2015年3月31日(火)
セガから3月12日にリリースされたPS4/PS3用ソフト『龍が如く0 誓いの場所』では、アパレルブランド・アルファ インダストリーズとのコラボが実施されている。そのコラボのキーマン2人へのインタビューを掲載する。
『龍が如く0』は、累計出荷本数650万本を突破したセガの人気シリーズ『龍が如く』最新作。1988年の東京と大阪を舞台に、シリーズでも人気の桐生一馬と真島吾朗の若き日が描かれる。金、女、暴力がテーマとなっていて、これまでになかった刺激的なタイトルに仕上がっている。
お話を伺ったのは『龍が如く0』チーフプロデューサーの横山昌義さんと、エドウィン ALPHA 事業部部長の田中拓也さん。今回のコラボ経緯から始まり、シリーズキャラに対する想いや商品に対する想いなど、さまざまな話題が飛び出した。さらに、コラボの原点となった『ジェット セット ラジオ』についてもお聞きしている。『龍が如く』ファンだけでなく、同ブランドのファンや『ジェット セット ラジオ』好きもぜひチェックしてほしい。なお、インタビュー中は敬称略。
▲左が横山昌義さんで、右が田中拓也さん。 |
――まずはアルファ インダストリーズさんについて、簡単にご説明いただけますか?
田中:1959年に創業して、今年で55周年を迎えたミリタリーブランドです。代表作には映画『トップガン』で有名になった『MA-1』や『N-3B』があります。
横山:『MA-1』は、見たことがない人はいないほど有名なジャケットですね。
田中:そうですね。『MA-1』では一番有名な会社だと思います。昨今はカジュアルにも使われていますが、アメリカ本国での一番のクライアントは米国防総省になります。
▲インタビューが行われた商談会用フロアには、さまざまなジャケットが並んでいるのを見てとれた。 |
――『龍が如く』シリーズとコラボすることになった経緯について教えてください。
横山:単純に田中さんからお声がけいただいたんですよね?
田中:本当に単純な話で、僕自身が1作目から『龍が如く』のファンで、いつか一緒に仕事をしてみたいと思ってアプローチを待っていたんです。ただ、お話が来なかったのでこちらから動きました(笑)。
――これまでのコラボですと、“龍が如くスタジオ”からメーカーに連絡を取り、コラボが成立することが多いとお聞きしていますが、自分たちから声をあげたということですね。
田中:営業や広報をすっ飛ばしました(笑)。久々に単純な興味だけで一緒に仕事がしたいと思い、お声がけさせていただきましたね。
――何がきっかけでコラボを決意されたのでしょうか?
田中:『龍が如く4 伝説を継ぐもの』で冴島大河がミリタリーウェアを着ていたんですよ。それを見て、「ぜひ僕らの服を着ていただきたい」と思ったのが1つ。あとは本シリーズで描かれている神室町のモデルとなった歌舞伎町が若いころの遊び場だったことが1つです。過去の自分をフィードバックして遊べたのは大きいと思いますね。
▲画像は『龍が如く4』の冴島大河。 |
――横山さんはコラボをお聞きしてどう思われましたか?
横山:単純に光栄でしたね。『龍が如く』シリーズでは、冴島は着丈の長い『N-3B』風のミリタリーコートを着ていますし、谷村正義は『MA-1』、品田辰雄もミリタリーウェアを着ています。これはかなり親和性の高い案件だと思い、飛びつきましたね(笑)。
――願ってもないコラボレーションだったと。
横山:そうですね。『龍が如く』に登場するキャラクターには強くあってほしいんですが、おしゃれすぎるのもちょっと違うじゃないですか。つねに自分が追いかけているものはあるけど、機能性は重視したいし、男らしさのある人間を描くと、結局ミリタリーウェアに行きつくことが多いんですよ。
▲画像は『龍が如く5 夢、叶えし者』の品田辰雄。 |
――大人で強い男という枠でキャラを作った場合、着る服も似てくると。
横山:はい。秋山のように、スタイリッシュなキャラにはミリタリーウェアを着せません。ただ、『龍が如く』の世界観との相性で考えると、ミリタリーウェアはこれ以上ないほどマッチする。だからずっと、アルファさんを参考にしてきたんですね。そうしたら「アルファさんからコラボの話が来ています」という話が出て、「本当に!?」と驚いてお会いしたのがきっかけでした。
――それはいつごろだったのでしょうか?
横山:結構前です。昨年の5月くらいですか?
田中:それくらいでしたね……。『龍が如く0』の舞台が1988年で、ちょうど『トップガン』の影響でアルファの知名度、売上がはねた年なんですよ。これは最高にマッチするし、今回を逃したらチャンスはないと思って、“屈強な男たちの物語と、屈強な男のためのウェア”というキャッチで口説かせていただきました(笑)。
横山:お会いして、「実際に存在する服をゲームの中に出しましょう」というところから始まりました。実際にある服をゲームに落とし込むことはやったことがなくて、これまではゲームのキャラにあわせたオリジナル服のデザインをしてきました。初めてのチャレンジということで『N-3B』をお借りして、デザイナーがデザインを起こしてキャラに着せました。
――お会いして何か通じるものがあり、話が進んでいったのでしょうか?
横山:田中さんは決断がとにかく早い。こちらが提案したものにすぐ「やりましょう!」と返していただいているので、トントン拍子に進んでいきます。
田中:こちらがやりたかったことなので、すぐに決めます。ただ、僕も横山さんもお互いにこだわるタイプなので、どのような形にしていくかには時間をかけましたね。
――東京ゲームショウ2014の時に、スタッフポロを制作されたところからコラボが始まっていますが、そちらはどういった経緯だったのでしょうか?
横山:コラボの発表はしていませんでしたが、ゲーム中のキャラに『N-3B』を着せることは進めていたんですよ。その打ち合わせの中で田中さんが「せっかくお祭りであるゲームショウなんで、何かやりますよ!」っておっしゃってくれたんです。ただ、時間がなかったので、どうしようか迷ってスタッフポロを作ることにしました。
田中:コラボを発表したかったんですが、発表できないので見た人だけが気付けばいいと思い、ポロシャツを制作しました。
▲イベント用に作成したスタッフポロ。試遊者に配布された特製バンダナもアルファ インダストリーズが作成している。 |
――反響はいかがでしたか?
横山:ポロシャツを見て、かなり多くの方がコラボに気付いていたようです。
田中:アパレル業界でもかなり話題になりましたね。
横山:個人的に「アルファさん、今年ものすごいファッション業界で話題なのには、どうやってコラボしたんですか?」と多くの方に聞かれました。紹介してほしいと言われましたが、紹介していませんね。
(一同笑)
田中:僕らもたくさんのセレクトショップさんから「『龍が如く』とコラボしているんですか?」と聞かれました。ただ、そのころは発表前だったので「ちょっとわからないです」ってお茶を濁していました。
――コラボを発表しなかったのには意図があったのでしょうか?
横山:田中さんの狙いとして、ポロシャツを見て気付いてくれた人がザワザワしてほしいというのがありました。
田中:今は紙媒体だけでなくWeb媒体もありますが、見た人がザワザワして広がった方が話題になるんですよ。お客様が見てくださって「カッコいいな」って思ってくれるのが一番いい。見た人でカッコいいという人が中心になり、勝手に話題となったので、イベント的には大成功だったと思います。
横山:「どうやったら買えるんですか?」とよく聞かれたんですが、スタッフポロだったので売れると分かっていても販売しませんでした。コラボをするのであれば、安くて手に取りやすいものを作るというのも選択肢の1つですが、その場の勢いで買ったけど2回洗濯したらプリントがとれた、というようなコラボはやりたくありません。せっかくアルファさんと組めるのであれば、ユーザーがしっかり考えたうえで欲しいと思えるものにしたいということが念頭にありましたね。
田中:共通しているのは“いいものを作りたい”ということです。『龍が如く』が見せかけだけでなく、細かいところを含めて進化しているのを見て「どれだけこだわっているのだろう!」とユーザーとして思っていました。こだわっている人たちと何かを作り上げていくのが夢だったので、それがかなっているのは光栄ですね。
――発表こそしていなくてもいろいろなところに影響はあったと。
田中:僕らは『龍が如く』さんに乗っけてもらっている身なので、自分たちから発信できないのはもどかしくもありましたが、影響は確実にありました。アパレル同士のコラボは当たり前で、もはや見慣れています。そんな中で、ゲームの中でウェアを出してもらうのは僕らとしても新しい試みでした。
――1988年のファッションについてアルファさんからアドバイスされたのでしょうか?
田中:今回のコラボで助かったのは、横山さんが同年代なうえにファッションに非常に詳しい方だったこと。そのために「当時のファッションといえばアレとアレ」というのができあがっていました。
――ジャケットをゲーム内に取り込むに際して、何かオーダーしたことは?
横山:気をつけたのはどこまでリアルに作れるかというところです。アルファさんには監修していただきました。
田中:すばらしくクオリティが高かったです。
横山:先ほども話をしましたが、実在する服をゲームの中に落とし込んだのは初めてのことで、これまではショップで着たり見たりした服を参考にしてゲームのデザインに落とし込んでいました。服の中でも極道の方が着ているようなダブルのスーツはあまりないので、Vシネマの衣装を借りて撮影するなどの工夫をしていましたね。ただ、あくまで資料として参考にしてきたことで、リアルな寸法でリアルな質感の服を作ることは挑戦したことがありませんでした。人の顔はあれだけ再現してきているのに、おもしろいですよね。
田中:アハハハ、確かにそう言われるとそうですね(笑)。
横山:『龍が如く』はモデルとなる街があります。そこに実際の店舗として松屋様やドン・キホーテ様、今作であればリンガーハット様や養老乃瀧様がある。人も街もそこにあるのに、服は手をつけてこなかった。今回、いざやってみたらすごく大変でしたね。
――具体的にはどう大変だったのでしょうか?
横山:今回ゲームに採用した『N-3B』ですが、独特の質感をしているんですね。さらに生地の厚みもあって、ライティングによっても光沢が違うんですよ。
田中:僕らの服の生地は特殊な素材を使っているんですね。安めの素材であればゲームにスムーズに取り込めたと思うんですが、おっしゃられたように、光沢感や糸の付け方までもこだわっているので、それを表現されるのは大変だったと思います。
横山:担当したデザイナーが「本当に苦労しました!」と言っていました。さらに、苦労して作った服を、人間離れしたキャラクターに着せる必要があるわけですね。キャラクターは肩幅が大きければ首も太い。でも、元が軍隊で着るような服だったので違和感なく着ることができました。新しい可能性を試させてもらったという感じがしましたね。
――これで、生活に必要な衣・食・住がゲーム内にそろったというイメージでしょうか?
横山:パーツという意味ではそうかもしれません。こだわった服をゲームの中に出すことによって、リアリティは一段上にいきます。あくまでゲームはアンリアルなものという信念があるんですが、より世界観がリアルに近づく小道具になったと思いますね。
ただ、我々は「このシーンであれば、この衣装を着るべき」ということを打ち出しています。よく「主人公キャラの着せ替えはできないんですか?」という要望が来るのですが、あくまでもドラマの中でこの衣装を着ていてほしいという考えでキャラを配置していて、衣装をユーザーにゆだねていません。そこは変わらないと思いますね。
田中:僕は確実に進化していると感じましたね。10年前、30歳の時の僕は初代『龍が如く』が100点だと思っていたんですが、ドンドン歳をとるに従って贅沢になっていき、本作では服まで仕上げてもらいました。また5年、10年が経過したら変わるのかもしれませんが、今の私にとって今作は間違いなく100点満点の完成度ですね。
横山:10年経つとさらに上に行くと思いますね。『龍が如く』はいろいろな楽しみ方があるんですが、街の中でキャラを動かすことは魅力の1つだと思っています。ご飯を食べる時に、以前のタイトルだとメニューに小さい写真があって、食べる音がちょっと流れて終わりだったんですが、『5』から大きく画像を見せつつ、サウンドを入れるようにしたんですね。あれは最終的に、キャラがメニューを食べるところまでやりたいんですよ。人が食事しているのはすごくお腹が減る。夜中にドラマ『孤独のグルメ』を見ると同じものを食べたくなるじゃないですか?
――すごく食べたくなります!
横山:あれをゲームで体験してほしいんですよ。それによって、ゲーム中で入るお店がリアルである必要性が出てくる。ただタイアップしているだけでなく、ユーザーにメリットがあって、影響を与えるコラボになってほしい。食事も服も同じで、そういうことをやりたいと思っています。
もっと言ってしまうと、リアルなものを買えるのがいいですね。これまではキャラクターの服に興味を持ってもらっても、買えないじゃないですか。実際に売っていて買える服が初めてなので、この服に興味を持ってもらえると、ゲームがもっとおもしろくなると思いますね。
田中:相互協力ですよね。僕らのウェアを着てくれている人には、年配のこだわる人が多いんです。その人たちの中にはゲームから離れてしまった方もいらっしゃると思うのですが、やったら絶対におもしろい。そのおもしろさが伝わればいいですし、横山さんのお話のようにゲームから僕らのウェアを思い出していただき、もう一度着たいと考えてくれる人がいたら、それは最高にカッコいいと思います。
――お2人は、何かの作品の服にあこがれたことはありますか?
横山:僕は昔から映画が好きで……中学生の時だったかな? 『欲望』という映画の主人公のカメラマンが着ているPコートが、いわゆるショットものだったんですね。
田中:『ショット 740』だと思いますね。
(※編集注:過去、田中氏は“Schott”に勤務)
横山:その紺のPコートが欲しかったんですが、日本ではあまり売ってなくて……それを買いにアメ横(上野のアメヤ横丁)まで買いに行きました。タイトに着て、中にクレリックのシャツを着ているので、今度はそれをブルックスに買いに行って……。そのキャラが単純にカッコよくて、同じものを着たくなったのですが、当時は情報がない時代なので、どこで買うのか、どれを買ったらいいのかわからない。見て記憶して買いに行きましたね。
――いろいろと買われたのですね。
横山:ゲームでそういう文化はいままでなかったかもしれませんが、あっていいと思っています。ファンタジーを題材にしたゲームならばコスプレで作るしかないんですが、『龍が如く』は日本の現代劇で日本人が作っているからこそ、日本人が遊んだ時に価値が出る必要があると感じてします。桐生が着ている白いダブルのスーツであれば、本当はこれを着たいと思った人に夢をかなえてあげる“場”があったほうがいいのではと、考えています。
田中:そうですね。僕もそう思います。
横山:残念ながら桐生の服は架空のものですが、その“場”の1つとしてキャラクターが実在する服を着ている今回のコラボはすごくいいと思っています。
田中:アルファは映画で知られたのですが、僕らとしては『龍が如く』は1つの映画だと思っています。昔トム・クルーズが着ているのを見て憧れ、デ・ニーロが着ているのを見て買ったというように、同じような現象が今回のゲームとのコラボで生まれると感じています。
ゲームのキャラは昔はポリゴンでしたが、今はもはや人なんですよ。ゲーム業界にいらっしゃるとキャラクターとして見られるのかもしれませんが、異業種から見ていると映画に出てくる人なんですね。街を歩いている人も、キャバクラにいる人も、とにかくリアルだからこそ、プレイヤーがのめり込める。その場の中でカッコいい服を着ていて、それがアルファの服だったら、最高にいいですよね。
――ゲームと映画がリンクしたわけですね。
田中:『龍が如く』にはこれまでにたくさんの俳優陣が出られていますが、アルファと密接に関係されている方も多かった。そういう意味でも昔から共通する意思があったと思いましたね。
横山:共通するワードが“男”だと思います。アルファさんは女性用の服もありますが、芯には男くさくて無骨というのがある。我々もあって、それがぶれないからお互いにリンクしやすいんですね。逆になんでいままでやってなかったのかと思うほどに、マッチしていました。
田中:まさにその通りで“男”ですね。僕らも女性向けのプレスリリースはあまりしていないんですけど、男に惚れる女性が買ってくださるようなイメージがあります。9割くらいは男性向けです。
横山:男性向けなのに女性をひきつける、というのも『龍が如く』とアルファさんが似ているところなのかもしれません。
田中:今回初めて、開発中の映像を見させていただいて、今まで気づいていなかったことを改めて理解させていただきました。ビジュアルだけではなく、ストーリーもすばらしい。こんな奥が深い作品と組めて本当に幸せですね。まだ発売前で遊んでいないので、プレイするのが楽しみですね。発売されたら……会社に来ないで引きこもりそうです。でも、ゲームをするのは今回は本当に仕事ですからね(笑)。
(※編集注:取材時はソフト発売前でした)
――これまでプレイしてきた中で、気になったキャラクターや印象的だったエピソードを教えていただけますか?
田中:ハマるきっかけになったのは『龍が如く』に登場した錦山彰です。僕も若いころはとがっていて、「あんな髪型をしていたな」と感じました。あとは生きざまが揺れるじゃないですか。ゲームの中で心が揺れるのを感じたのは、『龍が如く』が初めてのことでした。……言い方はあれですが、人は綺麗な生き方だけではないんですよね。
横山:いや、僕もそうだと思います。
田中:『龍が如く』は勧善懲悪のドラマだけではなく、人生の悲哀があって、ハッピーエンドだけではないところもある。それも作品の魅力だと思います。話を戻しますが、僕の中ではトップは錦山で、2番目は近江連合・郷田龍司が持つパワフルさですね。アルファの服でも引きちぎりそうなところが魅力です(笑)。ただ、コラボをやりたいと思った一番のきっかけは、先ほども挙げたように冴島がミリタリージャケットを着ているのを見た時です。なので『龍が如く4』も印象的です。
――お聞きしていると『1』と『4』の印象が強そうですね。
田中:引き込まれたという意味では、間違いなく『1』ですね。あとは街のリアルさが毎回進化していくのには毎回驚かされます。高校が新宿だったので、神室町のモデルとなった歌舞伎町で遊んでいた身としては「ここ通ったわ!」と。以前にPS2の『龍が如く2』を引っ張り出して遊んでみたんですが……今見るとやっぱり見劣るんですよね。
横山:ハードだけを見ても、PS2、PS3、そしてPS4と来ていますからね。もう9年前には戻れないんですよ。
田中:街のグラフィックも綺麗に進化しているのを改めて感じました。
▲ますますリアルさを増す町並み。その中にはアルファ インダストリーズとエドウィンの看板もある。 |
――お話を聞いていると、まるで昔から知っているような……同級生かと思えるほど、話がはずみますね。本当に初めてお会いしたんですか?
田中:15年前の新宿でイベントをやった時にニヤミスしていたんですよね。
横山:そうらしいですね。僕がセガに入社して1年目に作ったのがDC『ジェット セット ラジオ』だったんですが、新宿のクラブでイベントをやったんですよ。その際にスタッフとして田中さんがいたらしいんですね! その話を聞いてビックリしました。
田中:僕はスタッフでウェアを担当していたんです。それまでゲームはほとんど遊んだことがなかったんですが、15年前のその時に「ちょっとおもしろそうだな」って思ったんですよ。あと、ゲームをクラブで発表することも革新的でしたね。
▲画像はセガ・ドリームキャスト復刻プロジェクトとして配信中のPS3用ソフト『ジェット セット ラジオ』。他にもPS Vita、Xbox 360でも配信中だ。 |
横山:『ジェット セット ラジオ』が音にこだわっているゲームだったということもあり、クラブで『ジェット セット ラジオ』ナイトというイベントをやったんですね。その時に「10年たっても捨てられないTシャツを作ろう」ということで革ジャンなどで有名な“Schott”さんにTシャツの制作を依頼したんです。今と同じ発想ですね(笑)。
田中:当時僕はその“Schott”で働いていました。ちょっと変な話になるのですが、以前に接点があって、お互い好きなことをできるような立場になって、おもしろいことをできたというのはすごく光栄ですよね。
横山:入社して1年目や2年目なので、僕はペーペーでしたからね。
田中:僕もペーペーで、テキーラ片手に徹夜で作業していました。
(一同笑)
横山:新宿のクラブイベントから始まって、15年後にタイトルとブランドの責任者としてここで会う。おもしろいもんですよね。
田中:そもそもが15年前の神室町から始まったようなもんですからね。錦と桐生ではないですが、運命を感じました。別の道を歩いていたにもかかわらず、一緒に仕事するというのは数奇的、運命的なものを感じますね。
横山:環境は変われど状況的には、僕が最初に作ったタイトルでTシャツを作っていた時にまた戻っているわけですよ。
田中:そうですね。個人的にもあれが最初に作ったゲームとのコラボTシャツでした。
横山:あのTシャツはまだ着られますからね。いい意味で当時から考え方は変わっていないんだと思います。
――『ジェット セット ラジオ』はモデルがある架空の街をインラインスケートで駆けまわるアクションゲーム。『龍が如く』との共通点も多いですね。システムも斬新で、いまだにファンが多いタイトルだと思います。
田中:本当に斬新なタイトルでしたね。
横山:あのタイトルは一般的な知名度は少ないんですが、ゲーム業界では評価の高い“隠れた名作”系のタイトルですからね。
――ちょっとコメントしにくいです(苦笑)。
横山:コラボの話から脱線するんですが、ベースとなる1作目を作った『龍が如く』メンバーは、『ジェット セット ラジオ』チーム出身が多いんですよ。『龍が如く OF THE END』までプロデューサーをしていた菊池(菊池正義さん)が当時はディレクターで、僕はプランナー、『龍が如く』のディレクターだった植田隆太がキャラクターデザイン。サウンド担当だった長沼英樹も『ジェット セット ラジオ』で曲を作っていました。『龍が如く』と『ジェット セット ラジオ』には深いつながりがあるんですよね。
田中:そうだったんですね。『ジェット セット ラジオ』で驚いたのはキャラ立ちしていたことですね。ゲームのキャラは全員一緒だと思っていたんですが、個性的なキャラが多数いることにワクワクしました。
横山:『ジェット セット ラジオ』はショウワ99年。あるかもしれない近未来の渋谷、新宿を描いています。夜の新宿をモデルにしているベンテンチョウステージを作っていたのは、1年目の僕なんですね。なので、当時から今までずっと新宿を作り続けているわけです(笑)。
田中:それはすごいですね(笑)。でも、あの世界観も印象的でした。
横山:当時はああいうちょっとアンダーグラウンドなゲームがはやっていました。ステージの設計とアクションを僕がやっていたので、「このガードレールはすべれそうだな」とか「あのビルの屋上は乗れそうだ」と渋谷と新宿を見てまわりました。
そういう原点があった中で、次のタイトル『龍が如く』でリアルな空間の街を描くことになりました。看板のタイアップがあればリアルになるわけですが、『ジェット セット ラジオ』ではできませんでした。やろうとしてできなかったことを、『龍が如く』で素直に実現しているところもあります。だから、クリエイティブなものは結構つながってくるんですよね。
――インターネットでイラストや写真を入手してそれを街に落書きできるのは、当時としては革新的で驚きました。
横山:あれはドリームキャストという、セガの独創的なハードを生かすための要素ですね。でもドリームキャストでは『ジェット セット ラジオ』しか作りませんでした。ソフトが発売された後、セガはハードの撤退を表明して、次は初代Xboxの『ジェット セット ラジオ フューチャー』だったので。……『ジェット セット ラジオ』はいろいろとチャレンジタイトルで、27歳以下しかいない20人くらいのすごく若いチームだったんですね。
そのメンバーがほとんど初代『龍が如く』にかかわっていました。先ほどの田中さんの話ですが、最初のクラブイベントで驚いていただけた気持ちは、作っている我々が『龍が如く』につながっているから起こったのかもしれませんね。
田中:それはあると思います。だからこそ『龍が如く』にハマったんだと思います。若い時にゲームに興味を持っていなかった人間が、クラブのイベントを見て「もしかしてゲームっておもしろいのかも」と思って、そこから5年たって、「なんか変わったゲームが出たから、やってみようかな」と思って、ドハマりした。
仕事をしていたのにもかかわらず寝ないで遊ぶわけですよ(笑)。本当にそれくらい、当時は革新的でリアルで、自分がのめり込めるゲームだったわけですね。今、そのお話を聞いて納得するところが多々ありました。革新的という意味では自分にもやってみたいことがあります。
――それはどういったことでしょうか?
田中:アルファには55年の歴史があるのですが、だからこそ革新的なことにも挑戦していきたいんです。先人たちが作ってくれたものは大事にしながらも、次の10年、20年を見据えて、いいブランドにしていく必要がある。バトンの担い手としては、こういう形で足跡を残せてうれしい限りです。
ただ、今回のコラボで僕が1個だけ希望したのは桐生一馬には着てほしくなかったということです。文字だけ読むと誤解されそうですが……例えば、お金を払ってメインキャラにいきなり僕たちの服を着てもらったらうれしいかといったら、そういうことではないんですね。想いが伝わっている人同士が、何年かかけて最終形を一緒にめざしていくためのきっかけだと考えていたんです。
――今回のはまだ第一歩であるということでしょうか。
田中:ゲームショウのプロモーションについて大々的にやりたくなかった狙いの1つには、きっかけは小さい石ころが転がるくらいだけのほうがカッコいいからということもあります。15年後にうまいビールを飲みながら、「あの時にこんな話をしたね」というほうが気持ちいいという考えでスタートしました。
――なるほど。ちなみに異業種でやりとりをされている中で、お互いについて印象的だったことはありますか?
横山:個人的には、ゲーム業界の人間である意識があまりないので、田中さんと近いという気持ちしかしませんでした。やりとりもとても自然で、やりたいとこをやったコラボという印象です。
田中:僕も困ったことは一切なかったですね。別にゲームの話をしたわけではなく、やりたいことを目指して夢が固まっていったのがこのコラボです。ただ、1つ感じたのは……横山さんは僕よりも服が好きですよ(笑)。
横山:そうかもしれませんね(笑)。
――今回、真島編に登場する“とある整体師”が着ているのが『N-3B』。今後、何か商品化の企画などはあるのでしょうか? もしあるようでしたら、教えていただけますか?
横山:整体師が着ているジャケットはアルファさんで売っているので、すぐに購入できます。それ以外にも何かおもしろいことをやりたいと相談しているのですが……例えば、電撃オンラインさんの読者プレゼントとして、オリジナルで新しいTシャツを作るというのはいかがですか?
――はい? オリジナルのコラボTシャツを電撃オンラインのために作られるのですか?
田中:もちろん商売も大事ですが、知ってくれた人に喜んでもらいたい。ゲームであれば遊んでもらってよさを知ってもらう。服であれば着てもらってよさを感じてもらう。これからセガさんとは大きなことを考えていくんですが、せっかくこういう機会をいただいたので、商売を抜きにして楽しんでもらいたいんですよね。
――ええっと……ちょっと予想していない展開に、どういう反応をしていいのかわからないんですが……。
横山:服のよさは、テキストでも写真でも完全には伝わらないと思うんですよね。着てもらって初めて本当のよさがわかる。今回のプレゼントが当たった人は、生地のよさや着心地を体感してもらい、アルファさんのクオリティを理解していただけると思います。
田中:1着目はプレゼントでもらったとしても、それでうちのブランドのファンになってもらえるのでしたら、そんなにうれしいことはありません。ぜひ応募してください。
――ありがとうございます。募集については記事の最後に用意させていただきます。
横山:この先の展開に関しては未定ですが、何かしら新プロジェクトが立ち上がった際には一緒に取り組みたいとボンヤリ考えています。
田中:次に一緒にやれる時は、今回『龍が如く0』で取り組んだ以上におもしろい取り組みができないかとを考えています。
――もし、これからの商品の告知で春物にオススメがあるようでしたら教えていただけますか?
田中:もし、うちのウェアを初めて購入されるのであれば、原点である『MA-1』がオススメです。ジッパー1つとっても、こだわりぬいています。今では当たり前になった、パッカリングという立体裁断の先駆けはアルファです。動きまわっても違和感のないものにするために、しわをあえて作る技法ですね。
横山:あえてしわができるように縫っているんですよ。これが難しいんですよね。パッカリングが出ないように作った方が楽ですからね。
田中:今期は、撥水性(はっすいせい)のある商品も作成しています。テフロン加工された服はよくありますが、安いものだと雨で30分くらいしか持ちません。でも僕らの服は3時間は持ちます。普通に考えたら3時間も雨に濡れたら家に帰るか、雨宿りしますけど(笑)。そこがやりすぎるこだわりですね。
横山:『龍が如く』と似ているところは、オーバースペックなところです。ゲームであれば、そこまでの要素はいれなくていいのにいれてしまう。サブストーリーやプレイスポットも、物語を追っていくだけならば必要ないことですからね。ただ、そのオーバースペックなところに魅力を感じるかは重要ですね。
田中:情熱が入っているからプレイヤーは楽しめるのだと思います。『龍が如く』は本当に安いですよね。この値段払っても、キャバクラだったら何時間も遊べないですから。それを考えたら、本当にオーバースペックですよ。
横山:ゲーム1つのために、なんでここまで作り込んでいるんだと思うことはたくさんあります。でもそれでいいんです。それは服もエンターテインメントも同じ。アルファさんの服は普段から着るにはオーバースペックなんですよ。それは当たり前のこと。国の軍に納品しているウェアですからね。オーバースペックでないと、注文してもらえませんから。
田中:我々が普段着る分には、そこまでの性能はいりませんからね。ただ、自分たちで言うセリフではないかもしれませんが、それくらいにいいものを作っているつもりです。
▲『LIGHT MA-1』 | ▲『LIGHT N-2B MOD』 |
▲『MA-1 REVERSIBLE』は、裏地にガラがデザインされている。 |
――1988年にどういう思い出をお持ちですか?
田中:1988年だと、僕らのあこがれる不良の先輩は2種類いて、スーツを着てディスコに行っていた人と、ファッショナブルなジャケットをおそろいで着ているチーマーの走りのような人たち。その人たちは『MA-1』などのミリタリーを着ていたんですよね。僕もそれにはあこがれていました。上野で本物が買えず、ウロウロと探し歩いていました。あとは、新宿はおっかない街でしたね。
横山:おっかなかったですね。
田中:ギラギラしていて、お金が飛び交っていた街。中学生ながら、大人になったらあんなにお金を使えると夢見ていました。
横山:そう思っていたらバブルがはじけてしまい、そんな夢みたいな時代は来なかった。だからこそ『龍が如く0』はいいと思っています。自分たちも味わえなかった未来が入っている。来るべき未来がこなかったら、それは悲しいじゃないですか。だからせめてゲームというアンリアルな世界ではジャンジャンお金を使ってほしいと思って開発しました。
田中:40代前後の方々と、10代~20代の人にプレイしていただきたいですね。40代前後の方々は昔を思い出すでしょうし、若い人にはこういう過去があったことを知ってもらって、次の世代につないでほしいです。
横山:まるで図ったかのように、いつも我々がメディアを通じて読者やファンに言っていることを全部言ってくれましたね。
(一同笑)
田中:いや、それはそう思うじゃないですか? リアルに感じていますよ。実はアルファも一緒で、同じことを思っているわけです。
横山:なるほど。僕の親父は75歳になるんですが、その世代もアルファさんなんですよね。先日実家に帰った時に、親父の服が出てきたので見てみたら、『M65』があるんですよ。でも型が大きくて違うんですね。
田中:その当時は直輸入だったのかもしれませんね。円安の時代は高くてなかなか買えなかったと思いますよ。
横山:『MA-1』や『N-3B』もあり、おもしろかったですよ。親の世代で最先端だったアルファさんが、去年はファッション界を席巻して、どこを見ても『MA-1』や『N-3B』という状況でした。興味深いですよね。カッコいいものは続いていく……。
田中:不変なんでしょうね。だから『龍が如く0』も『1』の時に感じたようなおもしろさをもってプレイできると思いますよ。
横山:高倉健さんや菅原文太さんの若いころは今見てもカッコいい。それに近いと思うんですよね。アルファは55年ですから、『龍が如く』の5倍以上先輩ですからね。
田中:健さんもずっとアルファを着てくださっていたんですよ。カテゴリーこそ異なりますが、男が選ぶ服で、男が選ぶゲームなんだと思います。だからそれを作っている横山さんにもシンパシーを感じたんでしょうね。ただ、話をしていて「この方はアパレル業界の人だったっけ?」と思うことばかりでしたね(笑)。
横山:どこの業界の方と話しても同じことを言われます(笑)。本作のいろいろなところで、あの時に自分たちが見ていたものは決して古臭いものではなく、今見てもカッコいいということを言いたいんです。それを『龍が如く0』で証明したいという個人的な野望も含まれていますね。
田中:我々も同じです。お客様あっての商売ですが、あまり言葉を発したくない。着ていただいて、よさを実感していただければそれで勝ちだと思います。ただ、いいものを作りたいということはまったく同じですね。全体を通して、信頼しておまかせしてしまいました。
横山:この先について言うと、もしアルファさんとコラボ商品などを作るとしたら“10年先”まで残り続ける商品を作りたいと思っています。服であればその人の家で残ってほしい。途中で捨てられるかどうかは重要だと思います。
言い方はあれですが、ゴミになるものを作りたくないんですよね。いい服であれば10年前のものでも着ていられる。ゲームですごいブームを作ったとしても、10年後に忘れられているゲームもあるわけです。もし10年後に『龍が如く』がなかったとしても、覚えてもらえる、プレイした方の記憶に深く刻まれるものを作りたいとつねに思っています。
田中:人の印象に残るものを作りたいですよね。「あれを僕が作ったんですよ」と言ったら「ウソだぁ~」と言われるようなもの。さっきの『ジェット セット ラジオ』の話ではないですが、人の印象に残るものを発信できたら、その時代に何か楔(くさび)を打てたということ。この主人公たちと共有するものがあると思いますね。
――本日はいろいろなお話をありがとうございました。
インタビュー終了後、早速打ち合わせに入るセガとアルファ インダストリーズのメンバー。打ち合わせはインタビュー後もしばらく続けられた。
そして後日上がってきたのがこちらのデザインだ。『ALPHA×『龍が如く0 誓いの場所』オリジナルコラボTシャツ』が欲しいという人は以下から奮って応募してほしい。締切は4月14日24:00。
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