2015年4月3日(金)
スパイク・チュンソフトから、5月21日に発売されるPS4/Xbox One用RPG『ウィッチャー3 ワイルドハント』。本作を手掛けた開発者インタビューを掲載する。
『ウィッチャー』は、ポーランドの作家アンドレイ・サプコフスキ氏のファンタジー小説を原作とした作品。本作は魔物退治を生業とする“ウィッチャー”の1人・ゲラルトが主人公で、さまざまな人物の陰謀が渦巻く戦いの中へと身を投じていく。
『ウィッチャー3』は、前作の約35倍にも及ぶ広大なオープンワールド、最新ゲームエンジンが作り出す圧倒的な演出など、意欲的な要素がふんだんに盛り込まれており、海外では発売前から高い注目を浴びている。また、日本国内ではシリーズ初のフルローカライズという要素も見逃せないポイントとなっている。
今回のインタビューでさまざまな質問に回答しているのは、開発元のCD PROJEKT REDより、イングリッシュ・ライター/トランスレーターのトラヴィス・カリトさん、レベル・デザイナーのマイルズ・トストさん、ビジネス・デベロップメント・マネージャーのラファール・ヤキ、そして日本版発売元のスパイク・チュンソフトからローカライズ・プロデューサーの本間覚さん。インタビュー前に行ったプレイで判明した見どころや、クリエイターのアツい想いをお届けする。昨年11月に掲載したインタビューとあわせてご覧いただいたきたい。なお、インタビュー中は敬称略。
▲左から本間さん、トラヴィスさん、マイルズさん、ラファールさん。 |
――ゲームスタート時に“前作のセーブデータを引き継ぐシミュレーションをするか、否か”の項目がありましたが、こちらをONにした場合としなかった場合では、どのような変更点があるのでしょうか?
トラヴィス:クエストに出てくるキャラクターが変化したり、エピソードの結末までの経緯が変わったりします。過去のシリーズでは初代『ウィッチャー』のセーブデータがあると『2』で序盤に強い武器が手に入るという特典がありましたが、現時点ではそこまで大きな影響を与えるものは用意していません。ゲームの難易度が変化するという要素はないので、前作を遊んでいる人は引き継ぎを、そうでない人は引き継がずにプレイするのがオススメです。
▲画像は『ウィッチャー2』のスクリーンショット。『ウィッチャー3』は、前作をプレイしていない人でも違和感なくプレイできるタイトルに仕上がっている。 |
――主にストーリー面で変更があると。
マイルズ:最初のチュートリアルが終わって少し進むと、ある会話シーンが用意されています。そこでは主人公のゲラルトが過去にどういった行動を行ってきたか、という質疑応答のようなシーンがでてきます。そこで過去作での経緯や結果がゲームの中にフィードバックされていく、といった形になっています。
――ストーリーの注目ポイントは?
トラヴィス:“ゲラルトという男の生き様”ですね。過去の作品でゲラルトはいろいろな旅をしてきましたが、今回はゲラルトの“本当に大事な人”にスポットを当てています。ゲラルトはそういった人たちを助けたり、せまる危険を排除したりといったところが重要なポイントになっています。序盤のトレーラーにありますが、最初はイェネファーという人物を探して、その後はシリを探して……というようにストーリーが展開していきます。そんな中でゲラルトが真に大切と感じるものは何なのか? 彼自身はどう考え、どう行動していくのか? そういった生きざまに注目してもらいたいですね。
▲強力な魔法を使うイェネファー。ゲラルトとは以前に愛し合っていた過去を持つ。 |
――お気に入りのシーンがあれば教えてください。
トラヴィス:ネタバレになるので詳細は語れませんが、気に入っているのは、冒険を通じて出会った人たちと再会する場面です。そこで交わされる会話はそれまでの行動によって大きく変わるため、何度プレイしても新鮮な気持ちで遊べます。また、それまでの選択が見事に一点に集約されている、というシナリオ展開も気に入っているところですね。
――本作はマルチエンディングと聞いていますが、そこに至る過程も大きく変化するのですね。
トラヴィス:マルチエンディングだけじゃなくて、要所要所でさまざまな演出の違いがあります。特定のキャラクターがいたりいなかったり、といった感じですね。クエストを達成しているかどうか、そのクエスト中でどう行動したかなど、プレイヤーの選択がゲーム中あらゆる場面で話の流れに影響を与えています。
――クエストはどういった形で進めるのでしょうか?
トラヴィス:直接依頼を受けたり、掲示板の依頼をこなしたり、いろいろなパターンがあります。基本的には時間経過でクエストが消えることはないので、気になるものを自分のペースで進められるように設計しました。本作はオープンワールドRPGですし、プレイヤーのみなさんには自由に広大な世界を冒険してもらいたいので、あるクエストを進めるにはこのクエストをやらなければいけないというものは極力少なくしました。
――クエストを達成するメリットは?
トラヴィス:基本的には経験値やお金を得ることになります。中には特定の建物や、一部エリアへの移動が解放されるといったクエストも用意されているので、クエストを見つけたら積極的にクリアしてほしいですね。
――掲示板ではクエスト以外にもさまざまな情報が入手できました。
トラヴィス:掲示板の内容は時間の経過によって異なります。そのため、こまめにチェックしておくと思わぬ情報が手に入ることもあります。ただ、ごく一部の例外を除いて時間経過でクエストが受けられなくなるといったデザインにはしていないので、そこは心配しないでください。話は変わりますが、時間経過によって変化するものは意外と多く、ゲラルトのヒゲも時間で伸びていきます。なので、ゲーム内には床屋なども用意されています。
――本作でプレイアブル化となったシリですが、彼女の物語はどのぐらいのボリュームになるのでしょうか?
▲古代エルフの血をひく末裔のシリ。謎の軍勢“ワイルドハント”と、地上で強大な武力を有する“ニルフガード帝国”の両者から追われている。 |
トラヴィス:プレイヤーの選択やプレイ状況にもよりますが、5~10時間ぐらいになると思います。ゲラルトはシリを探しており、いろいろな情報を集め、ある程度シリの足跡が判明した時点で、シリをプレイできるようになります。その際、実はシリはこういう行動を行っていたということをシリの視点で楽しめるというのが興味深いところだと思います。
――シリもゲラルトのように自由に冒険できるのでしょうか?
トラヴィス:それは残念ながらできません。ゲラルトはオープンワールドを自由に冒険できますが、シリはどちらかというと一本道なゲームプレイになっています。シリとして自由に世界を探索するのではなく、彼女がこういう行動をしていたという、答え合わせ的な流れで進んでいきます。ただ、短調にならないように戦闘の要素をゲラルトとはガラッと変えています。例えば、ゲラルトは攻撃をジャンプで回避しますが、シリはテレポート能力を持っているので、辺りを飛び回りながら攻撃するといった感じですね。ゲラルトよりもアクション寄りの戦闘を楽しめると思います。
――シリのサイドクエストなどはあるのでしょうか?
トラヴィス:特定のサイドクエストはありませんが、シリはさまざまなクエストに関係しています。ゲラルトの大きな目標の1つがシリを探すことで、彼女の情報を得るためにゲラルトはさまざまなクエストを実行することになります。そしてクエストを達成すると、シリがこの時に何をしていたかという情報を入手できるので、ある意味でほとんどのクエストに彼女が影響していると言えます。
――戦闘アクションで前作からの変わった点はどこでしょう?
ラファール:大きい変更点は各アクションが強化可能になり、アクションのパターンが増えていくことです。いわゆる魔法にあたる“印”の場合、別モードが用意されており、アンロックすると違った使い方が可能になります。例えば前方に衝撃波を放つアードの印の場合、別モードでは360度の全方位攻撃に変化します。
▲炎を放ち、敵を攻撃する“イグニの印”。前方に円錐状の炎の渦を発生させる呪文で、強化すると右の画像のように炎の渦を一点に集約させて集中攻撃が可能となる。 |
――各アクションがパワーアップしていくと。
ラファール:上位互換ではないのがポイントの1つです。イャーデンという印の場合、あるモードでは敵の動きを制限する罠を広範囲に設置します。別モードに変更すると、範囲が小さくなるかわりに敵を一定時間動けなくさせる効果が得られるので、状況に応じて使い分けていくことが重要になります。
マイルズ:剣の場合、通常の連続斬り以外に、回転しながら全方位を攻撃する“回転剣舞”を使えるようになります。発動には条件がありますが、非常に威力が高く頼れる技なのでぜひ使いこなしてもらいたいですね。
――ウィッチャーの流派について教えてください。
ラファール:ウィッチャーにはさまざまな流派があり、それぞれ得意とする能力が異なります。主人公は狼流派に属しており、この流派は、ウィッチャーの本分である怪物退治を得意とした能力を獲得しています。別の流派の1つに猫流派がありますが、こちらは主に暗殺に特化した育成を行っていました。同じウィッチャーでも情報交換などは行っておらず、個別に流派を成長させてきた、という経緯があります。
――他の流派のウィッチャーが登場することはあるのでしょうか?
ラファール:ゲーム中の世界では、狼流派以外のウィッチャーはほとんど残っていないというのが現状です。ウィッチャー自体は人体変異を経たミュータントなので寿命は長いのですが、どの流派も死と隣り合わせの危険な生業に就いているため、どんどん数を減らしていきました。前作『2』で蛇流派のウィッチャーが登場してきましたが、彼らはあくまで数少ない生き残りでしかありませんでした。
マイルズ:本作では、少し違った形で他流派のウィッチャーと交流する場面が用意されています。例えば猫流派のレジェンド的なウィッチャーの足跡をたどるクエストが用意されています。このクエストをクリアするとボーナスが設定された装備を入手できる他、そのクエスト中には流派が絶滅したバックグラウンドも語られます。プレイヤーは強力な装備品を集めながら過去を探る、というのが本作での他流派とのかかわり方になります。
――猫流派以外にはどのような流派があるのでしょうか?
マイルズ:特徴的なのはグリフィン流派ですね。この流派は印の使い手だったため、装備には印の力を強化するボーナスが付与されています。このように、プレイヤーのスタイルに応じて装備を変更しながら進めていくことがポイントの1つです。
トラヴィス:習得できるアビリティの中には“グリフィン流派の技術”があります。これはグリフィン流派の装備をしているとボーナスが発生するので、アビリティと装備の組み合わせも重要になります。
――プレイヤーのスタイルによって有効なアビリティや装備が異なるわけですね。
ラファール:スキルやアビリティのツリーの中には、近接戦闘用のものや印、錬金術があります。近接戦闘のスキルを強化していくと、当然ながらゲラルトは剣を使った攻撃が得意になります。
マイルズ:近接戦闘用のアビリティもいくつか種類があり、“小攻撃”のカテゴリを強化すると敵をほんろうするような素早い攻撃を鍛えられ、“大攻撃”のカテゴリを強化すると、一撃の威力が高くなるといった恩恵があります。
ラファール:私は印を使った戦闘が好きなので、印を強化して遊んでいます。錬金術はテクニカルで難しいですが、強力な霊薬を作れるようになると、瞬間的にゲラルトの能力を強化できるので、そういったプレイも楽しいと思います。
マイルズ:錬金術は使い方によってすごいポテンシャルを秘めているので、アクションに自信がある人にはぜひ挑戦してもらいたいですね。
――平均して強化していく万能タイプはどうでしょう?
ラファール:もちろんアリです。多くのプレイヤーが万能型を選ぶと思います。剣も印も使えると万能型ですね。狼流派の装備はバランス型に適しているので、ある程度いろいろなことをしたい人は狼流派の装備がオススメですよ。
――キャラクターの強化に悩みそうですね。
トラヴィス:アビリティポイントはレベルアップ以外にもあります。例えば、フィールドにある“力の場”を調べるとポイントが付与されます。また、スキルをリセットする要素もあるので、あまり気構えずに強化を楽しんでください。
――経験値はやはりモンスターを倒して稼ぐのでしょうか?
ラファール:経験値を稼ぐ主な手段は、クエストをクリアしていくことになります。ザコモンスターを倒してレベルが簡単に上がってしまうと、メインクエストでの戦いが物足りなくなってしまいかねないので、こういう形にしています。なので、もしモンスターを倒してレベルをマックスにしようとすると、世界中からモンスターがいなくなるかもしれません(笑)。
――なるほど(笑)。モンスターはどれぐらいの種類がいるのでしょうか?
トラヴィス:正直なところ我々もモンスターの数をキチンと把握できていません(笑)。このゲームにはベースとなるモンスターの種族があり、種族ごとに見た目やステータスが異なるバリエーションが用意されています。
また、その中に固有の名前を持つボス的なモンスターもいて、出会った際は他のモンスターとは異なるチャレンジングな戦闘に挑むことになります。ゲーム内の辞典には倒したモンスターの情報が記載されるのですが、ボス格のモンスターには個別の項目が用意されているので、モンスターのバッググラウンドも楽しんでもらえるとうれしいです。
――注目の新システムはありますか?
マイルズ:アイテムや装備を作るクラフトですね。本作に登場する職人にもレベルが設定されていて、作れるものが異なります。高性能なアイテムを作成するには上級の職人に依頼する必要がありますが、彼らは普通にプレイしていても会えません。特定のクエストをクリアする必要があるので、ぜひ探してみてください。
――錬金術に関しても調整されているということですが……。
マイルズ:錬金術に関しては、一度作成したアイテムは以後の補充に必要な素材が少なくなっています。これによりポーションなどのアイテムを気軽に使えるようになっているので、錬金術をからめた戦術はハードルが低くなりました。先ほど話した通り、剣や印に比べて錬金術はややテクニカルですが、使いこなせれば非常に強力な攻撃手段となります。クラフトと錬金術というこれまでおざなりになりがちだった要素をテコ入れしているので、プレイヤーの皆さんに挑戦してもらいたいですね。
――職人と言えば、街の住民やショップ店員など、登場人物の顔や装備のバリエーションがとても豊富だと感じました。
ラファール:NPCをデザインするうえで顔や体のバリエーションがいくつかあって、それを組み合わせて作っています。しかし、同じ人物がいないように商人、釣り人のように仕事にあわせた衣装も用意しました。もちろん主要キャラクターは100%オリジナルで作られています。
――話を聞くことが楽しみになりそうです。最後に、日本語ローカライズを含めて本作の手ごたえをお聞かせください。
ラファール:本作は日本人に受け入れられやすい要素が多いと考えています。世界観は剣と魔法をベースにした王道ファンタジーで、そこで繰り広げられるストーリーはゲラルトが愛する人たちを探すというわかりやすいものです。また、日本語のボイスも特徴の1つ。他の言語圏では声優業は副業と考えられていますが、日本ではプロフェッショナルな仕事として認知されています。吹き替えのクオリティは間違いなく日本語版がトップなので、そこにも期待してもらいたいです。
マイルズ:我々開発陣は、日本のユーザーを含め、世界中の人に手に取ってもらえるように最後の最後まで調整しています。もちろん日本語ローカライズのチームも同じぐらい努力しているので、ゲラルトとその仲間たちの冒険を楽しんでもらえるとうれしいです。
トラヴィス:私はポーランド語から英語へのローカライズを行いました。他のローカライズチームとも一緒に仕事していましたが、日本語版は他のバージョンよりも細部にまで時間をかけて開発していると感じているので、日本のユーザーに受け入れられるものだと信じています。
ラファール:今回、印象的だったことがあります。ローカライズの作業で本間さんが我々の開発現場に来ていた時、ちょうどそれまでバラバラだったパーツがゲームとして組み上がり、最初から最後までプレイできるようになっていました。そして完成した『ウィッチャー3』を開発した我々ではなく、日本人である本間さんが世界で一番最初にクリアされました。ポーランドで作っているゲームを日本人が一番初めにクリアするというのは、とてもおもしろいことですよね。ぜひ、日本の皆さんにも同じようにプレイしていただきたいです。
▲日本とポーランドを行き来しつつ、ローカライズを手掛けた本間さん。“FIRST MAN IN THE WORLD TO FINISH THE WITCHER3(世界で最初に『ウィッチャー3』を終えた男)”と書かれているTシャツは、世界で1枚しかないものだ。 |
本間:本作のローカライズにあたって、テキストの翻訳や日本語音声の収録はもちろん、デバッグに至っても、可能な限り自分の時間を割き、ゲームのすべてに目を通すよう努力してきました。この素晴らしい作品を、海外と同じタイミングで、かつ可能な限りよい状態で日本の皆様にお届けできればと思います。
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