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2017年2月18日(土)

【電撃PS】SIE・山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』全文掲載。記念すべき100回目のテーマは“THE GAME”

文:電撃PlayStation

 電撃PSで連載している山本正美氏のコラム『ナナメ上の雲』。ゲームプロデューサーならではの視点で綴られる日常を掲載している本コラムが、ついに第100回を迎えました!

『ナナメ上の雲』

 今回は、電撃PS Vol.631(2017年1月26日発売号)で掲載された、記念すべき内容を全文掲載でお届けします。

第100回:THE GAME

 ついにこの連載も100回目となりました。100回。自分でもよく続けてこられたなあと思います。これも読んでくださる皆さんがいればこそ。どうもありがとうございます!

 思えばこのコラム、始めるきっかけがなんだったのかを振り返ってみると、もともと、ゲーム制作を主軸にする生活のなかで日々思うこと、気づいたことをぽつぽつとツイッターでつぶやいていたのがきっかけで、それを読んでくれていた当時SIEJAのマーケティング担当だった月岡さんという女性が、「書いてみませんか?」と打診してくれたのが始まりです。まさかそれが電撃さんのような大きな雑誌で連載、ということになるとは思いもよりませんでしたが、実際に始まってみると、たまにですが社内外含めいろんな場所で「読んでますよ」と言ってもらえることもあり、ゲーム制作を通して知らない人と繋がるってこういう嬉しさもあるんだ、と感謝しています。

 僕は、20歳のころからずっと、ゲーム制作の仕事をしています。学生時代のアルバイトを除けば、ゲームに関わること以外を生業としたことがありません。その意味では、相当に偏った人間なのかもしれません。しかし、そのゲーム制作を通じて、たくさんの素敵な人と出会ってきました。好きなことを仕事にでき、面白い人とばかり毎日出会えている今の自分を思うと、本当に幸せだなと思います。この幸せのスタートがどこにあるか? それは間違いなく、高校生のころに出会ったファミリーコンピュータにあります。

 僕とファミコンのファーストコンタクトは、麻雀を打つために集まった友達の家が最初です。『スペースインベーダー』世代ではあるもののあまりゲームセンターには興味がなかった僕でしたが、常設されていた『ゼビウス』や『イー・アル・カンフー』は、麻雀そっちのけで遊びました。そしてすぐ、なけなしのお小遣いでマイファミコンを購入。しかしこの時点では、まだそれほどゲームにハマっていたわけではありません。人生を変えるほどにハマったのが、そう、『スーパーマリオブラザーズ』でした。『スーパーマリオ』を遊ぶことで、“ゲーム”が、僕を僕として形成する太い柱となったのです。そしてもう1本。僕の人生のその後を確定付けたゲームが、『ドラゴンクエスト』でした。右に右に進んで行きながら、あらゆる障害を飛び越えていくマリオ。マリオが広げたそのゲーム空間と、“物語”が華麗に融合した世界が『ドラクエ』にはありました。子どもであれば誰しもが思い描く冒険の世界、そしてそのなかで勇者として息づく自分と出会ったのです。「あ、俺はもうこの先、ゲームと一生を過ごすんだ」。そんな得体のしれない覚悟が、『ドラクエ』によって僕にもたらされたのでした。

 エンタテインメント系の学校、学部で講演をするときやゲーム制作を目指す若い人たちと話すときに、よく聞かれる質問があります。「ゲーム制作者になるために、一番大事なことはなんですか?」。僕はこの質問に、いつもこう答えます。「ゲームを作る以外の仕事をしている自分を想像しないこと」だと。思うに人へのアドバイスは、自分を参照してのみ可能です。自分の経験以外で他人に影響することなどできないと思っています。その意味で、僕自身を紐解いてなぜ今ゲーム制作の仕事ができているかといえば、「“この仕事をしていない自分”という選択肢が自分のなかに存在しなかったから」としか言いようがないのです。僕が自分で自分を褒めてあげられることがあるとしたらただ1点、それを高校生のときに決めることができたことにあると思っています。『スーパーマリオ』と『ドラクエ』が、なんの疑いもなく“それ”を決断させてくれたのでした。

 今のこの時期、高校や大学に進学するための試験が相次ぐ季節。近い将来、ゲーム制作を志したいと考えている若い読者の方も多いことでしょう。あえて先ほどとは逆のことを書きますが、皆さんには今、“選択肢を増やすこと”に必ず繋がる勉強を、とことん頑張って欲しいと心から思います。なぜなら僕は、勉強をせずに“それ”しか選択肢を見つけられなかった自分の“ラッキーさ”が奇跡に近く、そして脆弱だということを、身に染みてわかっているからです。特に20代のころ、あらゆる選択肢の中から確固たる信念でゲーム制作を選んだ人たち、選択肢から得た可能性を判断材料として、結果ゲーム制作へとたどり着いた人たちの“強さ”に、何度も打ちのめされました。議論で負け、プレゼンで負け、頭の回転で負け続けたのです。“勉強する”ということから逃げなかった人は、本当に強い。強さはやはり、努力の先にしか身につきません。

 ゲームほど、技術とアイデアが短い期間で進化し、工夫され、新たなエンタテインメントへと地続きになっている分野は、他にはないと思います。人を楽しませることはもちろん、応用することで人の世に役立てることもできる。“ゲーム”には、人生を賭ける価値がある。そう思い合える仲間とこれからも仕事をし、新たな“強い”仲間とも出会いたいなと思うのでした。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ
エグゼクティブプロデューサー

山本正美
『ナナメ上の雲』

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント JAPANスタジオ 部長兼シニア・プロデューサー。PS CAMP!で『勇なま。』『TOKYO JUNGLE』、外部制作部長として『ソウル・サクリファイス』『Bloodborne』などを手掛ける。現在、『V!勇者のくせになまいきだR』を絶賛制作中。公式生放送『Jスタとあそぼう!』にも出演中。

 Twitterアカウント:山本正美(@camp_masami)

 山本氏のコラムが読める電撃PlayStationは、毎月第2・第4木曜日に発売です。Kindleをはじめとする電子書籍ストアでも配信中ですので、興味を持った方はぜひお試しください!

データ

▼『電撃PlayStaton Vol.632』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年2月9日
■定価:694円+税
 
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