News

2015年7月18日(土)

【電撃PS】SCE・山本正美氏の連載コラム『ナナメ上の雲』第63回を全文掲載。今回のテーマは“E3 2015”!

文:電撃PlayStation

 電撃PlayStationで連載中の、山本正美氏によるコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.594(7月9日発売号)に掲載されているコラムを全文掲載! 今号のテーマは大好評で幕を閉じた“E3 2015”のカンファレンスについて。会場の前列で発表の様子を見ていたという山本氏が思ったこととは?

  電撃PS Vol.594掲載 『E3 2015』

 毎年この時期、ゲーム業界最大のイベントがロサンゼルスで開催されます。そう、みなさんご存じ『Electronic Entertainment Expo』、通称“E3”です。E3は、ユーザーの方々が参加するわけではないため、意外かもしれませんが、じつは来場者としては5万人くらいのイベントなんですよね。

 なので、東京ゲームショウのように20万人といった集客があるわけではありませんが、しかし、各社が構える大型のブース、まるでカジノを思わせる照明、アメリカらしいショーマンシップに満ちたステージイベントなどなど、その光景は非常に華やかで、何度参加しても気分が高揚してしまいます。

 前回のコラムの近況欄にも書きましたが、E3に向かう成田空港のラウンジには、「あ、業界人っぽいな」と思う人がたくさんいて、耳をすますとちょこちょこ聞こえてくるわけです。新情報にまつわるようないろんな会話が。そんな“情報”がもっとも価値を持つのが、各社が満を持して新情報を公開するプレスカンファレンスです。

 とくに初めて発表されるタイトル情報は、その会社の株価にさえ影響を及ぼすわけで、事前にリークされないようにコントロールするのはまあ大変です。今年も、プラットフォーマーや大手メーカーさんが、それぞれのカンファレンスで新情報を公開し、大変な盛り上がりを見せていました。

 我が陣営も、『PlayStation E3 EXPERIENCE 2015 Press Conference』と銘打ったプレスカンファレンスをE3開催の前日に実施。近年の中でもっとも盛り上がったカンファレンスと称されました。今回は、その会場にいた身として、感じた3つのことを書いてみたいと思います。

 カンファレンス終了後、余韻がざわめきとともに残る会場の中。まず、最後に登場した『Uncharted 4: A Thief’s End』について考えました。“迫力あるカーチェイス”、とひとことで表現してしまえばそれまでですが、あれ、映像作品じゃなくてゲームですからね。ついに、クイックタイムイベント的な表現ではなく、“見る”と“やる”が両立する時代がきたな、と目を見張りました。

 それもありつつ、僕があのプレイデモを見て真っ先に感じたのは、雑踏の中、ドレイクが人を避けて歩いているのを見た瞬間です。モブキャラを押しのけるのではなく、その位置関係から“プレイヤーキャラが避ける”モーションがシームレスに展開されていた。

 『The Last of Us』でも壁際ではそれっぽいモーションに切り替わるなどしていましたが、さすが世界有数の開発スタジオNaughtyDog。動的な対象に対するモーションの自然な制御がなされていて驚きました。

 AAAタイトルは、今後、あの領域が基準になるのだろうと思います。その意味で、これはアンチャに限らずですが、最高峰に挑む際の『最高峰さ加減』が、さらに高くなったなと感じました。

 2つ目。僕は、カンファレンス会場の前のほうの席に陣取っていましたが、一番オーディエンスが熱狂的に反応していたのが、間違いなく『FINAL FANTASY VII』のリメイクの映像が流れた瞬間だったと思います。あれはすごかった。

 僕の目の前にいた8人くらいが立ち上がり、お互いを見ながら「イヨオオオオオッシ!(英語)」とハイタッチをしあっていました。その後に登場した『シェンムー3』も、発表アンド鈴木裕さん登場でボルテージは最高潮。『FFVII』も『シェンムー』も、オリジナル版発売当時の日本での盛り上がりについてはもちろん知っていますし、その後の海外人気も知ってはいました。が、まさかあれほどとは。

 一方で、僕達はこれから、“思い出とも戦わなければならないのだ”ということも強く感じました。“思い出補正を越える補正”をしなければ、あの熱狂が別の方向に作用する可能性があるのだなと思うと、これは、一筋縄ではいかない仕事だぞ、とも思ったのです。

 そして……。カンファレンスは、『人喰いの大鷲トリコ』の最新映像で幕を開けました。巨大なスクリーンに大鷲の羽が一枚ふわりと舞い降りた瞬間、会場は大歓声に包まれました。あの場で公開された映像については、僕も何度も見させてもらっていました。しかし、何度見ても震えます。なぜなら、あの大鷲は、“生きている”と思えるからです。

 世界中のゲームが集まり、その最高峰の映像が発せられる中にあって、あれほどの生命力を感じた“生き物”は他にいなかったのではないか。そう思います。カリフォルニアのカラっとした空気の中で、大鷲は一瞬、その情感によって確実に湿度を上げたのです。

 “最高峰に挑む”ことは大変なことです。少し前、日本のゲーム開発は欧米に負けた、と揶揄されたこともありました。しかし、『FFVII』『シェンムー3』といった、今でも通用する“戦いうる思い出”を生み出してきたのは、紛れもなく日本のクリエイターです。

 そして、見る者に詩を感じさせるあの『人喰いの大鷲トリコ』は、日本でその命が吹き込まれているのです。カンファレンスを通して湧き上がった3つ目の感情。それはつまり、『日本を誇ろう』という気持ちなのでした。

『ナナメ上の雲』
▲歓声に応える上田さんを激写。カッコイイぜ!

ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

『勇者のくせになまいきだ。』シリーズなどのプロデュースを経て、クリエイターオーディション“PlayStation CAMP!”を主宰。全国から募ったクリエイターとともに、『TOKYO JUNGLE』『rain』などを生み出す。昨年に、『ソウル・サクリファイス デルタ』『フリーダムウォーズ』『俺の屍を越えてゆけ2』をリリース。最新作『Bloodborne』が全世界で好評発売中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStation Vol.594』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2015年7月9日
■定価:657円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.594』の購入はこちら
Amazon.co.jp

関連サイト