2016年3月18日(金)
現在アメリカ・サンフランシスコで開催中の“Game Developers Conference 2016(GDC2016)。現地時間3月15日にSCEが開催したプレスカンファレンスで、PlayStation VRの発売時期や価格、スペックが公開された。
カンファレンス後、PlayStation VRに関してSCEワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏にお話をうかがうことができたので、その模様をお届けしよう。
▲SCEワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏 |
――まずは、PlayStation VR(以下、PS VR)の価格からお聞きしたいと思います。先日、日本円で44,980円(税抜)という価格が発表されましたが、この価格はOculus Riftといった、他社のVR機器を参考にして設定されたのでしょうか?
いえ、そうではありません。このプロジェクトは何年も続けているものですが、最初は価格ありきでスタートしたわけではないです。PS VRはコンシューマ向けのVRとして最初のプロダクトの1つですし、コンソールベースで長く使っていただくということもあって、その時に得られる最高クオリティの技術を使って、非常に良いVR体験をお届けできるものに仕上げてからではないと発売しないと考えていました。120HzのOLED(有機EL)などを使って、これまで世の中になかったモノをPS VR用にカスタムして作っていますから、お金をかけて作ったシステムでもあります。
ですから、価格ありきでは考えていません。とはいえ、コンシューマベースのモノなので、家庭用ゲーム機くらいの価格に収めることを1つの目標としてやってきました。ドルベースでいうとPS4のローンチ価格が399ドルだったので、そこと同じ価格帯に合わせられたのは想定通りですね。日本の価格に関しては、いろいろな事情もあり多少異なってしまいましたが、レンジとしては我々の目標通りにできたと思っています。
――PS VRは価格ありきでないとはいえ、最低限考慮すべき条件などはあったのでしょうか?
技術的に、ユーザーさんが気持ち悪くなるようなことがないように快適なVRを届けられるスペック上の目標を持っていましたので、それをクリアするということですね。それはリフレッシュレートやレイテンシー、視野角など、いろいろあるのですが、それをクリアするのが大事なところでした。
価格に関しては先ほども言いましたように、目標価格はコンソール並というところだったので、そこに抑えることが条件だったのですが、赤字ではない価格に設定できています。
――VRを世間に浸透させていくのはこれからが本番だと思いますが、10月の発売に向けたPS VRのロードマップについて教えてください。
それはもう、1にも2にも体験する機会を作るということです。今も“GAME ON”のイベントに展示していますが、すごくたくさんの人に体験していただき、良い反応をいただいています。あとは、東京の六本木で開催されているアートイベント“MEDIA AMBITION TOKYO 2016”でも展示していますが、いろいろな形でユーザーさんの目に触れるところに、PS VRを出していきたいと考えています。
――ちなみに、ローンチとして発売されるタイトルは何本くらいを想定しているのでしょう。
サードパーティさんから聞いている彼らの発売予定時期と、我々ファーストパーティの発売予定時期と合わせて、10月の発売から年末までに50タイトルくらいを予定しています。そこから増えたり減ったり、入れ替わったりということもあると思いますが、どのタイトルがローンチになるかについては、まだわからないですね。
――ファーストパーティとしては、これからどのようなタイトルを作っていくべきだと考えているのでしょうか?
PS VRの良さをみなさんに知っていただけるようなタイトルです。ユーザーさんはもちろん、デベロッパーさんに対しても「このような使い方ができるんですよ」というサンプルを見せる意識がすごく強いですね。
たとえば、『THE PLAYROOM VR』のように、実際にPS VRを被っている人と違う映像をTVで出すことで「同じ部屋で複数の人が一緒に遊べる使い方もできます」という例を提示したり、あるいは『The London Heist』のように「PS Moveを使って両手を使うとこんなに楽しいことができますよ」という例を出したりですね。
あとは『Social VR Demo』という技術デモは、ああいったものもデベロッパーさんへのメッセージとして「ソーシャル体験がこんなに楽しいですよ」と伝えたいんです。そういったものを我々がやっていく、ということを1つのミッションとして持っています。
――今のところPS VRはPS4の周辺機器の1つで、本当の意味での普及を考えると、ハードとしての一本立ちか、PS4の標準装備にならないといけないと思いますが、その構想はありますでしょうか?
それは違います。我々は周辺機器ととらえていなくて、PS VRは“PS4を含むPS4を使ったバーチャルリアリティーのシステム”として考えています。少し言葉遊び的なところもありますが、PS4にくっつけるものではなくて、PS4を含んだバーチャルリアリティシステムという考え方です。
――将来的にはPS4を必要とせず、PS VRだけで1人立ちさせることはありえますか?
そういう構想はないですね。PS VRは、PS4を含めたものですから。なぜかと言いますと、ハイエンドで気持ちが良い体験をバーチャルリアリティで作るためには、ハードウェアのパフォーマンスが非常に高くないといけないんです。PS VRの良さは、PS4のハードからヘッドセット、OSからシステムのドライバーに至るまで、全部自社で作っているから非常にタイトなインテグレーション(統合)ができることなんですよ。
120HzのOLEDをPS4で回してレイテンシーを抑えて動かしたり、プロセッサーユニットを使って投射スクリーンの機能を入れたりといったことができるのは、全部PS4とタイトなインテグレーションをしているからなんです。
GearVRのような1人立ちという意味では、それはそれで得意な会社さんがやられると考えています。我々としては、PS4をベースにしたPS VRをしっかりお届けするだけでも相当に大変な事業、取り組みだと思っています。ですから、それが我々の最優先事項ですね。
――逆に、将来的にPS4の標準装備としてPS VRがついてくるといった構想はありますか?
それはないですね。TVでゲームを遊ぶのも楽しいことですので、それがPS4のベースユニットという形で続けると思います。ただ、ニーズに応じて各地域でカメラをバンドルしたり、PS Moveをバンドルしたりといった取り組みは出てくるでしょう。
――なるほど。PS VRはゲーム以外の機能も発表されましたが、VR機器が普及するためのカギとなるところはどこにあると思いますか?
やはり、ビデオや写真、あるいはリアルタイムで作られたストーリーものなどのエンターテインメント系ですね。カンファレンス後のPS VR体験会で、マッチ売りの少女をテーマにした『Allumette』という作品を展示したのですが、ああいった作品は、すごく楽しいと思うんですよ。
ゲームを好きな方に限らず、お子様や家族の方、お年寄りまで含めて、どんな方でも楽しんでいただけると思いますので、そうした誰でも楽しめるエンターテインメント系のビデオコンテンツやストーリー系の作品は、PS VRにとって非常に重要だと思っています。
また、昨日は発表できませんでしたが、世の中にはいろいろな360度のビデオを配信するサービスが出ています。そうした会社さんとの話し合いも続けているところです。PS VRが発売するときは、できるだけ多くの会社に参入していただきたいと考えています。
――それは楽しみです。話は変わりますが、10月以降のPS VR発売後に発売されるSCEタイトルは、すべてPS VRに対応していくのでしょうか?
シネマティックモードではどんなゲームでもプレイできますが、全対応は考えていません。タイトルによって対応を考えていくと思います。とくに、レースゲーム系は非常に自然で向いていますね。今、発表しているものとしては『グランツーリスモ スポーツ』がありますし、『DRIVECLUB VR』も本当の車の中にいるような臨場感があって、すごく自然にプレイできるんですよ。
それから、まだ発表していませんが、いろいろな実験をしているのがMedia Moleculeの『Dreams』です。あれは、3Dでクリエイションをするという新しいプラットフォームですが、VRを使うと3Dのクリエイションが、とてもやりやすくなるんですよ。そういったところで『Dreams』とPS VRは、すごくマッチングしていますね。
ジャンルによっても違いますが、基本的には“VRに対しては最初からVR向けに作らないと良いモノが作れない”と考えています。ですが、モノによっては割とすんなりPS VR対応ができるモノもありますし、VR用に作ったものを追加コンテンツで用意するといったことも可能性としてありえます。
――もし、PS VRが発売されてから思うようにVRが広まらなかった場合、普及するまで粘り強く続けるのでしょうか? それともどこかで打ち切るといったこともあり得るのでしょうか。
今の我々に対する期待感を見ていますと、そういった想定はしなくていいと思っています。VRは一時の流行ではないと思いますし、2016年以降は実用性のあるVR機器を作れる時代になってくるでしょう。我々は、OculusさんなどのVR関連会社と一緒に最先端にいますが、もし、我々がやらなくても、どこかがちゃんとしたモノを作ってくると考えています。ですから、VRはこれからもずっと伸びていく新しい市場だと思っていますし、我々としても一定のポジションに立って業界の発展に貢献したいと思っています。
――ポケットステーションには『どこでもいっしょ』というエポックメイキングなタイトルがありました。PS VRにも時代を変えるようなタイトルが出てくると思いますが、今吉田さんが期待しているタイトルを教えてください。
そういった作品は、だいたい想定していないところから出てくるものだと思っています。最近でも、新しいゲーム市場が立ち上がったときにfacebook上のゲームでジンガが『FarmVille』を出してきたり、スマートフォンで『アングリーバード』や『クラッシュ・オブ・クラン』が出ていますね。あるいは『パズル&ドラゴンズ』もそうですが、誰も想定していないところから「こんな面白いゲームがあったんだ」という場合が多い。ですが、フタを開けてみると、そうした会社さんは早い段階から新しいメディアに注目していて、いろいろな実験をした結果、たどり着いたタイトルだと思うんですよ。
名前が知られていたり、大手のパブリッシャーさんから出てきたりというよりも、まったく誰も知らないようなところから、想像もつかないようなモノがそのメディア専用に作り込まれてバッと広がるのがパターンだと思っていますし、VRでも同じだと考えています。
――ちなみに、発表された参入メーカーのなかでは一部の大手メーカーの名前が見られませんでしたが、参入していない会社とは交渉中と考えてよろしいのでしょうか?
基本的に、大手のパブリッシャーさんがまったく新しくて市場がないところへ先行されるということは一般的にもないと思うんですよ。逆に、ユービーアイ・ソフトさんやCCPさんのように大手であっても真っ先に取り組まれていたりするところもありますが、そうではないトラディショナルな会社さんは市場ができてから参入します。
あるいは、過去の例でいうと市場ができてから成功した新しいメディアの会社さんを買収されたりといったことをされていますから、様子を見ようと考えていらっしゃるのではないかと想像しています。
――最後に、タイトルの具体的な発売スケジュールは、いつごろ公開されるのか教えてください。
時期はまだ決めていませんが、当然発売前にはきちんと出していきたいと考えています。ただ、東京ゲームショウでは発売直前になってしまいますので、もっと早い段階でDay1想定タイトルのお話ができると思います。やはり、予約する時にハードの予約ができてもソフトの予約ができないのは不便だと思いますから、そういったことも含めて、今後のスケジュールを考えていきたいですね。