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2017年2月27日(月)

【電撃PS】台湾の超エリートにゲーム開発を教えてきました! トイディアによる国際交流レポート

文:電撃PlayStation

 『ドラゴンファング ~竜者ドランと時の迷宮~』(iOS/Android/ニンテンドー3DS)を配信中の株式会社トイディア社長・松田崇志氏が、台湾政府が推進している教育プログラムの一環で、台湾にある南台科技大学にて4日間に及ぶゲーム開発の講義を行った。

『INDIE☆STAR』
『INDIE☆STAR』

 ゲームジャム形式での講義の模様は、電撃PlayStation Vol.633の“INDIE☆STAR”コラムでも掲載したが、より詳細なレポートをここに掲載。日本と台湾のゲームを通じた国際交流は、ここから今後ますます強くなるだろうと松田氏は語っている。

『INDIE☆STAR』

10年先を見越した台湾と学生との真心の国際交流

 こんにちは。(株)トイディアの松田です。

 トイディアはゲームを通じた国際交流、自社タイトルの海外展開などに積極的な会社です。言語の壁を越えて世界中の人々と「楽しい!」を通じてYES! を連発できる。触って面白ければ、言葉は分からなくても乗り越えられる。面白いと思ったら会ったこともない作り手を素直に尊敬できる。そんな魔法のおもちゃを自分たちは生み出しているのだと考えているからです。

 国内でも専門学校や大学などでゲーム作りに関して講義させて頂く機会がありますが、去年は台湾の高雄市で行われたゲームイベントで登壇をさせて頂きました。イベントは、高雄市が招聘した海外のクリエイターが、台湾のゲームクリエイターに世界を対象にゲームコンテンツを生み出す講義を様々な切り口で行うものでした。

 私はその中で、日本のクリエイター、起業家としてお話をさせて頂いてきました。

 今年はその台湾講演のときから、ゲームによる台湾と日本の交流が更に発展し、1月末に、南台科技大学で4日間、35名の学生を相手に朝から晩までみっちりと講義を行ってきました。

 現在、台湾政府が優秀な大学生を対象に推し進めている、デジタルゲーム開発人材育成プログラムがあります。その名も“Taiwan Global Internship Program PLUS(TGIP Plus)”。南台科技大学は、その申請及び実行責任校として中心的役割を果たしています。優秀と認められた学生は、イギリスか日本の企業にインターンも可能な非常に素晴らしい内容です。

『INDIE☆STAR』
『INDIE☆STAR』

 台湾の特徴として、日本のようにゲーム開発の専門学校がありません。全て大学がそれを担っているのです。ですので、ゲームに関心のある地金の優秀な学生が集まりやすい土壌があります。

 国際交流、と一口に言っても実態が伴わない交流が世の中には溢れています。大切なのは、受け手である方々に喜ばれる実益のあるアプローチが出来るか否か。目指すべきは、行為の尊さを超えた先にある実利の部分ではないでしょうか。

 台湾政府の意向として「台湾に実力あるゲームクリエイターを増やし、国際競争力を高める」という意志を感じます。これは昨年招聘された高雄市でのゲームイベントでも非常に強く感じた点でした。

 台湾と日本はとても親和性の高い最高の隣人です。彼らほど日本文化を愛し、受け入れてくれる国は他にないでしょう。東日本大震災、熊本地震など、台湾がどれほど暖かい手を日本に差し伸べてくれたか、記憶に新しい事と思います。

 今回、そんな台湾の方々の為に我々トイディアができることは何か? を考えた場合に、“ゼロからの物づくり”、“最新の技術”、“ゲーム開発を完遂させるメソッド”、“孤独な作業に耐え抜くマインド”などを全てありのまま伝えることだと考えました。

 技術やツールだけあっても面白いゲームは作れません。技術やツールを越えた先の“作品”を生み出せるクリエイターを生み出す種まきを、私もお手伝いさせて頂きたいと思ったのです。今回のプログラムでは南台科技大学が中心となり、台湾中の多くの大学から優秀な学生たちが集まります。

 ただ、4日間という短い期間で、最新の競争力を持ったクリエイターを育成することは不可能です。事前の大学との打ち合わせでも4日間の講義内容は、私に委ねられていました。

「自由に教えてください。自由に伝えてください」

 この課題は、まさに自分でゲームを作り出す時の心象風景と同じです。何を作ってもいい。だからこそ、作り手は人となりが問われる。

 結論としては、大切なのは“らしさ”かなと思いました。トイディアらしい熱量や勢い。そういう初動の打ち上げ能力みたいなものが未来ある学生に根付いてくれれば4日間の成果としては納得できるだろうと考えました。

 当初は4日間、過去の実例を交えた私一人での講義を考えていたのですが、ゲーム作りに必要な全てのセクションのリーダーが学生に向けて講義をする形にしました。学生が目指すクリエイター像も様々。であればそれぞれがありのままを話すことで、自分の目指すべきプロとしての姿を想像してもらえると考えました。

 結果として、今回の大学講義はトイディアにとっても会社的な成長を実感する場となりました。人に教える立場になった時に、どんな言葉が伝えられるのか。そもそも伝えるものがあるのか。あっても限られた時間とチャンスの中で伝えきれるのか。作業者の視点を越えた、伝える側の義務や責務をトイディアも問われる企業になったのだと。

 最終的には4日間の使い方は“1日講義、3日はゲームジャム”としました。百の言葉よりも、トイディアでは実際にものを作る上での成功体験を伝える方が“らしい”のです。それは苦楽を共にする、というスタンスです。

 初日のみを講義とし、私は日本で起業する事の意義、プロデューサーとしての話、起業家としての話をしました。台湾の学生も、台湾の政府も、歯車としてのクリエイターではなく、国を代表する作品を生み出せるクリエイター上がりの起業家を求めているはずです。

 少し長い目での話になりますが、その期待を担う彼らには、私の経歴や起業家としての話は、心の中で種として、いずれ役に立つことでしょう。他にもディレクター、デザイナー、プログラマーがそれぞれ赤裸々な話しを伝えました(ちょっと赤裸々すぎて学生を怖がらせたんじゃないかとヒヤヒヤするくらい)。

 講義をして痛感したのは、言葉の壁の高さ。通訳さん、学生が理解できる言葉で話す責任が我々にはありました。講義の時間も、通訳の作業も入るので、持ち時間は実質全てが半分となります。

『INDIE☆STAR』

 ゲームジャムの3日間は、学生を6チームに分けて開催。別々の大学。初めてのメンバー、責任ある役割分担。限られた時間の中で、学生は多くの課題と重圧を背負って進むことになります。「こんなの初めて! どーしよう?」を乗り越える所からがゲーム作りなのです。

 正直、3日間では半分も完成させられないのではないかと思っていました。事前にどんな知識や予防線を伝えても。実際に作業を始めてみれば全て吹き飛んでしまうのが教育の常です。そこを経験で補うのですが、学生には才能はあっても経験がない。

 しかし今回はトイディアも本気です。夕方17時に一旦授業が終わるのですが、学生にやる気がある場合には最長21時までは付き合う覚悟でした。苦難を乗り越えて“最後まで到達した”という成功体験を共に築き上げたかったのです。

 まず初日のうちに企画の発表会を行い、学生同士で質疑応答、企画を精錬し、残り2日間は集中して作成、最後には全員でプレイアブルな作品を見ながら発表会を行う。リーダーシップを発揮する学生、黙々と積み上げプログラムをする学生など、それぞれが自分の役割を模索し、ありのままの自分で挑戦する素晴らしいゲームジャムでした。

 結果として、最終日には6チーム全てが自分たちのゲームを完成させました。これは全て、学生たちが自分たちで掴み取った成果です。未来のクリエイターがそこにいたのです。

『INDIE☆STAR』
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 個々の才能には差があり、どのチームに配属されるかは運です。それは社会に出て、プロの現場では受け入れなくてはならない最初の厳しい現実と同じです。彼らが進むその先にある社会人と同じ、ゲーム作りの縮図がそこにありました。

 彼らは自分の勇気と行動で他の人々より先にそれを学びました。学生たちの熱意と頑張り。最後まで逃げずに土壇場の大ピンチを乗り越えた時の笑顔。とあるチームの最終プレゼンで、私も最後には感動して泣いてしまいました(笑)。まさか海を越えて教えに行った大学で、本気で号泣するとは思いませんでした……。

 彼らは本当に魅力的な才能の原石でした。国による手厚い支援、大学による素晴らしい実行、学生のあふれる熱意。何かを達成するときに必要な大切な熱量を確かに感じました。トイディアがどんなに企業として大きくなっても、そういった原初の炎のような熱量を見失いたくないと、強く再確認することができました。

 今回の取り組みから、彼らは日本との架け橋になってくれる事でしょう。トイディアは、今後も台湾との取り組みを続けていきます。今回、台湾の大学や学生と築いた実績という種が、5年後10年後に大きな大樹になるように。彼らの中から、国際的に有名になるクリエイターが生まれると信じています。

 台湾にトイディアのブランチを作り、国内の社員と定期的に交流を持つ。その教育と発展に、継続してトイディアが関われれる事にワクワクしています。そして、ゲームを通じた真の国際交流。その成功例をこれからも作っていきます。

『INDIE☆STAR』
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データ

▼『電撃PlayStaton Vol.633』
■プロデュース:アスキー・メディアワークス
■発行:株式会社KADOKAWA
■発売日:2017年2月23日
■定価:694円+税
 
■『電撃PlayStation Vol.633』の購入はこちら
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