2015年5月18日(月)
MAGES.より5月28日に発売されるXbox One用ソフト『PSYCHO-PASS サイコパス 選択なき幸福』。本作のプロデューサーを務めるMAGES.の浅田 誠氏とフジテレビでアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のプロデューサーを務める森 彬俊氏のインタビューをお届けする。
▲ゲームのタイトル画面。 |
ゲームとアニメ、両方のプロデューサーを一同に介した今回のインタビュー。ゲームから見たアニメの『サイコパス』とアニメから見たゲームの『サイコパス』、それぞれの関連や思うところを両氏から語っていただいた。普段から多くのやりとりをしている両氏ということで、時には浅田氏からアニメに関するツッコミがあるなど、フランクなやりとりが見られた。
▲MAGES.の受付スペースにて。フジテレビ 森 彬俊氏(左)とMAGES. 浅田 誠氏。 |
――まず、森さんにお聞きします。アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のゲーム化の話をMAGES.にお願いすることになった経緯を教えてください。
▲ノイタミナの編集長(プロデューサー)を務める森氏。 |
森彬俊氏(以下、森):そもそもノイタミナとMAGES.さんとは、『ロボティクス・ノーツ』でアニメをやらせていただいたという前例がありました。逆にノイタミナからも『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のゲーム化をしていただいたりもしたので、もともとアニメとゲームという繋がりがありました。
4月からノイタミナで『パンチライン』というアニメが始まっていますが、元々はMAGES.さん側からスタートした作品なんです。そういった流れの中で『サイコパス』の2期や劇場版というタイミングで、ゲームを合わせて出していただけませんか? とMAGES.さんにお話させていただいたのが、今回のゲーム化の経緯になります。
浅田誠氏(以下、浅田):細かいところはだいぶ端折ってますけどね。
森:そんなことないですよ。そのゲーム化の企画がMAGES.さんの中でも立ち上がった時に、流星のごとく登場したのが(入社したのが)、浅田さんという感じです。
――ちなみにノイタミナからMAGES.に話が行ったのは時期としてはいつ頃になるのでしょうか?
森:一番最初にお話を持っていったのは2013年の1月頃ですね。そこから話が進んで、2013年の夏くらいにゲーム化の企画そのものが正式決定しました。それぞれのリリース時期に関しては、2012年に1期が、2014年に新編集版と2期が、そして2015年に劇場版とゲームがという感じですね。
浅田:『サイコパス』の話が来た当時は、誰が担当するかという部分が決まっていなかったんです。そこに僕が入社して「おもしろそう」ということで手を上げました。
――浅田さんとしては『サイコパス』のゲーム化について、どのようにおもしろいと感じたのでしょうか?
▲MAGES.で『PSYCHO-PASS サイコパス 選択なき幸福』のプロデューサーを務める浅田氏。 |
浅田:独特の世界観が大きな魅力でした。それにおもしろい原作でもありますが、この世界観を次世代機で表現すると、どんなことができるかな、こんなことができないかな? というシステム側からまず考えました。
――最初はシステムから考え始めたと。
浅田:そうですね、『サイコパス』はニトロプラスさんによる物語がすでにできあがっているので、物語や世界観で自分が何か手を加えることは不要だろうと考えていました。それならゲームとしてスポットを当てて、着色したらどれくらいおもしろいことができるだろうか、という所からスタートしています。
森:浅田さんからゲーム化に際してのシステム案を聞いた時に、Xbox Oneという次世代機で表現できる機能が『サイコパス』の未来感にとてもよくマッチしていましたね。
――浅田さん自身もケイブ時代に『INSTANT BRAIN(インスタントブレイン)』でKinectを率先して採用していたりしましたよね。
浅田:あの時は本当にKinectをとりあえず使ってみたいという気持ちが大きかったですね。ただ、今回はユーザーさんにKinectをどこで使っているのかを感じさせない作りになっていますよ。
Kinectがあると「あれ? こんな動きをするの?」みたいなことになっていて、我々から「Kinectをここで使いなさい」と指示を出すようなところは一切ありません。Kinectをつけていないといけないという先入観はなくしたいと思っていて、Kinectがついていると“なんかちょっといいことがあるかな”くらいのニュアンスで今回は入れています。
――あとはスマートグラスの活用ですよね。
浅田:どちらかというとスマートグラスのほうが深く活用していますね。『サイコパス』には“色相”という要素がありますが、その色相がスマートグラスから見られたりとか……。ゲームの操作をするコントローラだけでなく、もう1つの画面があることで物語への没入感が増やせると思って、採用しています。
▲スマートグラスで色相チェックを行っている様子。 |
――スマートグラスを積極的に使ったタイトルというのは、国内タイトルでは当然ですが、海外タイトルでもそんなに多くはないと思います。このあたりを実際に作ってみて感想はいかがですか?
浅田:今はゲームを家でやる時に“攻略サイトをスマホで見ながらゲームをする”という人が多いんです。であれば逆にそのスマホをゲームにリンクさせてしまえばいいのでは、というところからスマートグラスの企画がスタートしています。
例えば、先ほどの色相もそうですが、『サイコパス』には普段使わない専門用語も多く登場します。そういう時にTIPSとして便利に使えます。ゲーム内で「この言葉は何だろう?」と思ったら、スマートグラス側に単語の検索機能があるのですぐに検索できる。そんな感じで利用できます。
▲ゲーム中の用語を手元のスマホでも確認できる。 |
▲ゲーム画面での用語解説の様子。 |
――なるほど、電子辞書的な使い方ができると。
浅田:あと、ゲーム内の場面によってはスマートグラスでドミネーターを起動させた画面が出てきたりなど、自分がゲーム内で持っている端末というイメージで作っています。スマートグラスを使うのが当たり前、という作りにはしていませんが、使っていると今までにない感覚でゲームを楽しめると思っています。
――ということはスマートグラス側の機能はほぼできているということですか?
浅田:大まかなコンセプトはだいたい固まったという感じです。ただ、ゲームのROMと違ってスマートグラスはWebの機能なので、ギリギリまで調整できちゃうんですよ。同様に更新していくことも可能なので、もしかしたら発売当初で見た画面と、その後に見た画面が少し変わっている、なんてこともあるかもしれませんね。
▲登場キャラクターとの通信中、スマートグラス上でも画面が変わったり。 |
――浅田さんはXbox Oneにおける『サイコパス』というゲームの立ち位置をどのように感じられていますか?
浅田:このゲーム版の『サイコパス』については、日本マイクロソフトさんから見ても、これまでとは全く違うユーザーさんをXbox Oneに呼びこむ施策になっているのではないかなと思います。
色々なイベントで本作を展示させていただいていますが、他のXbox Oneタイトルにはあまり見られなかった女性ユーザーの姿が多く見られますからね。もちろん、このゲーム版の『サイコパス』に至るまでにもともとの1期があり、そして2期があり、劇場版がありと『サイコパス』自体の盛り上がりがあることも事実です。
森:『サイコパス』のように新編集版、2期、劇場版と短いスパンで連続して新しいものがあるアニメって、これまでにはあまり見られない作品でした。これはユーザーさんや視聴者さんにとって、それぞれを見やすい動線にできたと思っています。
すでにあったコミカライズやノベライズ、さらにそこにゲームが加わることで、『サイコパス』という作品がクロスメディアで展開されていることを印象づけられたかなと思っています。プロジェクト全体で非常にいい相乗効果になっています。
浅田:ちょっと話は変わりますが、フジテレビさんとアニメ作品で一緒にお仕事をするとおもしろいと思いましたよ。先日もAnimeJapan2015でステージもやっていただきましたし、自分たちのゲームを取り上げてくれる色々な場所を提供していただけるのは本当にありがたいですね。
――実はフジテレビさんで前にも、同じようにテレビと映画が連続して展開された作品というのがありましたよね? 『パ★テ★オ』っていうドラマで……。
森:あっ、知ってます……。
浅田:あれは1回目と2回目をドラマでやって、3回目を映画でやりましたよね。当時、加勢大周が出てて‥…。
森:イタリアでロケをしていたやつですね。まだあの頃は小学生でしたけど(笑)。
浅田:実は『サイコパス』のこの展開を聞いた時に真っ先に思い出したのが『パ★テ★オ』だったんです(笑)。しかし、『サイコパス』はよくここまでコンテンツを連続させたな! と思いましたよ。
▲昔懐かしいテレビドラマの話題に脱線する2人。 |
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▲急に飛んできた浅田Pからの容赦ない質問に思わず苦笑いの森P。 |
浅田:アニメ、劇場版とあってこれか5月にゲーム版が発売されることになるんですが、この後の展開はどんな感じなんですか、森さん?
森:この次の展開もやりたいとは思っています。
――ここまで大きく展開されていますし、やらない理由はあまりないですよね?
浅田:個人的に『サイコパス』はアニメじゃなくて実写でもよかったかもしれないと思うくらい人間味のあふれる物語なんですよ。とはいえ、実写でやったら放映できなさそうですけど。ちなみに森さんは『サイコパス』を担当することになってどう思いました?
森:そうですね、深夜アニメというとどうしてもアニメファンというかコア層に寄りがちになってしまいますが、『サイコパス』ではなんとか少しでも一般層にも寄ることができて、まだまだ深夜アニメには可能性があるなと感じました。
テレビ局としては基本的にはマスに向けた作品を作らなければならないと思っていますので、ノイタミナとして深夜アニメといっても、コア層とライト層の中間を目指しているんです。そういう意味では『サイコパス』はいいところにはまりましたね。
浅田:あと、『サイコパス』での女性からの人気は想定していました?
森:2012年に『サイコパス』を始めた当初は「渋すぎるんじゃないか」という印象でした。ただ、天野 明さんのイラストを発表した際に女性ファンがすごく増えたんですね。これは完全に想定外でした。1期は女性ファンに支えられたと言っても過言ではないですね。
しかし、2期、劇場と控えている中で男性ファンの揺り戻しも少ししたいと思い、2期は1期よりも内容をハード寄りしました。これを経て劇場版では男女双方のファンが集まってくれた、いい形になりました。とはいえ、根強いファンとなっていただいているのは女性が多いですし、そういった意味でもXbox One版でも女性ユーザーの割合が増えるのではないかと思います。
浅田:先ほども言いましたが、体験会イベントなどで女性ファンが本当に多いんです。自分が担当するタイトルのイベントは必ず行っていますが、STGを作っていた時代は来場者の95%が男性と言える状況だったので驚きですね。
また、普段あまりゲームをやっていない女性ファンの方からの声がとても重要で、「ゲーム中にUIを消してしまった後の出し方がわからない」といった声もあるんですよ。これはゲームがわかっている人に向けて作っていては認識できない部分で、そういった意味でも学べたことでした。今回はゲームをあまりプレイしない人にもわかりやすくなるように心がけています。
▲3月29日に池袋のアニメイトで行われたイベントでも大半の来場者が女性だった。 |
森:熱心なファンの存在は本当にありがたくて、例えば1期で死んでしまったキャラクターの誕生日をお祝いしているといったケースもあるんですよ。ただ、アニメの物語としては死が描かれてしまったキャラクターなので、本編の物語に再登場させることはハードルが高い。でも、今回のゲーム版ではそういったキャラクターとも“公式な設定”の上でまた出会えることができるんですね。ここを求めているファンもいると思っています。
▲ゲームはTVアニメにおける4~6話あたりの時間軸となっている。登場キャラクターも当時のままだ。 |
――ちなみにゲーム版『サイコパス』の舞台設定はアニメ本編ではどのあたりになるのでしょうか?
浅田:アニメ本編での4話~6話くらいを想定した物語設定になっています。なので、公安局刑事課一係のメンバーは全員いますし、1期の黒幕である槙島がちょっと暗躍し始めているといった状況ですね。槙島自身がゲーム版での事件に関わっているわけではないですが、ゲーム内には登場します。そういった意味では1期が好きな人にとっては『サイコパス』の同窓会としての側面もあるかもしれませんね。
――このゲーム版での設定がアニメに反映されるなんてことはありますか?
森:『サイコパス』の1期は物語として完結してしまっているものなので、新しく追加することはさすがに難しいんです。ただ、ゲーム内で起こった事件や設定は公式なものですので、それをアニメ側に反映させるということはあるかもしれません。
浅田:実はゲーム版はシナリオ上で劇場版などとも色々と繋がっている部分があります。ゲーム版はニトロプラスさんが劇場版の後に作っているので、全部を見た人がゲームをやるとニヤリとできるポイントがありますね。
森:アニメは放送の尺が決まっているので、急ぎ足にならないといけない部分があります。アニメでは基本的に事件を追う形で物語が展開していましたが、実はあの世界において事件というのはどちらかというと非日常の世界なんです。そんなに事件が起こりにくい世界構造なので。しかし、ゲームでは事件以外の日常もところどころ見ることができます。なので本当の意味で『サイコパス』の世界観をより深くとらえられると思います。
――アニメのゲーム化というと、元となる作品を使用した“まったく新しいゲーム”にするということもありますが、今回は『サイコパス』の世界をそのまま広げるためのゲーム化ということでよろしいのでしょうか。
浅田:すごく広がりますね、『サイコパス』の世界。ただ、当初の案として別のゲームにするというのもありました。しかし、自分たちで作ったオリジナルの物語ならまだしも、皆さんで作られた物語を我々で好きなようにしてしまうというのは避けたかったので、物語はニトロプラスさんにお願いしていますし、キャラクターデザインは浅野恭司さんにお願いするということで、すべてアニメに関わっていた方々にお願いしています。
▲主人公はゲームオリジナルである劔拓真と誓湯撫子の2人。 |
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――フジテレビさんとしては『サイコパス』から次となる挑戦はいかがでしょうか?
▲新作として展開予定の『乱歩奇譚 Game of Laplace』を非常にプッシュしていた浅田P。 |
森:現在、『乱歩奇譚 Game of Laplace』という作品を昨年11月に発表させていただきましたが、『サイコパス』で見えたファン層への作品にもなりますし、『サイコパス』で取りきれなかった層へのアピールにもなると思います。これは江戸川乱歩という知名度の高さによる効果でもありますね。
浅田:少し見せていただきましたが、うならせる企画を打ち出してきたなと思いましたよ。
森:今日は浅田さんがいやに褒めてくれるので怖いですね(笑)。
浅田:いやいや(笑)。テレビ業界ってゲーム業界とは距離感があるところもあれば、結構近いところもあって両極端なんです。ただ、ノイタミナのスタッフさんたちは我々に近いところにいるなと思いました。そういう意味では色々と相談はできますし、お互いにがんばれる部分もあります。
我々としてもアニメが持っている知名度をゲームで下げるわけにはいかないので、いかにプラスアルファでムーブメントを起こす手伝いができるか、というのを念頭に置いて制作しています。『サイコパス』でうまく波に乗って、次の作品を作ろうよ、という流れにできればいいなと思っています。
――森さんは2014年秋からノイタミナの二代目編集長(チーフプロデューサー)となりましたが、“新生ノイタミナ”として現在まで半年超やられてきて感想はいかがですか?
森:基本はやはり変わらないですね。今までやってきたことは間違いではなかったと思っていて、1クールに50本のアニメがひしめく中で、いかに目立つ企画ができるかというところです。MAGES.さんにゲーム化してもらいたいと思ってもらえる企画って、視聴者にとってもおもしろい企画であるはずなのでこれからもやっていきたいですし、双方にとってもいい関係になると思います。
――ちなみに森さんがノイタミナでプロデューサーを担当されるようになったのはいつくらいからなのでしょうか?
森:『ブラック★ロックシューター』でアシスタントプロデューサーを担当したのが最初ですね。それが2011年あたりで、それから『サイコパス』を担当し始めたという感じです。
浅田:この人、そのうち偉くなるから今のうちにお仕事しておこうと思っています。
森:ならないですよ(笑)。あ、ノイタミナについてのお知らせなんですが、これまで30分+30分だったノイタミナ枠は、4月から30分枠になっています。あえて2つあった枠を1つにした理由というのは、“ノイタミナムービー”というのを2012年から立ち上げているんですが、いざやってみたら映画ってテレビアニメの1クールと同等か、ヘタするとそれ以上に大変なんですよ。
映画を今後も本気でやろうとしたら、テレビアニメを1つにして残りを映画にしないとちゃんとしたものが作れない。それくらいの覚悟が必要なことがわかったんです。現在発表しているノイタミナムービーとしては、2015年に伊藤計劃の3部作(『虐殺器官』、『harmony/』、『屍者の帝国』)と『あの花』チームの新作である『心が叫びたがってるんだ。』があります。さらにその他にも色々と仕込んでいますので、かなりガッツリやっていきますよ。
浅田:僕世代だと、やはりフジテレビのアニメといったら水曜日19時、19時半という印象が強いんですが、ノイタミナで『こち亀』やりません?
森:わはははは! 浅田さんから作品の提案が軽く飛んでくるんですが、こういう『こち亀』とか、あとはいつも言われている『銀と金』とか、渋めの話が多いんですよ(笑)。
浅田:個人的には『銀と金』か、それがダメなら『最強伝説 黒沢』がいいですね。
森:善処します(笑)。浅田さん怖いわ~。
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――それでは最後に『サイコパス』を期待しているファンに向けてひと言お願いいたします。
浅田:『サイコパス』は今、1期と2期、劇場版も一区切りついた状態ですが、アニメをご覧になった方でも新しい発見ができるものに仕上がっています。もともとのファンは『サイコパス』の同窓会みたいなイメージでイメージで触れていただければと思います。ゲームが終わった後に1期をまたみてもらうと、さらに発見できることも多々ありますし、ぜひその辺りを楽しみにしていただければと思います。
森:アニメのゲーム化というと、外伝だったりオマケになりがちな物だと思いますが、この『PSYCHO-PASS サイコパス 選択なき幸福』については、作品内できちんとした時間軸の、きちんとした物語となっています。劇場版までを見終わって、ぽっかりと空いてしまった人にとって、待ち望んでいた作品になっていると思いますので、楽しんでください。
(C)サイコパス製作委員会 (C)MAGES./5pb. (C)フジテレビ
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