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2015年10月5日(月)

【電撃PS】SCE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』第68回。テーマは“受け継がれるもの”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.599(9月24日発売号)に掲載されているコラムを全文掲載! 

第68回:“受け継がれるもの”

 今回は、最近観た映画について書いてみたいと思います。それにしてもこのサマーシーズンは、例年になく大ヒット作が多かったですよね。オリジナルの大作あり、過去シリーズの新作あり。一昔前は、映画といえば洋画といってもいいくらいでしたが、ここ数年、漫画原作やテレビドラマとの連携などもあり、邦画の勢いがすごくなってきました。最近はそのバランスが拮抗してきたなあと思います。というわけで、強く印象に残っている3作品のポイントについて、いってみましょう。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

 終始画面を覆い尽くす渇いた砂塵とは裏腹に、まるで海のような映画だと思いました。アクションという部分での、荒れ狂う水面のようなダイナミズム。そして、水底を流れる思想性。シリーズ過去3作を観たのは中学生から高校生にかけてでしたが、マッドマックスが形成した世紀末的世界観の功績は、漫画『北斗の拳』などにも継承され、ひとつの文化を作ったと思います。

 さて、鑑賞後にまず思ったのは、悪役であるイモータン・ジョーは、死に際に唾を吐かれねばならぬほど、悪者だったのだろうか、ということです。ジョーは冒頭、「水に心を囚われるな」と民衆に訴えます。金がなんら価値を持たない世界で、生きるために必要な水。しかしそれに囚われることで、秩序を乱す混乱が容易に巻き起こる可能性を、彼は恐れていたのではないか。

 彼が目指したのは、“健康体としての後継者を残すこと”であり、女性や食料を所有のためだけに欲する強権者ではなかった。健康体としての後継者、つまり“象徴”を作らなければ、薄氷のごとき秩序は失われる。恒常的に運営可能な秩序のために、彼は種の継続をわかりやすく一極集中させようとしたにすぎないのでは、と思うのです。

 貴重な野菜を栽培したり、長く生きられない病を患ったウォーボーイズを救う手段として、ある一定の宗教性を編み出しているあたりにも、並の為政者には果たせない手腕を感じます。また、マックスに過去何があったのかは、フラッシュバックする映像として語られるのですが、物語としては語られません。これは、演出として非常に斬新だと思いました。マックスに過去何があったのか、観る人が想像するしかないので、鑑賞者それぞれに解釈が生まれるわけですね。ド派手なアクションに目がいきがちですが、しっかりと深い映画に仕上がっていて感心しました。

『ジュラシックワールド』

 「お前ら、こういうのが観たいんだよな!」がたんまり詰まったアトラクションムービーとして、大満足でした。これまでは、結局のところ“恐竜パーク”として完成された施設で繰り広げられる話しではなかったのですが、今回は初めて、“ちゃんと営業している”施設が舞台。そのワクワク感は見る前から相当なものがありました。それこそ、ディズニーランドやユニバーサルスタジオに行く前の気分、といいますか。

 また、シリーズを通して狡猾なハンターとして登場するヴェロキラプトルの立ち位置が、今回は人間に飼いならされる、という新たな使われ方をしていて、工夫を感じましたね。恐竜パークで恐竜が暴走した、という状況下における危機的シチュエーションの作り方もすごく勉強になった。

 しかし、いつもどおりの、助かって良かったね的な終わり方なのですが、どうしても、「じゃあ損害賠償とかどうするの?」というようなことが気になってしまってしょうがなかった(笑)。だって、その被害たるや甚大ですよ。世論としてはあのパークを二度と営業させないと思うので、と考えると果たして続編はあるのでしょうか……。

『バケモノの子』

 細田監督の前作『おおかみこどもの雨と雪』では早々に喪失した“父性”を、手を変え品を変え見せつけていく映画でもあったと思います。ぞんざいだけど一番大事な強さを教える父性。傍観者のようではあるが適度な客観性を持った父性。諭すように穏やかな父性。芯のある優しさに満ちた父性、などなど。

 男子が男になる過程で必要な父性は、決して一人から得るものではない、ということでしょう。これを、先達から得たものを、己の中で爆発させ、作品を作ることで成長する、と読み換えると、細田監督自身がそういう人生を歩まれている、ということなのかもなあ。

 バケモノ側の親である熊徹。“徹”の字は、鉄でもなければ哲でもありません。その意味は大きいと思います。熊徹は、九太に何も教えない。教えられない。ただ、徹の字が示す通り、“自分を貫き通す”だけの存在なのです。熊徹が羽織っている半纏の背中には、太陽のマークが記されていました。教え下手な熊徹が、九太と一つになることで身をもって教えたかったこと。それは、どんなに辛くても、いつも心に太陽を、ということなのだと思いました。


 マッドマックスのジョージ・ミラー監督は70歳。シリーズを、ずっと自らで監督されています。ジュラシックワールドは、スティーブン・スピルバーグ監督制作総指揮のもと、若手のコリン・トレヴォロウ監督がメガホンを取り、そして細田守監督は、東映アニメーションやスタジオジブリでの仕事で得た経験値を磨き、内なる宇宙を爆発させています。

 “挑み続ける”“受け渡す”“受け継ぐ”という、三者三様のクリエイティブスタイル。まだまだ若いゲーム業界は、果たして今後、どんな伝承がなされていくのでしょうね。

ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

『勇者のくせになまいきだ。』シリーズなどのプロデュースを経て、クリエイターオーディション“PlayStation CAMP!”を主宰。全国から募ったクリエイターとともに、『TOKYO JUNGLE』『rain』などを生み出す。昨年に、『ソウル・サクリファイス デルタ』『フリーダムウォーズ』『俺の屍を越えてゆけ2』をリリース。部内最新作『Bloodborne』が全世界で好評発売中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStation Vol.600』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2015年10月8日
■定価:759円+税
 
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