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2016年8月19日(金)

『ニーア』とは呪い? 『ニーア オートマタ』インタビューでは音楽の魅力やSteam版日本配信の話も

文:あべくん

 現地時間の8月17~21日にかけて、ドイツ・ケルンで開催中の国際ゲーム産業見本市“gamescom 2016”。同会場で、スクウェア・エニックスより2017年初頭発売予定のPS4用ソフト『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』に関するインタビューを行いました。

『NieR:Automata』

 今回、質問に答えてくださったのは、『ニーア』シリーズのプロデューサーの齊藤陽介さんと、『ニーア』シリーズのコンポーザー、サウンドディレクション兼プロデュースを務める岡部啓一さんのお2人。

 日本、海外のユーザーの反応や魅力的な音楽の数々、新発表についてなど、気になるアレコレをお聞きしましたので、ぜひお楽しみください。

『NieR:Automata』
▲齊藤陽介さん(右)と岡部啓一さん(左)。

――今回、海外イベントの“gamescom 2016”に出展されましたが、どういった印象をお受けになりましたか?

齊藤陽介さん(以下、敬称略):ヨーロッパのイベントに関して言えば、2015年の“Paris Games Week”で『ニーア オートマタ』を発表させていただいたのですが、その時に「思った以上に欧州のファンの方が『ニーア』を覚えていてくださっている」という印象を受けました。

 gamescom 2016でも初日に、ドイツ、フランス、イギリスと、いろいろな国のメディアさんがインタビューに来てくださった。反応もすごくよいですし、うれしいですね。

岡部啓一さん(以下、敬称略):そうですね。僕はこういったインタビュー対応をすることもあまりないですし、まして海外でこうしてお話するのも初めてなので、いろいろとすごく新鮮です。

 欧州の方々がYouTubeなどのネット上でコメントをしていたりということが情報としてはわかっていても、リアルに、感覚として感じるのは実際は難しいんです。

 今回はそうした国の方々から「前回の音楽、よかったです」といったコメントを直接いただけたので、「本当に聴いてくださっているんだな」というのを感じることができました。すごくうれしいですね。

――海外のメディアは、『ニーア オートマタ』のどういった点に注目されているのでしょう?

齊藤:いい意味でも悪い意味でも、「どこが前作と変わったんですか?」ということをまず聞かれます。いい意味のほうですと、ディレクターのヨコオタロウさんの世界観だったり岡部さんの音楽が、前と変わっていないよね、という内容についてですね。

 悪いほうといったら変ですが、まだまだ合格点をいただけていなかったアクションゲーム部分については「プラチナゲームズさんが加わることでどうなりましたか?」と聞かれることが多いです。

 しかしその質問は、こちらにとっては望むところ。「続編を作るのであればこうしなくちゃ」というところを、ちゃんとフィーチャーして質問してくださったのがありがたかったです。

岡部:音楽そのものについては、前回から変えようというのがあるわけではなかったのですが、今回プラチナゲームズさんが加わることで自ずと音楽自体が「じゃあこうしよう」と変わっていきましたね。

 前回は箱庭のようなイメージでしたが、今回はスケール感も大きくなり、絵の密度感やあらゆる部分がリッチになっていきました。それを見た時に「やはり音楽も、前回とは作法を変えたほうがマッチするな」と。

 そういった場面ではスケール感を上げたり、音の密度感も絵に合わせてあげたりといったことは、意識して作るようにしました。

 前作で評価していただけた部分や「すごくよかったよ」と思っていただいている部分はできるだけ残しつつ新しい要素を、というのは心掛けたつもりです。

『NieR:Automata』

――日本のファンと海外のファン、それぞれから異なる印象は受けましたか?

齊藤:思ったよりも同じですね。あまりいい言い回しではないかもしれませんが、『ニーア』のファンって女性ですと、耽美な世界観や泣ける物語性、キャラクター性が好きな方が、すごく前のめりに話をしに来てくれる、という印象があるんです。ですので日本と海外とで、あまり違いはないかもしれません。

――『ニーア』において、好きな部分が共通していると。

齊藤:そうですね。同じ嗜好性の人たちであるという印象を受けます。ただ、もちろん男性のファンの方も多いですし、きちんと掘り返してみると違うのかもしれませんが、あまりそういった差はないといった感じはします。

岡部:先ほど齊藤さんも仰っていましたが、比較的、海外の女性の方に評価していただけている、という印象はあります。『ニーア』と他のコンテンツの音楽の違いについてなのですが、通常、BGMというものはシチュエーションに対して音楽をつける、というケースが多いんです。

 しかし『ニーア』は状況ではなく気持ちに対して、「ここではこういった気持ち」みたいなところを心掛けて、そういった部分でのせつなさや悲しさみたいなものを埋め込むように作っています。

 ですので、そういった部分が他の作品よりも女性に対してヒットしやすいというか、女性がハッと思ってくれる度合が高いのかもなと、海外の女性のコメントを聞いて思いました。

齊藤:ただ正直言って、前作を作っていた時は、女性ウケを狙おうなんて気持ちは1%もなかったと思います。フタを開けたらこんなになってた。どういうことやねん、と(笑)。

 ただ、そこを狙いに行ったからといって、いいものができるとは限らないということは理解しています。

岡部:僕ら自身、前作を作ってからかなりの時間が経っていますし、実際のところ「『ニーア』っぽさって何?」というのを決めて作っていたわけではないので、「『ニーア』っぽさって何だろう?」というところから、今回はスタートしています。

 それを踏まえたうえで、「心情描写を表現できる哀愁感が『ニーア』っぽさかな」と思うところも。そういったものを音で表現できるメロディーラインだったりとか、それだけでなく音場感だったりとか、そういうところでも「『ニーア』ってこういう感じだよね」ということを手探りするところから始めましたね。

――海外のファンに向けて、何かを狙ったということもないのでしょうか?

齊藤:全然ないです。たまたまそこにハマったんでしょうね。前作を発売してから今まで、なんとなくそういう感じがします。

 たとえば音楽コンサートに呼んでいただく機会があって、その時に「『ニーア』って女性のファンがいるんだ」くらいの感覚はあったんですが、6年の歳月を経て「こんなに女性ファンがいたんだ!」というのを改めて認識したくらいです。

岡部:女性の方のほうが長く愛してくれている感じも正直ありますね。この6年間で、どんどんそれが浮き彫りになっている。

齊藤:最近では、そうしたイベントって女性のほうが積極的だったりもしますよね。それを踏まえて「じゃあ男性のファンは、どういうところを好きでいてくれたのかな」という点については、また改めて見直さなければいけないかもしれません。

 しかし「誰誰がこういうところが好きだから、それに合わせて作りましょう」ということはもともと考えていないので、『ニーア オートマタ』を世に出した時に皆さんがどう評価してくれるのかは、楽しみではあります。

――齊藤さんと岡部さんは長いお付き合いになるかと思うのですが、お互いについて、どういった印象をお持ちですか?

齊藤:私としては、直接的なお仕事は『ニーア』が初めてなのですが、その前にもヨコオさん経由でご飯を一緒に食べたりなどはしていました。また『ニーア』の仕事が終わってからもご飯を食べたり。

 そして今回の『ニーア オートマタ』で一緒にお仕事したことで改めて、真面目にちゃんとやっていただける人だなと思いましたね。

岡部:前作に関して言えば、齊藤さんは「ヨコオタロウが納得できないものはやらねえぞ」みたいなところが強くあったので、音楽に対しても齊藤さんの意向なども伝わってはくるんですが、直接、僕が齊藤さんとやり取りをさせていただくことってなかったんです。食事をご一緒するほうがコミュニケーションとして全然多い感じ。

齊藤:仕事よりも、仕事じゃないことで話をすることのほうが多いくらいでしたね。

岡部:前回の『ニーア』では、僕は齊藤さんとお仕事をしているという感覚はあまりなかったのですが、そういう点においては、今回は齊藤さんの顔がちらつく感じが正直あります(笑)。

齊藤:それでも私が今回お願いしたのは「前作からのファンがいるから、前作そのままでもいいしアレンジでもいいので、なんとか前作の気持ちを思い出してもらえるような場面でそういう曲を使ってほしい」とお願いをしたこと。

 そして「エミ・エヴァンスさんに期待している方が多いから、歌ありだったらエミさんに歌っていただきたいです」とお願いした、この2つくらいですよ。ヨコオさん経由で岡部さんにお願いしたのは。

●動画:『NieR:Automata』テーマ曲 Emi Evans Version

岡部:その2点については、僕自身もそう思いますというところだったのでぜひにと。押さえるところはちゃんと押さえています。

 あと、ヨコオさんは破壊王のようなところがあるので「前回こうだったからと期待されているところを、そのままやったりはしないぞ」と。「岡部もわかってるな」という空気感がすごくありました。

 「前にちやほやされたからといって、同じようなことをしたらオレが許さねえぞ」みたいな空気感は、最初からありましたね(笑)。

 僕自身も、やはりトライしたいところがあったので、『ニーア オートマタ』で新しくできる部分、あとはファンサービスじゃないですが「ファンならこれを期待するかな」というところには応えたいという意識はあったので、それは押さえています。

 新しいところとのバランスだったり、受け手の人がどのように感じてくれるかなというのは想像していますが、実際にそのとおりにならないことは多いと思うので、皆さんの反応は楽しみですね。

――ちなみに、各キャラクターたちに専用曲のようなものは用意されているのでしょうか?

岡部:前回はキャラ付けのような形で曲を作ったりもしたんですが、今回はキャラに寄せて、というのはないんです。そういう部分も含めて、前回とはいろいろ違う作り方をしています。9Sのテーマ曲、というようなものは今回はないですね。

――人物ではなく、物語全体の流れとしての音楽に?

岡部:そうですね。

齊藤:ただ結果的に、曲のタイトルを付けていく流れのなかで、9Sが出ている時によく流れる曲や2Bにとって決定的な何かが起きた時の曲のようなものがあれば、そこにキャラ名が入る可能性もゼロではないと思います。そこはまだこれからなので。曲名は最後の最後に決めます。

岡部:曲名はヨコオさんが決めていますので。もちろん場面を想定して作ってはいるのですが、実際にそのとおりに使われないことも多いです。

 「これはこういうシチュエーションで」と思って作った曲が、フタを開けると「こういうところで使っちゃうんだ!」みたいなことも正直あります。そうなると曲のタイトルも変わるかなと。こちらとしてはキャラクター付けのつもりはないのですが、そういうこともあるかなと思います。

齊藤:まだわからないところですね。

――先日ロサンゼルスで行われた“E3 2016”では、9Sは操作でき、A2ももしかしたら操作できるかも……、というお話も飛び出しました。こうした場面は発売までに何らかの形でお披露目されるのでしょうか?

齊藤:物語のなかで2Bを操作できる時もあれば9Sを操作できる時もある、というのは、物語の流れにおいて必然的なんです。システムを意図して入れるのではなく、物語がそのように進んでいくので、そのキャラを操作することになる、ということですね。A2は……どうでしょうね。

『NieR:Automata』

――『ニーア オートマタ』のSteam版も今回のイベントで発表されましたね。

齊藤:日本でも出したいと思っています。ただ、日本ではPS4で遊ぶ方が多いと思いますので、どちらかというと欧州、北米も含めてSteamを望まれている方がいる、ということで今回発表させていただきました。

――幅広い展開を考えられているということですね。

齊藤:そうですね。Steamで遊ぶ方が多い地域では、ぜひたくさんダウンロードしていただきたいですね。

――発売前で気が早いですが、ファンの皆さんとしては関連商品も期待されていそうです。

齊藤:いろいろやりたいんですよ。サウンドトラックはもちろんですし、グッズもたくさん作りたい。フィギュアも出したい。いろいろ考えていることはあるので、そこは楽しみにしていただきたいです。岡部さん、コンサートもやりましょうよ。

岡部:そうですね、ぜひ。1度やっているので、前回を踏まえてもできますし。最初に何かやるということはかなり大変ですが、音楽面に関してはもうやったので、次はかなりやりやすくなるかなと。

齊藤:生演奏に合わせて新体操を踊ってもらえばいんですよ。男子のインターハイで、どこかの新体操部の子たちが『ニーア』の曲を使って優勝したんです。そういうのを生でやりましょう。

 ただ、あれについては誰が『ニーア』を好きだったんでしょうね。学校の先生が好きだったのかな。『ニーア』の楽曲だけで言えば、ゲームと関係のないところで1人歩きしていることもありますね。“人体の不思議”のようなTV番組で流されていたこともありました(笑)。

――そういえば、『ニーア』というと“幻想”というイメージを持たれる方も多いと思うのですが、あえて幻想と違う言葉で表現するなら何になるでしょうか?

齊藤:ヨコオさんは“呪い”だと言っています(笑)。それでも話を聞くと深いんですけどね。ファンタジー作品って幻想的な世界だったりすると思うんですが、一つ踏み外すとそれが“呪い”なんですよ。

――“呪い”ですか……。いろいろと想像がはかどりますね。

齊藤:でも本当に“呪い”と言える面もあると思いますよ。『ニーア』の世界って。

岡部:前回から6~7年経ちますが、ファンの皆さんがいい意味で“幻想”を詰め込んで、育ててくれた部分が結構大きいなと僕は思っているんです。

 音楽でもそういう側面がすごく大きいなと。僕は幻想というか、実体はもちろんあるのですが、実体以上のいろんな人の思いが投影された何かが、幻影として見えるほどに育っているな、というのを感じますね。

齊藤:昔好きだった人じゃないですが、妄想ばかり膨らんで、再会したらそうでもないな、みたいなことってありますよね。そうなることが一番怖いです。

岡部:僕も今回、曲を作る時に、前回の曲を聴き直したり映像も見直したりした際、やはり思い出補正があったんです。考えていたのはもっといい感じだったのに、といったことがありまして。「こんなに荒かったっけ?」とか。

 それは反省点にして「次はちゃんと作ろう」と思ったのですが、作った本人でさえそうなんだから、ユーザーさんは、きっと実際よりもいい思い出を作ってくださっている方も多いのではないだろうかと。

 それについては、ありがたいなという気持ちと、大丈夫かな? という気持ちがあります。『ニーア オートマタ』について、ネガティブな要素にならなければいいな、と考えたりもします。本当にありがたいのと怖いのが入り混じっている感じですね。それが幻想や呪いという言葉に集約されているのかなと。

齊藤:幻想じゃないです、呪いですって伝えてください(笑)。

『NieR:Automata』

――最後に、発売を心待ちにしているファンに向けてメッセージをお願いします。

齊藤:日本に戻ったらすぐなんですが、東京ゲームショウで新しいトレーラーを発表します。そこでまた、一盛り上がりできる情報を出せると思うので、ぜひ楽しみにしていただきたいなと思います。

岡部:今までは曲を全く作ってない状態でインタビューを受けていたことも多かったので、gamescomに来る前に一通り形にして、という流れだったんです。

 ようやくほぼすべての曲が完成に近い形で、レコーディングに近い形で入って、僕自身「ああ、なんだか『ニーア』っぽくもあり、新しい要素もあり、いい形で具現化できたな」と強く思っています。聴いていただくのが本当に楽しみですので、ぜひ期待して待っていてくださるとうれしいです。

『NieR:Automata』

3月31日に攻略設定資料集が発売。キャラ&ストーリー解説やヨコオタロウ氏による短編小説なども収録!

 本作の攻略情報と設定資料を収録した『NieR:Automata Strategy Guide ニーア オートマタ 攻略設定資料集 ≪第243次降下作戦指令書≫』を3月31日に発売します。価格は2,500円+税。仕様はB5判・304ページとなっています。

 やり込みに役立つ攻略データに加え、ネタバレ注意のキャラクター&ストーリー解説も収録!

 ディレクター・ヨコオタロウさんによる短篇小説、小説家・映島巡さんによる書き下ろし小説2篇も読める『NieR:Automata』ファン必携の1冊です。

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