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2016年8月30日(火)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“テニスボーイの爽快”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.619(2016年7月28日発売号)のコラムを全文掲載!

第88回:テニスボーイの爽快

 自分でやっていた、ということはないのですが、錦織選手の活躍もあって、最近テニスを観るのが好きです。たまたま加入していたWOWOWが大きな大会をほとんど生中継してくれるので、ついついお酒を飲みながら、深夜の観戦をしてしまうこともしばしばです。今後、リオオリンピック、そして全米オープンと続いていきますので、選手の皆さんは体力的に大変だと思いますが、いち視聴者として非常に楽しみな夏になりそうです。

 テニスは、たとえば野球やサッカーなどの“多対多”のスポーツに比べ、多くても2対2、そのほとんどが1対1のスポーツです。なので観戦者としては、状況が分かりやすく、パフォーマンスに注目しやすく、区切りが短く、さらには選手個人の精神状態にも思いを馳せることができ、のめりこんで楽しむことができる。印象としては、ボクシングを見ている感じに近いなあと思ったりもします。

 さて、そんなテニス観戦ですが、面白い試合を見ると、毎度無性にテニスゲームが遊びたくなるんですよね。ほら、映画『ロッキー』を見たらシャドーボクシングしたくなるじゃないですか。あれと一緒の現象です。というわけで先日、白熱したウインブルドンの試合を観た後、夜にどうしてもテニスゲームが遊びたくなったときのこと。ウチのスタジオでは、かつて『みんなのテニス』という、超面白いテニスゲームを作ったことがあります。デベロッパーは、『みんなのGOLF』シリーズを手掛けられているクラップハンズさん。歴代のテニスゲームの中でもトップクラスの完成度なので、よしちょっと引っ張り出して息子と対戦するか、と思いきや、ソフトはあるものの肝心のPS2本体がない。むむ。PSP版も発売されているのですが、PSPが一台しかないので対戦ができない。残念ながらアーカイブスにもなっていない。というわけで残念ながら『みんなのテニス』は諦めて、せっかくなのでPS4で遊べるテニスゲームをPS Storeで買おうと思いました。しかしざっと調べたところ、PS4で遊べるテニスゲームがないという衝撃の事実……! こうなりゃPS3で探そうということで調べると、2012年に発売された『パワースマッシュ4』の廉価版が、どうやら一番新しいテニスゲームのようでした。というわけでPS3で検索するも、なぜか見つからない。それもそのはず、改めて公式サイトを調べてみると、“パッケージ版のみの販売”という残酷な記述が。オーマイガッ! そのときすでに23時を過ぎていたので、お店に買いにも行けない。であれこれ迷って、結局、昔やりこんだ『スマッシュコート2』を買うことにしたのでした。

 『スマッシュコート2』も、テニスゲームの名作です。リアルな選手が使用されているなどの要素はないのですが、ひたすら遊んでいて気持ちいい。いわゆる、“指が喜ぶ”楽しさがあるのです。ただ、初代PSのタイトルなので、当たり前ですがどうしても最近のゲームと比べると、グラフィック的には見劣りしてしまいます。となりで対戦待ちをしていた高1の息子は、『FIFA』が大好き。他、特に海外のゲームをやりこんでいるので、目は肥えている。僕が『スマッシュコート2』を起動すると、「え、このゲームやるの……?」と言うわけです。以前のコラムでも書きましたが、息子は“生まれたときからゲームがポリゴン”の世代。ドット絵的な表現については、スマートフォンのゲーム等で触れる機会も多くほとんど違和感はないようなのですが、いわゆる“ローポリ”表現には今や触れる機会がないため、どうも“ローポリ表現=つまらなさそう”と感じたようなのです。しかしまあ始めてみると、テニスゲームのテンポ感、思わず力が入るプレイフィーリング、それらが下支えするシンプルながらも楽しい駆け引きの面白さに魅了され、しばし楽しいひとときを過ごしたのでした。

 ゲームの面白さや価値は、何によってもたらされるのでしょうか。確かに、高精細な解像度から放たれるリアルなグラフィックが遊ぶ者の心を打つのは確かです。しかし一方で、グラフィックはいいけど……と、ゲームとしてはあまり評価されなかったタイトルも山ほど存在します。これは特に、プリレンダリングで描かれたゲームが増えた時期に、よく言われた言葉でした。しかし逆に、ゲームとしては面白いけどグラフィックがイマイチ、と言われるタイトルもある。どちらの評価を喜べるかは、果たしている役割にもよります。デザイナーや描画関連を司るプログラマー等は、前者でもまだ喜べる。企画者やゲームデザイナーは、後者だと面目が立つ。当然ですが、どちらも高いレベルでバランスよく成立させられているゲームこそが、“完成度が高い”ということになります。「グラフィックは凄いが面白くないゲーム」と「面白いゲームだが絵がしょぼいゲーム」。もし僕が、作り手としてどちらかに優先度をつけなければならない場合は、断然後者を選択します。それは、「絵の風化可能性に比べて、面白いゲーム性の風化可能性は低い」から。 結局、目を喜ばせるモノは他にもたくさんある。しかし、指を喜ばせられるのは、ゲームしかないんですよね。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズや『TOKYO JUNGLE』、外部制作として『Bloodborne』などを手掛ける。公式生放送『Jスタとあそぼう!』に毎月出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.621』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年8月25日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.621』の購入はこちら
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