2015年9月26日(土)

映画『屍者の帝国』上映会に細谷佳正、村瀬歩、花澤香菜らが登壇。伊藤計劃氏が遺した言葉を使わない決断とは?

文:まり蔵

 本日9月26日に都内のTOHO シネマズ日本橋において、劇場アニメ『屍者の帝国』の完成披露上映会が開催された。

『屍者の帝国』

 『屍者の帝国』は、2009年に34歳で夭折した小説家・伊藤計劃氏が遺した序文を、盟友として知られる芥川賞作家・円城塔氏が書き継いで完成させた作品。“ノイタミナムービー第2弾”として劇場アニメ化され、10月2日よりTOHOシネマズ新宿ほか全国劇場にて公開される。

『屍者の帝国』

●『屍者の帝国』ストーリー

 “死者蘇生技術”が発達し、屍者を労働力として活用している19世紀末。ロンドンの医学生ジョン・H・ワトソンは、親友フライデーとの生前の約束どおり、自らの手で彼を違法に屍者化を試みる。

 その行為は、諜報機関“ウォルシンガム機関”の知るところとなるが、ワトソンはその技術と魂の再生への野心を見込まれてある任務を命じられる。それは、100年前にヴィクター・フランケンシュタイン博士が遺し、まるで生者のように意思を持ち言葉を話す最初の屍者ザ・ワンを生み出す究極の技術が記されているという“ヴィクターの手記”の捜索。

 第一の手がかりは、アフガニスタン奥地。ロシア帝国軍の司祭にして天才的屍者技術者アレクセイ・カラマーゾフが突如新型の屍者とともにその地へ姿を消したという。彼がすでに“手記”を入手し、新型の屍者による王国を築いているのだとしたら……?

 フライデーとともに海を渡るワトソン。しかしそれは、壮大な旅のはじまりにすぎなかった。イギリス、アフガニスタン、日本、アメリカ、そして最後に彼を待ちうける舞台は……?

 魂の再生は可能なのか。死してなお、生き続ける技術とは。“ヴィクターの手記”をめぐるグレートゲームが始まる!

『屍者の帝国』 『屍者の帝国』
『屍者の帝国』 『屍者の帝国』
『屍者の帝国』 『屍者の帝国』

 公開に先駆けて行われた完成披露上映会には、メインキャストである細谷佳正さん(ジョン・H・ワトソン役)、村瀬歩さん(フライデー役)、花澤香菜さん(ハダリー役)、牧原亮太郎監督が出席。それぞれが演じたキャラクターや、作品に対する思いを語った。

『屍者の帝国』
▲ジョン・H・ワトソン
『屍者の帝国』
▲フライデー
『屍者の帝国』
▲ハダリー

 本作のキャストはテープオーディションで選考されたとのことで、役が決定したときの気持ちを訊かれた声優陣は、「うれしかった」と口をそろえた。特に村瀬さんは、フライデーを演じるにあたりかなり戸惑ったとのことで、「(村瀬さんなら)いけるはずという確信があった」という牧原監督の言葉にホッとした様子だった。

 ハダリー役の花澤さんも、役が決まった当初「こんなセクシーお姉さん、私にできるのだろうか」とやはり戸惑ったという。しかし、オーディション以前から伊藤氏原作の劇場作品にナレーションとして参加しており、「作品にかかわれたらいいなと思っていたので、役を演じることができて本当にうれしいです」と笑顔で語った。

 次に、劇場版『屍者の帝国』について問われた細谷さんは、ワトソンとフライデーの関係が円城氏と伊藤氏の関係に重なると述べ、「この作品には、円城先生の思いや気持ちがすごく反映されているんじゃないでしょうか。そう思って劇場版を見ると、ワトソンのセリフが余計に刺さりますね」と語った。

 また、村瀬さんは「音の技術が素晴らしく、かすかな息づかいまで立体的に感じることができます。劇場で見ることに意味がある作品ですね」、花澤さんは「あれだけボリュームのある原作を、どうやったらこんなにわかりやすく、かつきれいにまとめられるのか。本当にすごいです!」とそれぞれ大絶賛だった。

 牧原監督によると、本作の脚本制作がスタートしたのは2年前。原作の要素をすべてを入れることはできないため、何が一番大事なのかを突き詰めるための作業だったという。ここで伊藤氏が遺した序文について、「伊藤さんの言葉だから重要だと思っていたんですけど、映画の中では使っていないんです」と衝撃の告白が。

 最初、「(序文は)大事な核に決まっている、絶対に使わないといけない」と思っていたと話す牧原監督。しかし、円城氏が伊藤氏の言葉を引き継いだということを考えた時、言葉を引き継ぐことそのものが大事なのであって、序文は大事ではないのではないかと気づいたという。しかし、「(序文を)使わないという判断が、実はすごく怖かった」と胸の内も明かしていた。

『屍者の帝国』

 細谷さんは『屍者の帝国』の原作について、「一度見て満足するのではなく、何度も読みたくなる小説。わかって読むとまた違う側面が見えてくる」と言及。「劇場版も何回も見ることで、違った感想や感動が生まれると思います。公開されたら何度も劇場に足を運んでいただきまして、ご覧いただきたいです。そして、核心に触れずに感想をSNSでどんどん拡散してください!」と挨拶し、完成披露上映会を締めくくった。

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