2015年12月13日(日)
小島監督の遺伝子を受け継ぐステルスアドベンチャー『République』の開発者にインタビュー!
海外において、iOS、Androidで順次リリースされ、ハイクオリティなグラフィックと斬新なゲームシステムが高い評価を得ている『République(リパブリック)』。
舞台は謎の全体主義国家“メタモルフォーゼ”。見てはならない“ある物”を見たとして監禁生活を余儀なくされてしまった女性“ホープ”を助けるため、プレイヤーが監視システムをハッキングしてホープを脱出へと導いていく……という、ステルスアドベンチャーゲームだ。物語は全5章のエピソードから構成され、現在iOS、Androidなどではエピソード3まで配信・販売されている。
▲監禁状態にある女性、ホープ。 |
制作を務めるのはCamouflaj(カモフラージュ)。『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS(以下、MGS4)』や『Halo 4』の開発に携わったRyan Payton(ライアン・ペイトン)氏が率いる新進気鋭の会社だ。今回、全5エピソードを収録し、さまざまな要素を追加したPS4版の発売が決定したことを記念し、ライアン氏のインタビューを掲載する。本作の魅力はもちろん、ライアン氏のゲームに対する熱い思いを受け取ってほしい!
――まず、ライアンさんの経歴を教えていただけますか。
2005年にコナミに入社し、ゲーム業界に入りました。そのときは小島プロダクションに所属していましたが、海外担当というポジションで、ゲーム制作には関わっていませんでした。オーディオディレクターの本田さんと一緒に、開発がすごく大変だった『METAL GEAR SOLID PORTABLE OPS』を通常の業務後、とにかくプレイしまくってチームにフィードバックする、なんてこともやりましたね。
そんなとき、小島監督(小島秀夫氏)がいきなり僕の席に来たんです。いろいろ意見を出したから怒られるのかな、と思ったら喜んでくれて。「(フィードバックを)これからも続けてください」って言ってくれたんです。「これはチャンスだ!」と思って、半年くらいずっとフィードバックを続けました。
『METAL GEAR SOLID PORTABLE OPS』は人気作になりましたし、何より小島監督が褒めてくれたことが本当にうれしかったです。「開発チームに来なよ」とまで言ってくれまして、本当にゲーム開発のほうに入り、『METAL GEAR SOLID 4』の開発に関わりました。
『MGS4』の発売後は、休みが余っていたので3カ月ほどシアトルの実家に帰っていたのですが、ちょうど帰国した次の日に病院から「母親に病気が見つかった。」と電話があって。父からは「日本に帰らないで、シアトルで仕事を見つけてくれ」と言われました。そこでコナミを退社してマイクロソフトに入社し、ディレクターという形で『Halo 4』に3年間携わりました。
ですが、「やっぱり自分でゲームを作りたい!」という気持ちが強くなり、2011年にカモフラージュを立ち上げたんです。シアトルを拠点にした、だいたい25人くらいのゲーム開発会社ですね。
――ゲーム自体は昔からお好きだったんですか?
はい。日本のゲームの影響はものすごく受けており、『République』にもそれは色濃く出ています。たとえば、ゲームに登場する最初の部屋は『バイオハザード』のロビーに大きくインスパイアを受けています。「なぜ日本のゲームなのか?」というと、父親が神戸製鋼の仕事に関わっていて、よく日本に出張していたからなんです。おみやげに日本のおもちゃを買って来てくれて、それで日本に興味を持つようになりました。
また、進学した高校では自国以外の外国語の授業を取るルールがあったんです。スペイン語やフランス語、ドイツ語が主だったんですが、隣の高校では日本語の授業がありまして。それで「日本語を受講してみよう」と思ったんです。そのときはちょうど『ファイナルファンタジーVII(以下、FF7)』発売の頃で、「日本語を勉強すれば『FF7』を周りよりも早くプレイできるかも!」という動機もありましたね(笑)。ただ、すごくがんばったのですが、『FF7』の日本語は難しくて結局理解できませんでした……。
けれど、それがすべてのスタートだったと思います。ずっと『FF』シリーズや『バイオハザード』シリーズといった日本のゲームをプレイしていたなかでも、一番インパクトがあったのは『METAL GEAR SOLID』ですね。『MGS』をプレイした7年後にコナミに入社して『MGS4』に携わり、自分の夢が叶って本当にうれしかったです。運がよかったな、と思います。
――『République』についてお聞きします。スマホ版『République』を開発することになった経緯を教えてください。
僕は家庭用ゲームが大好きですし、ファンもたくさんいると思うんですが、ステルスゲームは操作が難しくて楽しめない人も多いと思うんです。とくに『MGS4』の開発時にそう思いました。両親が僕の関わったゲームということですごく楽しみにしてくれていたのですが、実際に触ったら難しすぎてプレイできなかった。もともとステルスゲームをプレイした経験がなかったこともあり、始めて10分くらいで遊ぶのを諦めてしまったんです。『Halo 4』に携わったときも(ライトユーザーには)操作が難しいな、と思いました。
ですから、僕たちが楽しんでいる家庭用ゲーム機でのステルスゲームをもっと広げるため、『République』は家庭用ゲームのように見えるけれど、1タッチですべての操作ができるようにしようと思い、スマホ版の開発を始めたんです。それはこれまでの人生で一番難しい挑戦でしたが、実現できて満足しています。
――ユーザーはコンシューマーゲームをプレイしないような層も多いのでしょうか?
おそらく(笑)。僕も知りたいのですが、とくにアンケートを取ってデータにしているわけではないんですよ。けれど、僕は『République』をプレイしてくれているユーザーは、もともと家庭用ゲームが好きな人が多いのではないかと思っています。「おもしろいけれど、難易度をもう少し高くしてください」という意見を見かけるんです。
でも、ゲームのデータを見ると敵に捕まっている人も多い(※『République』では敵に捕まると最初の部屋まで戻されてしまう)。だから、途中でプレイを諦めている人もいると思います。両者が満足してもらえるゲームバランスを作るのは、すごく難しいですね。
“スマホだから触ってくれているユーザー”はたくさんいるけれど、『République』のようなゲームが好きな人は、恐らくもう少し難しいゲームの方が好きなような気がするんですね。今回はハードがPS4なので、難しいゲームが好きなユーザーのみなさんに向けたバランスに調整できるようになりました。
――ではPS4版はスマホ版よりもテクニカルなところも重視しているんですね。
そうですね。OMNIビュー(※現在自分がハッキングしている監視カメラから視認できる監視カメラなどを、さらにハッキングできるモード)に入るとポーズ状態になります。そこでこれからどうしよう、と考える時間がたっぷりある。スマホ版ではとくにそれが重要でした。たとえば外でプレイするとき、ポーズ状態にすれば中断できますしね。また、スマホ版ではホープはAIで行動していましたが、PS4版ではホープを自由に操作できるので、テクニカルな操作も重要になると思います。
――ハッキングをしてホープを助けていく、というシステムがおもしろいと思うのですが、このシステムは世界観が先にあって出来あがったものなのでしょうか。
ご指摘のとおり、世界観を作ってからシステムを作りました。では、世界観はどうやって作ったのか? という話になりますが、僕は世界観とコンセプトを関わらせながらゲームデザインをするのが好きなんですね。『République』では“ホープが主人公ではない”という点にこだわりました。
なぜかというと、たとえば『METAL GEAR』シリーズをプレイするときに、「スネーク、これをやれ、あれをやれ!」といった指示を受けてしまうと、自分がスネークではないとわかっているのに、余計に自分がスネークではないことが強調されてしまうというか。また、たまにスネーク以外のキャラクターが、とくにデモシーンでいろいろなことをやってしまう。そういうときに自分がスネークだったら、そういうことはさせないのに、とか思ってしまう。
『République』ではもう少し純粋な形にした方がいいかな、と思ったんです。だからホープは主人公ではなく、あくまでも“自分のペア”なんです。そしてペアを組んでいる自分自身は、名前も出てこないし、性別もゲーム中で明言していません。本当に純粋に自分が主人公なんです。そういう“ホープはいるけど主人公ではない”というコンセプトで最初のプロトタイプを作りました。
ではどういうゲームにしようかな、と考えていたとき、僕の友だちが「本当に興味のあることでストーリーを作るべきだ」とアドバイスしてくれたんです。もともと僕は全体主義国家とか、監視されている社会とかの物語が好きなんです。そういうものをテーマにしたいなと思いつつ、実際にゲームへ固定カメラの要素を組み込んでみたとき、「あ、これは昔の『バイオハザード』のような視点になっている。しかも、監視カメラで監視しているみたいだ」と思って。システム的にも監視カメラを生かしたゲームを設計できるし、それじゃあ小説の『1984年』みたいな世界観にしよう、ということになりました。
――今回PS4版を作るにあたって、ストーリーをより掘り下げるようなこともしているのでしょうか。
僕は本当は、ゲームシステムもストーリーも、難しい方向にするのが好きなんです。『METAL GEAR SOLID』シリーズのVRミッションは本当に純粋なステルスで、ストーリーはありませんよね。逆に『HEAVY RAIN?心の軋むとき-』はストーリーがメインのゲームで、ゲームのテクニカルな要素は少ない。僕は難しいけれど、その両方をミックスしたものを作りたいと思ったんです。
開発チームの中でも、ストーリーはこういう流れがいい、ゲームプレイはこういう流れがいい、というのが個人個人にあるので、よく議論になります。本当に時間はかかってしまいますが、僕はそういう議論は好きで、その議論からバランスを取っていくのが好きなんです。「ここはステルスじゃなくてパズルの方がいいんじゃないか」とみんなが思った結果、「それじゃあパズルデザインで作りましょう」となると、ゼロから作り直すことになってしまうので、開発的には厳しくなるんですが(苦笑)。
――チーム全体を見てコントロールするというのは、小島プロダクションやマイクロソフトでの経験が活きているのでしょうか。
そうですね。小島監督はディレクションに対して厳しい方ですし。僕がアメリカのゲーム開発現場に入ったのは、マイクロソフトが初めてでした。そこでは、プライドが高いアメリカ人の気質というところもあると思うのですが、指示をあまり聞いてくれなかった。自分のコミュニケーション能力や人間関係を構築する経験が足りなくて、僕の想像した『Halo』になかなか近づけなかったんです。そういうことがあったから、会社を立ち上げたときに上手くできるかな、という不安はありましたね。
――今回、PS4版の販売をガンホーさんが担当するのは、カモフラージュ社の作る姿勢と合致していると思ったからですか?
そうですね。ガンホーさんと関われたことで、1つの夢を実現することができました。昔から日本でゲームを発売することが夢だったのですが、今まではインディペンデントスタジオという形で、ずっと開発だけに集中していたんです。しかし、それで本当に日本で発売できるのか? と思うと自信がなくて。
『République』は全部で5つのエピソードで構成されているのですが、それをセットで、そしてパッケージという形で出すことができればいいな、とずっと考えてはいました。ですが、やっぱり自分の会社だけでは限界がある。ガンホーさんと知り合ったのは『République』が発端なのではなく、お互いに話してみたい、という思いがあったからです。
実際にお話をする機会があったときに、ゲームのプロトタイプを持っていたので、代表取締役社長CEOの森下さんにプレイしていただいて。そのとき、「あ、これいいね! PS4版を作った方がいいんじゃない?」と言っていただけました。PS4版でパッケージを作ることも、日本で売ることも考えていなかったので、日本での発売日が本当に楽しみで待ち遠しいんです。日本語の翻訳も僕がチェックしているし、細かいところも完璧にしたいと思っています。
――海外のユーザーはもちろん、日本のユーザーに楽しんでもらえることが、ポイントとしてかなり高い、と。
うちのチームに話すと、「僕が昔、日本に住んでいたからだというのはわかるし、理解しているけれど、日本への期待が大きすぎる」と言われると思いますけどね(笑)。でもいろいろな意味で、すごくがんばりたいと思っています。たしかに、日本での発売を楽しみにしている理由は、スタッフもいうとおり、日本に住んでいたから、というのもあります。
しかし一番の理由は、本作は日本の90年代のゲームの影響を本当に強く受けており、さらにさかのぼったレトロゲームの遺伝子も持っているので、日本のユーザーが本当に喜んでくれるだろう、と思っているからです。最近はなかなかこういうゲームは出てこないですよね。だからドキドキしてくれるんじゃないかな、と期待しています。
――では、PS4版で可能になった「これを実現したかった!」というような要素はありますか?
1つはホープの操作です。カメラを切り替えることで上手く進める要素を突き詰めたかったんです。作るのは本当に大変でしたが、チームが『Devil May Cry(デビルメイクライ)』や『バイオハザード』『パラサイト・イヴ2』をプレイして研究してくれました。まっすぐに進んだら、カメラもまっすぐに進むようなシステムを作るのは本当に難しかったのですが、楽しかったです。
また、スマホ版ではただタップすることでハッキングができますが、PS4のコントローラーではそうもいきません。UIまわりでさまざまなアイコンが同時に画面に表示されて、プレイヤーが混乱しないように遊びやすくするのは一番時間がかかりました。たぶん見てもわからないとは思うんですが、いろいろなロジックが使われているんです。どの機能をコントローラのどのボタン割り当てるのかなど、作るのは大変だったけれど楽しかったですね。
――カメラの配置やキャラクターの位置を考える上で、マップ構造の作り込みも大変だったんでしょうね。
『バイオハザード』のように“このドアは見えているが、今は開けられない”みたいなネタが僕は好きなんです。でも、実際に作るのは想像以上に大変でした。『République』だと、“あるエピソードの最後にもらうカギを使って、もう1個のカギを手に入れると、別のエピソードで使える”といった、エピソード単位で連動した仕組みも作り込んだのですが、制作はとても大変でした。なので、こういうゲームがなかなか出ないんじゃないかと思います。
――スマホのゲームのように、比較的わかりやすいゲームにしたほうがユーザーは受け入れてくれるかもしれないけれど、そのぶん複雑なおもしろさというのが削れてしまう。本作ではその複雑な面白さをあえてスマホのゲームに詰め込んでいるんですね。
スマホだけではなくて、家庭用ゲームだと『コール オブ デューティ』はまっすぐにしか進めないので、その垣根は低くなっているのかもしれません。最近のゲームで一番インパクトがあったのは『DARK SOULS(ダークソウル)』ですね。チュートリアルもまったくなくて、自分自身で理解しながら進んでいくゲームはなかなかないので、ある意味新鮮だなと思いました。
――PS4版での追加要素にはどんなものがあるのでしょうか?
スマホ版では、兵士が持っているフロッピーディスクに実在するiOS用ゲームが入っていたんですが、PS4版ではSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)のゲームやPS4のゲームが出てくるようになっています。許可をもらうのがすごく大変でした(笑)。
さらに、新しいコスチュームが追加されています。詳しい内容はまだお伝えできませんが、ただのコスチューム替えではありませんので楽しみにしていてください。また、兵士がどこにいるかわかるレーダー機能も、PS4版では追加される予定です。
――『République』の世界観を使って、もっといろいろなことをやってみたい、という野望のようなものはありますか?
チームとがんばって作った世界観なので、1つのゲームだけではなく、映画や小説などいろいろな展開を考えてはいます。もし続編などでこの世界観を使ってゲームを作るチャンスがあったら、監視カメラを通じてのゲームではない、別の何かにしようと思っています。
――発売を楽しみにしている日本のゲームユーザーにメッセージをお願いします。
日本でも発売することができたら、どういうリアクションが返ってくるのかな、とずっと考えていました。ガンホーさんのおかげで発売することができるようになりましたし、発売日にはぜったいに日本に行ってどういうリアクションがあるのかを確かめたいと思っています。その日が来るのを本当に楽しみにしています。
こういうゲームはなかなか出ないので、「90年代に出ていたようなゲームをこの時代でも体験できるなんて最高だ!」と思ってくださる人もいるんじゃないかと思います。楽しみにしていてください!
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