2015年12月28日(月)
12月26日に立川シネマシティで開催された、映画『ガールズ&パンツァー 劇場版』音響スタッフトークショーの模様をお届けしていく。
立川シネマシティ シネマ・ツーは、スタジアム・アリーナ用サブウーファーなどを使用して、腹にズンと響くほどの爆音かつ最高級の音響で映画を楽しめる“極上爆音上映”で知られる劇場。
この日のイベントでは、『ガールズ&パンツァー 劇場版』で音響監督を務めた岩浪美和氏、音響効果の小山恭生氏、録音調整の山口貴之氏を、杉山潔プロデューサーが来場し、音響についてどのような部分にこだわったのかを解説してくれた。
▲左から杉山プロデューサー、岩浪氏、山口氏、小山氏、立川シネマシティの遠山武志氏。 |
岩浪さんの「まずは、みんな大好きカール自走臼砲の音から聞いてもらいましょう!」という発言&爆音でスタートした音響解説。
『ガールズ&パンツァー』の特徴であるアタックの強い音(※音の鳴り始まりから最大音量までの時間が短い音。時間が短いほど“強い”と表現する)を出すために、センタースピーカーからは高い音だけを出していると説明が行われた。
カール自走臼砲の音については、さらにリアスピーカーからは軋み音を、左右のスピーカーからはアタック音や空気の破裂音などを入れていると話していた。サブウーファーから腹にズゥンと響くような音も鳴らされたが、これについては「“極上爆音上映”だけですね(笑)」と話していた。
続いて岩浪氏は音作りのコンセプトについて話してくれた。同じく“極上爆音上映”を実施した映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のようなアクション部分に主軸を置いた音を目指したという。
TVアニメについては、『プライベート・ライアン』のようなリアルさを主軸に置いた音作りをしていたそうなので、比べてみると違いが判るかもしれない。
2つ目に解説されたのは、戦車内での会話シーンについて。山口氏は、ダージリンとオレンジペコの会話を例に説明。2人のやり取りを“反響音なし”、“反響音のみ”、“合成した状態”で流した。
『ガールズ&パンツァー』では、戦車ごとにすべて反響を変えているそうで、岩浪氏は「なかなかわからない部分ではありますが、わからない部分でも変化を加えることでリアリティが生まれるんです」と説明した。
山口氏も「きちんと聞き分けられなくても、リアリティとして伝わる部分はあると思います。感じてもらえればいいんです」とコメントしていた。
他にも、ダージリンとローズヒップの無線会話や、継続高校の戦車内会話シーンなどを解説。継続高校の会話シーンでミカの「行くぞ」というセリフのボリュームが大きくなっていたことについては、ここからシークエンスが始まるという切っ掛けのセリフであったり、カメラがミカに寄っていたりと、シナリオや画面の状況に合わせた演出であることが明かされていた。
逆にこのシーンでエンジン音が小さめになっているのも、やはりこうした演出のためであるようだ。岩浪氏は「『ガルパン』に出てくる戦車のエンジンは空気を読むからね」と話し、観客を笑わせていた。
続いて岩浪氏たちは『ガールズ&パンツァー』では、必要な音のみを強調していると説明。すべての音を劇中で鳴らすようにすると、見ている人の注意がいろいろなところに向いてしまい、見せたいものがうまく伝わらないからだそうだ。
岩浪氏は、『ガールズ&パンツァー』だけでなくアニメの音作りについて非常に重要なことだと話していた。例として、みほが西住家に戻ってきたシーンを挙げ、まほがあのシーンで連れている犬の音を入れていない理由を話してくれた。
あのシーンで注目してもらいたいのは、“なんとも言えない表情をしているまほ”であって、犬の「ハッハッ」という息の音などを拾ってしまうと、それが上手くいかないからだそうだ。
こうした音の取捨選択はいろいろな場面で行われているそうだ。岩浪氏によると、これは意外と難しい作業で、ハリウッド作品でも音の取捨選択をしていない作品が多くあるそうだ。
ここでイベントは終了の時間に。杉山プロデューサーは、セミの鳴き声がひとつずつ違うことを挙げ、「そこまで作りこんでいる作品です。ビジュアルはもちろん大事ですが、サウンドもとても大事なものだと改めて伝わるとうれしいですね」とまとめた。
トークショーの最後では、岩浪氏や杉山プロデューサーからOVA『ガールズ&パンツァー これが本当のアンツィオ戦です!』や、TVアニメ全話の“極上爆音上映”を実施したいとの発言も飛び出し、観客から大きな拍手が起こっていた。
順番が前後するが、トークショーの冒頭では立川シネマシティの遠山武志氏から、“極上爆音上映”を行っている立川シネマシティ シネマ・ツーの紹介が行われた。
シネマ・ツーのコンセプトは、“レコーディングスタジオで聞けるような音をお客さんに体感してもらう”というもので、通常の映画館のようにスクリーンではなくスタジオという言葉で呼ぶのは、それが理由だという。
ここではスピーカーをむき出しにして(通常の映画館では、スクリーンの後ろの置かれているとのこと)、できる限りクリアな音で映画を楽しんでもらえるようになっていたり、劇場の形状(床、壁、天井)などを音響に特化させていたりと、さまざまな面で観客に音を楽しんでもらえるような工夫がなされていることが語られた。
▲岩浪氏は、シネマ・ツーの音に対する力の入れ具合について、専門家の目から見ても「ちょっとどうかしています(笑)」と笑いながらコメントしていた。 |
また、映写室にはミキシングコンソール(音響調整卓)が組み込まれていることなども紹介。いわゆるシネコンであれば、専門知識のないスタッフでも映画を上映できるところがほとんどだそうだが、ここでは音響の専門知識がある人間でないと真価を発揮できないことなども説明されていた。
音響設備についてより詳しく知りたい人は、サウンド・スペース・コンポーザー井出祐昭氏による解説動画で確認してもらいたい。
遠山氏は、立川シネマシティにおける『ガールズ&パンツァー 劇場版』の来場者数などが非常に好調であることをうけて「音で観客の皆さんにお返ししていきたい」と話していた。
OVAやTVアニメ全話の“極上爆音上映”実施についてはまだまだわからないが、確かなことは立川シネマシティ シネマ・ツーでは『ガールズ&パンツァー 劇場版』を世界最高峰のサウンドで楽しめるということ。興味がある人は、ぜひ足を運んでもらいたい。
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(C)GIRLS und PANZER Film Projekt