2015年3月14日(土)

OculusとMorpheus、どっちがすごかった? GDCよもやま座談会【GDC 2015】

文:広田稔

 今年のGDC 2015といえば、間違いなくバーチャルリアリティ(VR)が注目を集めたトピックだった。では現地を訪れた日本人はどう感じたのか。

『GDC 2015』
▲GDCの会場となったモスコーニセンター。

 この記事の筆者でVR・パノラマ情報サイト“PANORA”の広田稔、インディー・VR系ゲームの情報サイト“もぐらゲームス”およびVR系情報サイト“MoguraVR”のすんくぼ氏、セクシーゲーム『PlayGirls』などOculus Rift向けコンテンツを手がける開発者、大鶴尚之氏という3人でざっくばらんに語ってみた。

■コンテンツの作り込みが印象的だった

広田:今回はすんくぼさんが先に現地入りしてて、俺と大鶴さんが現地時間2日の午後に到着した感じでしたよね。

大鶴:ちょうどサンフランシスコ国際空港で入管の列にならんでいたときにTwitterを見ていて、『Unreal Engine 4』(UE)の無料化を知りました。

広田:そうでした! あの発表は大きかった。翌日、Unityも最新バージョンとなる『Unity 5』を発表して、無料版の“Personal Edition”を用意しましたが、先手を打ったUEのほうがインパクトが大きかった印象です。なぜかUnityでは、キービジュアルに出てるおじさんが話題になってましたね。

すんくぼ:Unity、UEの両者とも無料で始められるようになったことで、VRコンテンツ開発のハードルがまた1段も2段も下がった感覚です。

『GDC 2015』 『GDC 2015』
▲UEがタコを追いかける少年、Unityがソファーで寝そべるおじさんと、両社ともキービジュアルをあしらったブースだった。

広田:会場やセッションで色々見てきたと思いますが、何が一番印象に残ってますか?

すんくぼ:Oculus VRやエピック・ゲームスなどのブースで体験できたCrescent Bayの“Thief in the Shadows”ですかねー。

大鶴:地面に散らばった無数の金貨の山や、そこから出てくるドラゴン(スマウグ)など、CGの作りこみがヤバかったですね。

広田:あれは目を見張りました。従来のDK2より解像度が上がったといわれるCrescent Bayが精細に表示してくれることもあって、遠くにある金貨とか空中に漂うホコリとかもよく見えてリアルだった。

大鶴:ネタバレになりますが、最後にある炎に包まれる演出。あれは息を飲んで、一瞬でも「死ぬ!」と思ってしまいました(笑)。

広田:そこまで(笑)。

『GDC 2015』
▲映画『ホビット』のスピンオフになるVRコンテンツ“Thief in the Shadows”。オリジナルを手がけたスタジオ“WATA”(ウェタ)が制作した。

大鶴:あれで確信したのは、VRコンテンツがどんどんリアルになっていくと、人の脳が本当に現実と錯覚してしまうことも起こるんじゃないかと。

広田:確かに。VRで体験することで、過去のトラウマを克服するとかにも活用できそう。

大鶴:そうですね。でも逆にVRでトラウマが発生してしまうこともありそう(笑)。

広田:初代の『バイオハザード』でゾンビ犬に襲われるシーンとか、平面ディスプレイですら怖くてトラウマなのに、VRで初体験したら犬が苦手になるかも。

大鶴:ヤバいですね。ホラーの作り手は限度をもって作らないといけないかもしれません。

広田:リアルすぎる弊害ですね。リアルといえば、個人的には新型Project Morpheusで体験した4つのVRコンテンツがGDCで一番印象に残りました。

すんくぼ:MorpheusとHTC Viveは、一番の注目を集めてましたしね。僕はどっちも体験していませんので、非常に心残りではあります。

広田:Viveは3人ともウェブサイトからデモに申し込みましたが、「Unfortunately we are fully booked and are unable to accommodate your request」という“お祈りメール”がきてしまった。

すんくぼ:次はいつになることやら。

『GDC 2015』
▲今回、Valveのブースは特に展示がなく、商談のためのスペースだけだった。

広田:……まぁともかく、MorpheusのVRコンテンツは、体験記事でも書きましたが、インタラクティブ性がやばかったです。今回のOculus VRは、映像も音も作り込みはスゴかったんですが、全部見るだけで、ユーザーがVR空間に干渉できなかったじゃないですか。

大鶴:そうですね。

広田:Morpheusだと、手に持っているコントローラがVR空間に現れてきっちり連動して動いたり、PS Moveを使って目の前にある銃をバーチャルの手で取ったりと、周辺機器を併用していろいろ操作できる。ユーザーが動かしている部分のレスポンスも抜群で、ハード、周辺機器、コンテンツのすべてを自社で作れるSCEの強みを感じました。ほかより頭1つ抜けた次世代のVRコンテンツですね。

すんくぼ:そうなんですね。

広田:もちろんCG自体も細かく作り込んでいて、例えば単なる部屋でも、部屋の主のものと思われるバットやボールがあったり、地面のマットに“GDC”とか書かれていたりか、「よくやるなー」って思いました。

『GDC 2015』
▲『Bedroom Robots』は、部屋にあるテーブルの上でロボットが思い思いに遊んでいる様を眺められる箱庭デモ。細部まで作り込まれており、顔を近づけるとアクションが変わるので、見ていて非常に飽きない。
『GDC 2015』
▲『The London Heist』は、PS Moveを使ったガンシューティング。銃にマガジンを自分でつけて、弾切れになったらこれまた自分で取り替えるアクションが、従来のガンシューティングと違っていて楽しい。

大鶴:そういう話を聞くと、作り手側の気持ちとしては「大変な時代になってきたなー」という感想を持ちます。

広田:と言われると?

大鶴:平面ディスプレイで使うCGは、ぶっちゃけオブジェクトの見えない範囲は省略してたりするんです。上半身だけ映るキャラなら、下半身がなかったりとか。VRコンテンツになると、空間内のすべてに気を配らないといけないのが大変そうです。

広田:確かに。

大鶴:「見えないところがない!」というのが最も面白いんですが、大変だなーと。

■ゲームの延長で生まれてくる北米のVRコンテンツ

広田:すんくぼさんは、インディー系ゲームに詳しいですが、VRコンテンツで印象に残ってるものってありますか?

すんくぼ:やはり『MEGATON RAINFALL』ですね。“スーパーヒーローゲーム”とうたっているように、地球を侵略する宇宙人から街を守る内容です。プレイヤーはスーパーヒーローなので、一番最初は大気圏から宇宙人がいる地表まで一気に降下するんです。その瞬間がまず気持ちいい。

広田:VRでズームインの表現を!? VR酔いしそうな感じですが。

すんくぼ:それが不思議なことに酔わないんですよ。ゲーム中も 超高速で飛び回っているんですけどね。あと主人公が無敵で、街のHPがゼロになるとゲームオーバーというシステムなのが面白い。

広田:おー。しかしGDCだから当たり前かもしれませんが、会場で見かけたVRコンテンツってゲームばっかりでしたね。

すんくぼ:ゲームは多いですね。向こうの人たちはやはりFPSが好きなので、すぐに当てはめやすいんでしょうね。

大鶴:NVIDIAが出したゲーム向けセットトップボックス『SHIELD』の発表会でも、ステージで紹介するタイトルがことごとくFPSでしたもんね。

すんくぼ:彼らからしたら、日本のアニメも「また同じようなのばかり……」と思ってるのかもしれないですけど(笑)。

広田:(爆笑)。

すんくぼ:追求しているところが違いますね。海外はやはりゲームの体験ありきで、それをVRで延長する考えのものが多いと思いました。日本でよく見かける「キャラクターとインタラクティブなことをしたい」というコンテンツの突き詰め方とは少し違います。

広田:前々から言われてましたが、その傾向がかなりはっきりしてきたのかも。

すんくぼ:とはいえ、会場外で開かれた交流会の“VR Mixer”には、ゲーム以外もありましたけどね。

広田:俺と大鶴さんはVR mixerでVRコンテンツを出展していたので、あまり会場を回れなかったんですよね。

『GDC 2015』
▲VR mixerは、モスコーニセンター近くのイベント会場を貸し切って実施されたVR系の交流会だ。

大鶴:自分はちょっとエッチなコンテンツを出してましたが、好評な反応をもらえてよかったです。

広田:(笑)。

大鶴:みんなノリがよすぎて、逆に引いてしまうぐらい。例えば、胸を見るコンテンツでは、しきりに顔を動かして楽しんでいましたし。あと常に「クレイジー」というお言葉をいただきました。

広田:常に(笑)。

すんくぼ:大鶴さんのコンテンツが評判よかったということなら、向こうの人たちもそもそもの発想があまりないだけで、体験したら変わるのかもしれません。

大鶴:ぱっと見、出展していたコンテンツに萌え要素はまったくなかったですね。来年、あそこに日本のVR開発者が乗り込んでいけば、ものすごい空間になるなと感じました。

広田:カオスですね!

■意外と“和気あいあい”なVR業界

すんくぼ:交流といえば、SCEのプレジデントである吉田修平さんも、Crescent Bayを体験したとツイートしてましたね。逆にOculusのCTOであるジョン・カーマックもMorpheusを楽しんで、Twitterで仲良くリプライ飛ばし合っていた。それを見かけてついニヤニヤしてしまいました。

広田:そうそう。ライバルなのに表立って交流してますよね。吉田さんは、ValveのHTC Viveも体験してましたし。

すんくぼ:まだまだ一般化していない段階ですので、つぶし合っている場合じゃなくて一緒に盛り上げていかないとって感じなんでしょうね。

広田:確かに。

すんくぼ:ただ、OculusとViveの陣営は同じPCプラットフォームの競合なので、どこかのタイミングで雰囲気が変わるかもしれません。OculusとMorpheusは和気あいあいだとは思いますが!

広田:(笑)。最後に、会場を見て、今年のVR界はどうなると感じましたか?

大鶴:間違いなく2014年よりも台頭してきますね。Oculus Riftの製品版も出てくるはずですし、ユーザーの動きをVR空間に反映するデバイスも充実してくると思います。コンテンツ側がそれぞれを活用してどのようなカオスなソフトを作り出すのか、楽しみな年になりそうですね。

広田:すんくぼさんは?

すんくぼ:今年年末から来年上半期にかけてが、VRHMDが市場に出て行くひとつの山場なので、いよいよという感じがします。直後にボストンで開催していたゲーマーのためのイベント“PAX East”でも、Oculus対応のゲームがけっこうありましたし、ハードだけでなくどんなコンテンツが遊べるのかという部分にも注目したいです。

広田:今年から来年にかけてが山ですよね。国内でもイベントなどでどんどん体験できる場が増えていきそうなので、読者のみなさんのなかで、まだOculus RiftやMorpheusを体験したことがないという方は、ぜひ一度かぶってみてください。確実に未来を感じられますよ!

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