2015年4月18日(土)
昨年12月に発売されたXbox One用ADV『CHAOS;CHILD(カオスチャイルド)』のPS4/PS3/PS Vita移植版が6月25日に発売されます。
▲PSハード版『カオスチャイルド』通常版の仮パッケージイラスト。 |
Xbox One版発売後、インターネット上では“科学ADVシリーズの最高傑作”と評価する声もちらほら確認できた本作。トゥルールートまでクリアした感想としては、『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』などとはおもしろさのベクトルが異なるため、一概に最高傑作とは表現できないのですが……確かにかなりおもしろかった!
▲シナリオ量3MBとかなりの大ボリュームにもかかわらず、あまりダレることなく展開する物語は圧巻。 |
▲徐々に日常が浸食されていく“じわじわくるおもしろさ”が続く8章くらいまでは好みが分かれそうですが、そこからの展開は衝撃の連続で止め時がわかりません。トゥルーまでプレイを進めれば、私のようにスタッフロールで自然と拍手してしまうでしょう。 |
個人的には2014年に発売されたADVの中でトップクラスにおもしろい“魂のゲーム”だと感じました。それが移植されるとあっては、特集しないわけにはいきません。ということで、PSハード版の発売を記念して、本日より『カオスチャイルド』のインタビューミニ連載をお届けします。
連載第1回は、松原達也プロデューサーと松本裕介ディレクターに伺ったゲーム全体のお話です。開発経緯やXbox One発売後の手ごたえ、販売本数、移植の理由、PSハード版の限定版特典、アニメ化のお話などいろいろお聞きしましたので、オールクリア済み・未プレイ問わず、ぜひご注目ください!
▲プロデューサーの松原達也氏(写真右)とディレクターの松本裕介氏(写真左)。雰囲気を出すために、あえて力士シールで顔を隠していただきました(笑)。 |
――まずは本作でお2人がどのような作業を担当されたのか、改めて教えてください。
松本:僕は進行管理をメインに行っておりました。その他にもボイス収録の立ち会いやシナリオライターさんとのやり取りも担当しました。
――松本さんは、もともとは『メモリーズ オフ』シリーズを担当されていましたよね。
松本:はい。『メモリーズオフ ゆびきりの記憶』まで担当した後に、科学ADVシリーズの制作チームに入りました。メインでナンバリングタイトルのディレクターを担当したのは今回が初めてですが、『シュタインズ・ゲート』のPS3版や『カオスヘッド らぶChu☆Chu!』のPS3版、『カオスヘッド ノア』のPS3版など、科学ADVシリーズの移植系を担当していました。
――松原さんはいつものように“なんでも屋”という感じですか?
松原:私はプロデューサーなので、企画やスタッフの選定、予算関係は当然のこととして、ご存じのとおり“なんでも屋”なので、ゲーム内の演出用のムービーやCGを作ったり、地味なところだと立ちキャラシーンの空気感を整えるフィルター設定など、細かい作業もやっています。
ムービーで言うと、ゲーム冒頭の渋谷で爆発が起こるシーンや最初の事件“こっちみんな”で大谷の手が赤く染まってカメラがぶれるシーンなどをはじめとして、ゲーム内の演出で使われるムービーはほぼ私が作っています。。
あとは、当時の自分の中で「地図が描きたい。なんでもいいから地図を描かせて!」という地図ブームが起きていて(笑)、マッピングトリガーの仕様作成もかねて渋谷の地図をIllustratorで描いたり、店の名前を考えて配置したり、ということもやっていました。
▲第1の事件“こっちみんな”の被害者・大谷悠馬。“ニコニヤ動画”で生配信中に起こった事件で、カメラ目線で死亡したことからインターネット上でこの名前が付きました。 |
▲『カオスチャイルド』で初登場したシステム“マッピングトリガー”。主人公の推理にあわせてプレイヤーが事件の写真やメモを適切な場所に張り付けていきます。一部エンディングの分岐にかかわっていますが、プレイヤーの考えを整理するシステムという意味合いのほうが強いです。 |
――地図ブームは何がきっかけだったのでしょう。
『ロボティクス・ノーツ エリート』の開発時に種子島の地図を一部リファインしたのですが、その時に“もっと細かい地図を描きたい”と思い至りまして(笑)。多分、企画の外枠を埋めていく大きな仕事をやっていたので、ちまちました作業をやることで自分の中のバランスを取りたくなったんでしょうね。で、そのタイミングで、ちょうどマッピングトリガーの仕様を作ることになったんです。
事件にかかわる場所は本物に近い建物名にしていますが、物語にまったく関係ない端のほうのマンション名などは全部私の妄想です(笑)。実際にありそうな名前をどんどん考えていくのはおもしろかったですね。
――イチオシの名前は?
松原:ふざけた名前なのですが、コンビニの名前などは開発陣の名前をもじってつけているものもあります。MATSUMOTO MARTとか、『ロボティクス・ノーツ』のディレクターを担当した梶岡俊彦がモデルのOKAJIKAとか。
――全然気づきませんでした。ゲーム全体のインタビューなのに細かい地図の話からスタートしてしまいましたが、改めまして、『カオスチャイルド』開発の経緯を教えてください。
松原:当然、企画・原作の志倉からアイデアが下りてきて、それをまとめ上げていくという流れはシリーズ同様です。
その中でも今回こだわったところとしては、本シリーズの世界では渋谷が一度崩壊しているのですが、そこから復興している途中を描きたかったんです。住人たちの異様な熱気や、毎日のようにニュースで言われているであろう渋谷外に住む人からの「渋谷頑張れ」といった熱意みたいな雰囲気が出せればと。
▲科学ADVシリーズの世界では、2009年に渋谷で大地震が発生しています。『カオスチャイルド』では復興中の渋谷で物語が展開し、まさに渋谷地震を体験した人物たちのその後が描かれていきます。 |
そういった状況に置かれたキャラたちは、何を考えて行動するのか。情強(※1)を気取っている主人公の宮代拓留(みやしろ たくる)をそこに放り込んだ時に起こる物語の連鎖。それらを描けたらきっと楽しい作品になるだろうと思いました。
※1:情強……情報強者の略。逆に情報を仕入れるのが遅かったり、不正確な情報に踊らされてしまったりする人を情報弱者(情弱)と呼ぶ。
▲主人公は情強でリア充(※現実世界での生活が充実している人のこと。対義語にネト充がある)を自称しています。でも実際は……?(笑) |
――発表(2012年7月)から発売までにけっこう期間がありましたが、紆余曲折あったのでしょうか?
松原:ADVにとってグラフィックやシステムも大事なものなのですが、メインになるのはシナリオじゃないですか。シナリオがおもしろくないと、やっぱりADVはダメなんです。
先日の志倉の発表会で“PLOTALIZE”(※2)という言葉も出てきましたが、その“PLOTALIZE”を導入してどこをどうしたらもっとおもしろくなるのかを検証しながら試行錯誤していました。
※2:PLOTALIZE(プロタライズ)……MAGES.代表取締役の志倉千代丸氏が考案した脚本のクオリティを高めるためのシステム。デバッカーやテストプレイヤーなどのプレイ感覚などを独自のアルゴリズムで数値化し、テンションカーブを作成する。シナリオ的にだれている部分や伏線が回収されていない部分を可視化できる。
“PLOTALIZE”によって展開が弱い部分や遅い部分が視覚化されるので、そこを強化・改善するために連日会議を行って何度も何度も書き直してもらいました。時にはライターさんに社長室で執筆してもらったりもしました(笑)。
ライターさん的には脚本クオリティのハードルが上がりましたが、『カオスチャイルド』のシナリオ全体を見れば“PLOTALIZE”の効果は確かにありました。
――“PLOTALIZE”を用いない場合、脚本の緩急は見えてこないものなのですか?
松原:見えてはくるのですが、あくまでも感覚的なものになってしまいます。それが図式で表示され、理屈として明確にここが弱いと出てくるんです。
松本:これまで経験則でやっていたところをシステムでやれるようになったのは大きいです。
松原:今回は1発目ということでまだまだ発展途上のシステムですが、おそらく、今後はもっともっと洗練されていくと思います。きちんとモデル化までもっていって、他の作品にも応用していきたいですね。
――シナリオ量3MBとかなりのボリュームでありながらダレる部分がほぼなかった印象なので、“PLOTALIZE”の効果は確かにあったと思います。そんな大ボリュームのシナリオですが、執筆期間はどれくらいかかったのでしょう。
松本:シナリオだけで、まるまる2年以上かかりました。そのうちの大半がプロットを練っている時期で、そのプロットも二転三転四転五転ぐらいしています。最初のころなんて、序盤から宮代が能力を使えていたんです。
松原:当初は、第3の事件である“回転DEAD”が起こったホテルに入らずに、ホテルの外から携帯電話を能力で浮かせて部屋の中を撮影していました。
▲第3の事件“回転DEAD”。ラブホテルの回転ベッド上で起こった事件ということでこの名がつきました。主人公たちが現場を目撃する初めての事件です。 |
――そうなると物語を動かすのが難しくなってしまいそうですね。主人公が強すぎるとホラー要素も薄くなりそうですし。
松本:志倉をはじめスタッフ皆から意見を募って、“最初の宮代は弱くいこう”と今の形に落ち着きました。このような形で、シナリオを練っている時期が大半でした。
――2014年9月に3週間ほど発売延期が発表されましたが、その理由は?
松原:単純にクオリティアップのためです。アドベンチャーゲームは1カ月あれば別物のようにクオリティを上げることもできるので、体験版を配信した後に、遊んでくれたプレイヤーさんの意見も参考にしながら調整を行いました。立ち絵や表情が増えているなど、体験版と製品版で1章の中身がけっこう違います。
――体験版以外の部分も調整されたのですか?
松原:もちろんです。一度すべてを見直すぐらいの勢いでした。若林(※3)なんて倒れそうになりながら頑張ってくれていました。
※3:若林漢二氏……アニメーター。本作の演出を担当した。アニメ『劇場版 STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ』の監督も務めている。
――これほどこだわって作られた作品だからか、Xbox One版をプレイしたユーザーから“シリーズで一番おもしろい”という声もちらほら聞こえてきます。お二人の満足度や手ごたえはいかがでしょう。
松原:完成時の満足度は相当高く、過去最高のクオリティのゲームを作った自負はあります。ただ、『カオスチャイルド』の物語はものすごくクセがあるので、受け入れてもらえるかどうか不安でした。
評価としては、“おもしろいとつまらない”のどちらか一方に偏るだろうと思っていたので、全体的にいい方向に評価されて安心しています。作り手が全身全霊を傾けて作ったものはユーザーさんに響くんだと自信をもらえましたし、今回のような体制で物語を作っていけば、ちゃんと評価されることがわかって次回作へのモチベーションも上がりました。
▲脚本だけではなく、ゲームの構成要素すべてが高いレベルでまとまっている『カオスチャイルド』。科学ADVチームそれぞれの“魂”が込められています。 |
松本:僕はトゥルールートのラストがユーザーの皆さんに響くかどうかが本当に怖くて、ライターさんと何度もラストを変えるかどうかやり取りしたこともありました。結果的に、ビターで大人な物語が受け入れられてうれしかったですね。
――評価が高い一方で、本作があまり売れなかったという噂もあります。差支えなければ、現段階の販売本数をお伺いしてもよろしいですか?
松原:これはちゃんと言っておきたかったことなのですが、ネット上で言われている数字よりも数倍売れています(笑)。あの数字にはダウンロード版も含まれていませんし、おそらく集計方法の違いもあったのかと思います。
特に今のゲームの売れ方は超初動型なので、ADVなんて最初の1週間か2週間でランキングから姿を消してしまいます。それでも好評価の甲斐もあって地味に数字を重ねていき、今の現状があります。『シュタインズ・ゲート』の時もそうだったのですが、昨今のADVとしては珍しい売れ方だと思いますし、Xbox Oneのタイトルとしてはさらに珍しい売れ方になっていると思います。
▲クリアした人の評価が高いこともあり、じわじわと販売本数を伸ばしていったそうです。まだまだ全体数は少ないですが、評価を表す星の数は4.5個とかなり高めです。 |
――DL版は全体の何割くらいなんですか?
松原:昔は1割を超えればいいほうと言われていましたが、現在はだいぶ増えていますね。
――本作に限らず、DL版の割合は上がってきているのでしょうか?
松原:間違いなく上がっています。今世代機になってからだと思いますが、ユーザーさんのDL版への抵抗がだいぶなくなってきた印象です。
Xbox OneもPS4もPS Vitaもそうですが、DLしてすぐに遊べますし、ソフトを入れ替えなくてもいい利便性が今のプレイスタイルに合致しているんじゃないかと思っています。普段スマホでゲームを遊んでいる人、ある意味すべてDL版をプレイしていると言っても過言ではないので、その流れもあるでしょうね。
――話を戻しまして、ネット上では“おもしろい”という評判はよく目にしますが、ネタバレに関しては見たことがありません。本作のネタバレはまだ出ていないのでしょうか?
松原:どこかに出てはいると思いますが、あからさまなものだったり、SNS上だったりでは、自分の知る限りほぼありません。ブログなどで“ネタバレ注意”と明記したうえで書いている人もいらっしゃいますが、広まるような形で書いている人はほぼいらっしゃらないですね。
松本:とてもありがたいことだと思っています。
――ネタバレが危険なタイトルということで、発表・発売日含めてかなり早い移植となったのでしょうか?
松原:いえ、そういうことではなく、「Xbox Oneを持っていないけど遊びたい!」というユーザーさんの声が多く、それにお答えした形です。
発売日に渋谷で力士シールを貼って練り歩くイベントを行っていたのですが、その時に「本体は持っていないけどソフトだけ買いました!」という熱いユーザーさんもいらっしゃいまして。そんな熱いユーザーさんに我々ができる最速のスピードで移植版をお届けしたいと思い、今回のスケジュールでのリリースになりました。
半年後に3機種同時移植って、移植タイミングもそうですけど、制作スピードとしても相当頑張りました。
松本:いつもなら最初にPS3に移植して、しばらくしてからPS Vitaなどに移植していたのですが、3機種同時なんて初めてなので大変でした。
――移植の手間はどれくらいかかるものなのですか?
松本:けっこうな手間がかかりますが、そこをうまく共有化するシステムを組んでおりますので、スタッフが“頑張れば”短縮可能です!
――頑張れば(笑)。
松原:当然移植なので、グラフィックや音声などリソース面での素材は全部そろっているので、移植時に一番苦労するのは“いかにそん色なくオリジナルと同じものを再現できるか”、というところの作り込みなんです。共有化できるところは簡易に移植できるシステムができているので、今回のスピード感につながっています。
――今後はXbox Oneで先行、または独占で発売というやり方は少なくなっていくのでしょうか。
松原:作品によると思います。Xbox Oneで先行発売したほうがいいタイトルであれば必然的にそうなりますし、その時々での会社の判断によりますね。
――ちなみに、3機種で仕様の違いはありますか?
松原:それぞれ解像度の違いと、PS4版は電話のシーンでコントローラ側から音声が出るようになっています。
松本:PS Vitaはタッチ操作に対応していますので、マッピングトリガーの写真を指で選択可能です。その他、新しいオープニングムービーと主題歌が収録されています。ちなみにエンディングは変わっておりません。
●PSハード版『カオスチャイルド』オープニングムービー
――マッピングトリガー時に十字ボタンで操作すると、地味に意図しないところにカーソルがいくので、タッチ操作に対応したのはうれしいです。あと、移植版の限定版特典として“プレゼントBOX”という謎の箱(笑)がありますが、これはいったいなんなのでしょう。あと、どなたが考えたものなのですか?
松本:松原が考えました。
松原:そうそう。かわいい箱ですね(笑)。
――たぶん『カオスチャイルド』プレイヤーは“かわいい箱”と聞いて困惑していますよ。
松原:困惑している人とニヤニヤしている人の2種類いらっしゃると思います。Twitter上では「これアカンヤツや!」っていうコメントがいっぱい流れていましたけど。
松本:Twitter上では一部の人たちがざわざわしていました(笑)。
松原:『カオスヘッド』をXbox 360に移植した時は“手紙”が特典だったじゃないですか。今回はXbox Oneが最初にあって、移植版で“箱”がついてくるわけです。
――あれはでき上がったものが入っているんですか?
松原:いえ、ペーパークラフトなので、作って並べてください。そして好きな形に並べてください。
松本:箱になっているので、お好きなものを入れると楽しいと思います。
松原:きっとしっくりくる並べ方があると思うので、ぜひそれを見つけていただければと。
松本:箱の細かいデザインにも注目です。
▲特別に見せていただいた試作品。サンプルとしてプリンターで印刷したものなので、実際の特典とは異なります。製品版では厚紙が使われるそうです。 |
――続いて、お2人のお気に入りのキャラを教えてください。
松本:僕はラスボスの●●が大好きなんですよ。悪に堕ちていくシーンは演技に聞き惚れてしまいました。たぶんプレイヤーさんも聞いていて気持ちいいと思います。日常の過ごし方も見習いたいと思いながらずっとデバッグしていました。
松原:取られちゃったな(笑)。私は香月 華(かづき はな)ちゃんがお気に入りです。キャラデザが上がってきた段階からスタッフの中で一番人気があったのが華ちゃんでした。
▲香月 華。ほとんどしゃべらず、感情を「ん」で表現します。共通ルートでは部室の片隅でネットゲームをしているだけのキャラですが、個別ルートでは……「んんんー!」(自重)。 |
実は華ちゃんは、志倉のオーダーで後から足したキャラで、元々存在しなかったんですよ。最初はあくまで物語に不思議な要素をたすために出したキャラで、さほど意味がないポジションに入れようと狙っていました。
それがあんなにキャラが立って、あんな行動を起こして、林(※4)が書いた個別ルートでは例の●●マンも出てきてと、まったく予想できない展開だったので特に気に入っています。
※4:林直孝氏……MAGES.所属のシナリオライター。代表作は科学ADVシリーズなど。本作ではシナリオの監修を担当している。また、放送中のTVアニメ『プラスティック・メモリーズ』の原作・脚本も担当。
――実は私も華がお気に入りです。では一番好きなルートは?
松原:華ちゃんルートも好きなんですけど、トゥルールートの最後のカタルシスは一番こだわって演出したので、トゥルーが好きです。それ以外だと、出てくるキャラ出てくるキャラがみんなドロドロしている有村雛絵(ありむら ひなえ)ルートが好きですね。
▲有村雛絵。物語の進行状況によって、彼女に対するプレイヤーのイメージがどんどん変わっていくところが特徴です。 |
松本:僕はプレイヤーが最初にたどり着くノーマルルートが好きです。トゥルーを皆さんが受け入れてくれるか不安だったので、トゥルーとは別の結末を作りたいと梅原さん(※5)に相談して、入れてもらったエンディングなので印象に残っていますね。
※5:梅原英司氏……『カオスチャイルド』のメインライター。本作に携わる以前は、主にアニメの脚本を執筆していた。
――ノーマルエンドは『カオスヘッド ノア』よりもハッピーですよね。
松本:それまでさんざんな目にあっていたので、最後ぐらいはという気持ちはありました。
――科学ADVシリーズの配役はいつも素晴らしいのですが、本作の声優さんはどのように選ばれたのでしょうか?
松原:オーディションをやっています。もちろんそれだけで決まっているわけではないのですが、イメージにあった演技をされる方というのは重要な要素の1つです。
松本:主人公を演じていただいた松岡禎丞さんは、2年前の10月に開催したLive5pb.の少し前に決定しました。松岡さんの演技はとてもパワフルでしたし、ご本人が「(拓留は)すごく俺に似ている」とおっしゃられていたので収録は印象に残っています。
▲Live5pb.で発表された時にティザーPVが上映されました。その時のナレーションが、キャスト決定直後だったそうです。 |
――個人的に今回の主人公を演じられた松岡さんは特によかったと思います。息をのむシーンなどは窒息するんじゃないかと心配してしまうほどの熱演でした。
松本:息をのむ演技は苦手な方もいらっしゃるのですが、松岡さんはとてもお上手な方でした。ああいった演技が物語に幅を持たせてくれるんです。
嗚咽や金切声をあげるシーンも素晴らしく、それをナチュラルにできる松岡さんに宮代を演じていただけてよかったと、スタッフ皆が感じています。
――他の方で印象に残っている方はいますか?
松本:ヒロインの尾上世莉架(おのえ せりか)を演じていただく方には、キャラ付けや演じ方の方向性について、どのように味付けをしてもらうのかいろいろと悩んだのですが、それが上坂すみれさんからスっと出てきたので驚きました。
▲尾上世莉架。口癖の「うー?」や「おっけぃ」の言い方がかわいい。「ぃ」がいいんです。 |
――演じ方がころころ変わる場面がありますが、あそこもいいですよね。
松本:そう、そこなんです! そこもすごく頑張ってくださいました。ここはこう変えたほうが臨場感が出るだろうと音響監督さんと上坂さんとで試行錯誤して、一番しっくりくる演技をゲームに落とし込んでもらいました。
あと、本作は悪役が粒ぞろいで、先ほど好きなキャラで挙げた●●を演じられた方は悪の演技がうまい人で、悪のセリフに聞き惚れるんです。「ずっと聞いていたいね」なんてスタッフ間で話をするほどでした。
――華の「ん」の演技も好きです。
松本:彼女のセリフはほとんど「ん」なのですが、すべて演じ方が違うんです。「ん」1つであそこまで幅広く演じていただけるとは思っていませんでした。
――使いまわしはないんですか?
松本:使いまわしは一切ありません。収録時には、どこの「ん」までいったかわからなくなってしまうこともありました(笑)。なので仲谷さんに「何ページいきます」とすべて読みあげてもらいました。
――続いてUIのこだわりなどありましたら教えてください。
松原:UIはアートディレクターの北原が担当したのですが、かなりこだわって作っています。まず根底に“プレイヤーとゲームの世界をシームレスに連続した形でつなげていこう”というテーマがありました。
たとえば、メニューボタンを押すとググッとカメラが引くような演出があります。ゲーム画面の外にUIがあるという見た目になるのですが、メタ的な視点を持ってみると、実はあの枠の中が妄想で外の世界はUIの壁なんじゃないか、というふうにも取れます。
▲メニューボタンを押すと、シームレスにゲーム画面からメニュー画面へと切り替わります。 |
もう1つのテーマとして、デザインの統一性があります。渋谷の壁には力士シールが貼られていたり、落書きがあったりしますよね。『カオスチャイルド』ではその壁をデザインの基本としています。
タイトル画面に力士シールと壁がありますし、セーブ画面に入って操作すると壁が無限にスクロールします。今作ではこれを“ウォールインターフェース”と呼んでいます。
▲タイトル画面。 |
▲セーブ画面。 |
そういったところでも“渋谷感”を演出していて、『カオスチャイルド』というパッケージの中のすべての要素を1つの方向に向けているんです。もちろん、先日の5pb.祭りで発売した公式原画集も同じ法則でデザインしています。公式にリリースするものはどこをとっても同じテイストにすることを徹底しています。
――システム関連で特にストレスも感じませんでしたし、物語もすごくおもしろいと思ったのですが、“妄想トリガー”が少しもったいない気がしました。妄想の内容ではなく、“妄想トリガー”によってゲーム自体の展開が大きく変わらないというか、『シュタゲ』のフォーントリガーによって生まれるカタルシスより弱いというか、インタラクティブ性が薄いような気がしたんです。
松原:科学ADVシリーズのシステムは、ユーザーを没入させるためのものとそうじゃないものがあります。今回はユーザーの没入体験をマッピングトリガーに持たせています。
マッピングトリガーは、プレイヤーと主人公が一体になって事件の謎を紐解いていくことで、そこまでの展開についてこられなかった方でも、主人公が持っている情報量に追いつけます。
それとは別に妄想トリガーは、その場その場のノリや男の子が考えそうなことをはめ込んでいって、それをユーザーさんの好きに選んでもらおうと思って入れたものなので、没入体験とは切り離したシステムだと思っているんですね。
ただ、個別ルートへの分岐としても妄想トリガーを使っているので、そこで試行錯誤してもらいたいです。
▲妄想トリガー。本作では妄想に妄想を重ねる“MORE”という新しい試みも。 |
――試行錯誤してもらいたいとのことですが、1キャラだけルートに入りにくいヒロインがいますよね。
松本:発売後、ユーザーさんの意見を見ていたのですが、「●●ちゃんだけルートに入れない」という意見が多くて。あれはすべて簡単に入れてしまうよりも、いろいろ妄想トリガーを試行錯誤して選んで遊んでもらいたいという意図があって入れています。
――さて、少し気が早い話ですが、アニメ化について少しだけでもいいので教えていただくことは可能でしょうか?
松原:アニメについてはまだ動きだしたばかりなので、放送タイミングとかスタジオとか具体的な話はまだできません。ただ、“こんなアニメになってほしい”という願望が多少なりともあります。
本作は“猟奇殺人もの”なので、当然グロいシーンを描かなければいけません。でも、そこを単純にぼかして描くのではなく、ユーザーさんに「もしかしてこういうことになってるの?」と事件の状況を頭の中で妄想してもらえるような演出を目指していきたいと思っています。
自分としてはそういったことができるスタジオに作ってもらい、可能であれば、私や若林たちも現場に入らせてもらって、密にやり取りをしながら作っていければいいなと思っています。それが現段階での要望ですね。
▲ショッキングなシーンをただ真っ暗にするのではなく、テーマにある“妄想”を意識した演出にしたいと松原さんは語ります。 |
――それは安心です。これも気が早い話ですが、今後の展開として『シュタインズ・ゲート ゼロ』、『アノニマス・コード』、『オカルティック・ナイン』の3作品もあるとなると、科学ADV第5弾がだいぶ先になってしまうのではないでしょうか。
松原:いつも志倉が言っていることなのですが、ゲームを作っている段階で、別の新しいタイトルの情報をスタッフに下してしまうと今作っている作品がぶれてしまうんです。 おそらく志倉の中では次の構想がすでにあるとは思いますが、また現場には下りてきていません。私たちもどんなネタが降ってくるのか楽しみにしながら、公表された3作品を頑張って作っています。
▲科学ADV第2弾の続編となる『シュタインズ・ゲート ゼロ』。 |
▲科学ADVとは異なる志倉氏の完全新作『アノニマス・コード』。 |
――わかりました。新作3作品に加えて、いずれ発表されるであろう第5弾も楽しみにしています。余談ですが、『カオスチャイルド』はトゥルーまで見終わった後に、スーパー科学ADV大戦に続きそうな終わりだと思ったんですよ。
松本:そうですか? トゥルーまで見てですか?
――ええ。●●を●●してないじゃないですか。
松原:ああ、確かにそうですね。
松本:仮にそうなった場合、どんな宮代が見たいですか?
――宮代は●●の言ったとおりになっちゃうとアレですから、●●の思い通りにならないまま前作の主人公の西條拓巳と協力して、新旧の主人公が手を取り合う展開とか燃えそうです。
松原:なるほど(笑)。
松本:(笑)。
――あれ? 何か温度差を感じますが気にしないことにします(笑)。それでは最後に、移植版の発売を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
松本:PS4/PS3/PS Vitaの3機種で体験版が配信されていますので、気になった方はまずはダウンロードしてみてください。
僕は体験版のデバッグも担当したので、たぶん日本で一番1章をプレイした人間だと思うのですが(笑)、1章には本作のおもしろさの要素が散りばめられているので、どこかで少しでもおもしろいと思っていただけたら、本編も楽しめると思います。
▲第1章をまるまる楽しめる体験版が配信中。すべての音声を聞くと7時間ほどかかる大ボリュームの体験版です。 |
――1章もおもしろいですけど、『カオスチャイルド』のおもしろさはあんなものではないですよね。
松本:はい。1章の10倍や20倍は楽しいと思います!
松原:『カオスチャイルド』は現時点で私たちが作れる集大成だと思っています。Xbox One版の時にユーザーさんに高い評価いただけたことはとても励みになっていて、その力があったからこそ今回の移植版が実現されたと思います。
さらに言えば、この先の『シュタインズ・ゲート ゼロ』、『アノニマス・コード』、『オカルティック・ナイン』への原動力にもなりました。
ユーザーさんの評価が何よりも自分たちの力になりますし、応援してくれたからには、それよりももっとすごい力でユーザーさんにボールを打ち返していかなければいけません。今後の作品全力で取り組んでいきたいと思いますので、ぜひ期待していてください。
――『カオスチャイルド』以上となるとかなり大変なことになると思いますが、期待しています。
松原:頑張ります!
【カオチャインタビュー連載】
→『カオスチャイルド』インタビュー全体編。傑作と評価された魂の作品の誕生経緯やアニメ版への願望を聞く【本記事】
→クソったれと叫びたくなる『カオスチャイルド』非実在青少女の誕生経緯は? インタビューグラフィック編
→『カオスチャイルド』インタビューサウンド編。阿保剛さんがBGM40曲を解説!
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