News

2015年11月12日(木)

【電撃PS】SCE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』第70回。テーマは“おいでやす”と“おこしやす”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.601(10月29日発売号)のコラムを全文掲載! 

第70回:“おいでやす”と“おこしやす”

 先日、東京ディズニーリゾートとユニバーサル・スタジオ・ジャパンに、2015年度上半期にどれくらいの入場者が訪れたかという記事を読みました。記事によると、ディズニーが前年同期比でマイナスに落ち込む一方、USJは過去最高を更新、西高東低の結果となったということでした。

 いやいや、低いといっても、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの合計で1437万2000もの人が来場しているわけですよ。すごいですね。一方USJは、『ハリー・ポッター』や『進撃の巨人』など国内外のコンテンツをうまく誘致したことにより、前年比18%増の約654万人を達成したとのことでした。こちらもすごい人気です。

 東京ディズニーリゾートは、1983年4月のランドの開園以来、その後のシーも合わせた2パーク合計の累計入園者数が、6億人を大きく超えているそうです。日本の人口は1.2億人くらいなので、海外からの来場者もいるとはいえ、いかに繰り返し夢の国に通う人たちが多いかがわかりますね。つまり、テーマパークのような場所の成功に不可欠なのが、“リピーター”の存在というわけです。

 ゲームの“世界設定”について考えるとき、いつも思うことがあります。ゲームの世界って、基本はCGで作るわけですから、初期段階ではかなり自由に設定できるものの、はりきりすぎて、人智を超えた異世界、みたいな提案が多くなりがちです。たぶんそれとは逆で、テーマパークの世界の作り方は、あったらいいなという、“可能なイメージの延長線上”にあるものを環境として作り込んでいるように思います。だから、何度も足を運びたくなる世界が生まれるのだと思うんですよね。

 先のゲーム設定のように、見たこともなく、イメージすらしたことのない世界をどれだけ作り込んでも、それが広い層にフックとして機能することはあまりありません。なぜかというと、クリエイティブが強過ぎる世界は、常に“間口が狭くなる”危険性と隣り合わせだからで、それってコンテンツに対する固定化した忠誠心は育んでも、普遍性を生むことありません。「あの世界観がたまらない!」という評価が聞こえるわりにヒットしないゲームがあったとしたら、きっとその罠にはまっています。

 ではプロデューサーと呼ばれる人たちが通常、その濃すぎるクリエイティブを前にしたときにどうするかというと、「じゃあその濃さを、イメージしやすい“テーマ”や“シチュエーション”で薄めよう」と考えます。特殊な世界なんだけど、そこで描かれるのは親子愛、とか。特殊な世界なんだけど、ある場所に閉じ込められてそこから脱出するゲームにしてみる、とか。

 それらは経験上、噛み合わせによる新食感で一時的な魅力は孕んでも、“またあの場所に戻りたい”という気持ちには転化させづらい企画になっていきます。いかにまたコンテンツに帰ってきたいと思わせるか? 続編を視野に入れるプロジェクトなどでは特に、このコンテンツへのリピート性を意識することが非常に大事になるのです。

 リピーターの存在が成否に影響を及ぼす他のジャンルとして、ゲーム企画を、たとえば料理になぞらえて考えてみると、(1)良質な素材 (2)個性ある調理法 (3)伝えるメニューの3つが整って初めて、リピーターが呼べる料理へと昇華されます。

 たとえばハンバーグって、いわばどこでも食べられる料理なわけじゃないですか。だけど、どうせならここで食べたいって思う店があるということですね。構成する要素に決定的な違いがあるわけじゃない。ですが、素材が厳選されている。調理法に個性がある。結果、単にハンバーグと書くのではなく、“あらびきハンバーグ”、“煮込みハンバーグ”、“こねハンバーグ”といった特徴を打ち出せる。つまり、魅力的なメニューの表現で、食べてみたいと思わせることができるのです。自身に引きつけて考えると、いまひとつ弾けなかったプロジェクトは、この3つのうちのどれかが手薄だったのかもなあと思ってみたり。

 『勇者のくせになまいきだ。』という企画は、もちろん大ヒットではありませんでしたが、かけた費用からすれば非常に利益率の高い、スマッシュヒットといえるプロジェクトでした。このとき身を持って実感したのが、良い常連さんを作ることの重要性だった。良い常連さんは、知らないご新規さんにも優しい。そして良い常連さんは、少なからず新しいお客さんを連れてきてくれます。ただ、そうなったらなったで、上記の3点も常に見直さなければなりません。素材は古くなっていないか。調理法が飽きられていないか。ご新規さんにも魅力的なメニューになっているか。このあたり、もうちょっとうまくやれたかなあと、書きながら反省する次第……。

 京都には、お客さんをお招きしたときの言葉として“おいでやす”と“おこしやす”の2種類があります。微妙なニュアンスの違いだと思いますが、“おいでやす”は一見さんに対して、“おこしやす”は常連さんに対して、というふうに使い分けているそうです。テーマパークもレストランもゲームも、間違いなくお客さんに支えられています。こと運営要素などで、ゲームもひとつのタイトルと長くお付き合いをいただくケースが増えてきました。これまで“おいでやす”を頑張ってきた僕らにこれから大事なのは、心のこもった“おこしやす”なのだなあと思うのでした。

ソニー・コンピュータエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

『勇者のくせになまいきだ。』シリーズなどのプロデュースを経て、クリエイターオーディション“PlayStation CAMP!”を主宰。全国から募ったクリエイターとともに、『TOKYO JUNGLE』『rain』などを生み出す。昨年に、『ソウル・サクリファイス デルタ』『フリーダムウォーズ』『俺の屍を越えてゆけ2』をリリース。部内最新作『Bloodborne』が全世界で好評発売中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStation Vol.602』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2015年11月12日
■定価:676円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.602』の購入はこちら
Amazon.co.jp

関連サイト