2015年10月26日(月)
『やがて君になる』は女子同士の恋愛を繊細なタッチで描いた学園ガールズラブストーリー。今回は10月27日の単行本発売に先駆けて、作者・仲谷 鳰先生へのインタビューを決行。デビュー作にかける意気込みについて熱く語ってもらった。
▲10月27日発売『やがて君になる』 |
本作は、現在『月刊コミック電撃大王』公式TwitterでRTキャンペーンも実施している。抽選で直筆のサイン色紙をゲットするチャンスになっているので、興味がわいた方はそちらもチェックしてみてはいかがだろうか。
中学卒業の時に仲のよい男子に告白された返事をできずに、悶々としたまま高校へ入学した小糸 侑(こいと・ゆう)。そんな折に侑は、生徒会役員の七海燈子(ななみ・とうこ)が男子からの告白を断るシーンを偶然目撃してしまう。侑は燈子に共感を覚えて、相談に乗ってもらうことになったが……。
仲谷 鳰(ナカタニ ニオ)
滋賀県出身、埼玉在住。いて座。A型。2014年デビュー。投稿作『さよならオルタ』が第21回電撃コミック大賞金賞を受賞。その後、2015年4月より『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)にて『やがて君になる』を連載開始。
――昔から女子同士の恋愛、すなわち“百合”の作品はお好きだったんですか?
はい。子供の頃から萩尾望都先生の『トーマの心臓』や山岸凉子先生の作品など、同性愛や両性具有など性別が複雑な事になっている話を好んで読んでいたのが、今の作風にも影響していると思います。
高河ゆん先生が大好きで、『LOVELESS』にハマってから他の作品も読破しました。高河先生のマンガはとにかくキャラが立っていて、性格の悪いキャラでもすごく好きになれる要素があったり、もちろんBLや百合がすごくよっていうのもあるんですけど(笑)。
だから第21回電撃大賞の贈呈式で、審査員の高河ゆん先生にお会いできて本当にラッキーでした。
――『やがて君になる』も、快活な下級生(侑)と黒髪ロングで『高嶺の花』の上級生(燈子)の二人を見て、正統派な百合作品だと感じました。
▲連載前告知カットでの侑と燈子。二人の対照的なデザインはこの時から変わっていない。 |
物語や登場人物を決めた時は“百合だから”という意識はなくて、侑も基本明るいんですけど、内面は面倒くさかったりして、私がそういう子が好きなので反映されちゃってますね。燈子も初期は髪がそんなに長くなかったんですけど、優等生の王道感は出しておこうってことで黒髪ロングになりました。
――見た目が可愛い系の侑の方が内面クールで、クール系の橙子の方が甘えてくるという、二人の温度差が楽しいです。
私がそういう、ひねくれた恋愛が好きなせいですね。
第一印象から受ける二人のイメージと、実際読んだ後のイメージではだいぶ違うと思いますので、そのギャップをまず楽しんでいただきたいです。読者さんからも「燈子がどんどんデレデレになっていくのが(よい意味で)期待を裏切られました」って感想をいただきました。でも当初の予定では、燈子がもっと怖かったんです。
――えっ! イメージできませんね。
今の橙子はデレデレな可愛い系に振ってるんですけど、もっと何を考えてるかわからない怖さがあって、侑に対しても思惑があって行動しているような狡猾さというか……。
実は2話と3話は最初のネームから大きく修正しています。そのネームも編集長OKまで出ていたんですが、担当さんと相談してまるまる描き直してしまいました。もちろん修正後のネームも編集長のOKはいただいています。でもそのおかげで「攻めキャラだと思っていた橙子が受けに回っていくのが可愛い」と言ってくださる方もいてくれて嬉しいですね。
――電撃大王で本格的な百合作品は珍しいと思うんですが、読者の嗜好に合わせている部分はあるんでしょうか?
まったくありません。むしろ普段百合を読まないような人たちにも「こういうおもしろいジャンルもあるんですよ!」って伝えるつもりで、力いっぱい球を投げています。なので、「電撃大王で王道な百合をやってくれてうれしい」という読者さんもいてくださることは励みになっています。
あと、元々百合が好きだという方からも応援のメッセージはいただいていまして、百合好きの人から見ても喜ばれる百合がやれているのかなって思えてうれしかったです。
――2話のキスシーンで百合マンガなんだって気づいた人もいると思います。それにしても意外なシチュエーションでした。
「普通にしてる時に不意にキスしちゃったんだけど、周りから見られていない」というシチュエーションで悩んだ結果があのシーンですね
――友達と自分の心の距離を、こういうアングルで表現しているのも印象的でした。
自分でもよく思いついたなと。最初のネームで担当さんによいと言われたのもこのシーンでした。このカットがあってから、『やがて君になる』はキャラの心情を直接的だったり、比喩だったりで丁寧に追っていく作品にしようと方向が定まった気がします。とはいっても、あまり意識せずに自然に出てきたので、たぶん私にはこういう作風しか描けないんじゃないかって気もしています。
――生徒会が舞台というのも、百合作品では王道だと思いました。
生徒会という舞台にもこだわりはなかったんですが、燈子の“みんなの中心にいて、認められている存在というイメージから自然と生徒会になっていきました。
他の所属……例えば運動系などの部活モノになると、部活動しているシーンを本気で描かなきゃいけなくなるので、物語の主軸がこの作品の場合はブレてしまうのかなって。あくまでも二人の関係性をメインで描きたいと思ったので部活モノにはせず、純粋に百合だけで勝負したいという気持ちで描いてます。
――では、なぜ女子校ではなく男子もいる共学なのでしょうか。
“男性を出すのか出さないのか”というのは百合作品を描く上で最初に選ばなきゃいけなかったんですが、“女子同士の恋愛”っていう人間関係を描いていく中で、男の存在は無視できないんじゃないかと思いまして。
もちろん、女の子だけしか出てこない百合の世界観も好きなんですが、私が描くなら、女の子だけの世界で女の子を選ぶよりも、男も選べるという選択肢が多い中で、“女の子を選んだ”という形をとるために共学にしました。女の子“なのに”選んだり、女の子“だから”選んだり、そこはキャラクター次第だと思いますが。
――少し話題を変えまして、仲谷 鳰(にお)という珍しいペンネームの由来はありますか?
鳰は“カイツブリ”っていう水鳥の総称で、琵琶湖で水に潜って魚をとる滋賀県の県鳥なんです。私は滋賀県出身だからという……地元アピールじゃないですけど。さらにカイツブリの別名は“息長鳥(しながどり)”といって“息の長い鳥”って意味もあるらしく、息の長い漫画家になれたいいなって願掛けも込めてます。
……というのは後付けで、本名を並び替えたら苗字っぽい“仲谷”が出来て、“にお”をどうするかって辞書を引いたら出てきました。私が高河ゆん先生ファンなのを公言しているので、『悪魔のリドル』が由来だと誤解されやすいです。
――漫画家になろうと思ったのはいつ頃ですか?
子供の頃から“将来の夢は漫画家”というのはずっとありました。物心ついた時から絵を描いていて、周囲に「漫画家になれるんじゃないか」って褒められて、いい気になってしまい……。絵を描く仕事といえば画家、っていうイメージがあったんですけど、漫画家もあるのかって意識してからは、ずっとです。
でも漫画を最後まで完成させたのは大学生の時でした。少年誌に投稿した学園+特殊能力バトル漫画で、まあ、いかにも初投稿者だな!って感じの内容でした。投稿したのが少年漫画雑誌だった事もあり、『鋼の錬金術師』みたいな作品を意識して描いてましたね。
――その後は同人活動もされていますよね?
そうですね。同人では二次創作で女の子同士の話を色々描いていたので、“百合を描く人”と周りからは思われていたらしいんです。でも自分ではあまり恋愛が主なテーマなものを描いているつもりがなかったので、これは百合漫画なのかな?と。
なので、一度ちゃんと恋愛を主軸においたオリジナルの百合モノを描いてみようと考えていた時期に、編集さんから百合をやろうと声をかけていただき、連載作品を作る運びになりました。
――漫画を描くにあたって、気をつけている事があれば教えてください。
要らないものは削ぎ落としつつも、“無駄”はあった方がいいというのを心がけています。受賞作の『さよならオルタ』でも、話の筋とは関係ないところで、フェチ的なものは入れなきゃダメだろうってことでキスを入れたり。
▲第21回電撃コミック大賞金賞受賞作『さよならオルタ』。同一性を保とうとする双子のお話。 |
――絵の上達のためにこれをした方がいいというものがあれば教えてください。
わたしは練習のために描くよりも、最初から人に見せる前提で描いた方が上達すると思って、pixivのイラストなり同人誌なりで形にしていきました。
もちろんデッサンも大事なんですが、練習のための練習をするよりも人の目を意識した方が上達は早いんじゃないかと思っています。本当にわたしがそれで上達できているかというと別問題なんですが(笑)。
――アイディアが浮かぶ時はどんな時ですか?
知らない道を歩くのが好きで、二駅くらい何もしないで散歩している時や、一番多いのはお風呂ですね。机の前でひたすら悩んで、それからお風呂に入ったら思いついたり、もう一回机で悩んでの繰り返しです。
――意識している作品、注目している作品はありますか?
やはり今は百合漫画に注目しちゃいますね。南方純先生の『悪魔のリドル』や缶乃先生の『あの娘にキスと白百合を』、伊藤ハチ先生の『小百合さんの妹は天使』はもちろん見ています。また同時期に電撃大王で始まったこともあって、柊ゆたか先生の『新米姉妹のふたりごはん』は意識しています。毎月楽しみにしているだけってこともありますが。
――連載していて楽しかったこと・苦労したことは?
今までネットや同人で活動をしていたので、作品を読んでくださった方からダイレクトに反応をいただけるのがモチベーションになってました。ですが連載するにあたっては準備期間が長くて、連載発表のタイミングまで、作業はしているのに誰にも言えないし反応ももらえない、という時期が続いた時は精神的につらかったですね。
楽しいのはその逆で、連載が開始されてからは読者の方から反応をいただけた時がすごくうれしいです。作品の感想をいただける時が、描く時の一番のモチベーションに繋がっています。
女の子同士の恋愛漫画を描こうと思ったとき、自分にとって一番直球で真正面なものを描いているつもりです。そのわりにひねくれているところがありますが、それは性分ということで……。とにかく混じり気なしの百合や恋愛漫画を読みたいという方にはぜひ手に取っていただきたいです。よろしくお願いします!
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