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2016年5月26日(木)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“少し大人になった日”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.613(2016年4月28日発売号)のコラムを全文掲載! 

第82回:少し大人になった日

 ウチの会社には、年に一回家族を会社に招待できる“ファミリーデー”というものがあります。ただの職場見学と言ってしまえばそれまでなのですが、これが結構イベント盛りだくさんで、社員には好評な様子。僕も昨年、初めて中一の娘を参加させたのですが、ものすごく喜んでいました。

 ざっとどんなイベントがあるかをご紹介すると、まず、SONY本社にある立派な施設で、映像機器がズラッと並んだギャラリーや、放送機器で実際に撮影できる簡易的なスタジオなどを見学することができます。中には3D映像が見られるシアターがあったりもして、小さいお子さんも大満足。さらには、ソニー・ピクチャーズの有名な映画で本当に使われた衣装や小さいセットもあり、大人の皆さんも大満足。

 もちろんSIEのコーナーもあって、これまでリリースされてきたソフトのパッケージや、分解されたPlayStation本体のパーツがカッコよくディスプレイされていたりと、かなりの充実度。いくつかあるビルには各所にスタンプラリーが設けられていて、また、社員食堂ではデザートが格安で販売されているなど、来場者はそれらホスピタリティを味わいながら、家族が働いている会社がこういう場所なんだ、と知るわけです。

 とまあ“表向き”に楽しげなパートはさておき、本来の趣旨からすれば、一番大事なのは、“実際に働いているフロアがどんな感じか?”を見せることにあります。今回娘を連れて行って感じたのですが、やはり自分の家族を会社の連中に紹介したり、僕で言えば“昼間のパパ”を娘に見られるのは、非常に照れます。ですが、見せた甲斐があったなあと思いました。

 当時、僕の部は基本的にプロデューサーしかいない部で、娘を連れて行ったときにちょうど、オープンスペースでプロデューサーの面々が『The Tomorrow Children』のミーティングをしていました。軽く娘に挨拶をさせ、みんなも親しげに声を掛けてくれる。しばらくして手持ちのお菓子をくれる人もいれば、別の席で制作途中のPS VRのタイトルを体験させてくれる人もいた。そんなこんなで一通り終わり、帰りの電車で娘に「どうだった?」と聞きました。すると娘はこう答えた。「会社ってあんなに楽しそうなところだったんだね」。

 よくよく聞いてみると、そもそも彼女が“仕事”や“会社”という言葉から受け取っていたイメージは、イコール“大変そう”ということのようでした。僕は家に帰るとあまり仕事や会社の話はしないのですが、それでも他の情報源含め蓄積されたイメージとして、“会社って大変な場所なんだ”という思いこみがあったようなのです。

 そんな先入観を持ちつつ、しかし実際に父親が働いているフロアに入ってみると、大人が笑いながら仕事をしていた。ゲームをしている人もいる(これは職種柄当たり前ですが)。何かを食べたり、フリースペースで雑談をしている人もいる。そもそものところで、会議中って笑っていいの? とも思ったそうです。そして彼女は言ったのです。「パパの会社で働きたいなあ」と。

 エンタテインメントの会社だから、という側面もあるかとは思いますが、SIEという会社は、総じて“楽しそう”を演出するのが上手い会社であることは確かです。もちろん、悪戯にカッチリしている部分もあるし、こんなことまで了解を取らないとダメなのかよと思うところもあります。しかし、多くの人は皆楽しそうに仕事をしている。ファミリーデーは、家族に職場を見せることの他に、働いている人自身が、“自分の職場を誇りに感じる家族を見る”という効能もあるなと、娘のリアクションを見て思ったのでした。

 先日、とある月曜日が祝日で3連休だったときに、田舎に住んでいる両親が僕の家に遊びにきました。毎度上京してくるたびに東京観光に連れて行くので、もうネタもない。どうしようかなと思っていたら、今回は自分たちで“はとバス”に乗るとのこと。というわけでこっちで予約だけして、当日いくつかお約束の場所、国会議事堂や皇居などを見て回ったようでした。孫と戯れているうちに、あっという間に3連休は終わりです。

 帰り際、新幹線に乗るのが品川ということもあって、僕はふとファミリーデーのことを思い立ち、「最後に会社でも見てみるか?」と提案してみました。祝日とはいえ誰かが出社している可能性は普通にありましたが、両親は70代半ば。老人は朝が早いので、9時ごろ品川のオフィスにこっそり連れて行きました。カードキーで開くセキュリティゲート。トロフィーやグッズが並んだ会議室フロア。おしゃれな社員食堂。そして僕が働いているフロア。それらを見せたのです。

 無口な両親も興味津々。何度も、すごいなあ、すごいなあと言ってくれました。15分程度の会社ツアーを終え、新幹線のホームまで送りに行ったとき、最後に親父はこう言いました。「これまで連れて行ってくれたどの観光名所よりも感動したわ。ありがとう。頑張れや」。

 どんなロケーションであれ、自分が所属している場所や世界を知らせることが、こんなにも家族を安心させることに繋がる。こんなにも、パパや息子を誇らしいと感じさせることができるのだと思った瞬間、なんかやっと、自分が少しだけ大人になった気がしたのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントJAPANスタジオエグゼクティブ・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズ、『TOKYO JUNGLE』などを手掛ける。現在『トゥモローチルドレン』『NewみんなのGOLF』を絶賛開発中。最新作、『Bloodborne The Old Hunters』好調発売中!

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.615』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年5月26日
■定価:667円+税
 
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