2015年6月29日(月)
大ヒットアプリ『スクスト』『チェンクロ』『ログレス』の3社がアプリの未来を討論!
メタップスが主催する、スマホゲームアプリのビジネスに関するトークイベント“Smartphone Game Conference Vol.2”が、6月24日に六本木アカデミーヒルズで開催された。
先日行われた第1回の好評を受けて開催された本イベントでは、韓国や中国・台湾でのスマホゲームアプリ市場の現状が紹介された他、“ゲームアプリビジネスの現在(いま)と未来(これから)”と題されたパネルディスカッションが行われた。
スピーカーとして登壇したのは、Aimingの取締役COO・萩原和之氏、スクウェア・エニックスのディビジョン・エグゼクティブの渡辺泰仁氏、セガゲームス セガネットワークスカンパニーのCOO・岩城農氏。司会を務めたのはメタップスの取締役で、スクウェア・エニックス元代表取締役社長の和田洋一氏だ。
ここでは、パネルディスカッションの内容にスポットを当て『剣と魔法のログレス』、『スクールガールストライカーズ』、『チェインクロニクル』といった人気アプリのビジネスを支えるキーマンたちが集結したパネルディスカッションから、特に興味深い内容をピックアップして紹介していこう。
▲左から和田洋一氏、萩原和之氏、渡辺泰仁氏、岩城農氏。 |
■『ログレス』大ヒットの秘訣は、誰もが持っているデバイスをターゲットにしたこと
前回のディスカッションでは、『剣と魔法のログレス』がトップセールスを獲得した際のマーケティング手法が語られた。そこで今回は“スマホアプリでMMORPGを実現する”という『ログレス』の開発ポリシーからディスカッションがスタート。
▲Aimingの取締役COO・萩原和之氏。 |
萩原氏によると、Aimingでは当初から「オンラインゲーム以外はやらない」と決めていたとのこと。これは、他人が作らないものを提供することで、価値が生まれると考えていたためだ。
そのプラットフォームとしてスマホアプリを選んだ理由の1つに、“フィーチャーフォンでは表現できないことやオンラインゲームに対する制約が多すぎる”ということを挙げていたが、理由はそれだけではないという。
萩原氏はかつて、ゲームオンという会社の立ち上げに参加し、同社タイトルのPC用MMORPG『RED STONE』のヒットを目の当たりにした。萩原氏はヒットの理由として「当時のノートパソコンのような低スペックのPCでも、軽快に動作したから」だと分析している。
この経験により、萩原氏は「みんなが持っている、広く普及しているデバイスをターゲットにする」ことを意識するようになったそうだ。現在のスマホの普及は、かつてのPS2並みの能力を持つデバイスが誰の手にもある状態を生み出している。
萩原氏は「そこをターゲットに良質なオンラインゲームを送り出せば必ずヒットすると考え、それが『ログレス』の大ヒットとして結実する形になった」とコメントしていた。
▲普及しているデバイスにマッチしたゲームデザインこそが『剣と魔法のログレス』を成功に導いたとのこと。 |
MMORPGについて、渡辺氏もコメントしている。渡辺氏はスクウェア・エニックスでコンシューマゲームのプロデューサーとして活躍していたが、PCオンラインゲーム『ファンタジーアース ゼロ』を手がけたことから、オンラインゲームに深くかかわるようになったという。
渡辺氏によると「『ファンタジーアース ゼロ』の企画がスタートした時点で、すでにMMORPGの市場が確立されていた。そのため、他のMMORPGとの差別化として50人対50人の大規模対戦を本作独自の要素とした」という。
また2006年にサービスを開始した当初は、パッケージの購入後に月額課金でプレイするというビジネスモデルだったが、人気が伸び悩んだため「サービスが終了するよりはいいだろう」と基本無料(F2P)への移行を決断。
開発中のテストプレイが困難であるなどの問題は発生したものの、独自要素とF2Pを導入した結果、現在に至るまで、8年以上もサービスの続く人気タイトルになったという。
これらの意見を受け、和田氏は、企画段階での差別化と課金体系の重要性を指摘していた。
■ビジネスとクリエイティブを明確に分けたことで、多彩なジャンルのラインナップを実現
課金体系の重要性についてだが、和田氏は、当時のセガ(現・セガゲームス)がF2Pのマーケットにどのような形で参入するのかを、興味を持って見守っていたそうだ。すると、セガネットワークスから、まったく異なるジャンルのゲームが次々に登場したので、非常に驚いたという。
この背景について問われた岩城氏は「自身がゲーム開発の出身ではなく、ずっと事業戦略を担当してきたことから、通常とはアプローチがかなり異なる」と答えている。“失敗しないための戦略”として、自分たちの弱みを強みにどう変えていくかを考えた結果、コンテンツフローやビジネスモデルといったゲームの編成権を、セガネットワークスが持つことにしたのだという。
▲セガゲームス セガネットワークスカンパニーのCOO・岩城農氏。 |
その代わり、ゲームが持つ価値の具現化や楽しさを増幅するといったクリエイティブな面については、岩城氏が「世界一だ」と誇るセガのクリエイターたちに、存分に腕を振るってもらう形にした。
岩城氏が「AAAタイトルを潤沢な予算で作れます。ただしF2Pで、スマホネイティブでお願いします」という内容で企画を募ったところ、35~40タイトルが一気に立ち上がったという。その中から“F2Pとして機能するもの”という観点で選び出された12タイトルが、セガネットワークスの初期ラインナップとなった。
ちなみにその12タイトルの最後に「これがダメなら……」という思いでリリースしたのが『チェインクロニクル』(現、『チェインクロニクル ~絆の新大陸~』)で、現在も大ヒットを記録している。
▲12タイトルのラストを飾った『チェインクロニクル』。 |
スクウェア・エニックスの内製作品としては初のF2Pタイトルである『スクールガールストライカーズ』についても言及された。渡辺氏によると『スクスト』は社内公募で集まったコンシューマ開発のメンバーと、サーバーチームのジョイントによって制作されているとのこと。
▲スクウェア・エニックスのディビジョン・エグゼクティブ・渡辺泰仁氏。 |
制作にあたっては、ソーシャルカードゲームの基本となるロジックを守った上で、そこから自分たちの強みを生かしてゲームをどう膨らませていくかがポイントになったそうだ。
ここで萩原氏から「『スクスト』の3D描画が既存のゲームエンジンではなく、独自のエンジンによって行われているのはなぜか?」という質問が投げられた。それに対して渡辺氏は、『スクスト』のプログラマーで、かつてはPS用ソフト『デュープリズム』のディレクターを担当した杉本浩二氏が、「ぜひやりたい」と申し出たからだということを明かした。
▲熟練した技術が生み出した『スクールガールストライカーズ』。 |
かつてのコンシューマ機では、汎用のゲームエンジンなどを使わずにプログラミングを行っていたため、ベテランの開発者は不要な部分を捨ててプログラムを軽くするという判断ができる。スマホアプリの開発では、プログラムが重くなると致命的な悪影響が出ることがあるので、こうした熟練した開発者のスキルは大いに役に立つと、和田氏は語っていた。
■ゲームデザインを新しい技術でどう変えていくかが今後の課題に
“開発したアプリをどうプロモーションしていくか”という議論も行われた。和田氏は「ネットの店は実際の店よりも狭い」という持論を展開する。
▲メタップスの取締役で、スクウェア・エニックス元代表取締役社長の和田洋一氏。 |
現実のショップでゲームを購入する際には、あまり興味がなかったゲームでも店頭で見かけることで、フラリと衝動買いするということも起こり得る。PCのブラウザでゲームを検索して購入する際も、他のゲームの情報が目に入る可能性がある。
しかし、スマホでアプリを購入する際は、リンクからダイレクトにジャンプするため、他の情報が目に入らない。こうした状況で新規ユーザーを獲得するには、イベントや期間限定ショップなどの「オフラインをうまく使うのがポイント」だと和田氏は語った。
現在、多数のアプリゲームで行われているさまざまな“コラボ”は、集客のための重要な手段となっている。渡辺氏は『三国志乱舞』のプロデューサー・長谷川友洋氏が、個々のコラボ企画をきちんと立てて、自分自身でコラボ先へとおもむいて地道に交渉したという事例を紹介した。
この議論について岩城氏は、セガネットワークスでゲームアプリだけでなく、『Noah Pass(ノアパス)』と呼ばれるマーケティング支援ツールの事業も行っていると紹介。『Noah Pass』はゲームアプリの中に他社ゲームの広告を表示して、相互に集客を行うという仕組みのツールだ。
さらに今後はゲーム以外の広告の表示や、実際の店舗に来店することでゲーム内アイテムが入手できるといった、O2O(Online to Offline)広告の導入も予定されているという。
和田氏の言葉を借りるなら『Noah Pass』は“コラボを仕組み化したもの”だ。岩城氏は「各タイトルが個々にコラボを交渉しなくても、ゲーム同士を相互につなげていけば、ゲームがソーシャルメディアやニュースサイトのようなトラフィックの要所になりうる」と語った。
■ネイティブアプリの優位は今後も続くが、その中での課題をどう乗り越えるか
ディスカッションの最後には、会場からの質問に答えるコーナーが用意されていた。今回寄せられた質問は「現在はネイティブアプリが主流となっているが、今後技術が進化していくなかで、次はどうなっていくのか?」というもの。
これに対して岩城氏は、「デバイスにアプリをインストールして、画面をモニターに表示するという形は、まだしばらく続くと思う。その意味ではVRも同じ」とした上で、「自分としてはそれよりも、現行のビジネスモデルがどう変わっていくかに興味がある」と返答した。
萩原氏は「現在のアプリならPS2並みのゲームを作ることができるのだから、ブラウザでゲームを作ることに戻る必要はない」と回答。「2、3年後には、今の日本で使われているような高性能なスマホが、全世界に普及する。その時に全世界の人に遊んでもらえるゲームを、今のうちに作りたい」と語った。
この点に関しては和田氏も同様の見解を述べており「アジア以外の地域はまだF2Pが可能なシステムが普及していないので、現在の技術でも地理的なフロンティアがたくさんある」とコメント。ただし「ゲームデザイン的には今後、相当に煮詰まってくるはず。それを新しい技術でどう乗り越えるのかが、これからの課題になる」と回答していた。
人気アプリの誕生過程からマーケティング戦略や未来予測まで、興味深い話題が次々に飛び出した“Smartphone Game Conference”。次回の開催も予定されているとのことなので、引き続き注目していきたい。
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