2016年3月13日(日)
バンダイナムコエンターテインメントは、サービス中のiOS/Android用RPG『ソードアート・オンライン コード・レジスタ』&『ニューワールド』で、3月13日よりコラボレーションを開始。この記事では、両作品のキーマンたちによる対談の模様をお届けしていく。
動画:『ソードアート・オンライン コード・レジスタ』×『ニューワールド』コラボキャンペーンPV
このコラボでは、両タイトルのキャラクターや武器が相互に登場したり、入手できたりする。『コード・レジスタ』には、ハセヲの衣装を身に付けた☆5キリトを仲間にできたり、☆6トライエッジがドロップする高難易度ダンジョンに挑戦できたりする。
▲こちらの☆5ブラックローズはログインボーナス。 |
『ニューワールド』にもトライエッジが登場する他、キリト、アスナの衣装をモチーフにした装備品が(イベント報酬に)登場する。
▲『ニューワールド』ではログインボーナスとして“ユイ(アクセサリ)”がプレゼントされる。 |
そんな両作品のキーマンである、ゲーム『SAO』シリーズの二見鷹介プロデューサー(バンダイナムコエンターテインメント)、『ニューワールド』をはじめ『.hack(ドットハック)』シリーズを手掛けているクリエイター・松山洋氏(サイバーコネクトツー)、そして、電撃文庫の小説『ソードアート・オンライン』シリーズの作者・川原礫先生にいろいろなお話を伺った。両作品のファンは、ぜひチェックしてもらいたい。
▲左から二見P、川原先生、松山氏。 |
――まずは『コード・レジスタ』と『ニューワールド』のコラボが実現したことについて、経緯やご感想を教えていただけますか?
松山さん:平田P(※バンダイナムコエンターテインメントに所属する『ニューワールド』プロデューサー・平田怜さん)がやろうと言いだしたんだよね。
二見さん:ええ。平田君が僕にコラボやりたいねと相談してきて、僕も『.hack』の世界観が好きなので「ぜひやりましょう」と答えたのがきっかけです。両方のユーザーさんからコラボを望む声はあったので、渡りに船でしたね。
――川原先生はいかがでしょう?
川原先生:はい、私もあの『.hack』の流れを汲む『ニューワールド』とコラボということで……当然うれしかったのですが、恐縮してしまいました。ファン層は結構被っていると思っているので、どちらのファンにも喜んでいただけるコラボになればいいなと。
二見さん:(キリッとした顔で)なります!(一同笑)
――なんでも松山さんと川原さんは、以前お会いになったことがあるそうですが?
松山さん:1年……は経っていないですよね。去年の夏か秋くらいに一緒にご飯を食べたんですよ。特に目的もなく。
二見さん:あの時は、本当に目的なかったですね(笑)。
松山さん:川原先生、三木さん(三木電撃文庫MAGAZINE編集長)、二見P、私、そこに原田P(※バンダイナムコエンターテインメントに所属する『鉄拳』シリーズのチーフプロデューサー・原田勝弘さん)がいたからね! 本当によくわからない集まりで、一番しゃべっていたのが原田Pだった(笑)。
――『ニューワールド』はついに今年サービスインした作品ですが、その時点では、例えば『.hack』と『SAO』とで何かコラボをやろうというような話は出ていたりしたんですか?
▲サービスインからおよそ2カ月。『ニューワールド』ではストーリー第4章が公開された。 |
松山さん:いえいえ! そういう意図はまったくありませんでした。
二見さん:あの時は僕が原田さんと松山さんにメール送ったんですけど、原田さんは『サマーレッスン』をやっていたし、松山さんや川原先生を交えて集まったら楽しそうだなあ、と。
川原先生:松山さんは三木さんとずっと『ジョジョの奇妙な冒険』の話をしてましたよね(笑)。
松山さん:せっかくこのメンツで集まったのに、『SAO』や『.hack』の話をまったくしなかった(笑)。
――ではせっかくですので、そのあたりについても今日はお話していただければ。
松山さん:この10年ちょっと『SAO』はもちろん意識していた……といいますか、当然作品は知ってますし、楽しんでもいます。『SAO』と『.hack』って、登場した時期はほぼ一緒なんですよね。
川原先生:どちらも2002年前後ですね。
松山さん:だからだと思うんですけど、『.hack』でなにかやると必ず『SAO』のパクリって言われて、『SAO』でなにかあると『.hack』のパクリとか言われ続けてきました(笑)。
川原先生:そうですね(笑)。
松山さん:同じ時期だからだと思うんですけど、お客さんにとってもどこかアンタッチャブルなイメージがあるようで、そこは正直モヤモヤしてるところだったんですよ。でも、昨年初めて川原先生にお会いして、一緒にご飯を食べたことで個人的にはフッと解消されたような気がしています。「ほぼ同じ時期のものだから、お客さん的には同じものに見えているかもね」って話はその時もしたんですよ。
川原先生:ええ。
松山さん:でもあれは食事の席ですから、お互いがどう思っていたのか公の場で出るのは、今回初めてなんじゃないかな(笑)。
川原先生:そうですね。こうして一緒にコラボするって、数年前だと考えられなかったことかもしれませんが、正式にコラボできて、とてもうれしいんですよ。
松山さん:そうですね。
――二見さんは、この2つの作品について何か思うところはありますか?
二見さん:実は僕は、『.hack』の1作目、2作目『.hack//G.U.』を含めて大好きだったので、『SAO』のゲームを作る際に相当インスパイアされています。ゲームジャンルについても“疑似MMORPG”――正確には“疑似VRMMORPG”と言わせていただいています。『SAO』のゲーム第1作が出たのも2012年で、『.hack』第1作からちょうど10年後なんですよね。
松山さん:言われてみれば確かに!
二見さん:ゲームを出すたびに、どこからか“『.hack』のパクリ”と言われたりはしていて……。パクった意識はないんですが、好きな作品ですのでどこかしら影響は受けているってことなんだろうな、と思っていました。
松山さん:うちは『ニューワールド』を去年ずっと開発していて、年明けにサービスインしました。で、平田Pから「一発目のコラボは『SAO』とやろうということで話を進めてるんで、ちょっと考えてくれませんか」と言われました。
――サービスインくらいのタイミングで話が上がってきたんですね。
松山さん:素直に驚きましたね。どこかからの持ち込み企画ではなくバンダイナムコエンターテインメントさんが自らやると聞かされたので。
二見さん:僕も平田Pも同期なんで、見てきた作品や好きな作品が似ているんでしょうね。『.hack』もやったし、『SAO』のアニメも見てもらったし、お互い好きなんだからやりましょうか、と。あとは川原先生と松山さんがOKだったらやろうよって話にまとまりました。自分が好きな作品に対して、何かやりたいというのはしごく当然な気持ちなので、その架け橋ができて、僕ら同期はすごくうれしく思っています(笑)。
――川原先生と松山さんにお聞きします。先ほどもチラリと触れていましたが、お互いの作品についての印象を教えていただけますか?
川原先生:じゃあ、私から。サイバーコネクトツーの作品って、常に全力投球じゃないですか。ゲームを作ることと、商業的な成果物を作ることって、時としてバッティングすることもあるんじゃないかと思うんですけど、サイバーコネクトツーの場合は、軸足がガチっとゲームに置かれているように思います。
『ニューワールド』をプレイしてみても、これはもうコンソールのゲームを超えているなと思わされる部分があります。街中で他のプレイヤーとコミュニケーションをするにしても、ここまでコミュニケーションに力入れてるソーシャルゲームってないな、と。衝撃でしたね。僕はまだ、チュートリアルが終わったくらいで理解できてはいないんですが、あの『ニューワールド』は設定的には一応『.hack』の流れを汲んでいるということでいいんですよね?
松山さん:ええ、『.hack』です。平田Pはなぜかにごしたがるんですけど(笑)。
川原先生:ということは『The World』の後継的なオンラインRPGと考えていいんですか?
松山さん:『The World』ですよ。メインビジュアルやキーキャラクターデザインを担当していただいた貞本さん(貞本義行さん)にも『.hack』だと言っているんですが、いろいろあって明言はしていませんでした。ある意味、たくさんのお客さんに遊んでもらうための戦略でもあります。中身的には全部あれ『The World』です。
▲『The World』は、『.hack』シリーズの舞台となっているMMORPGのこと。 |
川原先生:じゃあ、NPCなども現実世界の日本からログインしているプレイヤーと思っていいんでしょうか?
松山さん:もちろんです。
川原先生:そうなんですね。僕これ「そうなのかなぁ?」ってずっと気になっていたんですよ。
松山さん:そのわかりにくさをどうしていくかが課題なんですよ。
川原先生:でもオンラインRPGという設定を突っ込んで考えていくと、キャラクターの二重性が出てきちゃって、ゲームを遊んでいく中で解消するのに少し苦労したりしますよね。
松山さん:そういう部分があるからこそ、オンラインゲームを舞台にしているキャラクターって魅力的なんだと思うんですよね。キリトもアスナも“向こう側”があるからおもしろいんじゃないですか。ゲームの中に登場している、単なるファンタジー世界の住人じゃないから。これ『.hack』と『SAO』で共通しているおもしろさのひとつだと思うんですよ。
川原先生:小説のオンラインものって、その二重性というか、プレイヤーとアバターの差異を解消する方向にいっていると思うんですよ。それがいい悪いということではなく。完全にオンラインRPGを元にした世界に転生してしまって、実際の世界のことを考えない作品なども多くなってきたと思います。例えば『オーバーロード』や『ログ・ホライズン』のような。だから『ニューワールド』が実世界のほうにも踏み込んでいくのかどうかは、気になるし楽しみなところです。
アプリゲームだと他には、サイバーコネクトツーの『フルボッコヒーローズX』をずっと遊んでいます。今はランク120ちょいです。キャラ数も450くらいで、僕がゲームを遊べる時間やリソースを『フルボッコ』がかなり吸い取っています(笑)。そこに『ニューワールド』までとなったら……。本音を言うと、老後にじっくりと遊びたいですね。
松山さん:なかなかやり込んでくださっていますね。そうですね、『ニューワールド』は2016年の最新ゲームですので、遊びの幅やボリュームが従来のアプリタイトルに比べても多くなっていますね。
川原先生:『フルボッコ』は、シナリオもそんなに濃い目ではないですしね。もともとカジュアルなシューティングゲームが大好きなんですけど、今のソーシャルゲームだとそういったものは少ないんじゃないかと思うんですよ。僕が知らないだけかもしれませんが。
松山さん:やっぱりRPG系かパズル系が多いと思いますよ。シューティングアクションってめずらしいジャンルです。『フルボッコ』も一応RPGではあるのですが(笑)。
川原先生:『SAO』のゲームと『フルボッコ』でコラボなんていうのもあったらおもしろそうですよね(川原先生と松山さんが二見Pのほうをじっと見る)。
二見さん:……えーっと、しばしお時間ください(一同笑)。
――では、松山さんにも川原先生の作品について印象を伺ってみたいと思います。
松山さん:ユーザーの皆さんは“似ている”という点で『SAO』と『.hack』を並べたがりますが、そこについて少しお話したいと思います。この10年20年で、ゲームが社会に与えている影響って大きいと思うんですよ。ゲームソフトをきっかけにクリエイターを目指した人間もいるし、ゲーム世界がモチーフになった作品がたくさん生まれるっていうのは、なにも特別なことではなく、当然の流れだと見ています。
プレイヤーがゲームからログアウトできなくなって……という表層部分では似ている部分もありますが、作品性と描かれてるドラマとテーマってまったく別物なんですよ。だから両方を知っている人は絶対に混同しないし、それぞれのよさをわかってくれているのではないかと。『SAO』は『SAO』、『.hack』は『.hack』。そこに他作品を含めても、全部いいところがあると思います。
――以前、川原先生にインタビューさせていただいた時に、『ウルティマオンライン』や『ラグナロクオンライン』をプレイしていて、その影響を受けているとお話しいただきましたが、松山さんは『.hack』やその他の作品を作る際に影響を受けたと思うものはありますか?
松山さん:まず『.hack』について。これは昔も言ったことがあるんですが、やはり『ウルティマオンライン』や『ラグナロクオンライン』そして『リネージュ』、『FFXI』。これら作品の前のものになりますが、『ディアブロ』などもそうですね。まぁ『ディアブロ』はMOですけど。先ほども言ったように『SAO』と『.hack』は同時期の作品なので、影響を受けたもの、見てきたものも大体同じですね。
まずFCやSFCが2Dとしてあって、それがPSやSSで3Dになった。その次にオンラインとつながることで新しいゲーム革命が起きると思っていて、実際にオンラインゲームで遊んでみると、まぁ革命だったわけですよ。これまでデジタルゲームって、部屋で1人で遊ぶ、多くても数人で集まってパーティ的なタイトルを遊ぶものだったんですけど、それがオンラインの世界でものすごくたくさんの人とつながって遊ぶのが、こんなにも新しいのかと衝撃を受けたんですよ。
最初にその衝撃を受けたのは『ディアブロ』でした。『ディアブロ』はオンラインでも遊べましたが、ほとんどのプレイヤーはローカルプレイで遊んでいたと思うんですよ。でも、それでも楽しい。隣で友だちと同じ画面を出して遊んでいるだけで、こんなに楽しい、遊びのレベルって変わるんだと。そこから『ウルティマオンライン』や『リネージュ』などで、他人と一緒に同じものを体験したり、競い合ったりするように。いわゆるRPGにおけるメインストーリーのような大きな目的などを追わないで、ゲーム内で生活することが楽しい。“人と触れ合うことによる自分だけのドラマ”がおもしろい。
ここに新しさを感じつつも、オンラインならではのしがらみ、めんどくささ、遊び勝手の悪さに、1人のプレイヤーとして怒りや腹立たしさがわいてきて「なんで!?」と思うようにもなっていきました。
でも人と人のふれあいという筋書きのないドラマ、その日その時に遊んだ人たちだけの体験じゃないですか。これはもうひとつの人生体験なわけで、おもしろくないわけがない。
オンラインゲームならではの腹立たしさを解消しつつ、おもしろさを生かした作品を作ったらもっとおもしろいだろうと思って、『.hack』が生まれたんです。
だから、当時のオンラインゲームの影響を受けて『.hack』が生まれたのは事実ですが、単純にオンラインゲームのガワだけを落とし込んだわけでないですよってことはわかっていただけるとうれしいです。
川原先生:僕の小説はもともと個人サイトで細々とやっていたものですけど、2000年代初頭は、まだ『ウルティマオンライン』や『ラグナロクオンライン』などのMMORPGってそこまでメジャーなものじゃなかったですよね。コンシューマと比べると、当時はまだPCというフォーマットは間口が広くないですし、月額料金はかかるしで、コアな人じゃないと遊んでいなかった。
オンラインゲームって、ゲームやアニメ、マンガなどを好む層全体に通じるものとしては、まだまだ使えないものだったと思うんです。そんな中で、『.hack』の企画をコンシューマで提出したこともすごいし、「行きましょう」と言ったメーカーサイドもすごいなと。
松山さん:これは話すと長くなるんですけどね(笑)。とてもいろいろな紆余曲折がありました。当時、ゲームマニアの中ではオンラインゲームは革命として受け入れられつつありましたが、すべての子どもが月額課金をして遊べるかといったら、無理な時代でした。PS2もオンライン、ドリームキャストもオンラインと言っていましたが、誰もがオンラインで遊べる下地をつくるべきだ、だからオフラインでオンラインをテーマにしたドラマのあるゲームをやらせてくださいとお願いして、どうにか陽の目を見ることになったんです。
川原先生:じゃあ、アニメ化も最初から決まってたわけでは……?
松山さん:最初からじゃありませんでした。ゲームだけでしたし、そもそもは1本だけのお話でした。
川原先生:それがヒットしたから、その後の展開につながった……?
松山さん:いえ、ゲームの前から動いていました。2000年の秋ごろだったと思うんですが、『.hack』第1作目の制作中にエラい人がふらりと現場に現れて「この1年でPS2で一番使用(挿入)されたタイトルってなんだと思う?」って言い出して。私はゲームタイトルを上げたんですけど、違っていたんですね。映画『マトリックス』のDVDだったんです。『マトリックス』によって、PS2でDVDを再生することが市民権を得たと聞かされて、その場でゲームにOVAを付属することが決まったんです。その流れでTVアニメ、漫画・小説とメディアが拡大していきました。
元々、ゲームの時間軸の半年前にある事件があって……という話を作っていて、世界観に深みを与えるかなと思って年表にしていたんです。そうした時に「アニメ作れないの?」と言われたんで「喜んで」と答えて(笑)。そこからさらに話が大きくなって、ゲーム・アニメ・コミック、そこから派生した角川スニーカー文庫での小説を合わせて。4つの柱ができたんです。
二見さん:バンダイナムコエンターテインメントでも『.hack』のメディアミックスの手法は、一種の教科書のようになっています。あの時期にああいう作品が生まれたことは衝撃的だったんですよ。僕もメディアミックスの効果で『.hack』を知った人間ですが、10年以上が経過して、『SAO』とのコラボという形でかかわるって、とても感慨深いことだなと思っています。
松山さん:『.hack』には失敗体験が結構あったんですよね。『.hack』も全部が全部うまくいったわけではないので、そういうものが後につながったんじゃないかなと思う部分はありますね。
二見さん:最初に『.hack』に影響を受けたところがあるといいましたが、ゲーム2作目の『ホロウ・フラグメント』というタイトルは、思いっきり『.hack//fragment』を意識しています(笑)。
▲ゲーム『SAO』シリーズ2作目の『SAO ホロウ・フラグメント』。まさかタイトルにこんな秘密があったとは……。 |
松山さん:そういう意味だったのアレ!? 『ホロウ・フラグメント』って、あそこからきてるの!?
二見さん:初めて言いますけど、実はそうなんです(笑)。
松山さん:びっくりした!! でも、ちょっとうれしい話ですね。
二見さん:僕は『.hack』のユーザーでしたが、『.hack』を遊んでいると、やっぱり「オンラインゲームをやりたいな~」って思うんですよね。オンラインゲームならではのおもしろさがしっかり表現されている。『SAO』のゲームを作った時にも、かつての僕のように感じてもらえたらいいなと思って作ったところはありますね。
――では次の質問です。皆さんが作品の世界を構築するうえで大事にされている点はなんでしょう?
川原先生:『SAO』は、オンラインゲームが舞台なので、いろいろがんばって設定を作ったんですよ。でも、小説であることを忘れてマニアックな方向に突っ走っていくと、コアなユーザーはよろこんでくれるかもしれないけど、他のユーザーを振り落としてしまうんじゃないかなと。
あくまでフィクション、物語なので、話のおもしろさとリアリティのどちらかを優先させなければならないとなったら、僕は迷わずリアリティを捨てるんです。物語のおもしろさを文章で表現するために、時にはゲームとしてのリアリティを捨ててしまうこともあるので、そこはコアなゲーマーさんには不評なんですけど……
松山さん:不評なんですか?
川原先生:そうなんですよ。わかってはいることですが、ゲームのシステムが都合よすぎるように見えてしまいますので。ただし、僕は『SAO』をオンラインゲームのドキュメンタリーとして書いてるわけではないんです。あくまでオンラインゲームを舞台に“主人公が冒険する小説”を書いているわけで、そこは見失わないように自戒したいですね。
――そんな小説が題材のゲームを作っている側として、二見Pはいかがですか?
二見さん:いつもいろんな壁にぶち当たっていますよ(笑)。
川原先生:そう、最初にゲーム化すると聞いた時は、成立するのかなって僕も思いました。“『ソードアート・オンライン』というゲームをやっている少年のゲーム”という、謎の二重構造が発生するわけで。なんか変な感じになるかなと思ったんですけど……
二見さん:そこは、実はすでに『.hack//G.U.』があって、それがおもしろかったから大丈夫という結論になっていました! ゲーム内の主人公が自分とイコールではないとしても絶対におもしろくできる自信はありました。僕は先生の小説を読んでおもしろと感じていたので、ゲームを作る側としては不安はなかったですね。僕らの解釈で、『SAO』のおもしろい部分を伝えていければいいなと考えています。
――松山さんはいかがでしょうか。
松山さん:川原先生が言われていることと一緒です。我々が作る上で大事にしていることは、エンターテイメント性とリアリティのバランスですね。エンタメって一口に言うと広いですけど、エンタメによりすぎるとご都合主義に見えてしまうところもあるし、「どうしてそうなるの?」と疑問をぶつけられた際に「こうこうこうで、こうなるの」と説明できるバックボーン、設定が大事だと思うんです。物語である以上、リアリティのある嘘であることがおもしろいと思っているので。2つのバランスは常に意識をしています。
二見さん:他にもゲームの『SAO』では、プレイしている時に“どういうふうにキャラクターと冒険をしているか”をすごく大事にしています。あくまで疑似的にかもしれないですけど。たとえばかわいい女の子に話しかけられた、それが嬉しいってことを表現できるように現場に頑張ってもらってるというのはあるかもしれないですね。
川原先生:僕は、将来的に二見さんに挑戦してもらいたいことがあって……あ、「無茶振りくるな」って顔してる(一同笑)。
二見さん:いやいや、大丈夫ですよ!
川原先生:『ロスト・ソング』の中でキリトが「今日はちょっとログアウトするわ」と言ってログアウトしますよね。僕は、そのログアウトした先が見たい。現実世界マップで遊んでみたいんですよ。
二見さん:確かにわかります。………………将来的にがんばります! 少し時間をください(笑)。
――次の質問にいきましょう。近年VR技術が発達してきて、まだまだ障害はあると思うんですけど、『SAO』や『.hack』の世界が少しずつ現実に近づいてきています。こういう状況について、川原先生や松山さんはどう思っているのでしょうか?
動画:『ソードアート・オンライン』×Oculus Rift
川原先生:僕はナーヴギアのような謎デバイスで意識をゲームの中に投影するって形式のVRは、何十年か、僕が生きてる間には無理だろうと思っています。でもOculus RiftやPS VRを体感して、これを突き詰めていけば……という思いはありますね。
先日発表されましたが、IBMと『SAO』のコラボ企画で、今の技術でVRRPGをどこまで作れるかを実際にやってみる企画がありまして。これは見るだけ、手で操作するだけじゃなくて、たとえば足で歩くことなんかもサポートするんですよ。もちろんどこまでVRRPGを再現できるかはわかりませんし、この対談をしている時点では体験すらしていないんですけど、どこまでやれるのかすごく楽しみにしています。
――松山さんはいかがでしょうか?
松山さん:そうですね。今のゲーム業界でVRが流行しているように見えている人も多いんじゃないかと思うんですが、まだ流行っているわけではないんですよ。ゲーム業界は、いかに最先端の技術を遊びに変えてムーブメントを作るかを研究してきた、そういう意味ではとても真面目な業界なので、特に今年はVR元年と言われていますが、さまざまなVR作品がハードとともに登場すると思います。ただ正直、現場にいる人間としては、VRはまだまだ商売にするには難しいなと思っているんです。
川原先生:『鉄拳』の原田さんも昨年お会いした時点では同じようなことを言ってましたね。
松山さん:みんなわかってるんですよ。でも、必ず通らなきゃならないところなんです。初代プレイステーションだって、最初は「4万円!?」と驚かれましたよね。ゲーム機としては高額だと。まぁ、そういう“決してお安くはない値段”のものを熱狂的に好きな人たちがまず買って、ちょっとずつ認知が広がると生産効率も高まって、値段も下がる。
そういうムーブメントの引き金を誰が引くかと言うと、やっぱり“そういうのが好きな人たち”なんですよ。その層に買ってもらえるものを作らないと、ムーブメントの第1歩が発生しない。だから我々がやることは、先進的なものが好きな層の人たちに向けて、新しい遊びを提供すること。かつて3D革命やオンライン革命が起きた時のように、VR革命を起こす。そのための痛みをともなうスタート地点にいると思っています。うちを含めて、さまざまな会社がVRの研究をしていますし、準備を進めています。
川原先生:楽しみでもあり、どんなものが出てくるのかわからないドキドキ感もありますね。
松山さん:今のVRは、我々が子どものころに想像していたものよりも、少し先に進んでいると思います。ここから先は、アっという間に発達していくんじゃないでしょうか。1個でいいからヒット作が出れば、そこから伝播しますし、もう1段階、2段階と進化していくはずです。だからアニメや映画で見て「自分が生きてる間は実現できないだろうな」と思っていたテクノロジーが、想像より速い速度で実現できているので、自分たちで作らなきゃと思っている半面、楽しみでもあります。
――では、皆さんがこのコラボに期待することはなんでしょうか。
川原先生:『SAO』と『.hack』の和解かな?(一同笑) もちろん冗談ですよ!
松山さん:このお話って、食事の席以外では初めて出る話ですからね(笑)。
二見さん:よく比較されますけど、お2人はまったく気にしていないですよね。僕としては、『SAO』と『.hack』ってそれぞれ魅力があるし、2人も仲がいいんだよって伝えられれば、それで十分です(笑)。
川原先生:『ニューワールド』と『コード・レジスタ』の両方に課金したいと思います。
松山さん:この対談をしている時点では、まさに制作中なのですが、お互いのキャラクターが剣で斬り結んでいるビジュアルを見た時、やっぱり感動しましたね。ああ、これが見たかったんだって。今まではどこか落ち着かないところもありましたけど、こうやって形になると感動するし、うれしいですね。
▲こちらが松山さんが言っていたキービジュアル。キリトとカイトが火花を散らす! |
――ありがとうございます。コラボをはじめ、これからたくさん両作品を遊んでくれるであろうユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。
川原先生:両方の作品のファンの方はもちろん、これまでどちらかの作品だけを遊んでいた方も、この機会にもう一方の作品にも触れていただければと思います。
松山さん:これまでどっちかがどっちかのパクリと考えていた人もいたけど、これを機に両方の魅力を知ってもらえればうれしいですね。むしろどっちがどうパクっているのかを立証してほしいですね(笑)。こういうコラボをきっかけに、それまで知らなかった作品の魅力に気付いていくって、とても幸せなことだと思います!
二見さん:僕もバンナムという冠を外したうえで言いますが、『SAO』は据え置きはもちろんアプリもいろいろやっていきますし、『.hack』もコンソールでやりたいという思いは、自分も含めて大きいと思いますし、そういう展開が1年後、2年後にできたらいいなと思っています。実現するかどうかは誰にもわかりませんが、そんな日が来ることを願っています。
本日3月13日にベルサール秋葉原2階で実施されているイベント“ゲームの電撃 感謝祭2016”。その中では、ゲーム『SAO』の生放送を電撃オンラインch(配信プラットフォームは、ニコニコ生放送(公式)とYouTubeライブ)を16時10分~17時にかけて配信。
原作者の川原礫先生、キリト役の声優・松岡禎丞さんらを招き、シリーズの最新情報をお届けする。着ぐるみのキリトさんや、予想外のゲストも登場予定? こちらもお見逃しないように!
『ソードアート・オンライン コード・レジスタ』をプレイする
『ニューワールド』をプレイする
(C)2014 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAOII Project
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
(C).hack Conglomerate
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