2015年8月31日(月)
『エンサガ』河津秋敏さんが七英雄やシナリオを語る。『SAGA2015(仮)』の開発状況も
スクウェア・エニックスの人気ゲーム『サガ』シリーズのキャラクターが集結するiOS/Android/フィーチャーフォン用RPG『エンペラーズ サガ』。
3周年を迎えた『エンペラーズ サガ』についてお話をうかがうべく、シリーズの生みの親である河津秋敏さんに直撃インタビューを実施しました。
さらに『エンペラーズ サガ』のプロデューサーの市川雅統さんと最首智也さん、シナリオを担当している“とちぼり木”さんにも参加していただき、さまざまな裏話を語っていただきました。
もちろん、河津さんにインタビューをするということは、気になる新作についても……。『サガ』シリーズのファンが気にしているであろうアレコレについても聞いてきましたので、どうか最後まで記事をチェックしてみてください!
▲左から、最首智也さん、とちぼり木さん、河津秋敏さん、市川雅統さん(文中は敬称略)。ノリノリでポーズをとっていただきました! |
ソーシャルとコンソールの文法に『サガ』ファンの熱量が加わり誕生した『エンペラーズ サガ』
――9月で『エンペラーズ サガ』3周年ということですが、本作が始動した経緯を教えてください。
市川:『エンペラーズ サガ』を作りはじめたのは2011年の1月からなので、自分たちにとっては4周年になります。実は作品自体は、そのさらに2年前から作っていました。私が呼び出されて作り直すことになり、プロジェクトを引き継いだ形です。
ちょうど、当時はF2P(フリートゥプレイ)のゲームが過渡期だったころで、GREEさんの『ドラゴンコレクション』、モバゲーさんの『怪盗ロワイヤル』がはやっていました。スクウェア・エニックスとしても、携帯電話でゲームをリリースする場合、どういった形がいいのか迷っていた時期になります。
しかし、迷っている間に市場もどんどん変わってしまうので、私が受け継いだ時には「すぐに作れ」と言われたのを覚えています。そこで、河津さんに「すみません。助けてもらえませんか」と相談しに行ったのがはじまりです。
最首:スクウェア・エニックスとしても『拡散性ミリオンアーサー』などのプロジェクト開発がようやく動きはじめた時期で、まだ携帯電話のタイトルがリリースされてすらいませんでした。
『エンペラーズ サガ』は、まずはじめにGREEでリリースされ、その後にモバゲーとdゲームで展開したのですが、そのタイミングで、私がプロデューサーとして加わりました。
とちぼり木:僕らはずっとコンソールでしかゲームを作っていなかったので、本作の開発を手がけるオルトプラスさんから教わることも多かったです。最初は、まだF2Pがどんなものであるかも、よくわかっていませんでしたから。
市川:初期のメンバーは、私と河津さんととちぼり木さん、そしてもう1人の4人だけで運営していました。ですので、毎週毎週心配しながら河津さんに見てもらっていました。
このように、かかわる人間のほとんどが右も左もわからない状態でしたので、河津さんがいなかったら『エンペラーズ サガ』は完成していなかったと思っています。河津さんは、当時からソーシャルゲームに非常に詳しかったんです。
河津:私は『エンペラーズ サガ』の前に、携帯電話やタブレットでのMMOやソーシャルゲームのプロジェクトにかかわっていましたから。
『エンペラーズ サガ』の開発初期は、普通の携帯電話(今で言うフィーチャーフォン)向けに作っていたのですが、市場がちょうどスマートフォンに移行しつつあるタイミングだったので、社内でも「携帯電話向けに作っていて未来はあるのだろうか」という話になり、作り直すことになりました。
そこで、スマートフォンにも対応したものを作ろうということになり、市川が参加して本格的に始動したという流れになります。話をしていると当時を思い出しますね。
とちぼり木:自分は『ファイナルファンタジー零式』の開発が終わったころに、市川さんから声をかけられました。「『サガ』シリーズなので、ぜひやりたい!」と返事をしたことを覚えています。
――プロジェクトが始動した当初から『サガ』シリーズのオールスターゲームとして、開発が進められていたのでしょうか?
市川:『サガ』のオールスターということは決まっていました。実は、作り直す前の『エンペラーズ サガ』は『ロマンシング サ・ガ2』をベースにしたF2Pで、ホーリーオーダーなどのクラスを集めていくゲームだったんです。
しかし『ドラゴンクエスト&ファイナルファンタジー in いただきストリートSpecial』という作品を昔プロデュースした時に、作品を越えた掛け合いがすごくおもしろいと感じたので、オールスターにすることにしました。
とちぼり木:ただ、いきなり全部の作品を出すとユーザーが混乱してしまうので、最初は『ロマンシング サ・ガ』シリーズに絞ろうという話はしました。今はユーザーがついてきてくれているので、他のシリーズも出せています。
市川:私が加わってからの開発初期は、河津さんがF2Pに詳しかったということに、非常に助けられた部分があります。河津さんは、最初から「運営がすごく大事だ」と言い続けていたんです。2011年の時点で運営が大切だと言っている人は、河津さん以外にはあまりいなかったですね。
とちぼり木:当時は、シナリオを入れることもオルトプラスさんに反対されていました。「シナリオが長すぎると遊んでもらえない」とまで言われましたが、そこは『サガ』シリーズなので、お話は絶対に入れたい、という気持ちで作った記憶があります。
▲『エンサガ』の大きな魅力の1つ、シナリオも開発初期には実装するかどうか迷ったといいます。 |
河津:『ファイナルファンタジー』も含めて、IPを使ったタイトルが携帯電話でいっさい出ていなかった時期ですからね。
社内的にも「作品が持つ世界観を大事にしなきゃいけない」だとか「もともとの作品を好きだった人に否定されるようなものを作ってはいけない」という意見が多かったですし「新しい物で新しいユーザーにどういうものを出せばいいのか」という経験を積んでいた時期でもありました。
運営をはじめた最初のうちは、そういった流れのなかで『サガ』をベースにする、ということに対しての風当たりも強く、いろいろと難しかったですね。
カードの絵柄に関しても「今風のかわいい女の子が出てくる方がユーザーに受ける」という意見がありました。その意見は、ソーシャルゲームを作ってきたオルトプラスさんの経験値ですし、実際にそういうものが受けていたのも事実です。
しかし、『サガ』なんだから、小林智美さんが描いたイラストのカードをレア度の高いスゴイ物にしたいし、そうじゃないといけない。そうした部分はサービスを運営しつつ、ユーザーさんの反応を見ながらすり合わせていった次第です。
オルトプラスさんも、ストーリーの部分やカードの反応がいいことに対して、すごくビックリされていたのを覚えています。
とちぼり木:オルトプラスさんはソーシャルゲームの文法を持っていますし、私たちは私たちでコンソールの文法を持っています。
そこに『サガ』シリーズのファンの熱量が加わり、本作が形作られていきました。こうしたことからも『エンペラーズ サガ』は、独特な化学反応で完成したタイトルだと思っています。
河津:キャットやロックブーケのようなキャラクターは、かなり手探りで作っていきました。ユーザーさんとのキャッチボールのなかで仕上げていった部分が大きいので、最初からああいったキャラクターにしよう、という感じではなかったですね。
▲ユーザーとともに作り上げたというキャットとロックブーケ。非常に魅力あふれるキャラに仕上がっています。 |
本当に人間がしゃべっているような血の通った言葉こそが“河津節”
――本作の物語についてもお聞かせください。『エンペラーズ サガ』は現在第4章まで展開していますが、ストーリーを作るうえでのコンセプトはありますか?
河津:最初に「章の頭でこんな話にします」というコンセプトが、プロデューサーのほうから自分のところに来ます。全体的なゲーム性も含めた提示を受けて、大丈夫なのかというやり取りをしていきます。
ストーリー的に大変そうだったり、新しいシステムを入れたりといろいろしているので、こちらが心配してしまうことも多々あります(笑)。
最首:3章からはゲーム性も変わってきますからね。1章と2章は話がつながっているのですが、3章からは話も大きく変わっていくので「話が変わるのだから新しいシステムも入れたほうがいいよね!」といった感じで手を加えていきました。
とちぼり木:1章と2章のシナリオですが、白銀の皇帝からセルマに皇位継承をするという流れは『ロマンシング サ・ガ2』から来ています。
レオンからジェラールに皇位継承をするシーンって、セリフが少ないのに、すごいドラマチックじゃないですか。それを1章と2章で通しでやろうと考えたんです。
市川:『サガ』は、本編ののびしろの部分がすごく大きいんですよ。人の物語を達観しているかのような雰囲気がゲームシステムと絡み合って、いろいろなことを想像できるのがおもしろいですよね。
とちぼり木:『ロマンシング サ・ガ』のエスタミルにいる子どもとかすごいですよ。お金をせびってくるので「やなこった」を選ぶと、画面の上のほうに走っていって「バカヤロー」って叫ぶんです。あれを見るのが楽しくて、何回も選んでいました(笑)。
河津:あのイベントは小学生がすごく喜んでました。屋根の上に走っていって「バカヤロー」って叫ばせて、ゲラゲラ笑っている。何が楽しいのかはよくわからないのですが、子どもが楽しんでいるとたくさんの人に言われました。
とちぼり木:河津さんのセリフやシナリオって、血が通った言葉なんです。それがものすごく心にガツンとくる。
市川:本当にそう思います。自分は、今『ロマンシング サ・ガ2』をプレイしながら、心に響いたセリフを全部書き止めているのですが、強くそれを実感します。
河津:えっ、何それ、大丈夫? 相田みつをさんのファンみたいになってない?
市川:いやいや、大事な仕事です(笑)。でも本当に「お前は、自らの人生を捨てて戦う決意があるか」だとか「借りがあるのよ、皇帝さんに」など、普段はなかなか言えないようないいセリフが多いんですよ。
とちぼり木:普通は安易にカッコつけたくなってしまいがちなのに、それをしない決意がスゴイ。リアルに生きている普通の人が、ゲームの中でしゃべっているという印象を受けるんですよね。
それこそが、ファンの皆さんが言う“河津節”なのかなと思っています。血が通っていて、生身の人間の言葉だという感じがすごくある。
──なんとなくわかるような気がします。8月に復刻イベントとして実施されたイベント“ロマンシング サガ 2 ZERO”のシナリオは河津さんが担当されていますが、このシナリオはどのようなテーマで書かれたのでしょうか?
市川:2013年に“ロマンシング サ・ガZERO”というイベントを開催したのですが、その時の河津さんのシナリオが実に好評だったんです。
とちぼり木:『LORD of VERMILION』で、河津さんが七英雄のフレーバーテキストを書かれていたのですが、それが非常におもしろかったのでお願いしました。
河津:“ロマンシング サ・ガZERO”は、『ロマンシング サガ -ミンストレルソング-』の制作時に設定を作っていたのですが、“ロマンシング サ・ガ2 ZERO”の時にはフレーバーテキストしかなく、ストーリーはまだまったく考えていませんでした。
もちろん、古代でタームと戦っていたという設定はありましたが、ストーリーとしてはまだ全然存在していなくて、オアイーブやサグザーも設定の上では絡んでいなかったんです。
「“ロマンシング サ・ガZERO 2”を作ってください」と言われてどうしようかな、と考えた時に、その前に『エンペラーズ サガ』でターム側のアリの話を書いてもらっていたので、それを拾ってつなげる形で肉付けしていきました。
とちぼり木:あれにはビックリしましたね。アリは「何かイベントを作らなくてはいけないな」ということで、急遽3日くらいで作ったんです。
“ノエルが最初に急襲する魔物がタームソルジャーの子”という流れはあったのですが、河津さんのシナリオに自分が書いたタームソルジャーが出てきた時は感動しました。
市川:ソシャゲだと「アリだー!」のインパクトって出しづらいじゃないですか。ですが、いきなり主人公がアリになるのであれば、雰囲気が出るかなと思った訳です。
あのイベントのおかげで、限られた環境でも人を驚かせることができるのだと確信しました。ユーザーもビックリしていましたから(笑)。
河津:強い意志を持ったアリが主人公として設定されていたので、すごくノエル好みなキャラだな、と。そこで話をつなげようと思いついたんです。
それから、クジンシーの絵が異常にカッコよく仕上がってきたので、これはいじらないとおもしろくないなと。
とちぼり木:クジンシーがいじられるのは“ロマンシング サ・ガ2 ZERO”でも好評でした。この間の『インペリアル サガ』のイベントでも、すごく反応がよかったです。
――クジンシー、せっかくイケメンになったのに……。
河津:イケメンはいじめたくなりますよ。絶対にいじったほうが楽しいです(笑)。
▲正統派のイケメンであるのに、ユーモラスなやり取りが多いクジンシー。 |
とちぼり木:イベントの“ロマンシング サ・ガZERO”シリーズは、七英雄や聖王の背景設定だったりと、河津さんにしか書けないものなんです。
ただ『エンペラーズサガ』の世界の人間が主軸ではあるので、流れ自体は僕のほうで作り、それを河津さんに見ていただいています。
河津:カードの絵の発注もシナリオを書く前にだいたい決まっています。カードを出すタイミングに、シナリオを当てはめていくような形で作っていますね。
先に絵があり、クジンシーのようにイジメがいのあるキャラクターが出てきたらいじって、といった形でキャラごとに作っています。
ボクオーンなんて『ロマンシング サ・ガ2』とはまったく違うキャラになっていますが、強気な性格にしないとあの絵にあわないんです。ドット絵の時とは違うキャラクターとして絵があがってくるので、非常に刺激を受けています。
最首:“ロマンシング サ・ガ2 ZERO”のイラストは自分が発注したのですが、イベントをやる半年くらい前からあの七英雄を用意していたので、実装された時に好評でよかったです。
“古代の決戦! 最終英雄、誕生‐前編‐”は『ロマサガ2』ファンに遊んでほしい
──8月31日から始まる“古代の決戦! 最終英雄、誕生‐前編‐”ですが、こちらのイベントでは古代人の七英雄たちがより深く描かれるのでしょうか?
とちぼり木:このイベントは『インペリアル サガ』で七英雄のイベントを作った時に、河津さんからもらったアイデアなんです。ただ、期間的な事情もあり『インペリアル サガ』では実現できなかった。
今回、市川から「『エンペラーズサガ』が3周年なので、ぜひこっちでやろう」と提案があったので、あらためて河津さんにシナリオをお願いしました。
最首:見どころをお話ししたいのですが、核心部分がネタバレなので難しいんです。イベントのタイトル自体、かなりのネタバレだったりもしますので……。
とちぼり木:カードが登場しますので『サガ』シリーズのファンでしたらそこから想像できるかもしれません。僕は、最初に河津さんからアイデアを聞かされた時はド肝を抜かれました。
市川:今回一番言いたいことなのですが、『ロマンシング サ・ガ2』が好きな方には、ぜひ今回のシナリオを読んでいただきたいです。こんな発想から世界が広がるのか、という驚きがあります。
河津:最初に『インペリアル サガ』の方でお話をもらった時に、継承をするという話があったんですよね。それだったら、もっとインパクトのある継承の仕方をしたほうがいいよね、と言いました。
――驚きの設定になっていますが、そもそも『エンペラーズ サガ』のなかで明かされた設定は、どこまでが原作の『ロマンシング サ・ガ』シリーズのオフィシャル設定なのでしょうか?
河津:基本的に『エンペラーズ サガ』で登場した設定は、あくまでも『エンペラーズ サガ』内の設定です。ですので、それが『ロマンシング サ・ガ2』の隠れた設定でした、という訳ではありません。あくまでも『エンペラーズ サガ』の世界だからこそできることですね。
市川:『エンペラーズ サガ』の3周年だからできた、という部分も大きいです。オリジナルの世界観を補完するというよりは、河津さんの新しいテキストを読めるということを楽しんでいただければと思います。オフィシャルだけれどもオフィシャルじゃない、という難しい立ち位置ではありますが。
▲ワグナス |
▲ロックブーケ | ▲ボクオーン |
▲クジンシー | ▲スービエ |
▲ダンターグ | ▲ノエル |
河津:仮に、今後『ロマンシング サ・ガ2』をリメイクする機会があれば、いろいろなところで書いた設定が反映される可能性は十分にあります。今のところはそういった話がないので別物として存在していますが、リメイクをするとしても、その時に都合がいいものを使うだけです。
もし設定が入っていなかったら「あれは『エンペラーズ サガ』だけの設定でした」と言おうと思います(笑)。
市川:でも、もともとの設定があったものもありますよね。たとえば『ロマンシング サ・ガ3』の聖王が女性だったとか。
河津:もともと設定があって、作るつもりだったけれど乗せられなかったものはありますよ。ただ、それは自分の中でオフィシャルなものとして切り分けています。
最首:もうどこまでオフィシャルなのかは、河津さんにしかわからないですよね(笑)。
▲イベントに登場するセルマのカード。シナリオももちろんだが、どんなカードが登場するのかもワクワク! |
七英雄は七福神! 河津さんが語るキャラクター製作の根本
――今回のイベントもそうですが、七英雄はシリーズの中でも露出が多いキャラですよね。河津さんとしても強い思い入れがあるのでしょうか。
河津:そうですね。たとえば『ロマンシング サ・ガ3』の四魔貴族は人間ではなく“魔”なので、人間には理解できない超越した存在です。ですので、人間っぽくは書きたくなかったんです。
『LORD of VERMILION』では人間のような表現をしてしまいましたが、本当はアレもどうしようか考えたほどでした。アビスの存在なので、人間には理解できないようにしたかったんです。
──なるほど、だから四魔貴族は、ゲーム中も基本的にはほとんどセリフを言わないんですね。
河津:はい。ですが、七英雄はもともとが人間なので、そういう意味では人間的に描きやすいところがあります。それが、キャラクターが立っている理由の1つなのではないでしょうか。
大河ドラマ的な作品って、敵側のキャラクターが立っていれば立っているほどおもしろいので、そこに魅力を感じてもらえているのかな、と思いますね。『三国志』だったら曹操がいたほうが楽しいといった具合です。
市川:ファンの方が七英雄を好きというのは、とても理解できますよ。『ロマンシング サ・ガ2』の話をしていても、もっとも話題に出るのは七英雄ですから。
何千年もかけて、かつて人を助けた英雄たちが世代を越えて倒されるのというは、どんな気持ちなのかなって考えますよね。敵キャラクターとして秀逸だと思います。
河津:7人いて紅一点がいるという意味では、じつは単なる七福神なんですけどね(笑)。
──七福神!? 今、さらっとすごいこと言いましたね。
河津:はい。ただ、七福神だとおじいさんばっかりでカッコよくないですし、敵にもしにくい。ですのでなんとかしようと考えて、あのような形に仕上がった訳です。
▲七福神ということは、ロックブーケは弁財天のポジション? |
――1人のファンとして思うのですが、河津さんが描く『ロマンシング サ・ガ2』や『サガフロンティア2』のような大河シナリオは本当に魅力的だと思います。
河津:エピックアドベンチャーというのは『サガ』のようなものだと考えているんです。
『ファイナルファンタジー』は演出、シナリオともに映画的で、少数のキャラクターにカメラが当たり表現されていますが、自分の場合はどちらかと言うと『三国志』や『銀河英雄伝説』のように、あっちこっちにお話が飛んでいく作り方が好きなんです。
そこでエピソードごとに活躍するキャラがいるというように、プレイヤーによって好きなキャラクターがバラバラになるのが理想的だと思っています。『三国志』のような、東洋に昔からある表現ってみんな大好きじゃないですか。
自分のキャラクターの表現の仕方は、そういった形をベースにしています。ですので、いろいろなキャラクターが出てくるのは自分としては当たり前で、1人にスポットを当てるよりもマイナーなキャラがたくさん登場する作りになっています。
あまり長いシナリオだと前の設定をひきずらなくてはならいですし、ゲーム的にいろいろ制限がついて都合が悪くなることもあります。ゲームとしてもおもしろくなくなってしまうので、短く区切っているという形ですね。
とちぼり木:河津さんが書きすぎないからこそ、ユーザーが好きになったキャラクターの背景を想像して、より好きになるということもありますよね。
市川:七英雄の行動だけ見ても全貌がわからないですから。戦艦を作っているヤツがいれば、洞窟でうろうろしているだけのヤツもいる。ただの敵ではなくて、底知れない雰囲気を持っているからこそ、魅力的にうつるのではないでしょうか。
河津:スービエなんて海で泳いでるだけですしね。周りに人もいないので何も悪いことはしていない。放置していると海の主と同化してしまいますが、たぶん世界を滅ぼす気はないですね。
――もっと河津さんのキャラクターのエピソードを見てみたくなりますね。七英雄以外にも、今後、設定を掘り下げていきたいキャラクターはいますか?
河津:『サガフロンティア』のキャラですね。キャラクターはエピソード的に出たのですが、本格的には出さずに終わっているので、今後掘り下げていきたいです。
あとは『ロマンシング サ・ガ3』の主人公キャラクターはもっと掘り下げたいですね。カタリナやハリードはキャラクター的にあまり描かれていないので、エピソードがいっぱいあるんですよ。
とくに、ハリードは『ロマンシング サ・ガ3』の時点で設定を練り込んであるキャラクターですし。逆に、カタリナは設定が何もなかったりします(笑)。
『エンペラーズ サガ』は、パラレルだからこそ振り切りやすいんです。この設定を踏まえてリメイクすると考えると怖くてできない部分もありますが、そういうことを考えなくていいので思い切ってやっています。
新作、そして『エンペラーズ サガ』新章 第5章(仮)
──『エンペラーズ サガ』は基本的にパラレルワールドということですが、『インペリアル サガ』とお話のつながりはあるんですよね?
とちぼり木:この2作は神話の部分でつながっています。お話自体がつながっているわけではなく、設定や神話の部分が同じという設定です。
『インペリアル サガ』の方が時間軸としては古いです。『エンペラーズ サガ』の白銀の皇帝がいた帝国の名前と『インペリアル サガ』の国の名前が同じだったりするのはそういった理由からになります。
▲物語のキーマン“白銀の皇帝”。 |
――冒頭でも軽くお聞きしましたが、河津さんは『エンペラーズ サガ』や『インペリアル サガ』には、どのような形でかかわられているのでしょうか?
市川:河津さんには、シナリオを全部見ていただいています。ベースをこちらで作り、事前にとちぼり木から河津さんに連絡してもらう形です。
とちぼり木:河津さんは、いいか悪いか、おもしろいかおもしろくないかをハッキリと伝えてくださるので、ライターとしてはすごく楽なんです。
河津:悩んでいる時って、お話がわかりにくくなっているんです。私も悩んでいるとゴチャゴチャ書いてしまって何が書きたいのかわからない状態になるので「これはこれでいい」とちゃんと言ってあげるのが、自分のできることだと思っています。
市川:河津さんの頭の中にある設定を100%僕らが理解することはできませんが、お客さんが望んでいるものを“ロマンシング サガ 2 ZERO”のような形で実現できたらいいと思っています。
河津:ただ、あくまでもゲームありきですね。いろいろな設定を作っても、ゲーム上で表現できなければ意味がないですから。ゲームがおもしろくならなければ仕方がないので、そういう設定は表に出さないようにしています。
市川:その出さない設定の中にも宝物がいっぱいありそうな気がするんですけどね……(笑)。でも、こうやって『サガ』は作られてきたんだろうな、というのが垣間見えるので、僕らも作っていて楽しいです。
河津:『サガ』シリーズを作っていると、いつも設定をくれと言われるんですよね。ゲームでわかることがすべてなので「そんなのゲームとしておもしろくないなら無視しちゃっていいよ」とか「ハードのスペックや作業時間などでやりづらないなら切っちゃっていいよ」と言っています。
いろいろな制約がありますから、あまりみんなに設定に精通されても逆に困ってしまうんです。
市川:河津さんって、バイブルみたいなものを作って1から作業するというやり方はとらないですよね。
河津:やらないです。それを作ってしまうと、みんな設定からしっかり作ろうとしてしまうんです。でも、設定を作るのが目的ではないですから。
──今作られている『SAGA2015(仮)』でも、同じような作り方をされているのでしょうか?
河津:はい。バイブルを作ると「ここはこうしよう」と言った時に、開発側から「設定はこうじゃないですか」と逆に言われてしまうんですよ。
「いいんだよ、そんな設定は無視すれば」と返すと、「じゃあ、この中でどの設定を無視していいんですか」という話になって、設定を書いた意味がなくなっちゃう。だったら最初からなくていいということになりますよね。
市川:その考え方、スゴク『サガ』っぽいです(笑)。
河津:「設定がないからやりづらい」とよく言われるので、設定があってもあえて「ない」と言うようにしています。「ないから、そっちで好きに作っていいよ」とまで言っていますよ(笑)。
──『サガ』シリーズは、作り方も含めてすごく変わっていておもしろいですね。
河津:みんな僕に振り回されているので、すごく大変だと思います。『エンペラーズ サガ』のような運営系のゲームなら、ユーザーがいる間はずっと続くとわかりますが、パッケージの場合はそうはいきません。
――スタッフの皆さんも大変そうですが、現状は新作に注力していらっしゃるということですね。
河津:もちろん、自分で「もう、いいよ」という最後の部分は決めていて、現実的にやれる範囲までしか要求していません。現状は、ほぼ99%、新作の作業しかしていない状態です。
市川:『エンペラーズ サガ』の監修も大変だと思いますが、河津さんのメインは『SAGA2015(仮)』ですから。
河津:もっと、手伝ってあげられるといいのですが、そのヒマがなかなかとれないのが現状です。ですので、シナリオもとちぼり木にお任せしている部分が大きいです。
市川:僕らも新作についてはほとんど知らないんです。『SAGA2015(仮)』は、作っているスタッフがみんな熱いので楽しみにしています。
――ファンとして私も楽しみです。話を『エンペラーズ サガ』に戻しますが、こちらは、今後他作品とコラボするというよりも『サガ』シリーズを掘り下げていく形になるのでしょうか。
とちぼり木:『エンペラーズ サガ』に関しては、もう5章の開発に入っています。自分は1章と2章のシナリオを書いていたので、5章から復帰する形です。世界観が一新されるだけではなく新システムも入りますし、主人公も小林さんに絵を描いていただきました。
最首:新章なので、5章という表記すらやめるかもしれません。今のところは4章を年明けまでどんどん盛り上げていって、5章に移行する予定です。
河津:『サガ』シリーズは、ある意味で縛りがないので『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』のような大作ではやりづらいこともできるんです。今年は会社に対して25周年という言い訳も用意できたので、好きなことを「25周年ですから!」と言ってできるのが大きいですね(笑)。
『SAGA2015(仮)』についても、そう遠くないタイミングでお話しできると思いますので、楽しみに待っていてください。
――長い時間どうもありがとうございました! 最後に、『サガ』シリーズと『エンペラーズ サガ』のファンに向けて、ひと言お願いします。
最首:『エンペラーズ サガ』は、ユーザーの皆さまのおかげで3周年を迎えることができました。さきほど、とちぼり木が言ったように5章(仮)も用意していますので、そこで新しいシステムや遊びも提供できたらいいなと考えています。
それから、5章があるということは当然4周年も見据えています。来年も、こういった形で『エンペラーズ サガ』の進展をお見せできるとうれしいですね。
とちぼり木:新章となる5章(仮)では、吟遊詩人にテーマを置いた世界観でシナリオを作っています。まだ具体的にはお話しできませんが、そこを楽しみにしてもらえるとありがたいです。
市川:『エンペラーズ サガ』をプレイしていただけたことで、シリーズが盛り上がり、いろいろなコラボや仕掛けを用意することができました。この作品が盛り上がったことで『インペリアル サガ』が生まれ、新作の『SAGA2015(仮)』も動いたので、3年間遊んでいただいた方たちには、本当に感謝しています。
まだ遊んでいない方は、今回の河津さんが描く新シナリオをぜひプレイしていただきたいです。きっと、熱い何かを与えられるかと思いますし、自分もシナリオを読んだときに熱いモノを感じましたのでお楽しみください。
河津:この3年間『エンペラーズ サガ』のファンの皆様に支えていただいたことで、新作の準備ができました。本当にありがとうございます。シリーズ全体のファンの意見としては「とっとと新作を出せよ」と言いたいと思いますので、とにかく新作をできるだけ早く、そしておもしろいものを提供できることを最重要と考えてやっていきます。
当然、新作の『SAGA2015(仮)』が発売すれば、そこから派生していくものもありますし、『SAGA2015(仮)』から次の新作につなげていきたいとも思って製作していますので、どうかよろしくお願いします。
(C)2012-2014 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Powered by AltPlus Inc.
データ