2016年6月15日(水)
新規タイトルや『人喰いの大鷲トリコ』の発売日発表、日本国内ではPS VR発売が10月13日に決定するなど、さまざまな新情報があったE3 2016。その会場で、SIEワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏にインタビューを実施。小島秀夫氏も登壇し大歓声が巻き起こったカンファレンス内容から、PS VRの最新事情まで、気になる点を聞いた。
▲ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏。 |
――今年のE3でのPSプレスカンファレンス、ひとことで言うと圧巻でした。毎年期待を超える内容ですね。
PS4の発売日を発表したE3 2013のプレスカンファレンスが「これを超える盛り上がりはないだろう」と言われていたのですが、昨年のE3 2015では「もしかするとE3 2013の盛り上がりを超えたかも!?」という声があがっていました。そんなE3 2015をさらに超える盛り上がりだったという声をいただいて、正直ビックリしています。この業界、あまり先のことは予想しないほうがいいと思いましたね(笑)。
――『God of War』で描かれるであろう父と子の話など、カンファレンスでトレーラーが公開されたタイトルはFPSやアクションといったジャンルを問わず、ドラマを期待させる内容でした。現在開発中のPS4タイトルはこういった面に注力しているのでしょうか?
大作がドラマ性を重視しているという点は、意図的に誘導したわけではありません。ですが、パフォーマンスキャプチャーを含めたグラフィックス能力の向上に伴ってPS4だからこそできることと言ったらやはりドラマだろうと。そういった考えを各タイトルの開発者が抱き、またその考えが伝播しているのだと思います。
――『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』でも感じましたが、技術が進化するほど人間ドラマというのは重要ですよね。
やはり人間は人間が好きなんですよ。だから自然に人間同士の物語を追求していくのでしょうね。
――昨日(6月14日)発表されたなかで、吉田さんがとくに注目しているタイトルは?
新しいものでいえば『God of War』『Days Gone』『スパイダーマン』『Farpoint』ですね。長く作ってきているタイトルなのでやっと発表できたという思いが強いです。新たに発表したタイトルはそれぞれ多くの予算をかけ大人数で、そして長期間かけて作られているものです。E3 2016のカンファレンスでようやく発表でき、評判も上々なようでホッとしていますよ。あと、個人的には『人喰いの大鷲トリコ』や『Horizon Zero Dawn』を早く遊びたいです(笑)。
――『Detroit Become Human』の新トレーラーではコナーというアンドロイドが登場し、どういったタイトルなのかがようやく明らかになった気がします。
『Detroit Become Human』が描くテーマは、今が一番旬なタイミングだと思います。SFのなかの存在だったAIやVRといったものが急激に身近なものになった今、シンギュラリティも含めてこのタイトルで描かれている問題に近い将来、現実社会が突き当たるのではないかと考える人もいるでしょう。
これまでのトレーラーに登場したカーラやコナー以外にも主要な登場人物、いや登場アンドロイドかな(笑)がいますが、多分制作者はアンドロイドに感情移入させようとしていますね。だからこそプレイヤーはアンドロイドたちを人間くさいと感じ、彼らのぶつかるジレンマをどう選択するか? というゲームになるのではないでしょうか。
――カンファレンスで小島監督が登壇されたときが印象深いですね。スタンディングオベーションが起きそうなくらい盛り上がっていました。
小島監督のことは欧米の人たちがとくに心配していたのだと思います。そこにコジマプロダクションを新しく興して「生涯ゲームを作り続ける」というメッセージとともにSIEとの提携も発表しました。小島監督がゲームを作るというのが現実味を帯びて、暖かく迎え入れられたのだろうと思っています。
――設立からごく短い期間で、あの『DEATH STRANDING』のトレーラーを作り上げているというのは驚きました。このタイトルのリリースには、SIE WWSのサポートを受けていく形になるのでしょうか?
SIEのほかのタイトルとは異なり、基本的にはコジマプロダクションという独立したプロダクションが開発を進め、我々は必要に応じてサポートしていく形です。技術協力やキャプチャー協力などを行っていますね。先日マーク・サーニーと小島監督が、2週間くらいかけてアメリカとヨーロッパのSIE WWSのスタジオを回っていました。そういったコミュニケーションのなかで、どのように協力するかの予定などが生まれればいいと考えています。
――『DEATH STRANDING』のトレーラーについてどう思いましたか?
私もあのトレーラーを見たのはごく最近のことなのですよ。あえて謎かけのようなものをたくさん入れた作りですよね。この謎かけを1コマずつ見て解読していくのをユーザーさんに楽しんでほしい、というものなのではないかと思います。
――一見するとホラーゲームのような印象を受けました。
ストーリーが楽しそうですよね。もしかしたら、一作ではわからないような壮大な背景が用意されているのかもしれません。
――PS VRの発売日が発表され、いよいよ“始まる”という感じがしました。吉田さんの今の心境を聞かせてください。
『サマーレッスン(仮)』が発売されるということを言えるのがうれしいですね。これまではあくまで技術デモという扱いだったので、もどかしい部分が多々ありましたよ(笑)。
――発売から2016年末までに発売予定のタイトルは50タイトル以上にのぼるそうですね。
50タイトルというのは“Game Developers Conference 2016”のときのタイトル数ですね。今回新しいタイトルが発表されましたし、現在発表済みのタイトルでも開発が遅れてしまうケースがあるでしょう。ですから実際、ローンチのタイミングで何タイトルリリースされるかは現段階ではわかりません。
Oculus Riftも対応タイトルが豊富ですし、HTC Viveには『Fallout』と『DOOM』が対応するとの発表もありました。PS VRに限らず各種VRデバイスが好評で、独立系のパブリッシャーが作るタイトルが幅広く費用回収できる環境になってほしいですね。
ただ、これから新しいデバイスを1台目から普及させていくというタイミングですから、今VRでゲームを作るというのはある程度のリスクもあります。私としてはそういった開発会社さんがいいものを作ったら開発費用を回収できて、その次のタイトルの開発につながるという形にならないと、業界全体にとってよくないと考えています。
――ローンチタイミングでのPS VR対応タイトル数について、SIEサイドでコントロールすることはあるのでしょうか?
SIEのタイトル間での調整は可能ですが、サードパーティさんにはそれぞれの考えがあるのでコントロールはできませんし、しません。
――PS4の普及台数を考えると、VRというコンテンツ自体がPS VRの発売で始まるのかな? と考えたりもしますが、PS VRが出ることでVR周辺の状況はどう変わると考えていますか?
やはり我々の責任はかなり大きいと思っています。VRは体験してみないとわからないですし、その体験がよいものであればどんどん普及していきます。PS4は全世界で4000万台売れていますし、ハイエンド機としては一番期待されているもの。だからこそ自分たちが先陣を切ってVRを世に普及していく。それが業界に対する役割かなと思っています。
――VRデバイスがリリースされることで、ゲームの作り方は変わってきますか?
これまでのテレビを対象としたゲーム作りからは、まるで変わってくると思いますね。自分がバットマンになる『バットマン:アーカム VR』、ゲーム内のキャラクターと同じ空間を共有する『初音ミク VRフューチャーライブ』や『サイバーダンガンロンパVR 学級裁判』など、VRではゲームの中に入り込む体験ができます。
そうするとアクションやシューターなどのゲーム性よりも、ゲームの世界にどれだけ浸れるかや、その人物にどれだけなりきれるかが大事になってきます。今VR用タイトルを開発している人からは、今までのゲームでは気にもせず通り過ぎていたようなものでも、VRだと近づいてじっくり見たくなるという話を聞きます。近づいて見るとなるとディテールをごまかせないのですよね。
ですが、そういった細かい部分を作り込めばそれだけ体験のクオリティは増します。だからゲーム自体のボリュームやインタラクションよりも、ゲーム内で自分が物を押したら摩擦も含めて期待通りに動く。そういうところを重視した作りになりますね。
――VRとARが融合していくというイメージはありますか?
技術的に非常に近いものですので、何年かたつと両者が近づいていくと思います。ですが、VRは存在しない世界を作ってそこに浸るものですが、ARはそこに現実とのあわせ込みをしないといけません。だからARの方がVRよりも開発が大変なのですよ。
ただ、VR ZONE Project i Canで体験できる『極限度胸試し 高所恐怖SHOW』のネコのように、すでにVRの世界に現実のものを取り込むという手法は存在しています。VRヘッドセットをかぶると生きたネコが目の前にいて、手を伸ばすと実際に触れる。これはインパクトありますよ。そういった方法もありますし、現実の世界で人を座らせてVRで作るような世界をARで体験してもらう。VRとARの融合はこのような形になっていくのではないでしょうか?
――ゲームファンからするとVRはワイヤレスであることが理想だと思いますが、VRとARの融合とワイヤレスが実現するのはいつ頃になるでしょう?
ARは技術的な問題が複雑なものがあって、VRと比較してできないこともあります。また、VRで使っている映像をワイヤレスで送るのも現状では難しいですね。あまり先を予想しないほうがいいと私は考えているのですけれど、2、3年では実現は難しいと考えています。でもこの業界は進歩のスピードが早いのでわからないですね。
――PS4のときとは異なり、PS VRは日本と海外で同時に発売となりますが、欲しいと思っている日本のユーザーすべてが手にできるぐらいの台数を提供されるのでしょうか?
もちろん、10月13日までにPS VRを無限に生産できるわけではありません。ですがなるべく多くの方に手にとって頂くため数量を整えたいと考えています。
――北米では、PS VRにPlayStation Camera、それに『PlayStation VR WORLDS』などがセットになった『PlayStation VR Launch Bundle』が発売されるそうですが、日本では同様のセットのようなものの販売は?
PS VRとPlayStation Cameraをセットにした『PlayStation VR PlayStation Camera同梱版』を発売いたします。
――最後に吉田さんの視点から、PS VRのラインナップでゲーマー向けのタイトルと、ライトユーザー向けのタイトルを教えてください。
まずゲーマー向けなら『RIGS Machine Combat League』ですね。チーム性のオンラインシューターでかなり長く遊べるタイトルかと思います。『Rez Infinite』も体験してほしいですね。
逆に普段ゲームをプレイしない人を含めたライトユーザーさんには『PlayStation VR WORLDS』がオススメですね。こちらは近未来のスポーツを体感できる『Danger Ball』、リュージュを題材にした『VR Luge』など5コンテンツが収録されています。
他のコンテンツならバンダイナムコエンターテインメントさんの『サマーレッスン(仮)』。ゲーマーに限らず、あらゆる人にオススメです。あとは“電撃PlayStationプレミアムイベント開催決定スペシャル”で広橋涼さんにプレイしていただいた『Ocean Descent』。じつは私、広橋さんのプレイがおもしろくてあの放送を3回も見ています。最初にYouTubeで見て、次にほかの視聴者の反応が気になってニコニコ生放送のタイムシフト。そして最後にまたYouTubeといった具合です(笑)。