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2016年7月21日(木)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“ネガとポジ”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 ここでは、電撃PS Vol.617(2016年6月23日発売号)のコラムを全文掲載!

第86回:ネガとポジ

 思いついたことや気づいたことをTwitterでつぶやくのが好きです。漫画を読んだりドラマを見たりして感じることもあれば、日々の通勤路にネタを見つけることもある。それらをどんどん発信し、知らない方々からいただくリプライやリツイートを楽しむ。今やダダ漏れの時代です。駆け巡っている思考を常に外界にさらし感性を鍛えるという意味でも、SNSは積極的に活用すべきだと思っています。そしてもう一つ、Twitterをやっていてよかったと感じる利点。それは、自分たちが手掛けたタイトルについてつぶやかれた、遊んだ人たちの感想に触れられることです。

 最近では当たり前のように、まずゲームごとにハッシュタグを決めます。ハッシュタグとはつまり“索引”のようなもの。たとえば『ソウル・サクリファイス』の場合だと、#ソルサクなどと決め、それを文中に入れつつツイートしてもらうことで、ソルサクに関するツイートを効率的に閲覧することができるようになるのです。

 しかしもちろん、すべての方がこちらが決めたハッシュタグを使ってくれるとは限らない。というわけで、タイトル名や略称、ゲーム内の特徴的なキーワードでいろいろと検索をするわけです(いわゆるエゴサーチというやつですね)。嬉しい感想もあれば当然耳の痛い意見もある。制作者は一喜一憂しながらそれらのコメントに目を通していくのですが、このときたまに、著名なクリエイターやタレントさんによる、僕らのコンテンツに対するツイートに出会うことがあります。

 僕の経験をいくつかご紹介すると、まずは通称大吉先生こと博多華丸・大吉の大吉さん。大吉先生はとにかくゲームがお好きで、『TOKYO JUNGLE』がリリースされたときには本体とセットで買ったとツイートされていて、僕はそこに、「突然すみません、制作者です! お買い上げありがとうございます!」とリプライを飛ばしたのですが、僕のプロフィールを見てくださったのか、大吉先生は、勇なまシリーズも全作買っていますと返事をくださいました。

 『TOKYO JUNGLE』は不思議な魅力を持ったゲームで、他にもきゃりーぱみゅぱみゅさんが、油断していたらビーグルの集団にやられた、というようなツイートを何度もしてくださったりもしていました。他にも、『rain』というゲームをリリースしたとき、“もやしもん”の作者、漫画家の石川雅之さんが、『rain』を遊び始めたら止まらなくなったとツイートしてくださっていて、相変わらず厚顔無恥に「ありがとうございます!」とリプライしたところ、やはり僕のプロフィールを見てくださったのか、勇なま全シリーズと『100万トンのバラバラ』は移動時のマストアイテムです、という歓喜の返信をくださったのでした。

 自分がリスペクトしている表現者に自分らの手掛けたゲームを褒められるというのは、何とも制作者冥利に尽きます。このポジティブなパワーは、次の創作に向けての大きなエネルギーとなると言っても過言ではありません。

 一方でSNSは、炎上騒ぎもよく起こります。ネットの世界に限らず、何でもマイナスに捉える人はいます。僕の周りにも、毎日一緒にランチに行ってはネガティブな会話が展開されるグループというのがあったようで、そこから広がる負のマインドに周囲の人は悩まされているようでした。

 思うに、ネットであろうがリアルであろうが、ネガティブなパワーというものは、人と人とを繋げやすいのだと思います。ポジティブな言動には、“やる”といった責任が伴うことが多いわけですが、ネガティブな言動は外側への“ダメ出し”が主体なことが多いので、言いっぱなしでかまわない。だから好き勝手なことを発言し、そのうちまるでそれが何か重要な問題を共有しているかのような錯覚を起こす。しかしそれは、ただ単に問題点を共有しているだけで、解決策を実行するような力にはなり得ません。問題意識を持つことはもちろん重要ですが、“ナニカ”をプラスに変えるには、卓越したアイデアに基づいた行動力が必要なのです。

 翻ってポジティブなパワーというものは、悲しいかな案外、人と人とを繋げにくい。理由は単純で、“面白い”と思うかどうかの価値観は、人によって様々だからです。でも、それが一致したときにこそ、とんでもないパワーが生まれる。経験上、そのパワーが発生したチームの作品はヒットしてきたし、そのパワーに満ちた組織は、周囲から一目置かれることが多かった。否定を受け止めながらもSNSでの“面白い”という声に反応し、新たな作品にプラスのエネルギーを注入すること。楽しくないランチ会から抜けて楽しいメンバーでプラスの会に仕切り直すこと……。

 僕が大好きなテレビマン、かつてフジテレビで“俺たちひょうきん族”などを手掛けられた、三宅恵介さんというディレクターのこんなエピソード。氏は、芸人さんのパフォーマンスがイマイチでリテイクを出す際、こう声を掛けていたそうです。「よ、日本一! 次、世界一いってみよう!」。たとえちょっとずつであっても、世界を楽しく変えるのは、結局自分の行動であり、言葉なのだなあと思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントJAPANスタジオエグゼクティブ・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズ、『TOKYO JUNGLE』などを手掛ける。現在『トゥモローチルドレン』『NewみんなのGOLF』を絶賛開発中。最新作、『Bloodborne The Old Hunters』好調発売中!

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.618』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年7月14日
■定価:694円+税
 
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