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2016年11月12日(土)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』を全文掲載。テーマは“Unityインターハイ2016”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を毎号掲載しています。

『ナナメ上の雲』

 この記事では、電撃PS Vol.624(2016年10月13日発売号)のコラムを全文掲載!

第93回:Unityインターハイ2016

 ここのところ、ずーっと『ペルソナ5』を遊んでいます。個人的にハマっている理由の1つとしては、“日常”をテーマにしているということが挙げられます。もちろんフィクションの日常ではあるのですが、渋谷、新宿、三軒茶屋など、普通に知っている場所が舞台のモデルとなっている。そして、そんな日常を管理する、優れたカレンダーシステム。主人公たちは、高校生としての日常を送りながら“怪盗”としての裏の顔も持ち、華麗なる二重生活をしているわけですが、この設定が、さきほどのカレンダーシステムと相まって、“二重生活をしている主人公”と、“リアルなカレンダーとゲーム内カレンダーで二重生活をするプレイヤー”という特殊な構造を生み、その境界線から抜けられない魅力を構築しているのです。加えてものすごいボリュームなのでまだまだ楽しませてもらえそうで嬉しい限りですが、さて、そんな一流のプロの仕事に魅了されつつ、先日、“Unityインターハイ2016”というイベントに参加してきました。Unityとは、一口で言うとゲームを作るためのゲームエンジン。“Unityインターハイ2016”は、これを使って高校生が作ったゲームをコンテスト形式で選び、賞を与えるというイベントで、僕は審査員として参加し、大きな刺激をもらったのでした。

 審査期間がちょうどTGS2016の前週で、その準備に大わらわの時期。それでも80本近い応募作品をガッツリと遊ばせてもらいました。当然、応募作のレベルはさまざま。僕含め4人の審査員の方々のレビューを元に、その中から珠玉の15本が、秋葉原のリッチな会場でのプレゼン大会へと進みます。高校生たち(中には中学生のチームもいました)の熱いプレゼンは、それだけで心を打つものがありましたが、ピュアさだけでなく、他のチームや保護者、一般の観覧者もいる舞台にも関わらず、みんななかなかに堂に入っていて「うまいなあ」と感心してしまったのです。だって、プレゼンに与えられた時間は、動画による説明3分とスライドによる説明の4分、つまり7分しかないのです。その中でアピールポイントをまとめ、しっかりと伝えるのは僕らでも至難の業。それでもきちんと構成を考え、チームの場合は役割分担をし、見事に“想い”を伝えた彼らは、それだけでも大したものだと思います。

 当然、刺激を受けたのはプレゼンだけではありません。彼らが作ったゲームにも、大いなる刺激を受けました。公式サイトを検索していただくと応募作品や受賞作の概要がご覧いただけるのですが、これまであまり遊んだことのないタイプのアイデアの企画もたくさんありました。そんな中から僕が評するうえで気をつけたポイント。それは、“作り切っているかどうか”ということでした。最近、サッカーの試合で解説者の方がよく、“勝ち切る”という言葉を使いますよね。勝つだけで満足せず、想定していた内容、パフォーマンスを発揮し、高いレベルで勝つ、ということだと思うのですが、ゲームの場合もこの、“作る”ではなく“作り切る”をいかに目指すかという視点が重要になります。なぜなら、Unityのような優れたエンジンを使うと、マップやモデルを描画したり、それを撃って倒したりというような、FPSもどきは簡単に作れてしまいます。しかしそれでは、単にパーツを“表示した”だけであって、ゲームにはなっていません。表示したものをゲームと呼べる状態にするには、遊べるルールを乗せ、バランスを調整し、ゲームオーバーの悔しさ、クリアの達成感を盛り込む必要がある。つまり、自分自身の努力への満足度だけではなく、“遊ぶ人のことをどれだけ考えているか”が生命線になるのです。

 今回優勝した『Isolated Area』というゲームは、ジャンルとしては、とある施設から脱出する3Dアドベンチャーということになりますが、オープニングデモからQRコードを使ったギミック、果てはVR対応と、盛り込んだ内容がまずすごかった。作者である西村太雅くんは、若干15歳。また、殊勲賞に輝いた『Cir』というパズルゲームを作った瀬戸徳くんも、同じく15歳。彼らに共通しているのは、今持っている武器(スキル)や使える時間の中で、何ができて何ができないのかを判断し、適切な落としどころをイメージして最初から最後まで“作り切っていた”ということです。西村くんは、多くの要素を盛り込みながらも、しかし戦闘についてはいたずらに追及せず、遊びを“逃げること”に絞り込んでいた。瀬戸くんは、ベースがシンプルなパズルゲームな分、逆にコンストラクション要素とUGCによる拡散機能を用意していた。このコンテンツプロデュースは、なかなか見事だと思うのです。

 彼らに限らず、高校生が好きなことに打ち込むということには、面白い反面大変なこともあります。当然、一心不乱になることに対して親御さんや先生方のご理解が得られない場合もあるでしょう。ひょっとしたら、高校生と制作者の窮屈な二重生活を余儀なくされるかもしれない。だからこそ、Unityインターハイのような場でのスポットが、“将来に繋がる”道になればいいなあと思うのでした。ペルソナを解放した先の、彼らのパワーに期待します!

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.626』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2016年11月10日
■定価:694円+税
 
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