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2016年9月2日(金)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“ひとりぼっちGO”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.620(2016年8月10日発売号)のコラムを全文掲載!

第89回:ひとりぼっちGO

 いやはや、大変なことになっていますね! なんの話かというと、もちろん『ポケモンGO』のことです。短くはないゲームの歴史の中で、ここまで世界規模で“社会現象化”した出来事はそうそうないんじゃないかなあ。まだあまりやり込めてはいないのですが、それでも隙があればポケストップでアイテムを補充する日々が続いています。

 ゲームが社会現象として扱われたことは、もちろん過去にもありました。そうなるにあたっては、基本インドアでの遊びであるゲームにあって、「外でどういう事象が起こったか?」が大事になってきます。たとえば、『ドラゴンクエスト』でいえば“行列”です。発売日ともなると、前日から徹夜をして販売店に並ぶ人たちの姿が必ずニュースになりました。また、『モンスターハンター』でいえば、ファーストフード店などで“4人で遊ぶ”というプレイスタイルが取りざたされたりもしました。つまり、ゲームそのものを遊ぶ姿は代わり映えしないわけで、それが“人目につくところ”でどういう事象として形成されるか、それが大事なわけです。

 『ポケモンGO』でいえば、レアなポケモンが出没する場所に昼夜問わず集うポケモンマスターの人たちの姿は、非常に大きなニュースバリューがあるのです。『ポケモンGO』が日本でサービスインされたのは7月22日。この日から、街中での景色の見え方が一変しました。たとえばそれまでにも、歩きながらスマートフォンをいじる、いわゆる“歩きスマホ”をする人はたくさんいました。しかしそれが、7月22日を境に格段に増えた印象です。

 ここで僕が面白いと思うのは、歩きスマホ人口の増加そのものではなく、僕の中で、“歩きスマホをしている人=ポケモンGOを遊んでいる人”のように見え始めた、という点です。当たり前ですが、歩きスマホの人全員が全員、『ポケモンGO』を遊んでいるわけはありません。マップを見て目的地を探している人もいれば、時間を確認している人、LINEを確認している人など、色んな人がいるはずです。それでも、スマートフォンの画面を見ながら歩いている人を見るにつけ、「お、ポケモンGOを遊んでいるのかな?」と思うようになったのです。個人の内的な認識を書き換えるというのは、これは相当にすごいことですよね。

 思えば『ポケットモンスター』は、生みの親の田尻智さんも語られていますが、“昆虫採集”がひとつのモチーフとなっているゲームです。今では街中で補虫網を持って虫を追い求める子供の姿を見ることは少なくなりましたが、そういう時代にポケモンは生まれ、さらにその姿が変容し、捕虫網をスマートフォンに持ち替えた人々がポケモン≒虫を追い求めている。個人的に『ポケモンGO』は、任天堂IPを扱ったゲームにしては、チュートリアル要素がかなり希薄な作品だと思います。ポケモンを捕まえる際のUI、強化進化の効能、ジムでの攻防、チームの役割など、あまりに説明がない。

 しかしそれでも、ポケモンマスターであるプレイヤーは、あらゆる情報網を駆使し、虫の出没地点や捕まえる方法を共有していたかつての子供のごとく、楽しく遊んでいる。このあたりが、まさに“メタ昆虫採集”としての様相を成していて本当に面白いのです。元々の『Ingress』が持つ、壮大なる陣取り合戦の面白さをうまく転用させつつ、壮大なる昆虫採集に横スライドさせ、ポケモンという巨大なIPパワーも作用しつつ、まさにバケモノコンテンツへと進化させたそのゲームデザイン。驚嘆してしまいます。

 さて、そんな『ポケモンGO』ともう1本、まったく対称的なゲームにもハマっています。タイトルは、『ひとりぼっち惑星』。こちらもスマートフォンのゲームです。このゲームの舞台は、“人類がいなくなり、AIで稼働するメカが終わることのない戦いを繰り返している星”。その星で生きる“ひとりぼっちの生き物”が、空からの声を探すため、戦いの残滓であるメカの部品を集め、大きなアンテナを作る、という設定になっています。

 プレイとしてはシンプルで、ほぼ散らばった部品を拾うだけのインタラクションなのですが、“空の声を探す”とある通り、ときおりアンテナが拾ってくる、“宇宙の彼方から誰か(他プレイヤー)が送ったメッセージを読む”ことが、めちゃくちゃ面白いのです。テスト的に書かれた言葉も、設定に合わせたテキストも、設定に関係なく書かれた日々の苦悩も、そのどれもが、本当に宇宙の彼方で漂っていたメッセージを偶然拾ってしまったかのような錯覚を呼び起こし、シンプルなアート、ピアノソロで構成された寂寥感のある音楽と相まって、とてつもなく切なくなってしまうのです。たとえばこのゲームを10年後に立ち上げ、10年間ネットの境界を漂い続けた10年前のメッセージを読んだとしたら、いったい自分の中にどんな感情が巻き起こるのか。

 外的世界を一変させた『ポケモンGO』。内的世界を増幅させる『ひとりぼっち惑星』。ゲームの振れ幅は無限にある、ということを教えてくれる2作品なのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP! にて『勇なま。』シリーズや『TOKYO JUNGLE』、外部制作として『Bloodborne』などを手掛ける。公式生放送『Jスタとあそぼう!』に毎月出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.621』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年8月25日
■定価:694円+税
 
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