2015年6月8日(月)
―――――――――――――――――――――――――
『CHAOS;CHILD(カオスチャイルド)』は、CERO Z(18歳以上のみ対象)のソフトです。
※18歳未満の方は購入できません。
―――――――――――――――――――――――――
MAGES.のゲーム&音楽ブランド・5pb.から6月25日に発売されるPS4/PS3/PS Vita用ADV『CHAOS;CHILD(カオスチャイルド)』。本作の発売を記念したインタビュー企画の連載第4回をお届けします。
お話を伺ったのは、シナリオを執筆した梅原英司さん、たきもとまさしさん、安本亨さん、林直孝さん(5pb.)とディレクター・松本裕介さんの計5名です。
念のため解説しておくと、本作の脚本は5名のシナリオライターが執筆しており、メインライターが梅原さん、他4名はサブライター、たきもとさんが監修、林さんが総監修をそれぞれ担当しています。
▲左から安本亨さん、林直孝さん、梅原英司さん、たきもとまさしさん。 |
インタビューでは、シナリオの執筆体制や梅原さんがメインライターを担当することになった経緯、各ルートの魅力、ドラマCDの内容などについて伺っています。初めて明かされる話もありますので、本作のことが気になっている人はぜひご一読いただければと!
※記事には若干のネタバレが含まれています。事前に少しでもゲームの内容を知りたくない人はご注意ください。
――まずはシナリオの執筆体制・分担について教えてください。
梅原:すごく複雑ですよ(笑)。まず前提として、本作のシナリオは大プロット、詳細プロット、本文シナリオと3つの工程を踏んで作っています。香月華ルートを除いて、大プロットと共通ルートのプロットを僕が書かせていただいきました。
ゲーム中の本文シナリオは、共通ルートが僕とたきもとさんと安本さん、ヒロインごとの個別ルートは、それぞれの担当ライターさんが手がけています。
安本:有村雛絵ルートと来栖乃々ルートが僕。乃々ルートは僕とたきもとさんでプロットを作って、もう1人のサブライターの谷崎央佳さんにもお手伝いいただきました。
たきもと:山添うきルートは私が話を作って、谷崎さんと安本さんが執筆しました。
梅原:トゥルールート(尾上世莉架)の本文シナリオが僕で、林さんにお願いした華ルートだけが例外です。全体のプロットが固まってから、企画・原作の志倉さんから「ヒロインが1人足りない気がする」と言われまして、華を追加しました。
華ルートに入れてほしいというわけではありませんでしたが、『カオスチャイルド』には制作開始当初から、志倉さんの中で●●マンが“SHIBUYA107”を壊しているビジュアルのイメージが存在していまして。
で、僕がどうしてもこのビジュアルイメージをシナリオとしてつじつまを合わせることができなくて、「ムリだ」とギブアップしてしまったんです(笑)。なので華ルートに関しては、簡単な人物設定と必ず盛り込んでほしい情報だけを林さんにお伝えして、全部丸投げしてしまいました。
――共通ルートはどのように分担されているのでしょう?
梅原:これがまた複雑なんですよ(笑)。まず、1章、2章、9章後半、10章、11章が僕です。
安本:3~7章は僕とたきもとさんが担当しました。
たきもと:そして8章、9章前半が僕ですね。
梅原:全体ができあがった後は、僕がゲームのシナリオを書くのが初めてだったこともあって、もろもろの修正や全体の統制・監修をたきもとさんにお預けしました。
たきもと:全員の文体が違ったり、ディレクターからの要望もあったりするので、ひと通りすべてのシナリオを統一して監修した後に、林くんに見てもらいました。
――トゥルールートまでプレイしましたが、キャラが崩壊していると感じる部分はなかったと思います。
たきもと:書いているライターさんによって、ちょっと語尾が違うとか、微妙に性格が違っていたりとかしますので、ディレクターやプロデューサーの指示で、梅原さんに安本さんや自分の文体を合わせる方向で修正しました。
林くんや安本さんとはよく一緒のお仕事をするので感覚がよくわかっているのですが、梅原さんと仕事をするのは初めてだったので新鮮だったんですよ。
安本:わりと1章や2章は時間をかけて書かれていて、ト書きが多めでしたね。
梅原:1章だけで600KBくらいありました。
安本:このペースでいくと膨大な文章量になってしまうだろうと、3章からは会話を多めにしています。
たきもと:ト書きの部分を松岡さんの台詞に変えて、緩急をつけています。梅原さんは小説をすごく読まれる方なので、どうしてもだんだんと小説化していくところがあって。そこはこちらでカットさせていただきました。
林:ト書きが多めのほうがホラー的な雰囲気は作りやすいので、最初にMAGES.側からある程度のオーダーはしました。
『カオスヘッド ノア』がもともとト書きが多いゲームなので、その方向性を踏襲しようと思っていたのですが、まさかあんなに長くなるとは。
――最初はもっと小説寄りの文章だったのですか?
たきもと:はい。今の1.5倍ぐらいの文章量がありました。
梅原:実はADVをほとんどプレイしたことがなくて、今回の話をいただいてから科学ADVシリーズをひと通りプレイしました。その前はスーパーファミコンの『かまいたちの夜』しかプレイしたことがなくて、しかも何回プレイしてもストックで殺されるのでクリアしていないんですよ(笑)。
いわゆる平均的なADVのト書きの量と台詞の量がスキルとして身についていなかったので、あんなに多くなってしまいました。
たきもと:梅原調のいいところは残そうと調整していきましたが、それでも科学ADVシリーズ史上最長のシナリオになりました。
――プレイしていて「このゲームはいつまで続くんだろう」と思い浮かべてしまうほどの大ボリュームでしたが、ダレている印象はありませんでした。たしかシナリオ量は3MBでしたよね。これはTIPS込みの数字ですか?
松本:TIPSを省いて3MBです。
たきもと:修正する前は4~5MBくらいでした。さすがにそれだけ長いとゲームがダレてしまいますからね。
松本:たきもとさんが要所要所をいい感じにまとめてくださったので、すごく助かりました。
――当時、志倉さんからどのようなお話があって、開発することになったのですか?
梅原:一番最初に志倉さんと林さん、松原さん、たきもとさんと僕が集まって、志倉さんから科学ADVの第4弾ではなく、『カオスヘッド ノア』の番外編のような作品を作ろうというお話がありました。
世界観と設定は『カオスヘッド ノア』を引き継ぎつつ、サイコサスペンスホラー要素を強くすることと、作品を通しての力士シールやロールシャッハテストなどのマクガフィンを志倉さんからいただいて、僕らが肉付けしていった形です。
たきもと:途中途中で志倉さんにクオリティをチェックしていただきながら進めて、プロットのOKが出るまでに1年弱くらいかかりました。
安本:僕も最初はそんなに大規模の作品ではなくて、少し手伝ってもらうことになると言われていたんです。なかなか具体的な話が来ないと思っていたら、なんだかどんどん規模が大きくなっていっているみたいで。
最初は1キャラくらいを担当するんだろうと思っていたので、「これは2キャラくらいになるぞ」なんて思っていたのですが、蓋を開けてみたらそれどころじゃありませんでした(笑)。
たきもと:プロットに1年弱かかったとお話しましたが、昔のファイルを見てみると、一番古いファイルは2年前ですね。
――企画当初からストーリーがけっこう変わっているのでしょうか?
梅原:ここまで人が死んでいませんでしたし、もう少し明るい話でしたよね?
林:最初はサスペンスよりもミステリー要素が強かったですね。殺人事件が発生して新聞部が動き出す部分は変わらないですけど、ホラー要素はあまりありませんでした。
たきもと:『カオスヘッド ノア』で残された謎や後始末を描いたストーリーで、前作のトゥルーエンドのさらにトゥルーのようなイメージだったと思います。『カオスヘッド ノア』寄りではありましたけど、あそこまでエロティックではなくて硬派な内容でした。
――シナリオの分担についてお聞きしましたが、妄想トリガー部分はどなたが執筆されたのでしょう。
梅原:共通ルートの妄想トリガー部分は、ほとんど林さんの担当です。僕は1カ所も書いていないですね。
たきもと:今回の妄想トリガーは本筋に関係するものもあって、それに関しては僕のほうで書いています。
安本:中盤では僕も3つか4つくらい書いていて、個別ルートに入るとそれぞれの担当ライターが手がけました。
――ということは、伊藤とのホ●ーな妄想やTSモノ(性転換モノ)は?
林:全部僕です。
安本:個室トイレに一緒に入った尾上世莉架(おのえ せりか)がおもらししてしまうシーンも林さんです。
たきもと:トイレと幼女のシリーズは林くんだよね。
▲伊藤真二 |
――シリーズ(笑)。もろもろ納得しました。どうやって妄想トリガーのアイデアを出されたのですか?
たきもと:趣味ですよね。あと性癖。
林:性癖ですけど(笑)、なるべく話の流れを考えて入れています。
安本:いくつか僕が書いた妄想トリガーは「ちょっと弱いです」と林さんから指摘されて書き直したことがありました。僕ではどこまでやっていいのかわからないので、そんなに激しいものにはしなかったのですが……。
林:「もっと激しくしちゃいますか」と。
安本:そう。確か、有村雛絵(ありむら ひなえ)にBLっぽいセリフを言わされるシーンを林さんに言われて表現を激しくしたんです。そこで、“公式がここまでやるんだったら、ある程度やってもいいんだ”と感触をつかめましたね。
林:なるべくシチュエーションを大事にしたいので、本筋と離れすぎない妄想トリガーをこだわって入れました。
妄想トリガーにも流れがあって、序盤はソフトにしてだんだんハードになっていくように作っています。なので『カオスヘッド ノア』をプレイした人からすると、1章の妄想トリガーは生ぬるいと思われるものばかりだと思います。
――入れる場所はどうやって決めるのでしょう?
林:シナリオができた後に組み込みます。なるべく本筋のシナリオを邪魔せず、かつ妄想を入れられそうな場所をチョイスしてプロットを作り、プロデューサーやディレクターにチェックしてもらってからの作業になります。1つの章にいくつ入るかも全体を見て調整しました。
安本:妄想トリガーの参考になるかと思って、林さんや松本さんと一緒に『ホットドッグ・プレス』を買いに行ったこともあります。
林:20冊くらい集めました。
安本:何かに使えるんじゃないかと古本屋を巡って集めてみましたが、結果的に使わなかったです(笑)。あのころは比較的のんびりしていた時期でした。
――妄想トリガーありきでシナリオを書かれた部分はありますか?
梅原:結局採用されなかったのですが、とある状態では妄想トリガーを三人称視点で描写する案がありました。拓留の妄想を客観的な視点から見る、という体で描いたシーンだったんですが。
安本:構成上無理があったのでやめました。
――妄想トリガーといえば、本作から妄想に妄想を重ねる“MORE”が登場しましたね。
安本:あれは最初はなかったもので、志倉さんから「超能力を持ったら他にもっとあるのではないか?」と指摘を受けて生まれました。
――スカートがめくれるとか、昔の超能力モノの映画などで見た男の夢です(笑)。
安本:(笑)。たとえばブラのホックが突然バチンと切れるシーンを入れたらどうか? なんて話をしていたのですが、拓留に超能力があるとわかったタイミングって、話がシリアスな方向に向かっている状態なんです。
そこで急に「風の力でスカートをめくろう!」なんてことを主人公がやりだしたら雰囲気が壊れてしまうので、どこのシーンに入れるのかは議論になりました。
たきもと:今入っているシーンがベストポジションだと思います。最初は別のシーンに入っていたのですが、松本さんから「このシーンでは厳しいです」と修正が入って、僕のほうでここなら大丈夫だろうと思えるシーンに入れ直しました。
修正した後に、松本さんと「もっとめくってください」、「え、もう1回めくるんですか?」なんてやり取りを何度かした覚えがあります(笑)。
松本:あれは僕ではなくて、プロデューサーの松原が「もっともっと!」と。Pからの指示だったんです。
安本:変態の烙印を押し付け合っている(笑)。
梅原:妄想トリガーがシナリオに影響を与えたところは今話したシーンくらいかもしれませんね。
▲ちなみに、話題になっている風でスカートをめくるシーンはここではありません。どのようなシーンかは、実際にプレイして確かめてください。 |
――先ほど梅原さんのゲーム経験の話にもなりましたが、なぜゲームシナリオが初めてだった梅原さんがメインシナリオライターを担当することになったのでしょう?
松本:梅原さんという凄腕のライターがいるという話を聞きつけて、弊社からアプローチさせていただきました。実際に書いてもらったら本当に凄腕だったので、今回はいい縁に恵まれたとしか言えないですね。
――梅原さんは執筆されてみていかがでした?
梅原:本当に難しかったです。たきもとさんのようなスキルはやり終えた今でもないですし、普段はアニメーションの脚本を多くやっているので、脚本と小説のどちらに寄せるのか延々最後まで悩んでいました。
序盤は小説のほうに寄せすぎて、後半にいくにしたがって、なんとか真ん中あたりを狙っていったつもりではあるのですが、やっぱり小説とも脚本とも違いますね。
安本:確かに出だしは小説っぽくて、中盤の部分部分でアニメっぽいと思えるところがいくつかありましたよね。場面が切り替わることがよくあったり。
梅原:BG(背景)って全体で何枚ですか?
松本:背景はカット数で言うと60~70だと思います。
梅原:アニメーションは1話23分だとすると、比較的動いている作品だったら300カットぐらいあるんです。つまり23分で背景が300枚ある。
『カオスチャイルド』の場合は60~70カットで60時間もプレイしてもらうことになるので、常識が違うんですよ。
安本:逆に僕らは「60~70カットもあるんだ!」と思いました。
たきもと:アニメのライターさんと最初に聞いた時に、台詞重視でト書きが荒かったら大変だなと思ったのですが、ものすごく小説を読んでいらっしゃって、文章もほぼ小説の文体で書いていただいたので助かりました。
梅原:それがよくなかったですね(笑)。
安本:最初はそれくらいあったほうが、世界観の土台を作るうえでよかったと思います。
――シナリオが完成した時の社内の評判はどのような感じでした?
松本:社内で『カオスチャイルド』を作っているチームは、ずっと上がってくるシナリオを五月雨式に読み込んでいたので、正直客観的な判断ができずにいました。
僕らはおもしろいという確信があったのですが、他の人が見たらどうなんだろうとはすごく気になっていて。それが解決できたのが、すべてのシナリオが書きあがって、手すきのまだシナリオを読んでいないスタッフに全部読んでもらって「おもしろい」という言葉を聞けた瞬間ですね。
林:社内の評判はおおむねよかったですよ。
安本:それを聞かなかったわれわれは、発売するまでドキドキでしたよ(笑)。
――では書いた本人の手ごたえはいかがでしょう?
梅原:不安しか残らなかったです。
安本:なんでもそうですよ。出てみるまでは受け入れられるかどうかわかりません。
林:体験版の感想を見て、自信をもらいました。
梅原:でも何かのタイミングで感想を見たら、僕の目に飛び込んできたのが“許さない”だったので「あれ、おかしいな」と思いましたけど(笑)。
安本:“作ったやつらはどうかしている”、“ふざけんな”なんて感想もありましたよ(笑)。
松本:それは(ほめ言葉)だと思いますよ。Twitter上のTweetがポジティブな内容かネガティブな内容か感情を分析できるのですが、ユーザーさんの反応を追っていくと『カオスチャイルド』はネガティブな反応が多かったんです。
でもよく見てみると、“くそったれなゲームで素晴らしかった”みたいなコメントなんですよ。この“くそったれ”の部分がネガティブと判定されていた原因みたいです。
梅原:一番最初の1バイトでした。“――そして。僕は、このくそったれなゲームをクリアーした”という原稿を一番最初に提出したんです。実際には最後の章でしか使われなかった言葉ですが、『カオスチャイルド』はそこから始まりました。
▲“――そして。僕は、このくそったれなゲームをクリアーした”は公式サイトでも使われている印象的な台詞です。 |
――本作からアニメーターの若林監督が参加されましたが、シナリオへの影響はあったのでしょうか?
たきもと:若林さんがスタッフとして参加してくださったのは大きかったと思います。アニメの監督さんなので、シナリオへのツッコミが的確なんです。
シナリオを客観視してくださいますし、「演出上、こうしたいのでこうしてください」と理由付きのしっかりとしたオーダーで、とても納得がいくものでした。なので「若林さんがいいと言うなら大丈夫だ」という安心感もありました。
演出以外にシナリオへの貢献も大きかったと思います。シーンを書いたのは僕ですが、第6の事件の“箱”を考えたのは若林さんですしね。
▲第6の事件“非実在青少女”。本作をプレイしていて、一番最初に強い衝撃を受けるシーンがここだと思います。 |
――プレイした時は、あれを考えた人を小一時間問い詰めたいと思いました。
たきもと:そうですよね。最初は違うシーンを書いていたのですが、若林さんから「このほうがいいです」と絵コンテ付きで送られてきまして。
松本:当初予定していた内容だと倫理的な問題で絵にならないんですね。
それをどうするのか考えていた時に、突然若林さんがイラストを描き始めて「箱につまっているんです」と。確かにこれなら(笑)という感じですけど、実際に倫理チェックには問題はありませんでした。
――当初は、てっきり林さんが考えたと思い込んでいました。
林:違います! 僕はあんなひどいことはしません。
安本:主人公役の松岡禎丞さんは、あのシーンを収録し終わった後にすごく憤っていましたよ。
――たぶんプレイしたほとんどの人がそう思うはずです。
梅原:確か、あの事件の犯人の名前は5秒で決めたんですよ。最初は仮名だったはずなのですが、誰もNOと言いませんでした。
安本:箱の犯人はすんなり決まりましたけど、メインヒロインたちの名前は全員1回は変わっています。打ち合わせをしていると新しい名前と古い名前が混在して誰が誰なのかわからなくなったりもしました(笑)。
松本:ちなみに、志倉に案を出してもらって、拓留以外の名前を新しく考えました。
――『カオスヘッド ノア』もそうでしたが、本作の事件もけっこうエグいものが多いですよね。
梅原:どういった事件を起こすかで議論したのですが、前作は今作以上にエグいシーンがあるので、何をやっても直接的な残酷描写では勝てないだろうと思っていました。
林さんの性癖には勝てないので、そこに至るまでの心情やプロセスを考えて、よりへこむように工夫しました。
林:志倉からもそういうオーダーが出ていました。エグいだけでは意味がなくて、『カオスチャイルド』はインターネットの物語でもあるので、ネット上であだ名がつくような、エグいけどちょっとおもしろいと思えてしまう事件にしなければダメだと。
松本:ネーミング会議をやりましたよね。
――誰がどの事件の名前を考えたのですか?
梅原:“非実在青少女”が志倉さんで、“上手に焼けました”が松本さんでしたね。
たきもと:全員のアイデアをホワイトボードにずらーっと書いて、その中から選びました。本当にかなりのアイデアを出したので、他の事件は誰のネーミングだったのか覚えていないです。でも、確か“回転DEAD”も志倉さんだったような気がします。
▲第5の事件“上手に焼けました”。“音漏れたん”や“回転DEAD”など、ネットユーザーたちがおもしろがりながら名前を付ける展開はリアリティがありました。 |
――お話を聞いていると、志倉さんのネーミングセンスがすさまじいですね。ちなみに、皆さんのお気に入りの事件は?
梅原:僕は怖いのが苦手なのでありません(笑)。
たきもと:林先生はありそうだよね?
林:好きって言われると言いにくいですよ(笑)。
――“非実在青少女”じゃないんですか?
林:あれは許せません。
松本:たきもとさんは絶対“上手に焼けました”の表現が好きで、ノリノリで書いていたんだろうなぁと思っていました。
安本:事件ではないですけど、僕は精神的な怖さが好きなので、死体を安置している場所に伊藤を入れるシーンは書いていて楽しかったです。
――それぞれご担当されたルートの魅力を解説していただけますか? まずは林さんから。
林:華ルートをひと言で言うと『ジャイアント●ボ』なんです(笑)。
安本:『ジャイアント●ボ』と『ゴースト●スターズ』はみんなの共通認識としてありましたね。
林:マシュ●ロマンは倒さないといけませんから、僕の中では『ゴースト●スターズ』は違います。
華をしゃべらせないといけなかったので、それを生かした妄想能力を作ったのですが、志倉のひと言で●●マンを出そうという話になった時に、梅原さんがギブアップしまして。「じゃあ華ちゃんルートを引き受けます」と新しく展開を考えました。
たきもと:志倉さんは「●●マンが動くんだよ」って最初からおっしゃっていましたよね。そしてそれを聴いた梅原さんが真っ青になって(笑)。
梅原:僕には無理でした。プロットを考えてしまっていたからでしょうけど、生真面目というか、しっかりと理屈がないと書けなくなっちゃうんです。で、●●マンと言われた時に、どうやっても転がらなくなってしまって、「林さんすみません」と託してしまいました。
安本:●●マンと言われても、どこまでやっていいのかのさじ加減が難しいと思います。でき上がったものを読んだ時に、これは林さんじゃないと無理だと思いましたよ。
▲華 |
――続いて安本さんが担当された雛絵ルートの魅力をお願いします。
安本:中心キャラに関しては、梅原さんが生まれや能力発動までの経緯などを書いた詳細な設定を作っていて、それをベースに“こういう娘だったらテーマはこうなるだろう”と作っていきました。
雛絵ルートは松本さんから“少しギャルゲーっぽく”とオーダーがありましたので、ちょっとホっとする内容にするはずだったのに、全然ホっとしないものに(笑)。そこは『カオスチャイルド』なので、普通に終わっても世界観にそぐわないだろうとああいった内容になりました。
梅原:あのエンディングは安本さん独自のもので、僕の大プロットには書かれていないものでした。
▲雛絵 |
――雛絵ルートの最後はハッピーエンドなんでしょうか?
安本:本人がどう思うかですね。“嘘と真実”が雛絵ルートのテーマなので、それが本人たちの真実ならいいのではないかと。雛絵はキャラ人気もあるようなので、ほっとしています。
梅原:好きですが、一番やっかいなキャラでした。キャラクター性ではなくて、あの娘の“とある設定”が問題で、数十回プロットが瓦解しているんです。自分で作っちゃった設定なんですけどね(笑)。
たきもと:大変なキャラですけど、後半になると彼女のかわいさが目立つようになってくるので、いてよかったです。
――確かに、雛絵は後半にいくにつれてどんどんかわいくなっていったキャラでした。続いてうきルートをお願いします。
安本:うきルートの魅力をひと言で説明すると“うきちゃんかわいい”です(笑)。序盤はほのぼのとしているのですが……。このルートはたきもとさんの趣味でエンディング数が多いです。
林:バッドエンドを入れて6つぐらいありますよね。
たきもと:僕はゲームが好きなので、エンディングがいっぱいないと嫌なんです。やっぱり選択肢によって結末が変わらないと。
安本:それを事前に相談してくれればいいんですけど、「書いちゃった」と持ってこられても。
たきもと:相談するとダメだと言われそうなので、先に書いちゃいました(笑)。
梅原:うきルートの展開は一番最初に決まりました。というのも、本編のオチがうきルートのオチになる予定だったのですが、検討した結果やめておこうと。でも、捨ててしまうのは惜しいということで、うきルートで採用しました。
安本:音響監督さんはうきルートのバッドエンドをえらく気に入っていましたね。「美しい」って。
▲うき |
――私はハッピーなほうのエンドが好みです。
たきもと:ハッピーなほうは“もしかしたら”を匂わせる展開で終わらせて、皆さんの想像におまかせする形にしました。
――このルートだけ、蒼崎夢という美少女が登場しますが、この名前を考えた方は?
たきもと:実は最初に僕が考えた名前はダサいということで、松本さんに考えてもらいました。
松本:当初は●●でした。
――なんだか人妻の匂いがする名前ですね。
たきもと:まさにそう言われました(笑)。
松本:古風な感じですよね。
――次に乃々ルートをお願いします。
安本:僕とたきもとさんが長いこと喫茶店で話し合って考えたルートです。このルートは彼女がついている“とある嘘”をどうバラすか、それを知って拓留がどう感じるかがメインだったので、メインキャラの中でも損な役回りなんです。
なので、乃々のいいところをうまく出しながら物語を進行させるように注意しました。
たきもと:移植版をプレイしてくださった人が判断してくれると思いますが、乃々がついている嘘についてユーザーさんがどう思うのか、「本当に大丈夫なのか?」と当初議論になりました。
安本:あとは川原くんに注目ですね。彼はXbox One版をプレイした人から●●と言われていて。
たきもと:プロットの時はあんなに●●じゃなかったんですよ。安本さんは本当に●●が好きだよね。他の作品でも●●ばっかり出てくるじゃん(笑)。
安本:(笑)。もともと、乃々ルートに川原くんを出す予定はなかったんです。でも彼女の話を作るうえで何かインパクトが足りないと感じたので、川原くんを使ってみようという話になりました。でもプロットの段階から●●の片鱗はありましたよ。
梅原:川原くんは拓留の現状を描くために必要なキャラなので、絶対に削れないんです。伊藤と川原を削らなければいけない場合、僕は伊藤を削ります。物語的には川原くんにいてもらわなければ困るんです。
▲乃々 |
▲川原雅司 |
――続いて、久野里澪について教えてください。
梅原:久野里の設定にトゥルールートのネタバレが食い込んできてしまう構成的な問題があったので、トゥルーに澪を登場させて、そこで少しだけ過去を語らせる形にしました。
たきもと:トゥルーのよさや驚きがなくなってしまうので、個別ルートはないほうがいいという判断もあります。
梅原:プロットは書いていたので、それを安本さんにお預けして「全部おまかせします」とドラマCDの脚本をお願いしました。
安本:梅原さんが書いたものと僕とたきもとさんが書いたものとプロットが2つあって、それらをミックスしつつドラマCD内に収まるようにまとめました。
▲久野里 |
――どのような内容なのでしょう。
安本:久野里の過去を描いています。“なぜあそこまで●●を憎んでいるのか”をメインに据えたシナリオですね。本編の6章くらいからトゥルーにいたるまでの時間軸に沿って作っています。
ただ、それだけでは重い話になってしまうので、新聞部の連中がワイワイする場面も入れました。拓留と伊藤のおバカなシーンがちょいちょい入っていて、けっこう無茶なアドリブをオーダーしたので、皆さん笑いををこらえつつ収録されていました。
あと、トラック操作まではできませんが、ドラマCDなのに妄想トリガーがあります。
▲本作の限定版には久野里の過去が明らかになるドラマCDが同梱されています。 |
――ゲーム中で存在がほのめかされた“久野里の知り合い”は出てきますか?
安本:名前で一瞬出てくる人はいます。
――知り合いって『シュタインズ・ゲート』に出てきたあの人ですよね?
梅原:僕はそのつもりでシナリオを書いていました。
安本:久野里とは研究テーマも近いですしね。
たきもと:ただ、久野里はヴィクトル・コンドリア大学には行けていないんです。成績的には一段下の大学に行っていて、あこがれているような感じです。
――ちなみに、ゲームをプレイしていて気になったのですが、久野里が住んでいるアパートって桐生萌郁が住んでいる部屋に似ていませんか?
たきもと:似てはいますが違うアパートです。
林:秋葉原じゃないですからね。
松本:背景スタッフのオマージュだと思います。
――最後はトゥルールートの魅力をネタバレのない範囲で教えてください。
たきもと:裏テーマじゃないですけど、ただの“情強情弱”ではなくて、“家族ってなんだろう?”というテーマを込めました。
梅原:終わり方を決めてからキャラの配置や性格を決めていくので、最初からトゥルーとラストシーンの構成は自分の中で決まっていました。
トゥルーを描くために全部のキャラと設定を用意したので、作品のすべての要素が集約したルートです。その他のことはプレイして確かめてくださいとしか言えないですね。
たきもと:トゥルーエンディングに関しては梅原さんと松本さんの間で議論がありました。
梅原:直してくださいと言われて断ったのは終わり方だけでした。先ほども言ったように終わり方から決めるので、そこが変わってしまうと書けなくなってしまうんです。
松本:別のインタビューでも答えましたが、トゥルーをプレイヤーの皆さんが受け入れてくれるか不安だったので、別の結末のノーマルエンディング(over sky end)を作っていただきました。でも、実際に発売されたらトゥルーがベタぼめだったので、僕の考えは杞憂でしたね。梅原さん、すみませんでした。
梅原:いえいえ(笑)。今では松本さんのアイデアでノーマルエンディング(over sky end)を足してよかったと思っています。
――皆さんのお気に入りのキャラを教えてください。
たきもと:乃々です。僕は姉萌えではないんですけど、いい娘だな、ああいうお姉ちゃんが欲しいなと思いました。
安本:全部プレイし終わった後に彼女の思いやバックボーンを思い浮かべながら序盤をプレイすると泣けますね。
たきもと:いつもだと僕はうきちゃんみたいな娘を好きになっちゃうんですが、シナリオを書いているうちに「乃々かわいいな」と。拓留から見ると、お姉さんというよりも手のかかる妹のような感覚があると思います。
安本:お互いにそういうふうに見ていると思います。乃々もだいぶ拓留を精神的に頼っていますし。
たきもと:そういうところが好きです。
――梅原さんはいかがですか?
梅原:拓留です。彼のことを一番考えて書いていましたからね。
――拓留のリア中理論などは梅原さんのお考えなんですか?
梅原:ネット上でよく言われていることですが、実際にああいうことを言い出す人がいたらおもしろいと思って、拓留には生贄になってもらいました。そういった形でいろいろなことを託してしまって背負ってもらった部分があるので、拓留が好きです。
――では次に……林さんは?(笑)
林:なんで笑うんですか?(笑) でも期待されている答えはわかります。うきちゃんとか結衣ちゃんとか……ではありません。
安本:もしかして結人?
林:違います。僕は世莉架が大好きです。やっぱり最初から最後までプレイすると好きになっちゃいますね。
▲世莉架 |
梅原:林さんにそう言っていただけるとうれしいです。
林:上坂すみれさんの演技も素晴らしかったです。
梅原:上坂さんといえば、「おっけぃ」はもともとあった台詞でしたが、「う?」は収録の時に僕がいきなり言い出して生まれた口癖でした。
安本:そんなわけで以降のシナリオに「う?」と書き足さなければならなくなりまして……。
たきもと:泣きました(笑)。
――安本さんはいかがですか?
安本:雛絵と乃々が好きです。やっぱり自分が個別ルートを書いたキャラは思い入れが強いです。
たきもと:妹萌えとしては結衣ちゃんもかわいいですね。
安本:結衣ちゃんもかわいく見せようと思って書いたキャラなので、気に入っています。本当は彼女にはあまり出番がなかったのですが、僕とたきもとさんで相談して出番を増やしました。“ツンデレになりきれていないツンデレ”、みたいな要素を入れてみたり。
▲結衣(画像右下) |
――まんまと術中にハマって結衣を好きになりました(笑)。私はヒロインだと華が好きです。
梅原:スリーサイズの数字だと彼女が一番ナイスバディですよね。
松本:メガネで巨乳で、画面の端に見切れているぐらいのキャラでいいという志倉からのオーダーでしたから。
林:見切れているけど、特に説明しなくていいぐらいの扱いのキャラでした。
梅原:ルートを追加することになった時に、あまりしゃべるとプロットから離れてしまうので、ルートに入るまでほとんどしゃべらないキャラになりました。
安本:そしてルートに入ると●●マンが出てくるという落差(笑)。
――真面目なルートが多い中で、●●マンが出た時は笑いました。
林:あれは笑っていいところです。華ちゃんルートは本編の重苦しさを引きずらない楽しいルートで、ある意味本編とは独立した話だからこそ生まれた展開でした。
――疾風迅雷のナイトハルトも大活躍(?)ですしね。
林:『カオスヘッド ノア』の雰囲気も引き継いでいますね。
――彼は何をやっているんですか?
林:世界中を回っているのか、もしくは大阪にいるのか、それは誰にもわかりません。
――なるほど。いつかまた彼に会える日がくることを祈っています! それでは最後に読者にメッセージをお願いします。
林:『カオスヘッド ノア』の続編っぽく見えますが、前作をプレイしていなくても楽しめますので、科学ADVシリーズが初めての人もぜひ手に取っていただければと思います。
ただ、『カオスヘッド ノア』を事前にプレイしているともっと楽しめますし、『カオスヘッド デュアル』ならより一層楽しめるかもしれません。
安本:序盤から精神的にくるシーンがありますし、進めるにしたがってどんどん精神的にぶん殴られたり、落とされたりします。ですが、たぶん最後までプレイしていただけたら他のゲームでは味わえない気持ちを味わえると思います。
あと、ドラマCDは本編のネタバレにもかかわるので、すべてクリアしてから聞いてください。
たきもと:プロットを書き始めてから発売されるまでに2年くらいかかっている作品なんですが、これだけ時間をかけられるゲームなんて特に今の時期はなかなかないので、すごくいい体験をさせてもらいました。
初めてお仕事をご一緒した梅原さんのテイストを吸収できたのは作り手としてよかったですし、その成果が作品にも出ていると思います。梅原タッチが加わったことで、これまで科学ADVシリーズをプレイされていた方も違う雰囲気を楽しんでいただけると思っています。
『カオスヘッド ノア』とは違うテイストを随所に散りばめましたので、そのあたりも楽しんでいただけるとうれしいです。
梅原:プレイしてくださった皆さんの中にどういう感情が残るにせよ、プレイしてよかったと思えるゲーム体験になるように祈っています。体験版が配信されているので、そちらもよろしくお願いいたします。
※最終回はディソード編を予定
【カオチャインタビュー連載】
→『カオスチャイルド』インタビュー全体編。傑作と評価された魂の作品の誕生経緯やアニメ版への願望を聞く
→クソったれと叫びたくなる『カオスチャイルド』非実在青少女の誕生経緯は? インタビューグラフィック編
→『カオスチャイルド』インタビューサウンド編。阿保剛さんがBGM40曲を解説!
→高評価を得た『カオスチャイルド』の脚本はどう生まれた? インタビューシナリオ編(微量のネタバレあり)【本記事】
(C)2014 MAGES./5pb./RED FLAGSHIP/Chiyo St. Inc.
(C)2008 5pb./Nitroplus/RED FLAGSHIP
データ