2016年7月20日(水)

『逆転裁判6』真宵の登場発表は不安しかなかった!? 南の島の設定や登場キャラの秘話を開発メンバーが語る

文:成宮和希

 カプコンから発売中の3DS用ソフト『逆転裁判6』を手がける開発者へのインタビューを掲載します。

 『逆転裁判6』は、人気アドベンチャー『逆転裁判』シリーズのナンバリング最新作。成歩堂龍一と王泥喜法介のW主人公が、クライン王国と日本の法廷で逆転劇を巻き起こします。“弁護士が不在の国”や“死の直前の記憶を霊媒で見られる”など異色な設定が話題となりました。

 お話を伺ったのは、プロデューサーの江城元秀さんとディレクターの山﨑剛さん。発売後の反響や、開発秘話などをタップリ語っていただいています。物語やトリックにかかわるネタバレは極力避けていますので、未プレイの方も安心してください。なお、インタビュー中は敬称略。

『逆転裁判6』
▲左が江城プロデューサーで、右が山﨑ディレクター。

前作の反省が今作の反響に繋がった

――発売から時間が経ちましたが、ユーザーの反響はいかがですか?

江城:ある程度ユーザーの好みはあると思うのですが、僕が予想していたよりもはるかによかったです。前作よりよかったですし、「『逆転裁判』シリーズの『1』~『3』に匹敵するくらいおもしろい」と言ってくださるユーザーもいらっしゃいました。あと登場キャラクター、特にレイファの人気が高かったですね。

『逆転裁判6』

――ストーリーや演出に関する反響はどうでしたか?

江城:クリアした人は既にご存じだと思うのですが、後半にドラマを多数用意しています。「久々に『逆転裁判』で泣けた!」や「すごく興奮した」などの感想を見られたのは、うれしかったですね。

 一方でモーションやアニメーションに凝った分、ゲームのテンポに関する意見が多く見られました。スピーディにストーリーを追いかけたい人と、いろいろなところを調べてじっくり楽しみたい人で意見がわかれている部分ですね。

――山﨑さんはどうとらえられましたか?

山﨑:今回、異国の設定など、わりとチャレンジなこともしているタイトルなので、好みが分かれる可能性はあるだろうなとは思っていました。そのうえで、「全体を通しておもしろかった」と言っていただけることが多いのはありがたいです。先ほどのテンポの話も「モーションが豪華でいい!」「グラフィックが綺麗になっていて楽しい!」という人もいたので、それぞれの好みで分かれているというところもあるのかな印象を受けています。

――『逆転裁判6』を制作する際に、前作『5』で寄せられた意見や反省点などの見直しなどはあったのでしょうか?

山﨑:ユーザーからのアンケートをチームメンバーで調べて、書き出して、多いものはリストアップして検討していきました。

江城:前作で特に多かったのが、「簡単すぎる」と「調べる場所が少なすぎる」の2点でした。『逆転裁判5』は久々のナンバリングタイトル。新規ユーザーにも入ってきてほしいと思い、調べる場所も3D探偵パートに集約させてあえてシンプルにして、トリックを理解しやすくしたうえで法廷パートに行ってもらいたいという意図がありました。

 そのおかげで、新規層やあまりアドベンチャーゲームの謎解きが得意ではない層からは評価いただけました。しかし、シリーズを昔から遊ばれている人や、アドベンチャーゲームが好きの人からすると歯ごたえがないという印象を受けたようです。

――なるほど。

江城:また、「『逆転裁判』は周辺を調べるのがおもしろいのに!」という意見も多数ありました。「3Dになって背景を動かせるようになったのに、なんでこれだけしか調べらないのか!」と。それは確かにその通りだと感じたので、その2点には絶対に対応しようということになりました。

 あと、「カガク捜査をやりたかった」というユーザーも多かったので、それも入れることを決めました。

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

山﨑:あと、マヨイを出してほしいという意見もすごかったですね。

江城:そうですね。「マヨイはまだか?」「まだ引っぱるのか、お前たちは」という意見が多く見られたので、マヨイを出すことにしました。

『逆転裁判6』

――『逆転裁判6』ですが、個人的には『5』と比べて『逆転裁判』らしさをより感じられたのですが、開発チーム内で何か変化はあったのでしょうか?

山﨑:前作『逆転裁判5』の時のチームは、初めてシリーズにたずさわるメンバーが結構いました。でも今回は、前作のチームをベースに作られているため、前の経験を踏まえたうえで、ユーザーをさらに意識しながら作ることができたと思います。そのため、質がいいと言ってくださるような出来になったんじゃないでしょうか。

江城:シナリオは山﨑が直接書いているところもありますが、複数の担当者に分担して任せています。山﨑は一歩引いた立場で、全体的なバランスや物語の起伏などを見られたのがよかったのではないかと思います。

山﨑:私だけではなく、シナリオチーム全員で全体の構成を検討しました。最終話に向けてどう伏線を張っておくかや、ストーリー的にどうしていくかなどを表にまとめるのですが、シナリオを書き終わった後に表を何度も確認したのが功を奏したのかなと思っています。

『6』は南の島での裁判になったかも!?

『逆転裁判6』

――『逆転裁判6』の全体のコンセプトについて改めて聞かせていただけますか?

江城:今作のシナリオのコンセプトは“革命”で、あとはヒューマンドラマですね。『逆転検事』シリーズの時もそうだったんですが、山﨑はわかりやすい人間ドラマが好きなんだろうなと、僕は思っています。特にオドロキ君はまだ発展途上なので、このキャラがどういうドラマを経て成長していくのかを描くことも、この作品のコンセプトの1つではあるのかなと。

山﨑:実は他にも裏のテーマがあるんですが、最後の展開にかかわってくるので、ここでは言えないんです(笑)。クリアされた方はだいたい分かっていただけると思います。

――メインビジュアルですが、左右対称になっているうえに、キャラクターがバランスよく配置されていてカッコイイという印象を受けました。

『逆転裁判6』

江城:ありがとうございます。毎回このメインビジュアルで、僕と布施(『逆転裁判6』アートディレクターの布施拓郎さん)がもめるんですよね(笑)。布施の中でコンセプトをがっちり決めてとりかかるので、意見のすり合わせにすごく時間がかかるんですよ。しかし、改めて見てみるとすごくいいアートですよね、これ。

山﨑:身内をほめるのはアレですが(笑)、僕も素晴らしいと思います。これだけの数のキャラクターがいるのに、それぞれの立ち位置をちゃんと表わした描き方をしている。よくまとめたなと思いました、本当に。

――タイトルロゴの“6”は勾玉をイメージしているのでしょうか?

『逆転裁判6』

江城:そうですね。色の候補は緑と紫があったんですが、最終的に紫にしてもらいました。理由は、マヨイの色だからです。発売日の“6月9日”も、両方勾玉らしくて分かりやすいので、その日に決めました。

――今作で新たに登場したクライン王国をデザインするために、アートチームに発注したことはありましたか?

山﨑:今回は企画の初期段階からアートチームがいたので、僕が発注したというよりは、いっしょに考えていったという面が強いですね。異国にしようと最初に決まった時も、どういう場所にするかまでは決まっていなかったんです。一瞬、「南の島にしたらどうか?」という話がありました(笑)。

――南の島で逆転ですか!?

山﨑:そうなんです。その時のイメージも、クライン王国と同じように巫女がいて霊媒的なことをするのは変わらずに、南の島なんでシャーマンみたいなキャラクターにしたらどうかとか、文明が発達していなくて裁判に弁護士がいないのはどうだろうといった案が出ていました。

 その中で、マヨイを出すことが決まりました。異国を倉院流霊媒道の総本山にしたら、ちょうどよくまとまるだろうという案があがり、それであれば国の雰囲気はアジア系がいいだろうという風に決まっていき、最終的に今の形になりました。

 そういう経緯をたどりながら、絵を描いていただきつつ進めているので、南の島も1回描いてもらっています。アジア風に決まった時も、いくつか描いてもらった中から一緒に決めていった感じでした。

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

弁護士席からカッコよく見えるように専用の顔パーツを用意

――法廷でのレイファの奉納舞や、第2話の“逆転マジックショー”でみぬきが法廷でマジックを披露するシーンはとても滑らかで驚きました。

山﨑:両方とも、モーションキャプチャーを使っています。

江城:そこだけではなく、モーションキャプチャーはいろいろなところに使っていて、それをベースにモーション担当が手作業で修正して仕上げています。

――公式サイトの開発ブログのほうでも書かれていたことですが、前作からのキャラクターモデルをそのまま使う予定が使えなかったとありましたが、かなり作り替えられているのでしょうか?

山﨑:最初は全然いじる予定はなかったんですが、新しいキャラと古いキャラを並べてみたらあまりにも差があったので、手を入れる必要があると思いました。

江城:あと、本作はキャラのアニメーションが多くてカメラもかなり動くので、めりこみが発生するのを防ぐために、モデルを触らざるをえないという流れになりました(苦笑)。

山﨑:これもまた『逆転裁判5』の時の経験者がやっているためです。前作よりもよくしようとした結果、モデルを動かすためのジョイントも増え、カメラも増え……(笑)。

江城:かなりごりごりつけましたね(笑)。

山﨑:その結果、この角度だと変なのが映っちゃうぞということになり、それをまた直してみたいなことが、ちょこちょこありましたね。

――前作『5』のインタビューで、「“異議あり”の時だけ腕のパーツを変えた」という話でしたが、今回もそのような工夫はされているのでしょうか。

2人:あちこちにあります。

――具体的には、どのパーツがあるのでしょうか?

江城:腕パーツと顔パーツは適時切り替えていますね。

山﨑:特に顔のパーツは多いです。弁護士であれば、弁護士席の横から映す時のもの、正面から映す時のものなどがあります。見ていると「よく作るなあ」って感じでしたね(笑)。

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

江城:本当ですよ(笑)。第3話で、レイファが頬を赤くして悔しがるモーションがあるんですが、3Dモデルであのようなモーションをするゲームはないんですよ。どうみても2Dの演出じゃないですか。あれを3Dでやりたいっていうんですよ。あの微妙な変化をつけるのは、相当大変だったと思います。

『逆転裁判6』

――『逆転裁判5』があったからこそできたことだったのでしょうか?

江城:そうですね。「演出を強化しましょう」という話はずっとしていました。あと3DSで『大逆転裁判』が発売されたのも影響があります。あれは別のチームが開発しているのですが、『大逆転裁判』は演出が細かいんですね。例えば成歩堂龍ノ介の目が泳いだり、台をぺちっと叩いたりとか。その演出がかなり評価されていました。

 『6』は、その後に出るタイトルなので、演出面でもよりパワーアップしていないといけないとなり、いろいろ工夫を入れることになりました。

山﨑:『大逆転裁判』のキャラクターモデルは、どちらかといえば3D寄りの作りで、どの角度から見ても大丈夫なように最初から作っているんですね。『逆転裁判5』の時は、ぱっと見た時に2Dらしく見えることを重視していたので、カメラアングルに制限があることを前提に作っていました。

 今回『逆転裁判6』で『大逆転裁判』のようなカメラアングルを付けることになって、カメラに合わせてどこからでも見えるように作り直すという選択肢もあったのかもしれません。ただ、それだと絵柄が変わってしまう可能性もありました。そうなると、“2Dらしく見える3D”というコンセプトから外れてしまうので、それを維持しつつ、カメラに対応するために、手作業でいくつものパーツを作りました。

マヨイを出す時は不安しかなかった……発表当時を2人が明かす

――主要な登場キャラクターについて聞いていきます。まずは主人公のナルホド君とオドロキ君から。前作からの変化や、本作での見どころなどがありましたら教えてください。

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』
▲成歩堂龍一 ▲王泥喜法介

山﨑:『5』から1年後の話なので、ビジュアルは2人とも変わっていないんです。ただ、今作のストーリーでは、オドロキ君の成長と、それを見守るナルホド君を描いていて、2人の関係がより明確になって変化が生まれていきます。

 ナルホド君は、マヨイちゃんのために弁護士が不在というメチャクチャな異国で戦うわけですが、あんなアウェーな場所で戦うというのは、スーパー弁護士になったナルホドじゃないとできなかったこと。今作の彼ならではのストーリーになったと思っています。

 オドロキ君は、ナルホド君が日本にいないので、彼のサポートなしで頑張って勝利を取る姿を描くことで、オドロキ君が成長したところを出したかったんです。

――次は『逆転裁判5』から登場するココネについて、お願いします。

『逆転裁判6』

山﨑:ココネは、前作の時はナルホドとのコンビが結構あったんですけど、今作ではオドロキのコンビとして描かれています。この“先輩&後輩コンビ”にも、ナルホド君とマヨイちゃんのコンビの安定感に似たようなものが出てきたのかなと思っています。

――みぬきはどうでしょうか。第2話は彼女がメインキャラクターになっていますね。

『逆転裁判6』

山﨑:そうなんです。『5』でみぬきをちゃんと描ききれなかったと思っていたので、『逆転裁判6』では、1話分を当てて、彼女のドラマをやりたかったんです。『逆転裁判4』の登場時から、彼女がメインのストーリーはありましたが、彼女の心の中ってあまり出てこなかったんですよね。

 表の顔だけではなく、裏側の本音の部分みたいなところをちゃんと描いてあげたかったっていうのがあって、深く掘り下げる場として第2話を作りました。

――確かに前作『5』では、ひたすらパンツから何かを出している印象でしたね。

『逆転裁判6』

山﨑:事務所にいるマスコットみたいな感じでしたね(笑)。第2話を遊んでいただければ、彼女がどんな女の子なのかが、わかっていただけると思います。

――あとはユガミですね。彼を出すことになった経緯は?

江城:ユガミは人気キャラなので出しました。

山﨑:あと『逆転裁判5』の開発メンバーが多数いるので、皆ユガミを出したくてしょうがないんですよ(笑)。

『逆転裁判6』

江城:前作のストーリー後半で、ユガミとココネの繋がりを描いているんですが、そこでユガミの人気がどんと上がりました。今作では晴れて手錠が取れて出せる。

山﨑:それもあって、これは出さない手はないと!

――わりと自然な流れで決まったんですね。

山﨑:「出したいよね」という話はあったんですけど、どう出すのか問題がありました。もし、1話分検事をやらせてしまうと、どうしてもナユタの出番が少なくなってしまって、彼の印象が下がってしまうことになる。そのため、いい出し方はないか模索していた時に、あるアイデアが思いついたんです。ぜひゲーム中で活やくを見ていただきたいですね。

――次は『逆転裁判4』から登場する、アカネですね。本作で無事に科学捜査官になりましたが、これはどなたが決めたのでしょうか?

江城:これは山﨑のこだわりですね(笑)。

山﨑:アカネちゃんを科学捜査官にしてあげたかったんです! 僕が最初にかかわったのは『逆転裁判 蘇る逆転』。アカネはここが初登場で、その後も『逆転裁判4』や『逆転検事』など、かかわってきたタイトルほとんどに出てくれているので、夢を叶えてあげたかったというのがありました。

――ただ、かりんとうは手放さなかったと。

『逆転裁判6』

山﨑:そうですね。チームから「科学捜査官になったんだから、かりんとうを食べなくなるんじゃないの?」という意見があったんですが、それがなくなっちゃうと『逆転裁判4』のアカネちゃんがいなくなっちゃうんですよ!

 かりんとうを食べる絵的なおもしろさもあるんで、なんとか残したいと思っていたんですが、彼女のことをナユタがいろいろ連れまわしてくれたおかげで、かりんとうを食べさせることができたのでよかったですね。

江城:やっぱりストレスがたまって、かりんとうを食べるのは変わらないんですよね(笑)。

――デザイン的には大人らしさがより出た感じがしますね。

『逆転裁判6』

山﨑:『逆転裁判4』からは、腕章が付いたくらいで大きくは変わってないのですが、このイラストを描く時に、布施が「せっかく科学捜査官になったし、成長した感じを出したい」と言っていました。最終的にポーズなどでちょっと大人っぽい感じにしてもらいました。

――では、満を持して登場したマヨイちゃんをお願いします!

『逆転裁判6』

山﨑:マヨイは、早い段階から出すことを決めていたキャラクターですが、彼女をどう出すのかが、すごく難しい問題でした。彼女の姿が出てくるのは『逆転裁判3』以来なので、作中だと9年前になる。そのころのマヨイからどう成長したのかを描くことが、すごく難しかったです。

 ユーザーの頭の中で、ものすごく想像が膨らんでいると思うので、そことちゃんと折り合いをつけられるような形にしたいとすごく悩んだところではあるんですけど、シンプルで王道な“年相応の大人の女性にちゃんとなっているけど、心の中は変わっていない”ということをベースにしながら作りました。

 あと、あの性格のままでまったく成長せずに28歳になっているのは、厳しいところがあると思ったので、作中では大人っぽい表情を見せる瞬間や、霊媒師として能力がアップしているところを描くことで、彼女の成長を表現しました。

江城:倉院の里のトップになるという宿命があるので、出てこなかった9年間が彼女なりに大きく作用しているんじゃないかなと思いますね。

――マヨイを出すにあたって、不安はありませんでしたか?

『逆転裁判6』

山﨑:メチャクチャありましたね!

江城:むしろ、不安しかなかったですね。

山﨑:前作『5』でハミちゃん(綾里春美)を出した時にも同じことを考えたのですが、デザインをした布施も、ちゃんとユーザーに受け入れてもらえるようにできるか、すごく悩んでいました。

江城:どんな形で出したとしても、文句を言われると思ってたんですよ。フタを開けてみたら、ネガティブ意見はほぼゼロでした。マヨイのデザインに関しては、奇跡的に受け入れられた感じですね。

山﨑:すごくいい落としどころを見つけたんだと思います。

――あまりにもあのままだと時間が経っている感じもしませんしね。

山﨑:そうなんですよ。だから、お母さんの綾里舞子をモチーフにしてデザインしようと話しました。

江城:舞子をモチーフにしたというコンセプトがよかったんでしょうね。

山﨑:喋り方に関しても、どういう風にしゃべらせるかは、結構悩みました。マヨイらしいことをしゃべらせることを意識して、頑張って書きました。

山﨑さんの攻めの姿勢からナユタの毒舌は生まれた

――クライン王国のキャラクターの生まれた経緯や名前のコンセプトについて伺っていきたいと思います。まずはレイファから。

『逆転裁判6』

山﨑:レイファのレイは“霊媒”の“霊”です。メインキャラクターの名前は、わりとダジャレではなく、イメージ重視でやっています。レイファ・パドマ・クラインのパドマは、サンスクリット語で蓮の花を意味しています。クライン王国では、巫女が蓮の花に例えられているんです。魂を運んでくると信じられているクライン蝶が蓮の花にとまるモチーフは、巫女が霊媒する姿を象徴しています。

 ミドルネームですが、王族だけが持っていて、その人の立ち位置に合せた名前になる設定なので、巫女の彼女は“パドマ”になるわけです。

――そうすると、レイファの父親で法務大臣でもあるインガのミドルネームの“カルクール”には、どのような意味があるんですか?

山﨑:カルクールは、“絡繰る(からくる)”からきています。彼は、法曹界を操り支配している法務大臣なので。

江城:持っているのも、葉巻と見せかけて実は印鑑というね。

『逆転裁判6』

――あれは完全に葉巻だと思っていました!

江城:拡大して見ると実は違うんですよ(笑)。多分気が付かないと思います。

山﨑:衣装にもハンコと同じデザインがついているのですが、キャラデザイン担当は「大臣に見えるけど、大臣じゃない」と言っていました(笑)。あれはクラインのマークなんだそうです。

――話を戻して、レイファの設定について教えてください。

『逆転裁判6』

山﨑:彼女は今作の重要なキーパーソンです。霊媒裁判という裁判システムの中核を担う存在として位置づけました。今作でストーリーの中心となるヒロインを出したいと思った時に困ったのが、立ち位置です。

 『逆転裁判』シリーズはヒロインがたくさんいるんですよ。マヨイがいて、ココネもみぬきもアカネもいる。本作のレイファはどの立ち位置にするかと悩みました。結果的に彼女は、敵側にいて戦う相手となるヒロインになりましたね。

 最初はナルホドに敵意むき出しで戦ってくるのですが、交流を通じて彼女自身が変化していくところを描けたらおもしろいだろうと思って設定しました。

――ちなみに、レイファのスカートの丈はどなたのこだわりなんでしょうか?

江城:布施のこだわりですね(笑)。

山﨑:特に短くしてくれというオーダーはしていないので、布施じゃないですかね(笑)。ただ、踊りを踊るキャラクターなので、踊った時に映える衣装だと思います。

江城:最初はもっと巫女っぽくて地味だったんですが、最終的に姫様度が上がりましたね。衣装の装飾とか、ティアラとか、髪型とか。

『逆転裁判6』

山﨑:髪型はかなり変わりましたね。もっと踊り子っぽいやつや巫女っぽいデザインもありました。

――ボクト・ツアーニはどうでしょう?

山﨑:文字通り“僕とツアーに!”という意味と、“朴とつ”という意味もあります。作中でハッキリとは言っていないんですが、彼は子だくさんな貧乏家族の長男で、家を切り盛りして稼がなくてはならず、僧侶以外にガイドをやっているという設定です。

江城:彼の妹弟の名前は、オレト・ツアーニ、キミト・ツアーニですね(笑)。ちなみにこれを命名したのは、『モンスターハンター』シリーズプロデューサーの辻本良三です(笑)。

山﨑:いやいや、兄弟の名前は、辻本プロデューサーと江城プロデューサーが言っているだけでまだ設定していないです!(笑) それは置いておいて、第1話“逆転の異邦人”は探偵パートがないので、ユーザーに被告人を助けたいと思ってもらうことが難しい話なんですね。

 いきなり法廷パートになった時にコイツを助けたいかと思ってもらえるかどうかがすごく重要なポイントなので、ボクトをナルホド君のツアーガイドにして関係性を描くことで、「彼を守ってあげなくちゃ」と思ってもらえるようにしたいと思っていました。

『逆転裁判6』

江城:ボクトは試作開発から、すでにデザインも大体固まっていました。かなり初期のころからいるキャラクターですね。犬のミタマルは、途中から追加しました。

山﨑:最初のシナリオの時にはいなかったんですけど、デザインしていく中で布施から「キャラ付けのひとつとして、犬を連れているキャラクターにしたい」と言われて、生まれたキャラクターですね。

江城:実は、ミタマルの初期ネームは“ヌーイ”でした。猿の“ルーサー”とか虎の“ラトー”のように、『逆転』シリーズでは、動物の種類を逆にした名前が多いので、それと同じように付けていましたね。

山﨑:ただラトーたちと違って、ミタマルはちゃんとストーリーにかかわるキャラだから、名前をつけることになりました。

江城:御魂に“ル”を足して犬らしい名前にしました。

――続いてナユタについて。

『逆転裁判6』

山﨑:ナユタの名前は、響きとイメージ重視で付けました。

江城:ナユタは最初、仮の名前だったんですが、僕的にそれ以上にしっくりくるのがなくて……。

山﨑:結果的にそのままになりましたね。

江城:イメージ的にナユタは、名前から洋風と和風の両方を感じられる。字面だけ見ると海外の名前としても通用する感じだったのでいいかなと思いました。

山﨑:“那由他”は、もともとすごく大きい数の単位なので、彼の神秘的な雰囲気とか神々しいまでの強さを表現するのにあっていると思いました。名字のサードマディは“仏の顔も三度まで”からきています。

江城:ユーザーはすぐに気づいたみたいでしたね。

山﨑:ゲーム中でも「始祖様の顔も3度まで」と言っていますしね。どんなライバル検事にするかは、毎回最初に悩むところのひとつではあります。

江城:インパクトのある検事はもうやっちゃってるんですよ。死刑囚で検事とか(笑)。「それじゃ、今回はどうする?」となりました。

山﨑:今回は異国や霊媒っていう神秘的な設定があるので、そことあわせてめちゃくちゃ強くて、すべての法廷の因果を読み切っている検事にしようと思いました。イメージとしては、西遊記で孫悟空がお釈迦さまの掌で踊らされている感じですね。

 デザインは、前作のユガミが悪の検事だったので、逆に神聖な検事を意識しました。

江城:そのため衣装は白をベースに、装飾などは高貴な色である金色を使っています。

山﨑:初期コンセプトから、人智を超えた感じにしたくて、顔は性別を超えた中性的なイメージにしました。目がすごく特徴的なんですが、「すべて見透かしているようなこの目を思いついた時が、いいブレイクスルーになった」と布施が言っていました。手に蝶がとまるアニメーションにも、相当こだわりましたね。

――ナユタはかなりの毒舌キャラですが、どうしてあのようなキャラになったのでしょう?

『逆転裁判6』

山﨑:敵となるライバル検事は、こいつを倒したいと思わせるキャラクター性が重要なポイントです。検事として強いことも当然なんですけれども、それに加えて弁護士嫌いなクライン王国の出身の僧侶なので、犯罪者と弁護士にだけは言葉としてもとても厳しいというキャラクター性があっていると思って設定しました。

江城:最初はもっと口汚かったんですよ(笑)。弁護士に対して「豚」とか言っていましたね。僕がテストプレイをやっている時に、豚は気分が悪いと思って、変更してもらいました。

山﨑:さすがにやりすぎですよね(笑)。ただ、最初は何事も振り切っていこうと思いまして。最終的に“ド腐れ”になりました。

江城:“ド腐れ”も気分悪いなと思ったんですが、これならギリギリ許せるくらいかなと。今回の山﨑はシステムもそうですし、こういう面でも攻めてくるんですよ(笑)。

山﨑:今作は全体的に攻めたタイトルだと思います。弁護士がいない異国とか、霊媒裁判を出しちゃいましたからね!(笑)

ナユタの呪文を唱える様子がすごい!

――キャストについて聞きたいと思います。新キャラクターのキャストはどのようにして決めたのでしょう?

山﨑:新キャラのキャストは、ほぼ指名です。チーム全員にアンケートを取って、候補に挙がった方にオファーを出して、スケジュールを含めて調整しました。

 新キャラのキャストの方には、キャラクターの性格やストーリーでの立ち位置などを、軽く説明させていただいています。ナユタは説明が難しいんですよ。「検事なんですけど、僧侶なんです」みたいな(笑)。

――ナユタ役の浪川大輔さんが、不思議な呪文をスラスラと唱えているのを聞いた時は、本当にすごいなと。

江城:あれはすごいですよね!

山﨑:素晴らしいです、さすがでしたね! 呪文は台本に書いてあったものを読んでもらってたのですが、最初の収録の時はやっぱり大変で、何回かやり直しました。ただ、別の収録で後日同じセリフを言ってもらったら、その時はスルっと言えていて、すごいと思いましたね。

江城:レイファ役の早見沙織さんの「ひかえよ!」も、すごくいいですよね。ついひれ伏したくなるような、いい“ひかえよ”っぷりで(笑)。威厳がある声というか、レイファっぽい響きを演じてもらったと感じました。

――前作から継続してお願いしているキャストの方々はいかがでしたか?

山﨑:レギュラーメンバーは、安定感がすごくて安心して見ていられましたね。特に説明はせず、いつもの感じでお願いしました。リテイクも少なかったですよ。

各話のバランスとストーリー展開がクライマックスの感動に繋がった

――シナリオで苦労したところは?

『逆転裁判6』

山﨑:全部ですね(笑)。それぞれ、話ごとに難しさがありました。例えば第1話“逆転の異邦人”は異国から始まるので、ユーザーになじみのない、異国の裁判を受け入れてもらえるのかどうかが心配でした。弁護士のいない国でどうやって裁判を行い、最終的に無罪判決を勝ち取るのかまで、ちゃんと話を持っていく必要があるので難しかったですね。

 第2話“逆転マジックショー”は少し変わった作りにしています。今までは探偵パートと法廷パートを2回ずつやっていたのですが、今作で初めて各パートを1回ずつプレイする構成にしました。『5』の時にも出ていた意見なんですが、第1話が法廷パートのみで、第2話からいきなり各パート2回ずつとなると、長く感じる傾向があるようなので、少し短くしました。

 各パート1つずつの構成で話を作るのは、初めてのチャレンジだったので、そこは結構難しかったですね。

江城:今作では第1話、第2話、第3話と順番にボリュームが増えていき、第4話で箸休め的なエピソードを入れてから、クライマックスの第5話に向かっていくという構成にしたかったので、ちょうどよかったかなと思っています。

――日本でもクラインでも周りが敵ばかりですが、最初からシナリオのコンセプトとしてあったのでしょうか?

山﨑:そうですね。クライン王国はとにかくアウェーなところから逆転するという設定だったので、意識してやったところですね。

江城:日本は、アウェーにするのが難しかったんですが、第2話ではヤマシノが部下を使ってヤジを飛ばしたり、テレビ番組を使ったりして、民衆の心理を巧みに操ってくれました。実際の日本でもそうじゃないですか。テレビでバッシングされたら、皆が「あいつは悪いやつだ」みたいに感じる。

 ああいうのが、ゲームの中でも当然起こるだろうと。ただ、あのシーンが逆に生々しすぎて嫌だったというユーザーさんもいらっしゃいましたね。それほど、リアリティのある演出だったみたいです。

山﨑:クライン王国も同じく、民衆があまりにも敵意むき出しで、プレイしていてつらいという感想がありましたね。

――逆にいうと、それくらいシナリオにのめり込んでもらえたとも取れますね。

江城:そうかもしれません。その嫌な思いがあるからこそ、クライマックスで感情移入できて、結果的にストーリーがおもしろかったという意見に繋がっているのかなと思います。すべてのストーリーをプレイしきった時に、感情が激しく揺さぶられるゲームになるといいと思って作り、実際そのような反響がきていたのはうれしいですね。

――第1話で亜内検事の弟、亜内文武が出てきましたが、その経緯は?

『逆転裁判6』

江城:第1話の検事といえば、アウチじゃないですか。ただ、今回は異国が舞台なので、どうやってアウチを出すかは悩みましたね。

山﨑:そういえば、前作で日本の法廷を追い出されたやつがいるじゃないかと。その彼が巡り巡ってクライン王国に辿り着いたらおもしろいなというのが思いついて、彼を使うことにしました。

 デザインもちょっと勘違いした感じにして、異国の裁判で弁護士がいないから、連戦連勝で調子に乗っているという設定もアウチらしくていいかなと思っています。

――第1話と言えば、ポットディーノ・ニカワスも印象的でした。

山﨑:名前の由来は、そのまま“ポッと出のにわか”ですね。あまりにもそのまますぎるのと、名前っぽくないので、“ニカワス”にしました。彼は、最初から犯人だと分かっているキャラクターなので、とにかく怪しげに見えることを重視して作りましたね。

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

――楽器を弾くモーションが個人的にはツボです!

江城:ポットディーノのモーションは、モーションキャプチャーではなく手作業でつけています。

山﨑:『逆転裁判』シリーズは、第1話から順番に制作するんですよ。そのため、1話の犯人キャラは、その後作るキャラクターの手本になるので、非常に重要。ポットディーノはモーション担当が頑張ってくれて、しっかり全部作ってくれました。

――第2話は、書きたかったというみぬきがメインのストーリーですね。或真敷一座にスポットを当てたのは、みぬきにとって大事な要素だからでしょうか?

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

山﨑:そうですね。みぬきが一番背負っているものは或真敷一座なので、そこを避けては通れないだろうなと思ったのがあります。みぬきの性格がどこに由来しているかっていうのを考えていくと、マジシャンやエンターテイナーとしての面が大きい。その部分を描くと考えると、やっぱり或真敷に触れないといけないなと思い至りました。

――或真敷一座が出てきた時に、「或真敷一座のネタをここで持ってくるのか!」という印象でした。

江城:山﨑は『逆転裁判4』にもかかわっていたので、思い入れはかなりあると思います。『4』では、他のキャラを立たせることもあり、ちょっと影が薄かったと思っていたらしく、しっかりやりたいと言って第2話を作りました。

 その結果、ユーザーのみぬき株が急上昇しました。初めて泣き顔が出てきたことも影響しているのかなと思います。

――ストーリーにテレビをからませてきたのはなぜですか?

山﨑:舞台が異国と日本に別れるので、それぞれの話に異国らしさ、日本らしさを入れようとなりました。日本側では、できるだけ現代的なモチーフや、日本的なモチーフなどを入れようってことになって、テレビや寄席を出しています。

――テレビ関係では、プロデューサーのヤマシノが出てきますね。このインチキっぽいデザインがいいですよね。

『逆転裁判6』

江城:開発メンバーが完全に僕を否定しているんです! プロデューサーといえばこんな感じだろうと。

(一同爆笑)

山﨑:違いますから! おしゃれなつもりで、オシャレに見えないちょっとずれているところが、『逆転』のキャラっぽいと思って設定しました。上着の結び方とか札束で団扇とか、バブルの時代のプロデューサーかと思いますよね。

――ちなみにヤマシノの名前の由来は?

山﨑:ヤマシノの名前の由来は、“山師”です。本名は志乃山金成っていうですけど、業界人風にひっくり返してヤマシノと言って、カッコよくしているつもりが、自分で自分を“山師”と言っているというネタです。あと、金成も反対にすると“成金”になります。

――あとは語るのが難しいキャラですが、マジシャンのミミについて教えてください。

『逆転裁判6』

山﨑:ミミは、単純にウサギの“耳”からです。ウサギは葉っぱを食べるので、菜々野という苗字にしました。

江城:口も目も鼻も、全部ウサギっぽいんですよ。

山﨑:足はニンジンをモチーフにしてオレンジ色になっています。個人的には、この設定が結構気に入っています。基本バストアップのゲームなんで、なかなか足を見せるシーンがなかったんですが、マルチアングル映像指摘などで見せる機会があってよかったと思っています。

 彼女もマジシャンなので、みぬきとかぶらないマジックの表現をいろいろ出して、このような感じになりました。

――第3話でマヨイちゃんが容疑者となるのは、シリーズを踏襲した形なのでしょうか?

『逆転裁判6』

山﨑:そうですね。「何回捕まっているんだ」っていうのは、あるかもしれませんけど(笑)。マヨイのストーリーへのかかわらせ方と、各キャラクターの登場のバランスが難しかったです。

 レイファがナルホドの相棒のような形になって、マヨイが被告人にすると、役割分担みたいになっていいかなと思いました。マヨイとはいっしょに調査できないんですけど、法廷では隣に立ってくれるので懐かしい感じを味わっていただけたと思います。

江城:あと、マヨイが捕まってくれたから、レイファとナルホドが探偵パートで一緒に行動できるというポイントがあります。

『逆転裁判6』

山﨑:あそこでナルホドとレイファが一緒に行動したことで、レイファの中でいろんなことが変わっていくのが重要なポイント。そのためにもマヨイには被告人という役割をやっていただきました。

――他に第3話で出てくるのは、サーラとマルメルですね。

山﨑:2人の名前の由来は、キャラの頭髪をもとにしています。頭を“丸める”と頭“サラサラ”ってことですね。

――サーラのアクションが特徴的で、最初に見た時はビックリしました!

『逆転裁判6』

江城:お前は夫の遺影で何をしているんだと。

(一同笑)

山﨑:パッと見、普通の人に見えるんですけど、まさかこう来るとは思わないですよね。きっと夫への愛情が深すぎて、ああなってるのだと思います。

江城:夫と一心同体の妻なんです。ただ、ちょっと嫁が若くて綺麗すぎるところが僕的には異議ありかなと(笑)。

山﨑:いやいや、マルメルは立派な僧侶で尊敬されている方ので、異議なしですよ!

――新しい特撮ヒーローとして“トリサマン”が出てきましたね。

山﨑:最初に第3話の構想をした時、“トリサマン”はいなかったんですよ。ただ途中で「なんかもう1ネタ足りないね」みたいな話になって、ヒーローを作ることを思いついたんです。それで「元ネタはあの作品では?」みたいな感じのヒーローだったらおもしろいんじゃないかと。

『逆転裁判6』

江城:デザインはトノサマンに似てますが、パクリではなくオマージュ! そういう設定も、アジア圏らしくていいだろうと感じました。ちなみに、クライン語はすでにユーザーの間では解読されているのですが、上下逆にして読むとひらがなになっています。

山﨑:デザイン的には、鳥姫様が先にできていたので、それに合わせてヒーローっぽくしていく作り方でした。そこはかとないB級感をすごく意識しました。「カッコよすぎちゃ駄目だ!」ってずっと言っていたほど(笑)。開発チーム内では、すごく人気のあるキャラでしたね。

――ちなみに、2人が印象に残っているキャラクターは誰ですか?

江城:むかつくのはヤマシノですね。テストプレイをしててもむかついていたので(苦笑)。好きなのはやっぱりレイファかな。デザイン段階から苦労したので、思い入れがあります。

山﨑:僕は頑張って作ったので、ポットディーノが気に入っています。犯人キャラはインパクトがあるので、どうしても印象に残りますね。あとミミもすごく好きなんですけれども、なぜ好きかを語るとネタバレになるので、ぜひプレイして察してください(笑)。

霊媒ビジョンは最初から最後まで苦労の連続だった

――今作のシステムで苦労された点は?

『逆転裁判6』

江城:苦労ばかりでしたね(笑)。中でも一番苦労したのは“霊媒ビジョン”です。「本当にできるの、これ?」みたいに感じました。

山﨑:アイデアの段階から大変でした。さらに霊媒ビジョンは、システムが組み上がった後に、うまく遊べるように調整するところも大変でした。シナリオ的にも霊媒ビジョンがあることで、書き方もだいぶ変わりました。

 異国の話に関しては、被害者が最後に見たものは伝わってしまうことが前提になるので、そのうえで事件やムジュンを考えるのは、結構難易度が高かったです。

――そもそも、霊媒ビジョンはどのようにできたのですか?

山﨑:今作の新システムをどうするかとアイデアを出していた時に、マヨイが出てくるから霊媒をちゃんと扱おうということになりました。新システムも霊媒で何かないか、そこから考え始め、死者の死の直前が再現できれば、おもしろいと思いました。

江城:霊媒で死んだ人間の記憶を映すとか、本来はやってはいけないやつですよね(笑)。「被害者の霊を呼び出したら解決では?」みたいな。

山﨑:でも、その暗黙のルールやタブーに踏み込んでみようと考えて挑戦してみました。

――プレイする前はどうなるのかと思っていましたが、やってみたら非現実的なんだけど、いつもの『逆転裁判』らしいと思えました。

『逆転裁判6』

山﨑:そこが重要なところだったので、そう思っていただけたなら成功だと思います。

江城:映像とその解釈のムジュンを、ゲームに取り入れてみたのですが、そこに至るまでに試行錯誤が何度もありました。霊媒ビジョンは、操作としてはなかなかチャレンジなことやってるんですよ。

 上画面の映像を見ながら下画面のテキストを読んで、両方を見比べていくという、本来すごくストレスな操作になっているんですね。

――確かに難しさもあると感じました。

江城:霊媒ビジョンのムジュンだけを見つけるのであれば、そこだけ見ておけばいいんですが、託宣も選ぶ必要があり、霊媒ビジョンと託宣のどこがムジュンしているかを選ぶ必要もあるとなった時に、下画面でテキストを見ながら、映像を操作できないと難しいという結論に至りました。

 そのため、下画面でキャプチャーセレクトや早送りなどを自由にできるようにしましょうと。ただそうなると、操作方法が煩雑になるので、そこをしっかりチュートリアルすることでフォローしました。第1話と第3話の合計2回チュートリアルが入っているのはそのためです。

――忘れていたので、個人的には助かりました。

江城:そうなんですよ。意外と忘れちゃうんですよね(笑)。第3話では、感覚の大きさのムジュンが出てきているので、改めてもう1度入れようということになりました。

――この霊媒ビジョンに対する反響は?

江城:「難しい」という意見も確かにあったのですが、ネガティブな意見という感じではなく、「難しいからやりごたえがあった」という感じでした。操作性の難しさを感じずにやれたのかなと思って安心しました。

 初期の『逆転裁判』がそうだったのですが、ムジュンを閃いた時の快感は、歯ごたえがないと出ないんですよね。ヒントを見ずに自分の力で見つけた時のうれしさは、それまでの過程よりも大事。そして一度気づくと、パターンが分かってきて、着眼点が変わってくる。

 明らかにこの託宣があやしいから、託宣はここに決定。だったら、映像のどこにムジュンがあるのかなというように、見ていく流れがユーザーにできます。ユーザーが自然と霊媒ビジョンの解き方に慣れていってくれていたのなら、楽しめていると思います。

――狙っていたところに着地した感じでしょうかね。

江城:そうですね。ただ、だいぶ山﨑と揉めました(笑)。託宣の数が最初はもっと多かったんですよ。6個ぐらいあるものもあって、こんなにたくさんあったら、どれがムジュンしているか分からないと。

山﨑:こちらとしては、難易度は落としたくないので、相談して託宣を減らしたりとか、表現を変えたりとか、霊媒ビジョンの映像をいじってわかりやすくしたりなどの工夫をしました。

江城:霊媒ビジョンに表示される文字の大きさや拡大の仕方、色やフォントの形に至るまでわかりやすくなるように調整してもらいました。結果として、いい調整になったのだと思います。

――映像を見るという意味では、マルチアングル動画指摘も本作から導入されていますね。

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

江城:これもまたまたチャレンジなシステムでした。ムービーは、モーションキャプチャー使いまくりでしたね(笑)。

山﨑:正直、よくやったなと思います。このムービーを作るのはかなり大変だったんですよ。モーションキャプチャーを撮る時から、動きがすべてトリックにかかわっているし、きちんと謎解きとして成立させないといけない。

 それを2つの違うアングルのカメラから撮ることになると、すごく複雑で細かいところまで制御して作ることになるため、ものすごく大変でしたね。その代わりに、トリックに気づいた時のおもしろさはすごくあるシステムだと思っています。今作のパワーアップ部分の1つではないでしょうか。

――先ほども出ましたが、3D演出という点でも前作よりパワーアップしているなと感じました。

山﨑:もともと『逆転裁判』シリーズは、キャラクターは基本バストアップなので、あまり全身が出ることはないんです。ただ『6』ではムービーをはじめ、全身で演技しているところが多数あったので、今までと違うところにチャレンジして成功したのかなと思っています。

――カンガエルートはどうでしょうか?

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

江城:カンガエルートは、演出としてパワーアップしてくれと言いました。最初は脳の中の血流のように、グイグイといろんなところに行くような演出を考えてくれたんですけど、そうすると、カメラアングルがどんどん変わるんで、気持ち悪くなってしまうんですよ。それで、まっすぐ奥に向かって加速していく演出にしてもらいました。

山﨑:僕もチェックしましたけど、江城さんのこだわりがすごかったですね。

江城:カンガエルートは、気持ちよさが一番大事だと思っていたので、そこもパワーアップさせたかった。チェックの時になんとなく「もっとこういう感じに気持ちよくできないかな?」と言ったところ、だんだんよくなっていきました。

こだわって作った追加シナリオを多くの人に遊んでもらいたい!

――DLCの“戦国バサラ コスチュームパック”は話題になりました。こちらを作った経緯は?

江城:開発チームから『戦国BASARA』とのコラボを入れたいと言われた時に、『戦国BASARA』の小林(シリーズプロデューサー・小林裕幸さん)にサンプルイラストを見せて、「このコラボ、やってもいい?」って聞いてみたら「ああ、いいよ」って(笑)。

 『戦国BASARA』シリーズが10周年で、『逆転裁判』シリーズが15周年ということで記念にコラボというのもいいなと思いました。どのキャラのコスチュームにするかは、開発の段階から決まっていました。完全に色で決めましたが、キャラクター性もマッチしているんですよね。そして、着せてみたら似合っていた。その後、『戦国BASARA』チームのディレクターにもちゃんと見てもらって、お墨付きをいただいています。

――DLCの追加シナリオの特別編“時を超える逆転”は、どのようなコンセプトで作られたんでしょうか?

『逆転裁判6』

山﨑:『逆転裁判5』でも、追加シナリオを用意しました。その時はシャチを弁護するというなかなかとんでもない設定だったので、『逆転裁判6』でもそれに負けないようなインパクトのあるストーリーにしようと思っていました。

 今回は“タイムトラベラー”というコンセプトで作っています。それと結婚式というモチーフを組み合わせて、この2つがどう混ざり合っていくのか、楽しみにプレイしていただければと思っています。

江城:登場キャラクターが、ナルホドとミツルギとヤハリで、初期の『逆転裁判』のような感じをもう一度やりたいと思っていました。せっかく真宵ちゃんも帰ってきたので!

 ちなみにヤハリが法廷に立つ時に、検事はミツルギだったことがないので、実は幼なじみの3人が法廷に集まるのは初めてのこと。そこにマヨイちゃんも出てくることもポイントだと思います。

『逆転裁判6』 『逆転裁判6』
『逆転裁判6』 『逆転裁判6』

山﨑:第3話ではマヨイちゃんと一緒に調査できないんですが、DLCでは一緒に調査できるので、マヨイと一緒に行動したい方にもうれしいかと!

江城:早期購入者特典でついてきた“遊べる! 逆転劇場”はショートストーリーで短いですが、この追加シナリオは探偵パートと法廷パートがある1話分のエピソードなので、遊びごたえはあると思います。

山﨑:本編でやりきれなかったこと、例えば同窓会みたいなことをDLCでやろうと思っていました。この追加シナリオでやりたいことができたというのは個人的にありますね。

江城:だから、1人でも多くの人に遊んでほしいです。

――今後の展開などありましたら、教えてください。

江城:『逆転裁判6』としては、今発表しているもので終了となるのですが、今年10月で『逆転裁判』シリーズは15周年を迎えるので、記念イベントなどの企画を検討しているところです。

――最後に『逆転裁判』シリーズファンに向けてメッセージをお願いいたします

『逆転裁判6』

山﨑:チーム全体で練りに練って作ったタイトルで、各話ごとに魅力がありますし、全体を通してストーリーもしっかり作りこんであります。2周目を遊んでも伏線を拾えるような作りになっていますので、ぜひ1周目が終わったら2周目もやってもらいつつ、DLCもやっていただきたいと思います。まだやっていない方はまずは体験版をやっていただきたいです。

 インタビューでも“集大成”という言葉を使ってきたのですが、やっていただいた方はその意味が分かったのではないかと思っています。ぜひすみずみまで味わいつくしていただけたらうれしいです。ぜひ、よろしくお願いいたします。

江城:『逆転裁判6』は『5』でいただいた要望を組み込んだり、ストーリーのスケール、深さ、濃さをこだわったりしながら、作られたタイトルです。「こう楽しんでくれたらいいな」と思いながら開発して作り上げたものが、こちらの意図の通りに楽しんでもらえて、感想としてつぶやいてくれたり、便りをもらえたりということが、本当にうれしいです。

 今後のゲーム開発への大きなモチベーションに繋がっています。もちろん、本作を遊ばれたユーザーからはよかったところだけでなく、不満点もいただいているので今後のタイトルの制作の糧にしつつ、『逆転裁判』シリーズを続けていきたいと思っています。

 あと先ほども言いましたがシリーズ15周年ということで、これまで支えてくださったファンに向けて、こちらからの恩返しというか、楽しめることを用意したいと思っているので、そこも含めて期待していただきたいです。

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