2015年11月16日(月)
近年、海外メディアなどから「衰退している」などと伝えられることもある日本のゲーム業界。だが、その評価は本当なのだろうか? 日本のインディーシーンは、年を重ねるごとに注目度が増しており、イベントなども多数開催されている。
そんな日本のインディーの現状に迫ったドキュメンタリー映画『BRANCHING PATHS』が2016年1月に公開予定。約2年間にわたって、80人を超えるインディー関係者や東京ゲームショウなどのイベントを取材し、インディーシーンの今を切り取っている。ディレクターを担当するのはアン・フェレロ氏。彼女に制作の経緯や昨今のインディー事情をうかがってみた。
▲等身大のドキュメンタリーとして、さまざまなインディークリエイターやパブリッシャーなどを取材した映画『BRANCHING PATHS』。 |
公開は2016年1月予定となっている。詳しくは公式サイトをチェック!
▲映画『BRANCHING PATHS』ディレクターのアン・フェレロ(Anne FERRERO)氏。 |
──まずはプロジェクトの経緯と、日本のインディーシーンを取りあげるうえで行った準備から教えてください。
私は、もともと日本のポップカルチャーを伝える番組を作るジャーナリストでした。来日したのは2011年です。プロジェクトの発端は、知り合いからCEDECで講演してほしいというオファーを受けたところから始まります。
そのあと『勇者ヤマダくん』などを開発しているOnion Gamesの木村祥朗さんと出会い、「自分のゲームを海外にも宣伝したいけど、どうすればいいのだろう?」と相談をされました。そこでOnion Gamesだけではなく、日本のインディー全体を紹介しながら、木村さんが自分のゲームの話をするというプロトタイプを作ったんです。それが、このプロジェクトの始まりです。
──そのプロトタイプの時点で、ドキュメンタリー形式の映画になる構想だったのでしょうか?
プロトタイプは木村さんがMCをしていて、彼がディベロッパーと対談するというトークインタビューでした。現在のドキュメンタリーとは全然違っています。ただ、そのプロトタイプはどのような形で公開するかなどは決まっていませんでした。そこで制作会社に見せたところ「おもしろいので、もっといろいろな人たちにインタビューしましょう」となり、『BRANCHING PATHS』を作ることになったんです。まさか制作に2年もかかるとは思いませんでしたけど(笑)。
──プロトタイプを経て、ドキュメンタリーの映画にする構想は、早い段階からでできていたのでしょうか?
自然とそうなっていきました。東京ゲームショウの撮影後に、木村さんがいろいろな方を紹介してくれて、つながりができていきました。『Picotachi-ピコたち』というインディーゲームプレゼンイベントで出会った人たちもいたりして、雪だるま式に取材先も増えていったんです。
──アンさんは取材をされる前から日本のインディーゲームをプレイされていたのですか?
同人ゲームなどには触れていました(笑)。じつは海外では、日本のインディーは手に入りにくいんですよ。開発室Pixelのフリーゲーム『洞窟物語』は有名ですが、それ以外は情報もほとんどありませんでした。私は以前、フランスのテレビで東京ゲームショウのレポーターも担当していたのですが、2013年にインディーブースができたときは、本当に驚きましたね。
──ちなみに『BRANCHING PATHS』というタイトルには、どのような意味があるのでしょうか?
ゲーム中でよく使われる言葉なのですが、意味は“分岐点”です。分岐点を選ぶとマルチエンディングになるようなゲームのことを指したりします。このドキュメンタリーのなかでは“ゲームを作るということは1つの手段だけではなく、いろいろな道が存在している”ということを示しています。
具体的には、余暇を利用して1人で作ったり、キックスターターを利用したり、パブリッシャーと組んだりなど、インディーゲームにも、いろいろな作り方があるんですよね。以前CEDECで講演を行ったとき、「日本のゲームは衰退した」という発言をよく聞きました。でも、私は違うと思っています。日本のインディーのなかには、すごく独創性のある作品もたくさんあります。しかし海外のメディアやユーザーには、そのことが届いていません。この映画を通じて、そうしたことを伝えられればと思っています。
──海外の方も視野に入れた映画なのですね。
特定の層をターゲットにした映画ではなく、日本と海外の両方で幅広い人に見てもらいたいです。とくに、海外で同人ゲームを遊んでいる人などには、日本にも素晴らしいインディー作品があることを知ってもらいたいですね。
──日本のインディーシーンを取材して、あらためて気づいたことはありましたか?
日本のインディーは、日本人だけで盛り上げているわけではないということです。たとえば東京インディーフェスというイベントは、海外の方と一緒に作っているイベントですよね。そこで海外のプログラマーが開発者を求めて、日本のデザイナーと組んだり。同じ言語を話せなくても、ゲームを作っていけるという場面もありました。
取材が始まったときは、東京ゲームショウでもインディーコーナーができたばかりだったのですが、この2年間でも、いろいろと状況は変化しています。PS4のようなプラットフォームで、インディーを応援するプログラムも始まっていますし、PLAYSMなどのパブリッシャーも、どんどん大きくなっています。
──日本のインディーシーンはプラスの方向に進んでいるように見えますね。
よい方向に発展していると思いますが、まだまだ問題も多いですね。しかしグローバル化が進んで、どんどん大きくなっていくことは確かでしょう。
──日本の市場だけではインディーが成り立たないのは実情だと思います。欧米などに市場を広げていかないと、生き残っていけない時代ではないでしょうか?
そうですね。日本市場だけを考えるのではなく、どのように世界のインディーと戦っていくのかを一緒に考えていくべきでしょう。たとえば“Indie MEGABOOTH”のように個々の開発者が集まることで、宣伝しやすくなり、販売も行いやすくなります。英語があまり話せなかったり、開発のノウハウがあまりなかったりする人は、みんなと情報交換することもできますから。
知り合いのゲームを翻訳してあげたり、逆に英語で書いてあるコンペに応募してもらったりとか。日本でインディーを出したいという海外の人たちを手伝ってあげたりといったこともできそうですよね。
──日本のインディーは海外で知られていないということですが、現状どんな感じなのでしょうか?
『洞窟物語』が一番有名で、海外のコア層にはZUNさんの東方プロジェクトが浸透していますね。最近は、もっぴんさんの『Downwell』がブレイクしています。海外メディアでも、今年のベストゲームだと高く評価しているようです。
ちなみに『Mighty No. 9』や『Bloodstained:Ritual of the Night』などのキックスターターを利用したゲームがありますが、資金を提供しているのは、ほとんど海外の方のようですね。日本のユーザーの方々は、まだまだキックスターターに対する認識は低いようです。
──映画のプロモーション映像を見ると、インディークリエイターは生活との折り合いが大変だと感じました。
生活はツライけど、その代わりに自由があると、多くの方々が言っていましたね。会社員として安定した生活を選ぶか、自由で自分のやりたいことを選ぶかということでしょう。生活がツライという状況を生み出す問題の1つとして、日本では個人でプラットフォームとの契約ができないことがあると思います。海外の場合は、個人が直接プラットフォームと契約できるのですが、日本では会社という形をとらなければ契約ができないため、コンシューマでタイトルを出すことができないんです。
──海外を目指すとなると、やっぱりPCのSteamやスマートフォンを意識したほうがよいのでしょうか?
スマートフォンなら個人でもどんどんゲームが出せますし、海外でリリースするためのパブリッシャーもいっぱい存在しているので、解決策は1つではないと思います。Steamには“Steam Greenlight”がありますが、これは評判が広がらないとOKがもらえません。ですから宣伝することも考えなければいけないでしょう。また英語がわからなければ、契約もできません。やっぱり言葉の壁は大きいのではないでしょうか。
──英語ができる方は、すでに積極的に海外へ展開されていますよね。
やっぱり英語ができるかどうかで大きく違ってきますよね。でも最近は東京インディーフェスなどのイベントも増えてきたので、そこで日本語ができる海外の方と仲よくなったり、逆に手伝うことで、補っていけるではないかと思います。
──言語もそうですが、これから日本のインディー開発者が意識したほうがいいことがあれば教えてください。
マーケティングとしてSNSは積極的に使うべきだと思います。たとえばツイートを翻訳したり、特別なハッシュタグをつけて世界中でリツイートしてもらったりしてのマーケティングですね。日本語と英語でリリースされているゲームのwebサイトなどを見て、英語での表現を学ぶことも重要なのではないでしょうか。
有志が作っている、インディー開発者用の英語訳リストなどを参考にするのもいいかもしれません。今回のドキュメンタリーでも、日本の方に見てもらいたい部分はいろいろあるのですが、やはり国内のマーケットだけではなく、世界を目指したほうがいいということは強く訴えたいですね。
──これからは英語を覚えて、海外を視野に入れることが重要になってきそうですね。
最終的には、自分で英語を勉強するのが一番かもしれません。作るだけではなく、海外の情報を入手するのにも役立ちますから。海外では、インディークリエイターとつながることができるツールや、プレスキットを作るためのテンプレートなどもあります。英語ができるにこしたことはないですね。あとは、実況動画を作っておくことも重要だと思います。
──日本でも今かなり流行っていますが、海外でもゲーム実況文化の影響は大きいのでしょうか?
すごく大きな文化になっています。また日本同様、若い層がゲーム実況を見ていますね。実況者を使わなくても、ゲームのプレイ動画をアップロードするだけで、伝わることは多いと思います。言語がわからなくても、おもしろそうだと思ってもらえることは大きいですよね。日本の方の多くは自分をアピールすることに慣れていないと思いますが、インディー開発者は自分で宣伝もできるようにならないといけないでしょう。インディーで生活していきたいのなら、全力で売り込んでいかないといけないですから。
──取材をしていくなかで、とくに気になったインディー作品はありましたか?
大勢のインディー開発者を取材しましたが、なかでももっぴんさんの『Downwell』ですね。初めてゲームを見せていただいたときから、ずっと追いかけてきた作品です。
それから柳原隆幸さんの『TorqueL(トルクル)』。彼がコツコツと作ってきた作品で、いろいろなイベントにも出展されていました。ゲームを触った感触が新しい。もっと大きくなれる作品だと思うのですが、やはり海外ではまだまだ知られていないんですよね。
──この映画はいつごろ公開される予定ですか?
1月の後半を目指しています。どのような形で公開するかはまだ検討中ですが、大勢の方が見られるようにしたいと思っています。まずは日本語版と英語版を公開する予定です。
──読者のみなさんにメッセージをお願いします。
この映画は、インディーの開発者だけではなく、ユーザーやゲームを好きな方、またゲームを作りたいけど迷っているといった人にも見てもらいたい作品です。ゲームを作ることはカンタンではないですが、自分しか作れないものを作れるのがインディーの魅力だと思います。
今は“コンテンツが無料で当たり前”という認識の人も多いとは思いますが、作り手が苦労していることと“よいものはお金を払う価値がある”ということも知ってもらいたい。あと、最近の日本のゲームはおもしろくないと言っている人たちにはぜひ見てもらいたいです。
ドキュメンタリー映画『BRANCHING PATHS』、アン氏のインタビューは11月12日発売の電撃PlayStation Vol.602にも掲載しています。そちらもぜひチェックしてみてください。
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