2015年9月18日(金)
“Project Morpheus”改め“PlayStation VR”の今を聞く! 発売はそう遠い未来ではない!?【TGS2015】
9月17日から開催されている東京ゲームショウ2015(以下、TGS2015)のSCEブースでは、PlayStation VR(旧名称:Project Morpheus)を体験できるコーナーがあり、非常に多くの来場者でにぎわいを見せている。今回、話題の“PlayStation VR”について、開発者である伊藤雅康氏に現在の開発状況などをうかがった。
▲伊藤雅康氏。1986年にソニー株式会社に入社後、ソニー・コンピュータエンタテインメント技術本部、設計生産本部などの部署を経て、現在はEVP 兼 PSプロダクト事業部 事業部長 兼 ソフトウェア設計部門 部門長を務める。 |
“PlayStation VR”のハード開発はほぼ完成している!
――正式名称が決まった“PlayStation VR”(以下、PS VR)ですが、現在の開発の進行状況はいかがでしょうか?
掛け値なしに順調に来てますね。ハードウェアに関しては今回展示させていただいているもので、ほぼ完成形までいっています。あとはシステムソフトウェアや、ゲーム側のチューニングですね。それを各デベロッパーさんと相談しているところです。
――PS4の開発のときはデベロッパーさんとディスカッションしながら仕様を決めていったと聞いているのですが、VRに関しても同じでしょうか。
今回は、さらにもっと深くやらせていただいてます。今回一番気になっているのが“酔い”なんですよ。ハードウェアとしてどう作ったらいいか、逆にゲーム性としてどうしたらいいか、本当に初期の頃から深くディスカッションしながらやってます。
“PS VR”はあくまでもPlayStation系列の一員
――“PS VR”というのは、PlayStationビジネスに対してどんな位置づけでしょうか。
PS4のエコシステムの1つとして考えてます。ですので、絶対にPS4とつながるというのは考えていました。他社さんのVR機器でしたら、ハイエンドPCとつながるのが自然だと思うんですね。正直に言って、ハイエンドPCとつながれば非常にクオリティの高いものが出せます。でも我々はやっぱりPS4とつないで、PS4の世界の1つとして、VRを広めていこうというところからスタートしておりますので。PS4のパフォーマンスを最大限に使ったVR、PS4のエコシステムの1つと位置付けているわけです。
――PS VRの購入者がPS4を買った人の中の一部と考えると、市場が狭くなってしまうと思いますが、どれくらい売れると目算を立てていらっしゃいますか?
具体的な数字は申し上げられないですけれど(笑)。おかげさまで、PS4の販売台数は増えていっているので、その流れでPS VRも買っていただけるとありがたいなと。
発売時期は2016年上期を目指し、鋭意調整中! 気になる価格は……?
――GDC 2014にて、2016年上半期の発売を予定しているとの発表がありましたが、具体的にこのくらいに出したいなという時期は……?
それを言うのは難しいですね(笑)。上半期としか言いようがないかなと。さきほど申し上げましたけど、ハードウェアとしてはほぼ完成形まで持ってきているんです。やっぱり“酔い”ですね。同じゲームをやっていても、すごく酔う方と全然酔わない方がいらっしゃるんですよ。だから我々としては、健康に直結することもありますので、100%完璧は目指せないかもしれませんが、なるべく酔わないようにしたいんですね。だからデベロッパーさんがゲームソフトを作るうえでどう作ればいいかとか、ファームウェアをどうチューニングしていけばいいかとか、いろいろと試行錯誤している段階なんです。それが大体、上半期のどこかで出せるレベルまで持って行ければと考えています。
――“酔い”問題解決への道筋は見えてきている?
段々見えてきていますけど“これぐらいでいいだろう”と思っても、やっぱり酔う方もいらっしゃるんですね。どこまでやったらいいのかという線引きが難しいので、ガイドライン作りをいまやっているところです。
――確かに現時点で出して酔う人が“もうやらない”となったら問題ですよね。
そうなんです。それを一番恐れてるんですよ。今の段階で出して“PS VRはこの程度……?”という評判になるのが怖いんです。だからなるべく完璧な状態で出したいと考えています。
――ちなみに上半期というのは何月から何月ですか?
1月から6月ですね。発表の時期がすごく難しいので、そこはよく考えたいと思います。
――まだPS4を持っていないユーザーさんがPS4本体、ソフト、PS VRすべてを買うと結構な値段になると思います。どのような戦略を考えていらっしゃいますか?
はい、PS4本体の価格は今回値下げを発表しました。まだPS VRの価格を申し上げることができないのですが、お買い求めしやすいレベルまで値引きはしたいと考えています。というのも、他社さんだとハイエンドPCを買ってVR機器も買うとなると、結構な価格になってしまうと思いますので、それは我々のPS4につなげるということで性能も担保できますし、価格も低価格でできますので、そこは強みだと考えています。
他社との切磋琢磨がVR業界全体を盛り上げる!
――ゲーム以外の分野への導入は考えていらっしゃいますか? たとえば医療やSNSなど。 また、それはPS4とつなげたもの、あるいはハイエンドPCとつなげたものでしょうか。
最初からとは言えませんが、将来的にどこかのタイミングでやりたいとは考えています。まずBtoC(Business to Consumer)に関しては、必ずPS4を使いたいと考えています。PlayStationのエコシステムとして、BtoCは絶対PS4を使いたいですね。対して、もしもBtoB(Business to Business)があるとしたら、それは相手にもよると思います。相手がもっとハイエンドのPCを使いたいとおっしゃるんだったら、それは考えなければとは思いますが、具体的に今はまだ考えていません。
――Oculusなどの他社さんと切磋琢磨しながら、VR業界全体が盛り上がっていると感じています。その空気はPS VRの開発において、影響は大きかったでしょうか?
それは大きいと思います。Oculusさんとは本当にいろいろな場でお話させていただいて、いい意味で切磋琢磨して盛り上げていけているかなと思います。
――PS4本体とHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の両方をSCEさんが同時にやっていらっしゃるので、セットとして戦略を取りやすいという強みがあると思うのですが、いかがでしょう。
そこが一番のポイントだと思ってます。我々はワールドワイドスタジオも持っていますので、ゲームソフト、ハードウェア、HMDのすべてを自分たちだけでチューニングできるんですよ。だからそこが一番の強みかなと考えています。実際発売するときにPSNもありますし、最初から最後までの一貫した流れを持っていますので、そこは他社さんに比べてアドバンテージを持てるところだと思います。
――各社のVRヘッドセットも来年の上半期から登場するものを見比べると、どれも近い形に洗練されているように見えるのがおもしろいです。
結局酔いとか、いろいろと研究していくと同じ方向に近づいていくのかなと思います。ゴーグル型であればとくにそうですね。トラッキングの仕方だけは各社違いますが。
残った改善点も多く、まだまだ進化の余地は大きい
――PS Cameraを使ったトラッキングシステムについても、進化してきたのでしょうか。
実際カメラのほうもVR用に手を加えたりしてますしね。PS4のファミリーの1つとして考えてましたから、カメラは初めから使うつもりでした。
――ハードはほぼ終わって、システムソフトウェア側の調整が残っている段階ですか
システムソフト側と、デベロッパーさんのソフトの調整ですね。システムソフトウェアのレベルでは、まだ変更があります。今後のソフトウェアのチューニングによって、今回のTGSで体験したものより質は上がっていくと期待してください。
――PS4のポテンシャルも本件の開発中にだいぶ引き出してますよね。
そうですね。2画面出力とか120Hzとか、デベロッパーさんから「これできないの?」という要望をいただき、検証を重ねた結果「できるじゃん」と追加していった感じです。PS4の高いポテンシャルがあってこそですね。
プレイするときの注意点や考慮していることとは
――『初音ミク』のように近づきたくなったり、つい熱中しがちなゲームの場合、周囲の物に手がぶつかる危険などがあると思いますが、そこのガイドライン的なものは?
最初にゲームを始める前に、ガイダンス的に周囲を確認してもらったり、ということは考えています。
――周囲に障害物があるよ、と検知する仕組みはできないのでしょうか
現状では技術的に難しいですね。
――TVの前にどれだけの広さの空間を用意しておけば安心できますか?
それぞれのご家庭で環境は違いますが、基本は手の届く範囲が開けていれば問題ないかと思います。
――VRの場合、1回のプレイごとに休む目安は?
目安は業界的にも今のところないのですが、そこは議論中ですね。たとえば今回展示させていただいている『RIGS』だと、1回あたりのプレイ時間はわりと長いです。健康のことを考えてどんな形がいいのかを検討しています。人によって個人差があるので難しいんですよね。
――日本と海外の家庭環境、VRの使用環境はかなり違うと思います。そこに関しては、どういったところまで考えていますか?
海外の人はヘッドセットをつけてプレイしている姿を周りに見られることに抵抗がないんですね。それが日本人だと、人に見られるのに抵抗があると思うんですよ。動いているのが恥ずかしい、というか。
――カラオケボックスみたいな“VRボックス”があったらいいのにという声もあります。
海外は『PLAYROOM VR』のように、パーティーゲーム的なものが受け入れられるんですね。逆に日本のユーザーさんは“お一人さま”というのがメインになるかもしれませんね。提供されるコンテンツは地域ごとの違いがあると思います。ちなみに、今回TGSで出しているSCEのタイトルに関しては、製品化に向けての開発も進めています。
開発はすでに総力戦の域に達している!
――開発期間はかなり長いかと思いますが、これまでの過程でとくに障害となったエピソードがあれば教えてください。
やっぱり“酔い”のところですね。開発初期は、すぐに酔ってしまうという状況もありました。とにかく商品として出す以上は“酔い”を何とかしないと。テーマパークとかだったら多少の酔いもいいかもしれませんけど、日々使ってもらいたい物なので、どう改善すればいいかずっと悩んでいます。
――開発チームはどういった経歴の方々が集まってらっしゃるのですか?
いろんなところから集まって来てますね。過去にSonyのHMDの開発チームいた人間もいますし、システムソフトウェアのチームも入っています。それこそ上半期に向けて各分野の専門家が集まってきているという感じです。もはや総力戦ですね(笑)。
ゲームはVR業界に適したコンテンツ!
――没入感を重視した場合、ゲームよりも実写に近いほうがいい、ということはあるのでしょうか?
むしろ、ゲームこそVRに適していると思います。というのも、実写だといろいろテクニックが必要なんですよ。360度ぐるっと撮影するパノラマ写真とか。CGはPS VRの視野や、ユーザーさんのに合わせて作ったり調整したりできるので、ゲームのほうがVRは適しているんじゃないかと。
――“PS VR”の一部コンテンツで使用されているPS MOVEは2010年の周辺機器ですけれど、これの世代交代は視野に入ってますか?
検討はしていますが、今はできるだけ“既存のもの”を使っていこうと決めています。先ほども購入価格の話が出ましたが、みなさんがお持ちの資産をムダにすることなく、安価で遊んでいただきたいという気持ちもあります。いずれVRが普及したなら、PS MOVEも次の世代は出るでしょうね。でも、まずはVRの敷居を下げたいなと考えてます。
――“PS VR”の内側に黒い丸があるのが気になったのですが、これはなんでしょうか?
装着センサーです。装着者の額などを感知して、PS VRを装着中かどうかを判別します。
今後もVRに触れる機会はますます増えていく
――すでに各地でのイベント『PlayStation LIVE Circuit 2015』などの施策も発表されていますが、今後さらにユーザーさんが触れられる機会は増えていくのでしょうか? 具体的な施策などがあれば教えてください。
そういったイベントは日本だけでなく世界で今後もやっていきたいと思っています。“PlayStation EXPERIENCE”ですとか、来月以降も機会は設けていきます。
――HMDの数はもうかなり量産されてるんでしょうか?
デベロッパー向けにそれなりの数を作ってますが、それで十分かというとまだ足りないかもしれませんね。VRに興味を持って開発したい、と言ってくださるゲームデベロッパーさんを中心にお渡ししています。
――仮にゲームデベロッパー以外のところがOculusなどを使って環境を整えたうえで、“PS VR”を使ってみたい、というお話があった場合も提供できるということでしょうか?
基本のアーキテクチャはPCなので、移植はしやすいんですよ。なので要望があればやってくださいと言っています。
――PS VRに囲っていく意識はない?
他社さんと交流もさせていただいて、みんなでVR業界を盛り上げていこうと話をしていますので、囲い込むというのは考えていませんね。まずはVRそのものを一般化することが最優先だと考えています。
他社製のHMDからの移植もしやすい共通点の多い設計に
――既存のPS4タイトルを移植する場合、システムにPS4があるので、ゲームの表示についてはほぼそのままでいけると思いますが、トラッキングや入力周りが変わってくるという認識でよろしいでしょうか? また、“PS VR”で特殊な部分はありますか?
はい。認識は合っております。特殊な部分はSDKを専用に作っていますね。
――他社のHMDと共通点は多い仕様なので、アプリケーションレベルでは作りやすそうですね。
そうですね、すごくデベロッパーさんとしては移植しやすいと聞いています。それまで他社のHMD用に作っていたタイトルを“PS VR”用に持ってくるのも、みなさん割と短期間でやってらっしゃいますね。VRに関わらず、PCゲームを作っていた方はPS4も作りやすいと聞いています。
――UnityなどPCのエンジンはVR対応されていますが、PS4版のゲームエンジンもVR対応されていると思ってよろしいでしょうか。仮に他社さん用に作っておけば、“PS VR”でも割と簡単に動くと。
いまそういう話をメーカーさんとさせていただいてます。
――現状出ているデモとかはSCEさんのSDKを直接たたいて出たもの?
今回出させていただいているものの中には、一部ウチのじゃないものもあります。今後アプリケーションの作り方としては広がっていくと考えています。
“PS VR”の魅力はこれまでのPlayStationの延長にある!
――“PlayStation VR”の魅力、そしてVR体験を楽しみにしているユーザーさんに向けて、メッセージをお願いします。
“PS VR”というよりVR一般としては、ぜひ体験していただきたい。見るのと聞くのとでは全然違うので。本当に一般の方々にはイベントを催していきますので、体験してもらいたいなと思います。“PS VR”としては、今までにあるPlayStationのタイトルのVR版というのもこれから出していきたいです。今まで遊んでいたゲームがVRになるというのは、PlayStationでしかできないと考えていますので、そういうところで“PS VR”には期待していただきたいと思います。
■東京ゲームショウ2015 開催概要
【開催期間】
ビジネスデイ……2015年9月17日~18日 各日10:00~17:00
一般公開日……2015年9月19日~20日 各日10:00~17:00
【会場】幕張メッセ
【入場料】一般(中学生以上)1,200円(税込)/前売1,000円(税込)
※小学生以下は無料