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2016年5月12日(木)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“GDC 2016”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.611(2016年3月31日発売号)のコラムを全文掲載! 

第80回:GDC 2016

 えーと、この原稿は、サンフランシスコで書いています。毎年3月に開催される、“Game Developers Conference”通称“GDC”に参加するため海を越えてやってきたのですが、いやあ、今年のGDCはなかなかにホットです!

 ご存じない方にGDCについて簡単にご説明しておくと、プログラム、アート、ゲームデザインはもちろん、サウンド、AI、QA、最近ではマネタイズやe-Sports、といった、およそゲーム開発に関わる全てのジャンルの仕事について、開発者がそのノウハウを惜しみなく発表し合う場、世界中のゲームクリエイターが集う国際会議、それがGDCです。

 イベントとしての歴史は古く、今年は第30回という節目の年になります。そして年々規模は拡大し、セッションの数も700を越えたということですから、いかにゲーム開発のノウハウが細分化され、それを開発者が共有することでゲームが進化してきたか、ということが伺えるのではと思います。

 僕は、GDCは2年ぶりの参加となりますが、2年前は、AIに大きなスポットが当たっていた覚えがあります。つい最近、人工知能をベースにディープラーニングと呼ばれる手法で構成された“Alpha GO”が、人間のプロ棋士に4勝1敗で勝ち越す、という出来事がありました。過去にはまさにそういったテーマのセッションがあったりもして、GDCは、コンピュータ技術という意味で常に最先端の潮流が予見できる場でもあるわけですね。で、なんといっても今回はアレです。“VR”がとんでもないことになっていました。

 そもそもGDCというイベントは例年3日間の開催なのですが、今年は水木金のGDCに先駆けて、月火に“VRDC(Virtual Reality Developers Conference)”というVR関連のセッションに特化した日程が設けられるほど、VR熱が高まっていました。数え切れてはいませんが、全体で700あるうちの60くらいがVRにまつわるセッションとなっていて、1000人規模の会場が満席で入れない、ということもあったほど。

 日本では、PC、モバイル含め、VR対応のコンテンツはまだまだ少ないですが、海外、特に北米では相当数のコンテンツがリリースされていて、すでにポストモーテム、つまりは開発後の事後検証まで行われている状態で、ずいぶん先に進んでいる印象を受けました。

 そんな中、日本時間の3月16日7時、遂に我が陣営が展開するVRデバイス、『PlayStation VR』の、発売時期と価格が発表になりました! タイトルラインナップの具体性や価格設定などかなり好評で、会場で出会う知り合いのクリエイターの方達からも、期待の声をたくさん聞かせていただきました。

 VRの世界は、特にUIの部分ではこれまでの常識が通用しない部分も多く、たとえば字幕や体力ゲージといった、“表示物が空中に浮いていること”の違和感や、目の前の対象の存在感と、それに対しインタラクションできる距離感の調整など、試行錯誤が必要なことが山ほどあります。しかしそれって、裏を返せばアイデア含めて“これから”編み出せるノウハウの可能性のカタマリのようなデバイスでもあるということで、非常にワクワクするわけですね。開発者が一様に色めき立っているのも、この、“やったもん勝ち”状態への歓迎の現れなのではないかと思うのです。

 さて、そんなGDCの各セッション参加はもとより、今回の渡米ではもう一つ大きな目的がありました。GDCでは、“Game Developers Choice Awards”という、開発者が開発者を称える大きな賞が併催されているのですが、そこに、FromSoftwareさんと僕達JAPAN Studioとで制作した『Bloodborne』が、“Best Visual Art”、“Best Design”、“Game of the Year”の3部門でノミネートされていたのです。

 その発表会にVIPとして招待されたのですが、さすがショーマンシップの本場アメリカ。発表会はまるでアカデミー賞の受賞式のようで、その華やかさに酔いしれるひとときとなりました。残念ながら受賞は逃したものの、あの場でノミネートされていた日本人クリエイターによる作品は、『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』『Super Mario Maker』『Splatoon』『Downwell』そして『Bloodborne』の5本だけ。それだけでも誇りだなあと、ディレクターの宮崎さんやプロデューサー達と語り合ったのでした。

 世界中のクリエイターが集うGDCのような場にくると、いつも感じることがあります。ゲームを作るということがここまで人を惹きつける根本的な理由とは、一体なんなのだろうかと。インディーズであれAAAであれVRであれ、どんな表現レベル、様式のゲームにも、それが“面白い”ものでさえあれば、作り手は垣根なく拍手喝采を送ります。思いつきという小さな点が、やがてプレイヤーという大きな面を動かすことになる。つまりはその魅力を分かち合いたくて、毎年みんなここに集ってくるのかもしれないなあと思うのでした。

『ナナメ上の雲』

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントJAPANスタジオエグゼクティブ・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズ、『TOKYO JUNGLE』などを手掛ける。現在『トゥモローチルドレン』『NewみんなのGOLF』を絶賛開発中。最新作、『Bloodborne The Old Hunters』好調発売中!

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.612』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年4月14日
■定価:667円+税
 
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