2016年12月2日(金)
『バイオハザード7』を本当に恐いものにするために必要だったものは!? 演出やSE、描写が連動した開発に迫る
カプコンから、2017年1月26日に発売されるPS4/XboxOne/PC用ソフト『バイオハザード7 レジデント イービル』。本作の開発者インタビューを掲載する。
『バイオハザード7』は“恐怖”に焦点を当てて開発されたシリーズ最新作。写実的なグラフィック表現、主観視点でのゲームプレイにより、これまでにない没入感を実現している。また、PlayStation VRに完全対応していることも話題となった。
インタビューでは、RE ENGINE担当の石田智史さん、VR担当の高原和啓さん、グラフィック担当の津田壽彦さん、シナリオ担当の佐藤盛正さん、サウンド担当の鉢迫渉さん、レベルデザイン担当の宮武弘忠さんと堀内基さんにさまざまな質問をぶつけている。緻密なグラフィックや恐怖を感じるゲームの作り方、ステージ構成と音楽の繋がりなど、さまざまなことを聞いているので、ぜひチェックしてほしい。
▲左から高原さん(VR担当)、津田さん(グラフィック担当)、鉢迫さん(サウンド担当)、堀内さん(レベルデザイン担当)、宮武さん(レベルデザイン担当)、佐藤さん(シナリオ担当)、石田さん(RE ENGINE担当)。 |
すべての描写に気を配る! こだわりの開発過程に迫る
――アイソレートビューとPS VRの採用によって、これまでの作業と違ったところはありましたか?
津田:あらゆるところが見回せるようになりましたので、すべてに気を配らなければならなくなりました。
旧来の作品ですと、例えば窓の外から見える風景などは1枚の絵でもよかったんです。でも今回はその手法ですと、距離感が違うのがわかってしまう。あと置いてある物のサイズが、大きすぎても小さすぎても違和感が出てしまうので、そこにも気を配ってリアリティを維持しながら作り込んでいきました。
――PS VRを装着してプレイすると、頭の位置を動かすだけで見え方が変わりますからね。
津田:ああいう見え方をするのも、実際に動かしてみてわかったことで、油断してると違和感のある場所が次々と見つかってしまうのです。とにかく細かい部分まで手を抜かずに作るということを心がけていきました。
――キャラクターの外見を制作するにあたって気をつけたところはありますか?
津田:ホラーの体験を損ねたくない、プレイヤー自身がそこにいるかのように感じてもらいたい、ということを念頭にリアリティを重視して制作しました。
キャラクターも実際にモデルさんをオーディションで選びまして、その方に特殊メイクをして3Dスキャンで撮影して画面に取り込んで表示するという手法で制作しています。そうすることで、これまで以上にリアルな雰囲気が感じられるようになるのです。
服の質感やシワなども、最初から手で描くと現実味が薄れてしまうことがありますが、実際に布をスキャンして制作すると、それはもう現物ですよね。そういう意味で、細かいディテールまでクオリティが向上していることがアイソレートビューでよりダイレクトに感じられると思います。
――邸の構造で心がけたところはありますか?
宮武:邸を制作するにあたって、実際にスタッフがアメリカ南部のルイジアナ州まで足を運んで取材を行っています。それで最初は邸のリアリティを重視する方針で、撮影してきた邸の外観ですとか内装をそのまま再現すれば現実味が増すと考えていたんですよ。
けれど単純にリアルなだけでは今回導入したアイソレートビューで感じられる恐怖や、探索や戦闘部分との相性がよくなかったんです。
そこからチューニングを重ねまして、ゲームを構成する要素との相性がよくなるように多少のウソを交えた空間の広さとか間取りに調整していきました。リアリティを最大限に感じながらも、ゲームとしてストレスがないように仕上げられたと思っています。
――仕掛けなどで注目してほしいところはありますか?
宮武:シリーズの1作目を意識した作りですね。ある地点に行きたいけど、途中に通れない場所があって行けない。そこで周囲を探索して鍵などを見つけたり、謎を解いて入手したキーアイテムを使ったりして先に進む。そういったサイクルを基本として進んでいきます。
単純に広い場所をリニアに進んでいく構造ではなく、道を切り開きながら1歩ずつ進むところは『7』のテーマである“孤独感”につながってきますし、そのことをより強く感じられる部分だと思ってデザインしました。
――レベルデザインではどういった苦労がありました?
宮武:一人称視点というのはあまりノウハウがありませんでしたので、いろいろな要素を適切なテンションカーブに沿って配置すること自体が非常に困難でした。しっかり企画して実装するんですけど、テストプレイをしてもらうとなかなか意図しているような体験を提供できないことがありました。
そこは自分たちのこだわりでもあったんですけど、こういうふうにライティングをしてほしいとか、このタイミングに調整してほしいとか、ピークとなる恐怖に適切な感情で臨んでもらえるようにしたいとか。そういった微調整のところに、最後の最後まで時間を費やしました。
堀内:本当にたくさんの数、トライ&エラーをしたところが苦労した点ですね。テストプレイをしてもらった時に「おもしろくない、怖くない」と言われた時には「どうしよう……」って本当に切なくなりました。
怖い演出をしているのに気付いてもらえない時もあります。プレイヤーの背後で起きていて、見てもらえなかったりするんですよね。その場合は、そっちの方向にライトを向けるとか、アイテムを配置するとか、本当にちょっとした差で印象がまったく変わっていくのはおもしろかったですね。
セクションを超えての目標は“どうすれば恐くなるのか”……
――音作りに関してこだわったところを教えていただけますか?
鉢迫:これまで使っていた音源を1度リセットして、すべて録り直すところから始めました。ほとんどのSEは自分たちで考えて作った生の音になっています。例えばモールデッドが動き回っている音や足音は、ヤシの実の繊維にローションをつけて、それを手でグチュグチュ……とこねたり、糸こんにゃくなども使ってドロドロにして収録したり。
銃器の発砲音なども実物の音をベースに制作しています。
――アイテムボックスがある部屋で流れているBGMで安堵感が得られました。こちらは意図的なものでしょうか?
鉢迫:そうですね。チーム内では“セーフルーム”と呼んでいますが、探索の途中に落ち着けるタイミングがあることがすごく重要だと考えていまして、1回休んでもらったうえで先に進んだほうがより怖いんですよ。そのため、あの部屋のBGMは温かみのあるものが求められました。
実は、あのBGMはテープレコーダーで録った音なんですよ。1度作った楽曲をリアンプという形でテープレコーダーに録音しまして、それを戻してデジタルにしているんです。
古いテープレコーダーというのは、少し音が揺れるような感じがあるんですね。それを表現したかったので、少し遠回りでしたがそういった手法で制作しました。
――現在の状況がBGMによって表現されている印象ですが、そのあたりにも気を使われましたか?
鉢迫:その部分に関してはレベルデザイナーと綿密にコミュニケーションをとりながら制作していきました。まずレベルの進行を表したテンションカーブというものを設計しまして、それに合わせてサウンド演出の設計書をサウンドデザイナー、コンポーザー、レベルデザイナーという順番で組み立てて何度も調整を重ねました。
どのタイミングで音楽を鳴らすか、SEを入れるか、などということも1つ1つ細かく決めています。そういった意味では、セクションの壁はまったくありませんでした。「どうすれば怖くなるか?」という1つの目標に向かって、皆でクオリティアップに注力していった感じですね。
――プレイする際には、ヘッドフォンがオススメですか?
鉢迫:より深く没入していただいたほうが楽しめると思いますので、そうなると周囲の環境に左右されにくいヘッドフォンで遊ぶのがいいですね。今回は3Dバーチャルサラウンドという技術を組み込んでいまして、ヘッドフォンとの相性が非常にいいんですよ。
あと、一人称視点、さらにはVRというビジュアル的な技術との相性もいいので、あわせて使ってもらえるとより一層楽しめると思います。
――ストーリーを構築するうえで、これまでと変わったところはありますか?
佐藤:ストーリー部分にもアイソレートビューを導入したことが影響しています。いわゆる“神の視点”からストーリーテリングするのではなく、プレイヤー自身の視点で、実際の体験としてお話を理解してもらわなくてはいけなりました。
そのためナラティブと呼ばれる手法を取り入れている他、キャラクターのセリフや、各所に置かれている本、新聞、メモ、絵など、あらゆるものに断片的に情報を散りばめてあります。それをプレイヤー自身が見つけることで、世界観や自分が置かれている状況が少しずつ理解できるような形になっています。
――世界観を作るために、物語にも気を使われているわけですね。
佐藤:電話もその1つです。プレイヤーキャラクターはイーサンという人物なんですけど、イーサンを通してプレイヤー自身が電話の会話を聞いているような流れを意識しています。
実際の体験として理解してほしいというスタンスからストーリー制作の手法を0から考え直す必要があり、そこが本作で特にこだわった部分になります。
――“ある人物”が書いたメモが、かなり狂気じみたもので見た目でゾクッとしました。
佐藤:あの人物の異常な内面を文章で表現するにはどうすればいいかを考えて、ああいう形になりました。あの文章も、ゲームに対応している全13言語で翻訳していまして、ローカライズのスタッフや外国人のスタッフと綿密に打ち合わせをして制作しました。
――情報の入れ込み方などは、すべて最初に設計して作っていく形でしょうか?
佐藤:もちろんそうですね。まったく情報が得られないと目的がつかみにくいですし、逆に情報が多すぎると理解するのが大変だったり、恐怖感が薄れたりします。その設計についてはディレクターとも何度も打ち合わせをして制作しました。
ファーストプレイではパニックに陥って見落とす情報も多いかもしれません。さまざまな情報があちこちに散りばめられていますので、何度もプレイして細かいところまで探索していただけたらうれしいです。
最後の最後まで調整できる開発環境を用意できた!
――RE ENGINEを導入した経緯について、お話いただけますか?
石田:なによりも現行機にふさわしいグラフィック表現のためですね。快適なVRプレイに不可欠な1080pの高解像度と60fpsの高フレームレートを安定して実現させるパフォーマンスを持っています。
もう1つ力を入れたのは開発効率の向上というところで、トライアンドエラーを旧来よりも効率的に処理できるようにするためです。
――これまで実現できなかったことが、できるようになったという部分はありますか?
石田:開発の終盤になると、「アイテムの配置を変えたい!」というような話がよく出てくるんですよ。そういった細かい修正が今までよりも対処しやすくなりました。終盤にゲームの作り込みができるようになったことで、より完成度を高められるのではないかと思っています。
これまでは修正したい部分が出てきたとしても、「ライティングの都合でもう変えられない」ということがあったんですよ。それが、かなり終盤になってから変わっていましたよね。このタイミングで変わるか! みたいな(笑)。
津田:テーブルの位置をちょっと動かしたいとか、ここで敵を出したいからもう少し広いスペースがほしいとか、そうなった時に、これまでだったらデザイナーが修正していました。けれど今回はそう考えた人が動かせるような仕組みになっています。
そういう意味で開発効率的に、やるべき人、イメージを持っている人が変更できるというのは、全体的な品質も向上させられますので1番のメリットですね。
――全員の意識が“恐怖を提供したい!”というコンセプトのもとに統一されたから、成し得たところもあるのでしょうか?
津田:そうですね。ベースのコンセプトが徹底されていない、フラついていたら、こんなイメージじゃない、あんな感じじゃないってなりがちなんです。今回ベースにしたい部分、大事にしたい部分というのがしっかりと最初に統一されていましたので、このような作り方ができたんじゃないかと思っています。
――すべてがチャレンジだったと思いますが、PS VRを実際に制作してみていかがでしたか?
高原:PS VRでプレイして1番ビックリしたのが、自分が作ったにもかかわらず怖いと感じたところですね。
(一同笑)
高原:PS VRでプレイすると、その時点で現実世界と断絶されるので、それだけでも不安になって怖いのに、目の前に広がる映像では敵が続々と出現して襲ってくる。出現場所がわかっていても怖く感じましたから、知らないで遊ぶと相当怖いと思います。そこはぜひ期待していただきたいですね。
――PS VRならではの作り方をしたところはありますか?
高原:これは想定していた遊びではないんですけど、実際に動かしてみた時に“のぞき込む”という動作がおもしろいことがわかりました。結果的にそれがPS VRならではの遊びになりました。
普通のテレビでプレイしても、キャラクターを動かせば見られますが、PS VRでプレイした場合には、まさにのぞき込むような感じで頭を横に動かすだけで、奥の様子が見られるのです。
同様に手すりの奥をのぞき込んだり、テーブルの下も見られたりします。
――アイテムを手に持った時、コントローラを傾けるだけでグルグル回せるのが新鮮でした。
高原:コントローラの傾きで回転させられるのも、PS VRだけの要素になります。ちなみにモニターでプレイした場合には、左スティックで回転させられます。
――VRの開発で1番苦労されたところはどこですか?
高原:やはり絵ですかね。VRは左右の目に対応する2つの画面を制作しなければいけない。それで処理が追いつかなくなると、まず最初に表示されているものを減らそうと考えます。
そうなるとユーザーに提供したかった遊びの部分とか、絵のクオリティが落ちてしまいます。そうしたくなかったので、遊びやクオリティを下げず、それでいて処理も維持するところを実現させるのがすごく苦労しました。
――では、最後に読者の方へ、メッセージをお願いします。
石田:格闘ゲームなみに60フレームが安定しているというところをぜひ見てほしいです。60フレームとうたっているゲームでもフレームレートが落ちるシーンがあるものもあるのですが、『7』はすべてが60フレームです! ここまで安定しているゲームは珍しいのでぜひよろしくお願いします。
高原:VRのデバイスをつけて本当にあらゆるところを舐め回すように見ていただければと思います。「こんなところ、どうせ作っていないだろ?」と思いながらのぞき込むと、「ああ、作っていた!」となるくらい、どこを覗き込んでも楽しめるようにしっかり作っています。ぜひVRでそういった遊びをしてもらえればと思います。
津田:重なりますが舐め回すように見られることを想定して作りました。本当に1つ1つを細かく作っていますので、邸を歩き回るだけでも楽しいですし、いろいろな発見がある空間になっていると思います。そういうのを探しつつ、邸の雰囲気を味わいながら遊んでもらえるといいかなと思います。
ホラーに特化したゲームではありますが、しっかり『バイオハザード』らしい作品でもありますので、そういうところも一緒に見ていただきたいです。
佐藤:キャラクターに関してはすごくこだわりを持って作っています。特にベイカー家の人々は「おかしすぎるだろ、この人たち!」という印象を持っていただけると思います。
彼らは何者なのか? その部分をぜひ全プレイヤーの方々に見届けていただきたいです。
鉢迫:できれば外界から遮断されたような状態で遊んでもらえると、より一層怖いんじゃないかなと思います。静かな部屋、夜、暗い照明、ヘッドフォンを準備していただいて遊んでもらえば最高じゃないでしょうか。
宮武:『バイオハザード』ということで、ホラーゲームとわかったうえで購入される方が多いとは思います。存分に怖がっていただけるように最後までしっかり恐怖演出を仕込んでありますので、ぜひご期待ください。
堀内:『7』の1番いいところは、直接的だったり心理的だったり、とにかくいろいろな種類の恐怖が詰め込まれているところです。「こんな怖さが!」というのもたくさん用意しています。我々が考えうる怖さを全部ぶちこんで“世界最恐”と呼ばれるホラーゲームを目指しましたので、ぜひよろしくお願いします。
『バイオハザード7』注目記事
(C)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
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