2015年4月11日(土)
現実の街を歩き回りながら全世界スケールの陣取りゲームを繰り広げる、iOS/Android用アプリ『Ingress(イングレス)』。このゲームを企画・運営しているのが、Googleの社内スタートアップ(企業として立ち上げられた新事業)であるナイアンティック・ラボです。
同社の創業者であるジョン・ハンケ氏が、3月28日に京都で開催された『Ingress』の大規模イベント“証人XMアノマリー”に合わせて来日しました。
来日に際し、ハンケ氏にインタビューを行い、『Ingress』についてはもちろんのこと、次回作として現在準備中の新作アプリ『Endgame(エンドゲーム)』の内容についても、詳しいお話を聞くことができました。
▲ナイアンティック・ラボの創業者であるジョン・ハンケ氏(写真右)。取材時には同社の川島優志氏(写真左)も同席して、こちらの質問に答えてくれました。 |
『Ingress』を簡単に説明すると、プレイヤーが青(レジスタンス)と緑(エンライテンド)という2つの陣営に分かれて、スマートフォンの地図上に表示される無数の“ポータル”を奪い合う陣取りゲームです。
ポータルは現実世界に存在する建物や石像、看板などとリンクする形で設定されており、プレイヤーは自分の足でその場所を訪れることで、ポータルの占拠や破壊を実行できるのです。
そのためエージェント(『Ingress』のプレイヤー)は、スマートフォンを片手に街や公園を散歩するという、一見するとゲームをプレイしているとは思えないスタイルで参加することになります。詳しい紹介は“電撃Appアワード2014”での紹介記事をご参照ください。
全世界でサービスが行われている『Ingress』では、日ごろから2つの陣営が世界規模の勢力争いを続けています。それに加えて世界各地の都市を舞台にして、大規模な対戦イベントも行われています。3月28日に京都で開催された“証人XMアノマリー”もその1つです。
――日本で『Ingress』の大規模なイベントが開催されるのは、2014年12月のDarsana東京に続いて2回目ですが、その舞台に京都を選ばれた理由は?
ハンケ:それは京都が、美しくて長い歴史を持つ都市だからです。『Ingress』のアイデアの根幹には、日常のすぐそばにある歴史的な建造物や石碑などを、多くの人に知ってほしいという考えがあるんです。
京都にはそういったものが本当にたくさんありますから、『Ingress』にとって究極の土地だと言えるかもしれません。美しい街の中をただ歩き回るだけでも、十分に楽しめますよね。
また、ゲームに登場するエンライテンドの哲学は、禅や仏教の思想から影響を受けているんです。そういう意味でも、京都という街の雰囲気はこのゲームにふさわしいと思います。
川島:それから京都には、非常に素晴らしいプレイヤーのコミュニティが存在していることも、大きな理由になっています。『Ingress』には、プレイヤーのみなさんが自分たち自身で運営するイベントというものがあるのですが、京都のコミュニティはその最初のイベントで世界一の成績を上げたんですね。
ハンケ:明後日の“証人XMアノマリー”(※取材はイベント2日前の3月26日に行われました)と同時に、全世界で繰り広げられていた“シャードゲーム”も決着します。日本では“玉転がし”といった形で呼ばれているんですよね?
ここで“シャードゲーム”について解説しましょう。『Ingress』の背景ストーリーでは、XM(エキゾチックマター)と呼ばれる未知のエネルギーをめぐって2つの陣営が対立しているのですが、その戦いのカギを握る古代の石が31の破片(シャード)となって、世界中のポータル上に散らばってしまいました。
両陣営のエージェントたちは、ポータルのリンクを使ってこのシャードを移動させて、自陣営の目標地点まで運ばなければなりません。つまり“シャードゲーム”とは、全世界のプレイヤーが連携してマップ上でシャードを運んでいく、壮大な玉転がしというわけです。
ハンケ:ゲームのファンが、シャードがどのように世界中を移動したかというマップを作ってくれたのですが、これを見ると、日本列島の上をシャードが5個ほど移動しています。シャードの運搬では、日本でも“オペレーション・ディープ・フライドチキン”の激闘が繰り広げられたと聞いています(笑)。
――えっ!? “オペレーション・ディープ・フライドチキン”というのは?
川島:シャードがちょうど、東京都内の唐揚げ屋さんのところに設定されたポータルに移動したんです。両陣営のエージェントがそこに集まって、お店の唐揚げを食べながらずっと戦っていたので、しばらくの間、シャードがそのポータルにとどまり続けていたことから、この名前がつきました(笑)。
――なるほど(笑)。
ハンケ:今回のシャードゲームでは、南極大陸を除くすべての大陸の上を、シャードが移動しています。なかにはシャードを運ぶために、わざわざ雪山の頂上に登ってくれたプレイヤーもいました。
現時点(3月26日)では、レジスタンスが4個のシャードを自陣に運んでいるのに対して、エンライテンドは0です。でもスコアが拮抗しているので、最終結果はまだわかりませんね。
そして3月28日に“証人XMアノマリー”が開催された結果、京都の攻防ではエンライテンドが勝利したのですが、全世界規模の戦いでは13個のシャードを自陣に運んだレジスタンスが勝利するという結果になりました。ちなみにエンライテンドが自陣に運んだシャードは0。
▲このようにアプリ内では、どちらの陣営が優勢かということを確認できます。 |
▲過去の戦績についても振り返れます。 |
この結果を受けてストーリーの背景にもさらなる変化が起こり、次の大規模イベントに向かって物語が進んでいくことになるわけです。
続いては、ナイアンティック・ラボが次回作として準備している新作ゲーム『Endgame』について聞いてみましょう。『Endgame』はモバイルゲームだけでなく、多彩なメディアによる展開が予定されています。
なかでもジェイムズ・フレイ氏が執筆した小説『エンドゲーム ザ・コーリング』はすでに日本をはじめとする世界30カ国で出版されている他、ハリウッドでの映画化も決定しています。
また、小説の物語や挿絵などに隠されたヒントから謎を解くと、優勝者が50万ドルの相当の金塊を獲得できるというキャンペーン、ウェブサイトなどに散りばめられた手がかりからプレイヤー自身が物語の世界に入り込むARG(代替現実ゲーム)『Endgame: Ancient Truth』など、ゲーム的な展開も多岐に渡っているのが特徴となっています。
そして、これらすべての背景には、共通のバックグラウンドストーリーが用意されているのだそうです。
ハンケ:今から数千年前、地球にエイリアンがやってきて、人類とコンタクトしました。エイリアンと接触した人類の命脈は、12の血族として現在まで受け継がれています。人類の運命を賭けた“エンドゲーム”が始まると、12の血族をそれぞれ代表する人間が、最後の勝者となることを目指して、互いに戦いを繰り広げるのです。
2015年夏からベータ版がスタートする予定のアプリ『Endgame:Proving Ground』では、プレイヤーはこの12の血族のうちいずれか1つに属して、他の血族のプレイヤーと戦うことになります。
ハンケ:プレイヤーはまず12の血族のうちどれか1つを選び、自分の性別を決定したら、それぞれの血族ごとに設定されているアバターの中から、自分の好きなものを選択します。このアバターのファッションなどは、それぞれの血族の歴史や文化を反映したデザインとなっています。
下の画像より、上段は12の血族の1つ“クーリ”、下段は“ミノーン”のアバターです。アバターの服装や髪型は、現実に存在しそうなリアルなものとなっていることがわかります。
▲アバターのデザイン画。 |
同じく下の画像より、上段は“ドンフ”、下段は“シャン”のアバターです。ドンフは中央アジア、シャンは中国の文明がベースになっている血族という設定のため、ファッションにもそうした雰囲気が反映されています。
▲アバターのデザイン画。 |
公式サイト(AncientSocieties.com)では、各血族の特徴やシンボルマークが紹介されています。ちなみに日本の周辺には、太平洋に沈んだ古代文明の末裔である“ムー”が存在していますが、プレイヤー自身がどの血族を選ぶかは、完全に自由になっています。
ハンケ:ゲームは位置情報を利用した『Ingress』に似たもので、プレイヤーは『Ingress』のポータルのように、現実世界に設定された“キーサイト”を訪れる形になります。それぞれのキーサイトには支配している血族が必ずいるので、同じ血族のプレイヤーはトークンを置くことができます。
『Ingress』と異なるのは、他の血族がキーサイトを奪いに来た時です。『Ingress』ではポータルに配置されている敵のレゾネータに攻撃を行い、プレイヤー同士が直接戦うことはありませんでした。
それに対して『Endgame』では、キーサイトを攻撃するプレイヤーと防衛するプレイヤーとの間で、1対1のバトルが発生するのです。複数のプレイヤーが共同して攻撃してきた場合は、1対1のバトルがいくつも同時に行われることになります。
キーサイトを攻撃する際には、その場所へ直接出かける必要がありますが、防衛する側はその必要はありません。トークンを置いているキーサイトが攻撃されると通知が来るので、どこにいても防衛戦に参加できます。
忙しくて防衛戦に参加できない場合は、同じキーサイトにトークンを置いている他のプレイヤーが代わりに戦います。誰も戦ってくれない場合はAIが代わりに戦いますが、AIは本物の人間ほど強くはありません(笑)。
もし防衛戦に敗れてキーサイトが奪われたら、奪い返すためにはそのキーサイトがある実際の場所へ出向かなければなりません。
――1対1のバトルについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
ハンケ:バトルのシステムは、トレーディングカードゲームに近いものとなっています。プレイヤーは、自分の血族が支配しているキーサイトを訪れるたびに、さまざまな“オブジェクト”を入手できます。
例えば銃やナイフ、槍といった武器から、毒や爆弾、そして回復パックや防具まで、数百種類ものオブジェクトがあります。1対1のバトルが発生すると、プレイヤーは自分が持っているオブジェクトの中から20個を選び、それらを組み合わせて戦うことになります。
▲オブジェクトのデザイン画より、“ハラッパン”の短剣と“シャン”のピストル。オブジェクトにはすべての血族が使用可能なものだけでなく、それぞれの血族で固有のものもあるとのこと。 |
ハンケ:バトルの進行はターン制になっていて、プレイヤーの行動には“フォーカス”と呼ばれるポイントを使用します。武器の装備、敵への攻撃、防御のムーブなど、限られたフォーカスを割り振ることで、そのターンの行動を実行するのです。
武器にもいろいろな種類があって、威力は弱いけれどフォーカスの消費が少なくて素早く攻撃できるもの、逆に強力だけどフォーカスの消費が多くて時間がかかるものといった具合に、それぞれ特徴が異なります。
どの武器や防御をどのタイミングで使用するかという戦略が、バトルの勝敗を左右するのです。ちなみに1回のバトルは、2分程度で決着がつくようになっています。
▲オブジェクトのデザイン画より、“ハラッパン”の指輪とペンダント。ペンダントの説明には「シヴァの爆弾」と書かれているようだが……。 |
取材時には、バトルの様子を描いたアニメーション映像を見ることができました。上で紹介しているリアルなシルエットのアバターが、1対1で向き合って戦うというRPGのようなスタイルの画面になっており、『Ingress』よりもずっと“ゲーム的”な雰囲気となっていました。この点については、意図的なものでもあるようです。
ハンケ:『Ingress』は非常に好評を得ていますから、そこでうまくいった点は『Endgame』にもとり入れたいと思っています。たとえばシャードゲームのようなイベントは、本作でも予定しています。
とはいえ、同じものをまた作るというのも、おもしろくありません。『Endgame』では1対1のバトルを導入することで、現在『Ingress』をプレイしている層とはまた異なる、ゲーマーのような人たちにもアピールしたいと考えています。
自宅で対戦型のゲームを遊んでいる人たちが、このゲームに参加することで屋外を歩き回って、他のプレイヤーと直接出会う体験を楽しんでもらえるようになればうれしいですね。
――『Ingress』では、プレイヤーが経験を重ねることでレベルアップしていきましたが、『Endgame』ではどうなるのでしょうか?
ハンケ:『Endgame』では、プレイヤーにレベルは存在しません。トレーディングカードゲームのように、強力なオブジェクトをより多く集めることが、そのプレイヤーの強さを表す指標になります。
1つのキーサイトには数十個のトークンを置くことができますが、多数のトークンが置かれるとキーサイトがレベルアップして、よりレアで強力なオブジェクトを得られるようになります。自分の血族が高レベルのキーサイトを支配して、そこからレアなオブジェクトを得ることが、勝利へとつながるのです。
――『Ingress』ではプレイヤーが2つの陣営に分かれていますが、『Endgame』では12の血族に分かれるということは、プレイヤー同士がかなり複雑な関係になるのでは?
ハンケ:実際のゲームでは、4つの血族が手を組んだグループが3つ存在することになります。ただしこの同盟関係は、数カ月ごとに組み替えられます。これによって、昨日の友人が明日は敵になるといった、ソーシャルな関係が生まれるはずです。
――『Endgame』は2015年夏にベータ版が開始されるとのことですが、その参加方法は?
ハンケ:公式サイトのAncientSocieties.comに登録して、そこで行われているインタラクティブな謎解きに挑戦してください。その結果、ポイントを獲得してリーダーボードの上位にランクインできれば、ベータ版に招待される可能性があります。
▲公式サイトでは神秘的な女性“ステラ”の案内で、古代文明の真実や彼女の生い立ちに関する謎を解き明かしていく形で、『Endgame』の背景ストーリーが語られています。サイトの文章はすべて英語ですが、動画には日本語字幕も用意されています。 |
さて、最後は『Ingress』の今後について聞いてみました。今後の大きなトピックとしては、Googleのスマートウォッチである“Android Wear”への対応が予定されているそうです。
ハンケ:ナイアンティック・ラボが本格的に立ち上がった3年前から、私たちはウェアラブルデバイス(腕時計、眼鏡などの装着型コンピュータ機器)を念頭に置いていました。ゲームはコンソールからモバイル、そしてウェアラブルデバイスへと進化していくと考えたのです。
特にスマートウォッチの製品が市場にいくつも登場し、ようやく環境が整ってきたことをうれしく思っています。
私たちは『Ingress』だけでなく、『Field Trip』というアプリもリリースしています。これは自分の周囲にある興味深い場所の情報が、自動的に送られてくるというものです。まず『Field Trip』のAndroid Wear版が、4月の後半に配信される予定です。
――『Ingress』のAndroid Wear版はどうでしょう?
ハンケ:そちらも5月の中旬から下旬にはリリースする予定です。『Ingress』のAndroid Wear版は、スマートフォン版とリンクすることでプレイが可能です。
ポータルのハックや攻撃、レゾネータの配置といったよく使う機能が、スマートウォッチをタップするだけで実行できるようになります。スマートウォッチでプレイですれば、スマートフォンを見ながら歩き回っているところを、他の誰かに見られることもなくなります(笑)。
また将来的な機能としては、スマートウォッチにポータルが攻撃されている通知が来ると、その場でレゾネータをリチャージできるようになる予定です。大事な会議やディナーの途中でさりげなくリチャージするということも可能になりますよ。
――最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
ハンケ:外を出歩くには絶好のシーズンになりましたから、『Ingress』のプレイをきっかけにして、どんどんと屋外を歩き回ってもらえればと思います。
▲『Ingress』のグッズを手にしたハンケ氏と川島氏。今後は『Ingress』と『Endgame』という、タイプの異なる2つのゲームを楽しむことができそうです。 |
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