2015年5月18日(月)
5月8~10日に開催された“東京インディーフェス 2015”。本記事では一般公開日に行われたワークショップの中から、“日本発、世界へ~ゲーム開発者としてどう海外と接すべき?”のレポートをお届けします。
登壇したのは、トイボックスの和田康宏氏、オニオンゲームスの木村祥朗氏、そしてDot Warrior GamesのAlvin Phu(アルヴィン・ヒュー)氏、Friend and FoeのMatt Smith(マット・スミス)氏の4名。
ゲームのグローバルやワールドワイド対応が主流となる中、インディゲームはどう海外と接するのがよいのか。ゲーム制作の姿勢やローカライズに関するポイントなど、さまざまなトークが展開しました。
ちなみに筆者はファミコン時代からゲームを遊んできたおっさんですが、自分より年上のレジェンドな先輩(和田康宏氏や木村祥朗氏)たちがいまだにこんなに熱くゲームについて語り、おもしろいゲームを作り続けていることに、いたく感銘を受けました。
インディゲームにとどまらず、ゲーム業界全般にかかわる講演内容となっています。作り手の方から遊び手の方まで、ゲームが好きな人に読んでいただけると、おっさんクリエイターの衰えぬ“熱さ”を感じてもらえるかと思います。
冒頭のあいさつで和田氏は、「自分はコンシューマなどでの開発が多いので、インディゲームのクリエイターとして登壇することに不安がありましたが、“作りたいものを作るのがインディー魂”ということで、それなら大丈夫だと安心しました」とコメント。
登壇した4人はそれぞれ自分たちだからこそ作れるゲームを手掛けており、インディー魂を持った人同士の熱いトークが展開していきました。
なかでも気炎をあげていたのは、数年にわたってiOS版『Million Onion Hotel(ミリオンオニオンホテル)』を制作している木村氏でした。
▲木村祥朗氏の最新作iOS版『Million Onion Hotel(ミリオンオニオンホテル)』。(画像は公式サイトをキャプチャしたもの) |
木村祥朗氏といえば、スクウェアやラブデリック、マーベラスやグラスホッパー・マニファクチュアなどで数々の作品を手掛けてきた名クリエイター。『moon』や『L.O.L.』、『王様物語』など、特におっさんゲーマーにとってはレジェンド的な存在です。
『牧場物語』シリーズの生みの親としても知られる和田氏も同様にレジェンド的な存在ですが、和田氏が静なら木村氏は動といった感じで、講演中には絶妙な掛け合いを繰り広げていました。
海外展開という言葉が出た時点で木村氏は「前提として、世界中で売ったほうがたくさん売れるから儲かるという考え方があります。自分もそう思っていました」と本音をズバリ。
「ローカライズのことを考えて英語をベースとした表現にしてみたり、言葉ではなくアイコンでの演出をメインにしてみたり、いわゆる海外展開をしやすいゲームデザインで進めていたのですが……」と海外展開における具体例を述べ始めたと思いきや、「でも、なんか違うなって気付いちゃたんです」と話題が一転。
木村氏によると、結局自分は日本人で、日本語での表現が一番おもしろいことを表現できると気付いたとのこと。結果、「今は全般的に“ひらがな”で作り直しています。その結果、当初は世界同時配信予定でしたが、まずは日本先行となります。海外で本作に期待している方々には申し訳ありません」と、日本メインでの開発にシフトしたそうです。
▲和田康宏氏が代表取締役社長を務めるトイボックスの公式サイト。(画像は公式サイトをキャプチャしたもの) |
さらに木村氏は、国内と海外、性別や年齢といったターゲットに踊らされていたとも語りました。ただ、結局のところ、性別や年齢を問わずに自分のゲームをおもしろいと感じてくれる人がいることに気付いたそうです。
それは国内と海外でも同じで、無理にターゲット層でセグメントして考えるのではなく、逆に“木村祥朗のゲームをおもしろいと感じてくれる感性の持ち主に答える、木村祥朗らしいゲームを作ることが大事”と締めくくっていました。
これについては周囲も強く賛同し、マット氏は「(国内や海外市場がどうこうではなく)とにかくおもしろいゲームを作ることが大事」とコメント。
さらに『Block Legend』などを手掛け、インディゲーム業界のヒットメーカーと呼ばれるアルヴィン氏も、ヒットの理由を聞かれた際に「おもしろいものを作る。ただそれだけ」と答えていきました。
●動画:『Block Legend』 Launch Trailer(Dot Warrior Games)
和田氏も「自分がゲームを作る時は会社やクライアントのマーケティング戦略的に海外を意識することはあるが、ゲームの楽しさは世界共通で、言語を超えるものだと考えています」とコメント。
そもそも和田氏は“誰もが直感的に遊べるゲーム”を目指していると語りつつ、「一番大事なのはおもしろいゲームを作ることで、それができれば国境を越えてゲーム好きの人たちの心に刺さるはず」と話していました。
続くテーマは“海外で展開する際の宣伝や販売方法”について。これを聞いた木村氏は「だからさあ、宣伝の前におもしろいゲームを作れるかどうかでしょ」とバッサリ。
宣伝どうこうよりも、まずはゲームを完成させてリリースすることが大事で、さらには「特にインディゲーム業界では、売れているゲームはどれもおもしろい。おもしろいゲームを作ることを目指すべきでは」と、議題自体を終わらせようとするフリーダムな展開に。
これに対してアルヴィン氏も、宣伝展開やマーケティング戦略を考えることは苦手と同調。「クオリティが高いゲームを作ることがとにかく大事」としつつも、TwitterなどのSNSを利用することは効果的だと語りました。
▲アルヴィン氏の所属するDot Warrior Gamesの公式サイト。(画像は公式サイトをキャプチャしたもの) |
例えばTwitterでゲームの最新スクリーンショットを公開することで、それを見て興味を持ってくれる人を増やせている実感があるとのこと。また、You Tubeなどを使ったゲーム実況や、開発状況の実況なども効果的だと語りました。
マット氏もインディゲームの大規模な宣伝展開には疑問があるものの、自分のゲームを楽しみにしてくれるオーディエンスに呼びかける努力は必要だと、やはりSNSなどの有用性を強調していました。
●動画:『Vane』TGS Teaser 2014(Friend and Foe)
これを聞いて、また大声を出したのが木村氏。「今、いいこと言った! 確かにオーディエンスに呼びかけることは大事!」と、自分自身もTwitterで『ミリオンオニオンホテル』の情報を出すと反響が大きく、口コミで認知度が高まっていったという実例をあげていました。
特に海外のゲーム好きからの熱い反応が多かったそうですが、最近はゲーム開発が忙しくてSNSの更新をさぼり気味とのこと。そうなると、せっかく興味を持ってくれたゲーマーが離れてしまうこともあり、「継続したアピールも大事」と語っていました。
和田氏も、自分の作品に興味を持つオーディエンスへのアクセスは大事としつつ、さらにイベントへの出展も大事だと語りました。今回の“東京インディーフェス 2015”も含めて、さまざまな出展の機会はあるはずなので、まずはメールなどでのコンタクトから始めてみてはどうかとアドバイスをしていました。
これについて木村氏も、イベントで雑誌やニュースサイトなどのメディアに名刺を配りまくることは有効だったとコメント。また、ゲームを作り続けていると自分たちだけの目線での評価になりがちなので、イベントなどで外部の人が遊んだ感想をフィードバックさせることも重要だと話していました。
講演中には、“こうして作っておけばローカライズが楽になったのにと後悔したことはありますか?”という質問がありました。
ゲーム制作に携わった歴史が長い和田氏や木村氏は、昔はともあれ、今は表示メッセージなどのローカライズにかかわる部分は別途で管理できるので、プログラムなどの部分での苦労は少ないとのこと。
とはいえ木村氏は、昔は海外のゲーマーが日本語のゲームをそのまま遊んで楽しんでいたことを例にしつつ、「そもそもゲームがおもしろくないと、ローカライズしても意味がない」と語っていました。
ローカライズの手間をなくすためにゲーム部分で制限を受けるのは本末転倒としつつ、だからこそ木村氏自身は『ミリオンオニオンホテル』であえて“ひらがな”メッセージで作り直していると語っていました。
アルヴィン氏やマット氏も、世界的にバランスがよいグラフィックをベースにしたり、文字にせずアイコンでの演出をメインにしたりと、ローカライズの手間を減らすテクニックがあることを話しつつ、「ただ、それがゲームのおもしろさにつながるかというと、まったくの別物です」と注意をうながしていました。
▲マット氏が所属するFriend and Foeの公式サイト。(画像は公式サイトをキャプチャしたもの) |
和田氏は自分の経験談として、ローカライズをした際の演出のテンポのズレについて言及していました。日本語を英語などにローカライズすると、1.5倍から2倍くらいのテキストボリュームになることが多く、日本語版で想定していた会話イベントの体感時間が長くなりがちとのこと。
なお、PCやスマートフォンにおいては、パッケージでのゲーム販売ではなくダウンロード形式での販売が主流となるため、海外での販売がしやすくなったことは大きなメリットだと語っていました。
基本的にはネット上のストアで配信を開始する際に“日本”や“アメリカ”などのチェックボックスを入れるだけなので、場合によっては無理にローカライズをしなくても海外展開ができる時代となっています。
木村氏も、「あえて“ひらがな”のままで海外販売をしてみても、おもしろいかもしれない」と語っていました。
講演中に心に残ったのは、和田氏が語った“おもしろさの定義”に関する言葉です。たくさんのゲームがある中で、作る側も遊ぶ側も何がおもしろいのかを見失いがちです。
和田氏は作り手の立場として、「自分自身が何を“おもしろい”のか、見つめ直すことが大事です」と語りましたが、これは遊ぶ側にも当てはまることではないでしょうか。
●動画:3DS『ホームタウンストーリー』商品紹介映像(トイボックス)
マット氏が語った“自分のゲームを楽しみにしてくれるオーディエンスに呼びかける努力の重要性”もさることながら、遊ぶ側も自分自身が何を“おもしろい”のかを見つめ直し、おもしろいゲームと出会う努力をすることも大事な気がしました。
木村氏が冗談交じりに「おもしろくないゲームには売れないでほしい」と語る場面がありましたが、同時に「かといって、おもしろいゲームを作っても売れなかった時は自分のせい」と続けていました。
おもしろさは人それぞれで正解はありませんが、今回の講演に参加した4名が手掛けるゲームは、どれも“なんらかのおもしろさ”と“そのクリエイターならではの個性”が感じられるものばかり。
今後の新作にも期待しつつ、まずは日本で遊べる彼らのゲームを遊んでみてはいかがでしょうか。それらを遊んでピンと来た人は、ぜひ次回作にも期待して、情報を追いかけてもらいたいと思います!
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