? 著者・蘇之一行先生に聞く
第21回電撃小説大賞の《銀賞》を受賞した『マンガの神様』。電撃文庫から3月10日に発売された本作の著者である蘇之一行先生のインタビューをお届けする。
『マンガの神様』は、高校生兼新人漫画家の主人公・伊織とマンガの神様に憑かれていると自称する同級生の天才漫画家・楪葉、アメリカから帰ってきた伊織の初恋の少女・萌黄の3人を取り巻く物語。楪葉に取り憑いたマンガの神様の影響で、マンガのお約束みたいな出来事が次々と伊織を襲い来る。彼らの関係はいかに?
――まずは第21回電撃小説大賞≪銀賞≫を受賞して、ご自身の生活に変化はありましたか? そして、ついに3月10日に受賞作が電撃文庫より発売されますが、現在の心境も教えてください。
(このインタビューに回答している現在は)まだ発売前ですが本屋を覗く回数が増えましたね。今まで買うだけだったのが、発信する側になるのかというプレッシャーを感じつつも、「ここに自分の本が並ぶのか……」とか想像してニヤッとしちゃってます。発売後はさらに回数が増えるんだろうなあと思っております。もしも書店で『マンガの神様』を手に取っていただいた時、横でニヤニヤしているやつがいたらそれは僕です。
――本作は“マンガの神様”に魅入られた若きマンガ家とその仲間たちの青春学園ストーリーです。“マンガの神様”の力によってマンガ的な展開に翻弄されるヒロイン・杜若楪葉と主人公・左右田伊織の交流が描かれています。なぜこのような物語を描こうと思ったのか教えてください。
草案としては、漫画家の若者が旅先でマンガみたいな事件に巻き込まれるというものだったのですが、僕は以前から主人公ばっかり都合よく事件に巻き込まれることに変な抵抗を持っておりまして、それならいっそ神様に憑かれているのでトラブルに巻き込まれる設定にしてしまおうと思いつきました。
そこからさらに、努力家の主人公と神様に魅入られたライバルの対決ものという要素を織り込み、今の作品のかたちへと行きつきました。
――主人公の伊織を取り巻く2人のヒロイン……有名マンガ家でクールな美少女・杜若楪葉と天真爛漫な転校生・霧生萌黄が魅力的です。キャラクターメイクで心がけたことや彼女の誕生秘話を教えてください。
楪葉は『マンガの神様』によって色んなトラブルに巻き込まれており、物事に達観しているのでクールな性格にしました。萌黄はそれとは対照的にしようと思い、明るく天真爛漫な性格にしました。
性格を真逆にしたのは、ヒロインを似通ったものにしたくないという思いと、性格の違う二人がマンガを通して仲良くなる様を見せて、マンガの良さを表現したかったからです。
――主人公の伊織はプライドが高く自信家に見えますが、マンガ制作には謙虚に取り組んでいる姿が好印象です。彼を本作の主人公に据えた理由はなんですか? ご自身が考える、伊織の魅力を教えてください。
楪葉が天才漫画家になれたのは『マンガの神様』によるところがありますので、それとの対比であくまで努力によって天才漫画家になれた主人公として伊織を用意しました。魅力としては夢に向かって真っすぐなところでしょうか。あとツンデレっぽいところ。
――創作活動に熱中したり、仲間たちと部活動を楽しんだりと、本作の登場人物たちは青春を謳歌しています。また、マンガ制作における“生みの苦しみ”などの描写にもリアリティーがあります。この体験はご自身の実体験とリンクしているところはありますか?
伊織は漫画賞で一度落選して、そこから努力を積み重ねて新人賞を受賞しました。僕も電撃小説大賞で落選を経験し、その後、こうして受賞へと辿り着けましたので、そこはリンクしているかなと思います。残念ながら学生時代青春は謳歌しておりません。
――これから電撃文庫『マンガの神様』を手にとる読者の方へ、ご自身がぜひ「この人物に注目してほしい!」とオススメするキャラクターはおりますか?
全員オススメです!と言いたいところですが、誰か一人選べと言われれば日芽ちゃんでしょうか。面白いマンガを読んだらすごく喜びますし、面白くなかったらちゃんとディスります。イラスト担当のTivさんにとても可愛く描いていただいたので嬉しかったですね。
――本作の執筆は難産でしたか? 執筆中に印象に残っているエピソードがあれは教えてください。また、ご家族や友人の方は、執筆活動を応援してくれた派ですか? それとも1人でがんばれ派でしたか?
一度書き上げたあと、客観的に見ようと思い時間を置いて読み直したところ、後半があまり面白くなかったので大幅に書き直しました。時間をかけて書いただけに辛かったですが、少しでも良いものにしようと思い涙を呑みました。周りにはぼやっとモノを書いていることを言ったりはしてましたが、基本、1人で黙々とやってましたね。
――ご自身が考える、本作のみどころを教えてください。
一にマンガ、二にマンガですね。『マンガの神様』によるベタなマンガ的展開で笑っていただき、マンガを面白くしようと努力する漫画家パート、そして、マンガを通して描かれる友情や恋の青春軸。この三本柱が本作の見どころであります。
――蘇之さんご自身の“マンガ的体験”がありましたら教えてください。
有名な小説賞をいただき今こうしてインタビューに答えていること……でしょうか(ドヤ顔)。
――お話は変わりますが、アニメ、ゲーム、小説、映画など、今、注目している作品や過去に影響を受けた作品などがありましたら教えてください。
マンガなら『ジョジョの奇妙な冒険』や『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』。ゲームなら『Romancing Sa・Ga2(ロマンシング サ・ガ2)』がお気に入りです。世代や時代が移ろっていく系の話が大好きです。
――これから電撃大賞を目指す作家希望のみなさんに、ご自身の体験をふまえてのアドバイスをお願いいたします。
マンガ『はじめの一歩』の言葉を引用させていただくなら、「努力したものが全て報われるとは限らん。しかし成功した者は皆すべからく努力しておる」です。
努力しても必ず成功するとは限りませんが、成功した人はみんな努力しています。ともかく書かなきゃ始まりません。仮に落選を経験してたとして、腐るか奮起するかはお任せします。少なくとも、僕は奮起して受賞させていただけました。
――これからどんな作品を描いていきたいかなど今後の抱負を含め、読者のみなさんへメッセージをお願いいたします。
読んだ人に楽しんでもらえるなら、どんなジャンルであろうと書きます。伊織や楪葉もそんな漫画家です。二人の織り成す物語をどうかお楽しみ下さい。
(C)蘇之一行/KADOKAWA CORPORATION 2014 イラスト:Tiv
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