2015年3月31日(火)
TVシリーズ『翠星のガルガンティア』ならびに、OVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』を手掛けた村田和也監督へのインタビューを掲載する。
『翠星のガルガンティア』は、船団都市を舞台に繰り広げられるオリジナルSF冒険活劇。TVシリーズに続いてOVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』が制作され、前後編に分かれたストーリーが展開。4月4日からは後編の劇場上映が全国12館にて行われる。
また、後編の上映を控え、4月1日25:05からTOKYO MXにて、OVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』の前編がTV初放送される。
以下では、原案・監督を務めた村田和也さんへのインタビューを掲載する。作品の振り返りから始まり、制作に至った経緯やOVA『めぐる航路、遥か』に込めた想いなどを語っていただいた。なお、インタビュー中は敬称略。
――初のTVアニメ監督作となった『翠星のガルガンティア』を振り返っての感想をお願いします。
基となったアイデアはずっと昔から温めていたものなのですが、形にできたのはすごくラッキーでした。続編OVAの制作まで継続できたというのも大変幸せなことですよね。それも、この世界やキャラクター、世界観が好きと言ってくださる方のおかげです。
あと『第3次スーパーロボット大戦Z 天獄篇』の効果もあるみたいで(笑)、プレイ前の予習ということで(笑)、再放送やバンダイチャンネルなどでご覧になられる方もいらっしゃるようで、最近、ネット上などでそういう方の「普通におもしろい」という感想を見るようになりました。これって、最高の褒め言葉だと思うんですよ。見て、普通に、何の付帯条件もつけずに楽しんじゃったということですから。そういうコメントをいただいたときは演出冥利に尽きますね。現場は常に大変でしたけども、それを乗り越えた甲斐がありました。
▲TVシリーズ第1話“漂流者”より。 |
――アニメ業界を志したきっかけとは?
最初にアニメ作りに興味を持ったきっかけは、中学2年生のころに観た『未来少年コナン』です。世界観が非常に鋭い切り口で、キャラクターやアクションが刺激的で、全体の構成が一貫していて、ひとつの世界を緻密に構築している。そのことに衝撃を受けました。そしてこれを産み出した人はどうやら、“演出”とクレジットされている宮崎駿という人らしい、ということを知りました。アニメを作った人の凄みを感じたのはそれが始めてでしたね。その後もアニメブームを作った様々な名作達に触れて、刺激を受けました。
ただ、学生のころは職業としてのアニメ制作は人生のビジョンになく、建築業界に就職しました。元々、絵を描いたり空間を作ったりするのは好きでしたので。そして、入社3年目の夏に、当時の『アニメージュ』にスタジオジブリで研修生を募集するという記事が載りまして、学生時代の友人に応募を勧められました。その時、自分の中で「アニメに対する思いにひと区切りつけたいな」と思ったんですね。落ちたら自分は観客に徹しよう、受かったら、今の仕事を辞めてアニメの世界に行こうと覚悟を決めて。すると、「受かりました」と、職場の方に直接電話がかかってきて(笑)。すぐに部長のところに行って仕事を辞めて、演出の研修生としてジブリに入ることになりました。
――そうしてスタートしたキャリアの中で、本作の原型が出来ていくわけですね。
きっかけは研修生だったころに観たドキュメンタリー番組です。大河を旅する大きめの貨物船の中に、沢山の人が暮らしているという。港で人が降りていったり、新たに乗っていったり、小さなボートが移民船に横付けして、そのまま果物を売ったり……。船と船がくっ付くっておもしろいな、と思ったのが原点ですね。
そこをスタートに、大海原を舞台に、大きい船同士が寄り集まっていくと楽しいんじゃないかな、と。移動する船の上で暮らすって、不安でもあるけれどワクワクもする。そういう世界の作品を描きたいと思いました。いっそ陸地もなくして、全部海の世界にすれば、陸地が失われると何が不便なのか、そもそも我々は何に拠って生きているのか、ということもより明確に描けるんじゃないか……というのが、『ガルガンティア』の基になった僕のプロット『城塞船団都市ガルガンチュア』です。最初に着想してから20年くらい経過していますね。船団都市、というものが具体的な映像イメージになったのは『プラネテス』をやっていたころですので、10年ほど前になります。
▲TVシリーズ第5話“凪の日”より。 |
――その間に「やられた!」と思ったことなどはなかったのでしょうか。
『プラネテス』の直後に参加した『絢爛舞踏祭 ザ・マーズ・デイブレイク』で「舞台は海の惑星」と言われて「先にやられてしまった!?」と思いました(笑)。でも、移動して暮らしてはいなかったですよね。移動して暮らす物語といえば『キングゲイナー』や『ハウルの動く城』で、これも「やられたかも……」と思ったんですが、富野由悠季監督や宮崎監督と僕とでは、やはり見せたいもの、描きたいものが僕とは違う。
少し古くなりますが、映画『ウォーターワールド』もありましたね。物資がない中、海の上で生きていくことをリアルに描いていたんですが……でも、あの世界で暮らしたいとは思わないじゃないですか(笑)。僕は逆に、そう思える作品を作りたかった。いろいろな方が素晴らしい作品を作っているけれど『ガルガンチュア』には抵触してこなかったんです。「いける」と思いましたね。自分の中で「負けた、やられた」と思ったら諦めていたと思います。
▲TVシリーズ第8話“離別”より。 |
――そんな『ガルガンチュア』が『翠星のガルガンティア』となった経緯とは?
プロデューサーの平澤さんから「1クールでオリジナルロボットアニメを作りたい」というメールを頂戴したのが始まりです。テーマは“お仕事もの”。ちょうど自分自身も「仕事をするとは何か」ということを、広い意味を模索していた時期で、おもしろいと思って引き受けさせていただきました。
ただ、当時すでに虚淵玄さんによる、『Far Beyond Ocean 遙かなるオケアノス』という完成度の高いプロットが存在していました。これも水の惑星を舞台にしたものでしたから、この作品を作ってしまったら『ガルガンチュア』は世に出せなくなるのではないか、と。……自分自身が自分自身の作品の類似品を出してしまうことになりますから。
そこで、これまで『ガルガンチュア』として温めてきたアイデアをイメージスケッチとともにお見せしました。虚淵さんも「おもしろい」と言ってくださって。虚淵さんから新しいシリーズ構成があがってくるまで2週間とかかりませんでしたね。あのスピードとフットワークはすごかったです。そこから今の『ガルガンティア』の方向性が確定するまで1カ月もかかりませんでしたね。
▲TVシリーズ第13話“翠の星の伝説”より。 |
――完成したアニメは好評を博し、続編OVAが制作されることになりました。こちらが決まったのはいつごろなのでしょう?
続編制作が決まったのは、放送期間中ですね。もともと船団の生活や、ガルガンティア世界についてのアイデアはたくさんあって「13話の中には入りきらないよ!」と思いながら作っていたので、OVA制作が決まった時はうれしかったです。
――OVAを制作されるにあたり、気をつけたところとは。
OVAの舞台は本編終了の半年後ですが「皆、基本的に変わっていない」ことです。TVシリーズの後も船団はちゃんと存在していて、人々がそこで暮らし続けていた、という実在感。「久しぶりに会ったけど変わらないね」という、時間経過や成長はもちろんあるけど、その人なりの生き方が貫かれている感じですね。
例えばレドは船団の一員として目的を得て、チェインバーの残したメッセージをどうやって自分の人生の中で実現していくのか、ということを模索し、一方では人類銀河同盟と現在の地球、両方を知っている人間として何か生き方があるんじゃないか、という考えています。それでも、もちろん迷ったり悩んだりすることはあるにせよ、人間としてのブレはないという感じにしたいな、と考えながら制作しました。
▲OVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』前編より。 |
――OVAシリーズの根底にあるものはなんなのでしょうか。
TVアニメと同じく“仕事”ですが、人間が生きるということをもっと包括的に……広い視点で捕らえたいなと。生きる場によって生き方も違うし、その人が置かれている境遇によっても、同じ場に居ながらも生き方が異なってくる、そういう部分です。違う人生を背負った人々がそのガルガンティアの世界でともに生きている。その人たちを見ることによって、お客さんが自分の生活であったりだとか、人生であったりに立ち返って、何か照らし出されるものがあればいいな、と考えています。
――『スパロボ』ファンの皆さんにメッセージを。
『スパロボ』で『ガルガンティア』を初めて知ったという皆さん、ゲーム内でチェインバーやストライカーがどういう存在なのか、ということについて、アニメをご覧になることでより理解が深まると思います。同時にアニメ作品としても皆さんに楽しんでいただけるものになっていると思いますので、ぜひ機会があればアニメも楽しんでいただければと思います。
▲OVA『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』後編より。 |
■『翠星のガルガンティア ~めぐる航路、遥か~』後編 劇場上映概要
【公開館】シネマサンシャイン池袋 / 新宿バルト9 / 横浜ブルク13 / 川崎チネチッタ / 京成ローザ10 / MOVIXさいたま / MOVIX仙台 / 梅田ブルク7 / 広島バルト11 / 109シネマズ名古屋 / T・ジョイ博多 / ディノスシネマズ札幌劇場
(C)オケアノス/「翠星のガルガンティア」製作委員会
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